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魔王「ここまで来てなんだが、一つ聞きたい事がある」
梵創者「?」
魔王「殺人歴はあるか?」
梵創者「アリません」
魔王「嘘は・・・言ってない様だな」
梵創者「ドウいう事ですか?」
魔王「王国軍は殺人歴があると従軍出来ないんだ」
梵創者「ナルほど」
魔王「・・・で?なぜお前達もやる気なんだ?」
ツキナ「暇だからっす!」
旅団長「初心に帰るのも悪くないと思いまして」
副旅団長「私も同意見です」
魔王「お前らは必要ないだろ。まぁいいや、なら暇潰しがてら付き合ってくれ」
ツキナ「了解っす」
旅団長「分かりました」
副旅団長「はい!」
魔王「さて、これだけは肝に銘じておけ。我が王国軍は活人剣だ。人を殺すのではなく人を活かす為に任務を全うする。王国が兵士に対し「結果的な殺害命令」を下す事は絶対にありえない。もし殺害を命じられたならその命令には従うな。王国兵士の心得だ」
梵創者「シタガウな?」
魔王「『結果的な殺害命令』を下された時は何らかの傍受を受け命令が変更されてる。確実にな。だから従うなって事だ」
梵創者「ワカリました。肝に銘じてオキます!」
魔王「よし、では稽古を始める。先ほど渡したデバイスには身体能力封印術式が登録されている。まずはそれで99%の身体能力を封印してくれ」
梵創者「ワカリました・・・オゥ!身体が少しオモイです」
魔王「通常の人間程度まで抑えた状態だからな。すぐ慣れるだろう。今から教えるのは「王国軍式騎士型操作術」と呼称される基礎中の基礎。身体操作法の一つだ。まずこれを覚えないと最低限の戦闘が行えない」
梵創者「ハイ!」
魔王「さて、身体操作法の心得を解く。今伝えた通り王国軍は活人剣だ。人を殺すのではなく人を活かす、その為には他に追随を許さない圧倒的な地力が必要となる」
梵創者「どうイウ事デスか?」
魔王「戦場に初めて出た兵士が剣を振るう事に躊躇い敵を殺せなかった。それを心の弱さが故と罵る上官や同僚達。この光景に見覚えはあるか?」
梵創者「アリます」
魔王「弱いと思うか?」
梵創者「・・・ハイ」
魔王「その勘違いは今すぐ訂正しろ」
梵創者「デモ、敵をコロセなかったら国民をマモレナイのでは?」
魔王「違うな。そもそも国民を守るのは軍ではなく政治の仕事だ。上官の命令を跳ね除け、殺さない選択を覚悟する勇気こそが強い精神。逆に殺しを選択した者は心が弱いからこそ殺しという選択に逃げている。上官と環境に逆らうのが恐ろしく、殺さずに済む方法も分からないからだ。殺さなかった後の面倒を嫌って楽で早い殺しを行う。その事実から目を背け殺さない選択をした者を、皆がやっているのに、あいつは弱いから出来ない。などを理由にして精神的に優位を取り免罪符にするその心こそが弱者の証だ」
梵創者「イワれてみれば確かに・・・。マオウ様は殺しを行った事はあるのですか?」
魔王「一度もない」
梵創者「・・・スゴイですね。国王なら犯罪者のショケイなどを認可するので間接的に殺しをオコナッテいるはず。そういったコトもないのデスか?」
魔王「ないよ。私は殺しを一度も行わずに国を創ってきた」
梵創者「・・・ゴクリ」
梵創者は魔王の真剣な面差しを見て特殊な圧を感じた。それは国威。今まで梵創者は数え切れない程の生命体の歴史を観測してきた。
その中には国王や皇帝といった国を纏める座に就いた者も含まれている。それらの者は少なからず殺しを許容しているのだ。被害が出る作戦をわざと実行したり、奴隷を娯楽に殺したり。ありもしない犯罪を作り上げ平民を処刑し見せしめにする事で民意を操作したり。
梵創者は醜い歴史を何度も観測していた。
だが目の前の王は違ったのだ。殺しを一切行わずに全てを超越する国を創ったという。
梵創者は初めて、一人の王へ尊敬の念を抱いた。
魔王「旅団長も元々は敵だったが私が活かしたのさ」
梵創者「ソウなのデスか!?」
旅団長「はい。昔の話ですが、私は愚かにも魔王様へ挑み敗北しました。それから直接手ほどきを受け王国軍へ従軍する事へなったのです」
梵創者「ナルほど・・・」
