94.
どうやら、この空間は巨大な岩をくり抜いて造られている様だった、
天上には無数の木の根がびっしりと張り巡らされていた。この無数の根が天井を形成しているのだろう。その上に土が積もり丘の地面が形成されたのかも知れない。
その中央には、この場に相応しくないほど立派な木造船が鎮座しており、ほこりを被って灰色になって居たが、元は木目も美しい茶色だったのだろう。
船の周りには、足場が組まれており、船の中に入れる感じだったので、あたし達はまずは恐る恐る甲板に降り立ってみた。
そこにはうっすらとほこりが・・・じゃああなくって、ほこりが分厚く堆積していた。
甲板に降り立った際の振動で表面のほこりが一斉に舞い、一面視界が完全に奪われてしまった。
ほこりに咽込みながら、袖で口と鼻をを塞いでほこりが収まるのを待って居ると、意外に早く視界は回復した。重い成分のほこりだったのだろうか。
甲板上には修理の時に使った木材の残りだろうか、板の端切れが多数散乱しており、甲板中央には、人の背丈ほどの構造物が見えて来た。
正面に回ってみると、そこには一枚の扉がはまっていた。おそらく船内に降りる為の入り口なのだろう。
思い切って扉を開け、船内に入ってみた。中は舷側の窓が開いていたせいか、気になる様な臭いはしなかった。
最初の階は、、、、何だろう、四つん這いにならないと頭がつかえる天上の低い階層だった。ここは、何に使われていたのだろう?屋根裏部屋的な所だったもだろうか?
さらに下の階に降りると、そこは普通に天上の高い階層だった。うん、ここは普通に貨物室か居住空間だったのだろう。
船体のほぼ全体に渡って全通の階層だった。
その下も天井の高い階層だったが、この階層は上とは違い船の後方とは扉で区切られていた。
後方と区切っていた扉を開けると、そこは何やらごっつい鉄の塊が何個も設置してあった。子供竜王様がおっしゃるには、これがこの船を動かす動力源である発動機らしい。
見ると、それは二つあった。部屋の広さに対して、発動機の占める割合が小さ過ぎると思ったのだが、どうやら修理出来なかった発動機は船から降ろしたのだろう。降ろした発動機は、再度溶かして鋤や桑にでも錬成し直したのではないだろうか。
その下の最下層は、まさしく床下収納で、水の入った樽や食料の保存庫になるそうだった。
うん、素晴らしい。後は、浮き上がるだけなんだけど、いったいどうやって浮き上がらせるのだろう?
子供竜王様の持って来られる物次第なのだが、それまでに、浮かぶ事を信じて、出来る事をしないと。
「アウラ~、いつでも飛び立てる様に・・・」
「大丈夫です。今、『うさぎ』のメンバーを使って、水と食料を積み込む算段をしている所でぇ~す」
「あ、ありがとう」
うーん、何か、もうあたしは必要ない?あははは
「何、ぼーっとしているんぢゃ。万が一飛びたてた時に備えて、天井を吹き飛ばさんかい」
突然、子供竜王様に叱られた。
吹き飛ばす?いやいや、突っ込む所はそこじゃあない。
「万が一?万が一ってどういう事です?」
「言葉のあやぢゃ、若いんぢゃからそんな小さな事にこだわるんぢゃない。それよりも、これをやるから、さっさとこれを使って最大出力で吹き飛ばすんぢゃよ」
誤魔化したし・・・。本当は飛べないんじゃあないのか?
「吹き飛ばすなんて大丈夫なんですか?崩れてくるんじゃないの?」
「だから、全力で一気に吹き飛ばすんぢゃよ。大丈夫ぢゃから、早よおやってみんしゃい」
どこの言葉だよ?疑いの目で睨んでみたが、全く気にする風でもないので、悩むのは諦めた。
「なんなんですこの剣は?」
「ワシの作で、グラビティ・ソードと言う。多少重いがお主なら使いこなせるぢゃろう。ただし、混戦時には使うなよ。小回りがきかんからの。ほれっ、さっさとやらんかい」
「はいはい」
何を言ってもしょうがないと諦めて、あたしは甲板上で貰ったばかりのグラビティ・ソードとやらを鞘から抜き去った。
あ、意外と重い。確かに混戦時には振り回せないわ、こりゃあ。
両手でしっかりと剣を握り、天に向けて構えた。
そして、気を込め始めた、、、、のだが、途中で止めた。
だって、重い。絶体に十分に気が溜まる前に、、、疲れて剣を持っていられなくなるだろうからだ。
だから、剣は下に下した状態で気を込め始めた。気が溜まったら、剣を掲げればいいだろう。
「おいっ!何やってんだあっ!!こんな所でそんなモンぶっ放す気かっ!?気は確かかっ!!」
気が付いたお頭が、怒声をあげる。ああ、うるさい、集中の邪魔。
「まあまあ、ワシが指示したんぢゃよ。ここは黙って見守ろうぢゃないか」
おや、子供竜王様がフォローしてくれた?珍しい事もあるもんだ。だが、なぜ他人事の様な言い方なんだ?
んんんんんん・・・・、なんだろう?いつになっても気が満タンに溜まらない?この剣のせい?なんか疲れて意識が朦朧としてきたんだけど・・・
あたしが覚えていたのは、そこまでだった。
だって、気を溜めると体力、気力、生命力、みーんな根こそぎ持って行かれるみたいな感覚になるんだもん。
どうせなら、お腹と二の腕の脂肪を持って行ってくれればいいのになぁ、なんてぼんやり思って居ると突如現実世界に引き戻されたみたいに意識がはっきりした。
あたしはがばっと飛び起きて、周りを見回した。
って言うか、飛び起きって事は、あたし寝ていたんだ。
上を見るととても眩しかった。
「そうだ、、、あたし、、気を練って居て、、、それから、、、あれ?あれ?あたしどうしたんだ?」
しばし困惑していると、後ろから声を掛けられた。
「よくやったの。上出来ぢゃ」
子供竜王様だった。
「あの、、、あたし、、、」
言いかけた所で、ばんばんと背中を叩かれた。
「ほれ、見んさい。ちゃーんと天井は吹き飛んでおるわ。やれば出来るって事ぢゃよ。ふぉふぉふぉ」
子供竜王様はご満悦ぢゃった、、、、じゃなくって ご満悦だった。口癖がうつってしまった。
ああ、ちゃんと出来たんだ。良かった。
あたしは自分の両手をしみじみ見ながらほっと安心した。
上を見上げてみると巨大な穴がぽっかりと開いていて、そこから陽の光がさんさんと射しこんでいた。
「姐御~っ!何かが飛んで来やす~!」
見張りに立って居たであろう者が叫んでいた。
反射的に上空を見上げる一同。
ぽっかりと開いた天上の穴、その先の眩いばかりの大空に浮かぶ一つの黒い塊が見えた。
次第に大きくなるにつれ輪郭がはっきりとしていくその塊は、見覚えのある物だった。
「あれっ?あれはもしかして、子供竜王様の配下の竜?でも、、、なんか変な飛び方していません?」
そう、羽ばたくと下に下がり、羽ばたきを止めると上に上がって行く。なんか、動作と状態が逆の動きをしている様だった。
それに、速度が全然出て居ないのも妙だった。
振り返り子供竜王様を見ると、なんかニヤニヤしている?
「ふぉふぉふぉ、さすがに飛ぶのがしんどそうぢゃな」
子供竜王様には、あの変な動きの理由がわかっているみたいだった。
しばらく見て居ると、やがて竜がジタバタと変な飛び方をしながら天上の穴から入って来た。
苦労して船の甲板の上に降り立った竜だったが、地上に降りたにも関わらず羽ばたきをやめなかった。更に竜の両脚を見ると、何やら人の頭位の大きさの茶色の塊を握っていた。
「あれはの、竜の木と言う天界の木の実ぢゃ。地上ではワシの元にしか存在しない物ぢゃよ」
「竜の木、、、ですか?」
「そうぢゃ。あの木の実はのう、熟すにつれ次第に浮力が付いてきて、やがて浮力が最大になると茎が切れて空に登って行くんぢゃよ」
「あっ!さよか、こん実で船を浮かせようって事でっか?」
好奇心が溢れんばかりの顔でポーリンが竜の実に手を出そうとした。
が、そのとたん子供竜王様に手を叩かれた。
「これっ!うかつに触るんぢゃあない。そのまま空に登っていってしまうぞ」
「ひっ!」と、一声上げて、ポーリンは慌てて手を引っ込めた。
「あの竜達でさえ、これを掴むと飛ぶのが一苦労なんぢゃからの、子供が触ったらいかん!」
それで、みんな変な飛び方をしていたのかぁ。
「ほれ、ぼけっとしとらんで屈強な力自慢を集めんかい。船に積み込んで行くぞい」
子供竜王様の一喝に、慌ててメイが走って洞窟を出て行った。
「さて、手順を説明するぞ。まずは、みんなで手分けして布袋を集めて中に土を詰めるんぢゃ。そうじゃな、五十個もあればいいかの。ほれ、急ぐんぢゃ」
「ここは、私が・・・」
そう言うと、アウラが走って出て行った。
すると、子供竜王様はお頭の方に振り向いてにやっと嫌らしい笑顔をした。
なんだなんだと見て居ると、お頭を徴発し始めた。
「そこのでかいの、お主力に自信はあるか?」
「お?おう、力なら誰にも負けねえぜ」
「うーん、そうかのう、どうもひ弱そうに見えるんぢゃがのう」
「なっ!どこがひ弱そうだって言うんだ!何処をどう見ても力の塊にしか見えんだろうがよ!」
「そうかのう、昔ワシの元に居た若者は、お主の十倍は力があったがのう」
「なんだとう!俺がそいつに劣っているとでも言いたそうじゃねえか!」
「いやいや、言いたそうぢゃなくて、そう言ってるんぢゃが。そんなに力があるのならこの竜の木の実、一人で持てるかの?あの者は両手に一つづつ抱えておったがの」
ここまでコケにされて、黙って聞いて居られるお頭じゃあ無かった。まんまと挑発に乗ってしまった。
力は別にしても、頭の中身では負けてそうだなと思ったのは内緒だ。
「いいだろう、俺の力見せてやろうじゃあねえか」
そう言うと、竜の脚元にのしのしと歩いて行って、竜に向かって叫んだ。
「ほれ、その実を渡して見ろ!」
竜は子供竜王様をちらっと見て、うんうんと頷いているのを確認すると、片脚を上げお頭の前に竜の木の実を差し出した。
なんか、竜の顔にも笑いが漏れている風に感じたのは気のせいだろうか?
竜はお頭が木の実を抱えたのを確認すると、脚の指を開いた。
「ほれ、見ろ、こんなの簡単じゃ・・・・おっ?おっ?おおおっ?おわああああぁ」
やはりね。子供竜王様は、こうなるのを見越しておられたのか。
木の実を抱えたまま、お頭は宙に浮いてしまったのだった。そして、徐々に高度が上がっていった。
「なんだ、なんだ、どうなっているっ!!」
「ふむ、やはり一人ぢゃあ無理かの」
そう言うと、さっと右手を上げた。すると竜が首を伸ばしてお頭の服の裾をかじり、あたしの目の前に持って来た。
木の実からは長い茎が付いたままだったので、あたしはぶら下がっていたその茎を掴んだ。
(天の声:大きなヘリウム入りの風船を持った子供を想像して欲しい。若干不気味な風船ではあるが)
「ほう、嬢ちゃんは制御出来ておるな。感心感心」
あ、そう言えばあたしは浮かばない?どうなっているんだろう?
「ふぉふぉふぉ、この木の実はの、力で持つんでなく、気の力で持つんぢゃよ」
なるほどぉ、そういう事なんだ。それを身をもって理解して貰う為にお頭を挑発したんだ。
「ねえねえ、ほなら、うちにも出来へんかなぁ?やらせて、やらせて」
ポーリンが駆け寄って来た。
子供竜王様を見ると、頷いていたので、茎をポーリンに持たせて見た。
すると、なんという事でしょう。多少引っ張られはしたものの、しっかりとお頭バルーンを保持できているではないですか。
「おもろいなぁ、お頭の重さが感じられへんわぁ」
喜んだポーリンは、茎を握ったまま甲板上を走り出した。
お頭は、、、必死な顔で竜の木の実にしがみついていて、見ていて可笑しかったのだが、そうも言っていられないので、やめさせる事にした。
「ポーリン、その辺にしなさい。竜の木の実を回収して船内に入れるわよ」
「はーい」
ポーリンは、渋々走るのをやめ茎を手繰り寄せ始めた。
徐々に降りて来たお頭の顔は、涙目で今にも泣きそうな顔で、顔色も真っ青を通り越して、蒼白になっていた。
あらら、自信無くさないといいのだけどww
「子供竜王様、この木の実は一つ下の天井の低い階層に入れればよいのですね?」
「うむ、但し階層全面に均等に入れないと船が傾くから、気を付けての」
「了解でぇ~す」
お頭を甲板上に降ろして、木の実を船内に入れた頃、土の入った布袋を持った野郎どもが続々と洞窟内に入って来た。
「おう、お主らご苦労、ご苦労。それぢゃあな、その土の入った袋を船の最下層に運び込むんぢゃ。五十個程もあれば良いかの。更に側面にも三十個ほどを両舷に均等にロープで括り付けるのぢゃ。急げよ」
みんな、素直に子供竜王様の指示に従って大人しく作業を始めた。
一方、上空からは両脚に木の実を掴んだ竜達が次々に降りて来たので、あたし達は大忙しだった。
あたしとポーリンで竜から木の実を受け取ると、下の階層に居る力自慢達に手渡す。
彼らは必至の形相で受け取った木の実を船倉に運び込み、天井にはりついて嫌々をしている様な実を引っ張って均等に配置していった。
甲板上では、腰の抜けたお頭が子供竜王様から新たな仕事を命じられていた。
「お主の配下に、大工は居るかの?」
ぐったりしていたお頭は面倒くさそうに顔を上げ、「そんなのいくらでも居るぞ」と答えていた。
「それなら、大工を動員してこの甲板を補強させるんぢゃ。後、あの木の実の最大の弱点は、水ぢゃ」
「みずぅ?みずって、あの飲む水か?」
「そうぢゃ、濡れると芽を出すんぢゃが、それと同時に浮く力が弱まっていき最後には無くなってしまうんぢゃよ」
「それって・・・」
「そう、船の中に水が入ったりして種が濡れたら、、、徐々に飛ぶ力が無くなってしまい、終いには地上に落ちる」
「まずいじゃねえかよ!」
「うむ、非常にマズイ。ぢゃから、甲板の補強と同時に防水処理もして欲しい。出来るかの?」
暫く難しい顔をしていたが、いきなり立ち上がると、叫んだ。
「出来るか?じゃあねえだろうが、やるしかねえんだろ?やってやろうじゃあねぇか!」
そう言うと、急ぎ船から駆け降りて洞窟から出て行った。
みんな休まず作業をした結果、夕方頃には甲板下の天井の低い階層は木の実で一杯に、船体最下層は土の袋で一杯になった。
更に、船体両舷には浮力調整用の土の袋が大量に括り付けられた。
この事により、この巨大な船の重量は空気の様に軽くなり、洞窟内でふわふわと漂っていたので、更に甲板上に土の袋を三十個ほど追加して落ち着かせた。
明日は、食料と水、乗組員が加わるので更に重くなるが、この甲板上の土の袋を投下して飛び立つ事になる。
集められた大工経験者達は、この後も夜通し作業を続ける事になる。
防水の為魔獣の皮で、甲板上と木の実の詰まった階層の脇を覆い、その上から板を打ち補強するそうだ。
あたしには出来る事がないので、明日の出発に備えて幕舎で休んでいたのが、突如深夜に状況が一変した。
王都が陥落したとの報告が入ったのだった。当然、落としたのはカーン伯爵御一行様だ。
もっとも、王家を始めとした国運営の中枢は既に王都西方にある秘密の要塞『シルヴァーナ要塞』に退避は終わっているとの事で安心したし、王都の住民達も無事要塞後方に避難済みとの事だった。
さすが、父上だけの事はあった。行動が早い。どうやら、伯爵達は、父上達が王都を放棄したので乗り込んで来ただけみたいだった。
だが、問題はそこではなかった。
問題は、聖女様であるエレノア様だった。
何を血迷ったのか、父上達が王都を放棄した際、同行する事を拒み、パレス・ブランに僅かな兵と共に立て籠もってしまわれたらしい。
エレノア様は、良く言えば純粋なお方、悪く言えば世間知らずで、その上頑固な性格,、、、いや、意思のお強いお方らしかった。勿論、そんな言を言おうものなら、大変な事になるので言うつもりは無かったのだが・・・。
現在、イルクートは避難する住民で大混乱状態のはずだ。
深夜にも関わらず、満月の光に照らされてイルクートの城門から始まりの村に向かって長蛇の列が続いて・・・
「えっ?えっ?ちょっと待って!どういう事ぉ??」
あたしは叫びながら、幕舎を出て走り出していた。
直ぐに気付いたポーリン達が駆け寄って来て走りながら話し掛けて来た。
「姐さん、深夜にいったいどないしてん?」
少し離れて、後方にはアウラやアドラー達も追って来ている。
『うさぎ』のメンバーも何人か走って来ているが、お頭は居なかった。
「見てよ、あの避難民の列!」
あたしは右手で遥か前方に深夜にも関わらず延々と続いている避難民の列を指差した。
それは、まさに夜逃げといってもいい感じだったが、問題はその持ち物だった。
「避難勧告した際、非難の際には、最低限の身の回りの物って、伝えていたはずよねっ!?それなのに、あれは何っ!!」
そう、避難民の列を見ると、手ぶらの者はおらず、みんな巨大な風呂敷包みを背負っており、その上両手にも大きな包みをぶら下げて居た。
更に、山の様な家財道具を大きな大きな荷車に乗せて家族みんなで引いて居る者達も大勢居た。
荷車には、タンスも載っている様で驚いた。
だって、転移門は人一人がやっと通れる程度の大きさしか無く、大勢が通らなくてはならないので、一人に時間は掛けられないのだ。
そもそも、タンスなんて通れるはずもない。転移門の前でぐずぐずされたら、渋滞が発生してしまう。
いつ大地が無くなるか分からないこの時に、そんな事で時間を取られる訳にはいかなかった。
「アウラ、手の空いている者を総動員して余分な荷物を破棄させて頂戴。従わない者は列から排除しても構わないから」
あたしは、焦っていた事もあって、大声で指示をだした。
「姐さん、排除はやり過ぎなのでは?」
大人しいアドラーが珍しく異議を唱えた。自分の意見を言うのはいい事だ。
「仕方がないわ。この後一人でも多くの人を避難させなくてはならないんだから。和を乱す者には厳しい態度で接しないといけないわ」
「そ そうですね、そうでした」
「あって欲しくはないけど、刃物など使って力づくで転移門を通ろうとする者が居たら、切り捨てる事も視野に入れないといけないわね。転移門警備の担当には、そう申し伝えておいて頂戴。その際の責任は全てあたしが負うから」
「了解しました。でも、姐さんに責任を負わせようなんて考える者は、恐らく居ないと思いますけどねww」
そう言い残すと、アドラーは長蛇の列に向かって走って行った。
「みんなも、手伝ってあげて頂戴」
「はーい」と明るく返事をすると、メイ・ミリー・クレアの三人組も元気に走って行った。
そんな走って行く彼女たちの後ろ姿を見ていたら、思わずため息が出た。
あんな子達にこんな仕事させたくないわぁ。
でも、圧倒的に人が足りないのよねぇ。
避難民の相手をしながら、聖女様のお相手もしなくちゃならないなんて、荷が重いわぁ。
さて、どうしたものかなぁ・・・。
真実を打ち明けて、避難頂くか、いやいやいや、あの頑・・・意思のお強いお方がいう事を聞いて下さるとも思えない・・・か。
せめて、アナ様がいらっしