一、かごめかごめ
どんなに恵まれたものを生まれ持ってきても、運がない自分は不幸である。
華の女子高生、不動深月は最近強くそう思っていた。
幼少期から可愛いと持て囃され、自分でもそう感じるほどに整った顔をしていたと思う。
歳を経て背が伸びる程にそれは洗練され、発育の異様な良さも相まって世間でも指折りの美少女になった、と我ながら鼻に付く自己評価を持ってきた。
そして物覚えもよく、賢いと褒められ、学業においても優れた成績を残してきた。
教師陣からの評価も高く、大きな期待をいくつも寄せられてきた。中には見た目から目に掛けてくる者もいるにはいるが、些細な事だ。
だが、順風満帆とは言い難い。
どんなにいいものを揃えていても、それを使い環境がーーー自分の場合は人間関係が真面でなければ存分に振るう事は出来ないのだ。
人生で特に目立ったのは、男子からの視線と態度。
露骨に鼻の下を伸ばし、色欲に満ちた目で自身の全身……特に最近成長著しい胸を凝視され、実際に触れられておらずとも好き勝手触られているような不快感を毎日味わっている。
男子生徒はもちろん、教師やただすれ違っただけの他人すらそんな有様なのだ。軽く男性不信になりかけている。
大半は無遠慮に見てくるだけで実害は……気分を損なわれるのでなくはないが、酷いとこそこそと触れてくる者もいる。
定番の満員電車、あるいは朝礼中、素知らぬ顔をしながら肘で突いてくる者がいる。朝から夕まで気分は最悪だ。
これはまだ序の口で、見知らぬ男性に後をつけられて身の危険を感じた事もある。
幸い早くに気付いて走り出し、撒いたために自宅を特定される事もなく、その後はより一層気を配っていたためにその男性と遭遇する事もなかったが、今でも思い出すと震えが走る。
見知らぬ赤の他人に一度や二度、その手の視線を向けられる事は非常に腹立たしく気分が悪い。
が、それ以上にほとんど毎日顔を合わせなければならない同級生や男性教師達からの視線が非常に鬱陶しい。
何を勘違いしたのか、口説き文句とセクハラ発言を履き違えた男子に迫られたり、目があっただけで気があると思い込んだ男子に迫られたり、強引に誘われるのが好きという噂を信じた男子に迫られたり。
貞操の危機を感じなかった事はない。
男性教師達も、台詞はともかくその手の視線を隠せずにいるため、誰一人として信用ができず、不満と精神的疲弊が募るばかりだった。
しかし、これらもまだ優しい方の悩み事だ。
より強く不快感を抱くのは、むしろ同性ーーー女生徒や女性教師達からの視線だった。
男子に注目され、四六時中獣慾に満ちた視線を集めている自分は、どうやらそうでない女達にとっては〝媚びている〟ように見えるらしい。
自分にそのつもりはないのに、男を誘う悪女のように蔑み、ひそひそとささやき合う姿がそこかしこで見受けられた。直接文句をつけられた事もあるのだが、それより態とらしい陰口を聞かせられる方が余程堪えた。
そういう輩は真面に相手をしない。食ってかかれば相手は余計に調子付く。
といじめに対するものと同じ犯行を取っていれば、気に入らなかったのか行為はより過激になっていった。
そして、苦労して入った名門公立高校、その輝かしき入学生活開始から一ヶ月。
深月は独り、誰とも交流を行えずにいた。