魔王「だが精神論では片付かない問題だ。故に人を殺さず活かす術理を学ぶ。地力を持ってそれを使う。そうする事で敵と対峙した際に殺し以外の選択肢を選ぶ事が可能となる。具体的には睡眠、気絶、拘束などだ。地力が強ければ敵軍全員を殺し以外で無力化する事が可能となる。覚えておけ」
梵創者「ハイ!」
魔王「ではその術理を教える。戦闘の基本は心眼を使う先の読み合いだ。勝利を収めるのは致命的な攻撃をより多く直撃させた方となる。フェイントやカウンター、それらを予測し合い攻撃を外して己の一撃を打ち込んでいく。だがこれは自分と相手が同じ土俵に立っているという前提条件があり始めて成立する。もし相手の攻撃が全く効かなかったらどうだ?」
梵創者「先の読み合いがイミを成さなくナル?」
魔王「その通りだ。相手の攻撃を警戒しなくて良いから制圧のみに意識を向け作戦進行が可能となる。間違って殺す事もない。故に地力が重要となるのさ」
梵創者「ナルほど、それを鍛えるために身体能力を封印するノデスか?」
魔王「ああ。身体能力を封印した状態で地力を底上げすると限界を打ち破る精神性が身に付く。その恩恵で身体能力解放時に本来成しえない爆発的な力を発揮する事が可能となる。それに留まらず作戦内容によっては身体能力を抑えて魔力やその他の力を偽装しなければいけない場面も出てくる。その時、戦闘を行えなくては作戦が行えない」
梵創者「ワカリました」
魔王「戦闘に才能は関係ない。極小の積み重ねを行えるか否かで全てが決まる。重要な局面で顔を出すのは多大な経験と努力に裏付けされた自信のある一撃だ。運が介入する余地は一切ない」
魔王「戦闘は質で決まる。心に刻み込め!」
梵創者「ハイ!」
魔王「それでは型稽古へ移る。旅団長の真似をして構えを取ってみろ」
ツキナ、旅団長、副旅団長の3名が「王国軍式騎士型操作術」の構えを取った。腰を落とし右手を胸付近へ当て左手をL字にして脇腹あたりへ当てている。それを見た梵創者が覚束ない様子で構えを取った。
魔王「腰をもっと落として身体を3時の方向へ捻ろ。首だけを回して前方を見るんだ」
梵創者「こう・・・デスか?」
魔王「そうだ。型稽古を行う上で重要なのは術理を頭で確認しながら行う事だ。まずはその構えの意味について教える」
梵創者「ハイ!」
魔王「さて、「王国軍式騎士型操作術」は攻防一体の構えが剣と盾を構えた騎士に似ている事から騎士型操作術と命名されている。左手で防御魔法を展開し、右手で攻撃魔法を行う。身体を大きく3時の方向へ逸らす事で攻撃を内臓から外す意味を持っている」
梵創者「ナルほど」
魔王「人間は内臓を一突きされるとそれだけで致命傷だ。当たり所が悪ければ出血多量で死に至る。だから絶対に内臓、身体の内部を損傷する訳にはいかない。構えを取った時、まずは左手に意識を集中させて防御魔法を展開しろ。左右の手で魔法の役割を分ける意味も教える。とっさの戦闘態勢に入る時は魔法操作に不慣れだと防御魔法が不発してそのまま攻撃される恐れがある。人間が慣れている肉体操作と魔法適所を融合させる事で無意識下に構えと防御魔法の展開を落とし込みコンマ数秒の反射神経を速める役割を持っている。まずは防御を優先して周囲を見渡せ。敵がどれだけ伏兵してるか。相手はどんな攻撃手段を有しているか。自分に有利な地形か。状況判断を完了したら始めて攻撃に移る。まずは自分を全力で守り冷静さを取り戻せ」
梵創者「ハイ!」
魔王「よし、進め!」
「「せっ!はっ!」」
ツキナ、旅団長、副旅団長が構えを取ったまま右手を突き出した後、元の構えに戻る単純な動きをした。
魔王「これで「王国軍式騎士型操作術」は終わりだ」
梵創者「エ・・・?」
魔王「防御を取る、状況を判断する、攻撃を出す。この繰り返しが「王国軍式騎士型操作術」の真髄だ」
梵創者「ソレだけで戦闘がカノウなのですか・・・?」
魔王「試しに旅団長と戦ってみるか?梵創者は身体能力を解放してもいいぞ」
旅団長「私は構いませんが」
梵創者「リョダンチョウ、流石にボクが勝つと思う」
魔王「旅団長は人間程度まで身体能力を封印するんだ。「王国軍式騎士型操作術」しか使ってはいけない。そして梵創者は自由に戦ってくれて構わない。これがルールだがいいかな?」
旅団長「大丈夫です」
梵創者「ハイ」




