十七、またあいませう
「……それで、あの、あなた達の事は……なんとなく、わかりました。それで、その……」
複雑な顔になった深月が、ちらりと視線を横に……無言のまま寛いでいる少年の方に向ける。
とうに食事を終え、後片付けを……地面を掘り返している環。よく見ると埋めているのは笹だ。昔話のように笹に握り飯を包んで持ってきていたらしい。
驚愕に目を丸くしながら、強く彼を凝視する。
すると鎌鼬達は深月の意思を察したようで、難しい表情で小さな腕を組んで唸り出した。
「環はんはなぁ、特殊中の特殊やからな」
「見えるだけやったら珍しいゆう話で済んだんやけども……経緯がなぁ」
やはり複雑な事情があるのだろうか、言い辛そうに口澱む三体に、より一層彼を見つめる力が強まる。
「もしかして、あの、御堂君も……妖怪、で」
「いや、それも違う」
「いや、せやかて人間かって聞かれたら、自身持って頷く事はできんけど……」
「妖かって聞かれたら、それもなぁ」
「……結局、どっちなんですか」
「言うてみたら……」
「「「どっちでもあるし、どっちでもない」」」
きっぱりと、曖昧な答えをまっすぐに突きつける鎌鼬達。きりっとした顔で凛々しくしているが、吐いた言葉が頼りなさ過ぎて滑稽に見える。
「それじゃ、結局わかりませんよ……」
「ん~、詳しゅう説明したりたいんやけどなぁ……長なるし、わいらからしても胸糞の悪い話やしなぁ」
「第一……もう、時間やで?」
不満げに眉尻を下げる深月に、鎌鼬達はちらりと少女の背後を……後者を見上げて呟く。
どうしたのか、と深月が眉を顰めたその時。
ーーーかーん、かーん、かーん。
昼休みの終了を告げる鐘が、甲高く鳴り響いた。
「…!? うそ、え、もう!?」
「戻れ戻れ!」
「外出たままやと人間さんに見つかってどえらい目に遭う!」
「保健所は嫌やで! 死なへんけど」
深月がぎょっと目を剥いて後者に振り向くのをよそに、鎌鼬達はさっさと玉置の鞄の中に飛び込み、身を隠す。
環は何も言わず、三体の入った鞄の蓋を閉じ、担いで歩き出した。
「! あ、あの……!」
まだまだ聞きたい事ばかりの深月が慌てて呼び止めるが、環は見向きもせず、黙々と教室に向かってしまう。そもそも見えていないかのような素振りだ。
どうしたら、と深月は立ち尽くす。
まだ話すべき事がーーー自分の今後を左右する事があるのに、明日まで待たなければならないのか。
いや、環自身はここまでも全く口を聞いてくれていない……あの鎌鼬達が次も鞄に潜り込んでくれるかどうかもわからない。
話ができる機会があるのかすら、定かではない。
途方にくれる深月。
その時、運ばれる環の鞄の端からひょこっと……尻尾が見えないので誰かは不明だが……一体が顔を覗かせた。
「話あるんやったら、うちに来たらええで。泊まれる日はあらへんか?」
不意の提案に、えっと声を漏らして惚ける深月。大きく目を見開き、きょとんと意識を彼方へと飛ばす。
誘われた? 家に?
男子の家に、誘われた?
誘ったのは本人ではないが、生まれて初めて示された誘いの言葉に、ぽっと深月の頬が赤く染まる。
「……斬」
「ええやないか、環はん。うまい飯食わせてもろた礼になるやろ!」
「羨ましいなぁ、わいらはその時おらんかったからなぁ。ぬらのおっちゃんが羨ましいでほんまに」
「学校で目立ちたないんやろ? ほんなら家に来てもろた方が噂されんで済むんちゃう? どうせ普通の人らは来れへん場所やし、よっぽど気遣わんですむでぇ?」
心底嫌そうに顔を歪める環。
矢継ぎ早に説得してくる鎌鼬達の勢いに負けて、いや、早急に諦めてか、何も言わずにその場から歩き出す。
勝手にしろ、とでも言いたげな、投げやりな雰囲気を纏った背中だ。
「え、えっと……きょ、今日は無理、です。でも、明日なら……お店、休みなので」
「ほな、また明日! 放課後なったら迎えに行くからな!」
「ひゃっほう! めんこい子とお泊まりやで!」
「日頃から徳積んどいてよかったわ~」
いいのだろうか、と棒立ちになる深月に向けて、鞄の中から鎌鼬達が声を張り上げる。結局、鞄の持ち主に一切許しの言葉を得ぬまま、騒がしい声が遠ざかっていく。
深月ははぁ、と溜息をこぼし……大きな胸に手を当てて、高鳴る心臓の鼓動を感じる。
誰かの家に呼ばれた。全くないわけではないが、自分がこんなにも乗り気になる誘いは初めてだ。
誰かの〝声〟が気になって、招かれても行く気になれない事ばかりだったというのに……胸が踊る。落ち着かなくなる。
緩みそうになる顔を引き締め、気道を誤魔化すように、深月は小走りで自分の教室を目指す。
明日、明日だ。
明日の放課後になれば……気になる事と楽しみな事、二つを一度に味わえる。
だが、必死にこの気持ちを押し隠す。誰か……〝敵〟に見つかれば、何をされるかわかったものではない。自由になるまで、人目がなくなるまで、耐えなければ。
……だけど今この時だけは。
日頃の不安も鬱憤も忘れて、深月は晴れやかな表情でいられた。
それが堪らなく、嬉しかった。




