97.
本年最後の投稿となります。
来年も、皆様の幸せを祈りながら、毎週土曜日に投稿させて頂きます。
本年も後僅かです、お身体に気を付けて、新年をお迎えください。
来年もシャルロッテ達の旅は続きます。応援、宜しくお願い致します。
言ってしまってから、やばかったかな・・・とも思ったが、どうせもう真実を明かすんだし“聖女”と言う存在に縛られる必要もないからいいかって踏ん切ることにした。
エレノア様は完全に固まっている。
さらって行くには好都合なのだが、今は無理だ。
確かにチャンスではあるのだが、、、、担げる人間が、、、いない。
あたしを始めとして、全員が・・・・腹を抱えたままうずくまってしまっている。
痛い・・・物凄く痛い・・・何か固い物を下腹にねじ込まれて居るみたいに・・・痛い。痛くてたまらないのだ。
アナ様ほど圧は無いと思って油断していた。いや、わかっていても、これを回避するのは無理だろう。
どうしよう、、、、だめだっ、痛くて考えが纏まらない。脂汗が出て来た。
うずくまりながら、ちらっとエレノア様の様子を窺って見たのだが・・・だめだ、これは駄目なやつだ。じっと動きはないのだが、その目は恐ろしい怒りに燃えている。
・・・・しくじってしまったか。
その時だった。
「あ 姐さん・・・くううっ・・・このヒト・・・聖女ちゃうやん・・・ニセモノやん・・・ほんまもんの聖女様やったら、何があっても民にこんな苦しみをあわさへんやんか」
のたうち回りながら発したポーリンのこの一言が、事態を進展させる事になるとは思っても居なかった。
急に痛みが引いて楽になったのだ。
再びそっとエレノア様を窺うと、ハッとしたお顔をされていて、両手で口元を覆っておられていた。
「お おおぉぉぉぉぉぉ」
口元を両手で覆ったまま、エレノア様は呻いていた。
今は声をお掛けしない方がいいのだろうか?
恐る恐る窺っていると、ふいにその両手を降ろし、あたし達の方に向き直って静かに頭を垂れた。
「わらわとした事が己の感情で民を苦しめるなど、あってはいけない事でありました・・・まだまだ修行が足りませんでした。謝罪を致します」
せ 聖女様が 誤った いや謝った。
聖女様が一般国民に謝罪するなど前代未聞。かなり衝撃的な事だった。
「確かに、この様な事で怒りを表すなど、聖女として有り得ない事でした。あなたのおっしゃる通り、本物の聖女ではないと言われても反論できません」
「そんな事はございませんが、取り敢えずここは大急ぎで退去の準備を・・・」
このチャンスを何としてもモノにしなくてはと、どさくさ紛れに避難を促したのだったが、、、、さすが大陸一の石頭。
「さあ、皆様はこれ以上わらわには構わず避難をなされて下さいな」
だあああぁぁぁ、だめだー、また最初からだぁ。
すると、両手を顔の前で組んでおずおずと進み出たクレアがエレノア様の足元にしゃがみ込み、ウルウルとした目で見上げた。
あ、爺婆殺しの必殺技だ。
あれやられると、爺も婆もデレデレになるんだよなぁ。
「どうなされましたか?」
エレノア様もクレアの視線に合わせるべくしゃがみ込んだ。
「聖女様は、ご先祖様と親しかった方とお話しをしたくはありませんか?」
「え?それは、どういう事なのでしょうか?」
「お会いになれば、聖女の秘密や経典の秘密がお分かりになると思うのですが、どうでしょう?聖女様として知っておく責任があるのではないでしょうか?」
なんと、、、そんな所から攻めるのかぁ。でもなぁ、相手は頑固なエレノア様だからなぁ。
「そのお方には、どこに行ったらお会いできるのでしょう?」
あら、喰いついちゃった?見も知らすの子供の言う事を疑いもせず損じるのぉ?意外とちょろかった?ww
クレアが目くばせしてきたので、あたしも一歩前に出た。
「わたしにお任せ下さいませ。責任もってそのお方の所にご案内させて頂きますので、直ぐに出立のご用意をお願い致します」
しばらく目を閉じて何かを考え込んでおられたが、さっと顔を上げるとおもむろに袖の中から取り出した鈴を鳴らした。
すると音も無く侍従と思われる・・・思われ・・・無理っ、思われないぞっ、なんだありゃあ。あたしから見たら筋肉ダルマだぁ。あれでも侍従なのか?
その筋肉ダル、、、侍従者はエレノア様の足元に膝まづいた。
「これから出掛けます。至急馬車の用意を・・・」
「はっ」
一言だけ残すと、来た時と同じく音も無く去って行った。
「おい、ありゃあ相当のやり手だぞ。俺ほどではないがな」
お頭は、いつも一言多いんだよなぁ。
「ああ、はいはい。そうです・・・ん?」
なんだ?エレノア様がじっとお頭を見つめている?まさか・・・・。
すると、エレノア様がお頭の元に歩み寄って行った。
「ああっ、エレノア様ぁ、危険ですって、そんなに近寄ったら齧られますよぉ~」
「失礼なっ、誰がかじるかっ!尻くらいは撫でるかもしれんが」
だが、怖いもの知らずなエレノア様は、お頭の前で立ち止まり首を傾げている。
この生き物は何なのだろうかと訝しんでいるのだろうか?
