第1部 転生のアメリカ編 VOL9「バーは楽し」 (1990年)
ー転生のアメリカ編 VOL9
「バーは楽し」
サンフランシスコ 1990年3月
夕方に空港で知り合った彼女の部屋を
訪ねると疲れてもううたた寝していた。
ひとりでレストランで
食事を済ませてからバーへ。
ロスアンゼルスのダウンタウンでは
夜は怖くて、ホテルからバーまでの
100mくらいのがらんとして
何もない道を走っていった。
ここは夜もにぎやかなんで
安心してバーのはしごをする。
(こうしてどの街でも
ほぼ毎晩バーを飲み歩いたけど、
このシゲキが元で帰国後即座に
商売経験ゼロ!からわずか1時間で
基本的なコンセプトを考えて、
自らのアメリカンバーを
誕生させることとなった。
1990~2004年営業。)
本日最初のバーに入る。
古びたレンガの壁に野球選手の
大きなポスターが貼ってたり、
バットを飾ってたり、
明らかにこの店のオーナーが
野球キチガイであるのがわかる。
テレビがついてるけど
もちろん野球の放送だ。
野球には興味がないけど、
これだけはっきり自己主張してるのを
見ると気持ちいいなあ。
1軒目、2軒目と一杯ずつ飲んで
ほろ酔いでぶらぶら歩く。
えーなあ。
今、俺はサンフランシスコの街を
ひとりで歩いてるんやなあ。
去年はスイミングクラブの超ハードな仕事で
毎日疲れてフラフラで、遊ぶのさえ
しんどいくらいやったのに夢のようや。
しばらく行くとバーの中から
ピアノの音と大勢の歌声が聞こえてくる。
迷わずに入っていく。
そこではグランドピアノの生演奏による
白人のおっちゃん、おばちゃん
20人くらいでのカラオケが行われていた。
ほとんどのヒトは座らず、ピアノの周りを
コーフンした面持ちで囲んで立っている。
女のひとが弾くピアノの上のガラスのビンに
お金($5くらい?)と歌いたい曲名を
書いた紙を入れて演奏されるのを待つ。
自分のリクエストした曲の演奏が始まると、
腹の出たおっちゃんが嬉しそうに
「おっ、俺だ俺だっ。」
とマイクを受け取る。
歌誌を書いたものなんてない。
力強くゴージャスなピアノのメロディに乗って
おっちゃんが声を張り上げて歌い始めると、
みんな肩や腕を組んだり、
腕を振り上げたりしての大合唱になる。
おおっ!!なんだなんだ、この迫力はっ!?
まるで映画で観たような光景だ。
「なんて楽しそうなんやろう!!
素晴らしい!!」
歌がわからなくて参加できないのが残念だが、
彼らの幸せな表情を見て
ここに一緒にいるだけで
俺まで幸せな気分に包まれてくる。
ジンセイにとってこうして笑って、騒いで、
楽しむことは大切なのだ!
この店で酔っ払うまで飲んで、宿へ帰る。
にこにこしながら眠りについた。