などと思って居ると、屈託のない笑顔から、とんでもない言葉が飛び出した。
「あなたのお顔、、、酷いですね」
「・・・!!」
すげーっ!!超天然?みんな思っても敢えて言わないのにぃ。
悪意は無いんだろうけど、悪意が無い分たちが悪い。
当然、お頭はビックリしたまま立ち尽くしている。
さすがに世間知らずのエレノア様でも、自分の発言がまずい事に気が付いたのか、慌てて言い直して来た。
「ああ、ごめんなさい。言い方が悪かったかしら、思った事をそのまま言ってしまいました。そのう、その酷いお顔・・・もしかして呪い・・のせいなのでしょうか?」
「へっ!?」
「そのあまりにも酷い見るに堪えないお顔は・・・はっ、ごめんなさい、つい本当の事を言ってしまいました」
「お・・・ま・・・え・・・」
慌ててあたしはお頭にしがみついた。
「まあまあお頭、ここは心を広く持ってえぇぇ・・・って、呪い?お頭のその酷い顔は呪いだったの?」
あ!しまった。思わずあたしも本当の事を言っちゃったよ。
ああぁ、お頭が睨んでいるうぅ。
お頭はそっぽを向いたまま、吐き捨てる様に言った。
「ふんっ!たぶんそうだよ。ガキの頃の話しだから、よく覚えてねえ。だから、なんだって言うんだ、笑いたきゃあ笑えばいいだろう。ふんっ」
エレノア様は、心底驚いた表情をなされていた。たった今、お頭の内面にに塩を塗り込む様な発言をしたばかりなのに。
「それは、辛い思いをなされていらしたのですね。心中お察しいたします」
「へっ、この顔を見た奴の反応なんて、みんな同じさ。好きにけなせばいいさ」
そっか、顔面修羅場なのは呪いのせいだったのか。知らなかったわ。
「我がご先祖様を知る方の元に案内して頂くのです、心ばかりでは御座いますが、ささやかながらお礼をさせて下さいまし」
そう仰られると、そのか細い両腕がお頭のいかつい両肩に掛けられた。
すると、驚いた事に、エレノア様の手に促されるままにお頭が膝を付いたのだった。
お頭が膝を付いた事で、そのすさまじい・・・いや、いかつい顔が丁度エレノア様の視線と同じ高さになった。
優しく微笑んだエレノア様は、その天使の様な両手でお頭の顔をそっと包み込んだ。
「ええええええええええっ!!」
「手が腐るぅぅ!!」
「もったいないいいぃぃ!!」
みんなからは、知らず知らず悲鳴に近い言葉があがった。
そんなみんなの声など聞こえないのか、お頭の顔を両手で挟んだまま、両目をつぶり何かを唱え始めた。
すると、再び下っ腹が痛み出した。
ううううううううっ、痛いっ!腸がねじ切れる様だっ!
あまりの痛さに、腹を抱えてへたり込んでいると、あたりが明るくなったのに気が付いた。
好奇心には勝てず、痛みに耐えながらそっと顔を上げてみると、お頭の顔が光り輝いて居た。
「なっ!」
目の前で何が起こって居るのか、理解が追い付かなかった。
お腹の痛みも忘れて、茫然と見入って居ると、お頭の顔の輝きが徐々に増して行き、「だめだっ目を開けていられない」と思った時、突然その謎の輝きが収まった。
いったい何が起こって・・・・
まぶしい光を見つめて居たせいで、しばらく視界が戻ってこない。
眉間に皺を寄せたままお頭の事を凝視していると、なんとなく輪郭がはっきりとしてきた。
だが、まだ細部ははっきりせず、さらに数分凝視を続けていた。
気が付くと下っ腹の痛みも消えていた。
そして、ふいに視界がはっきりとしたのだが、そこには有り得ない現実が待って居た。
有り得ない?あってはいけない?心が全拒否をする現実?みんなも声も出せず唖然としているのがわかった。
やっと口からこぼれた言葉は、自分でも謎だった。
「・・・人間の・・・顔・・・だ」
こちらに振り返ったお頭は、驚愕に固まっているあたし達を見て驚いていた。
「お おい、なんだ、どうした。みんな揃ってなんて顔してるんだ?」
なんか、まだ気が付いていないのだろうか?なんて顔しているのはお頭の方だろう。
「お お頭、、、顔、顔・・・」
「ん?顔?顔はいつでもハンサムだぞ?それがどうした?」
「顔が・・・変。人間の・・・顔、してる・・・」
「なんだってっ!!失礼なっ!!」
「鏡・・・鏡見て!すぐ見て!いそいで見て!」
「なんだって言うんだ・・・いつもだが、失礼な奴だなぁ」
お頭はぶつぶつ言っている。
だが、エレノア様の侍女が持って来た手鏡を受け取り面倒くさそうに見たお頭は、、、うん、全身が石みたいに固まっていた。
しばらくぶるぶると手鏡を握りしめ、鏡の中の自分と相対していたお頭が一言呟いた。
「誰だ?こいつ・・・」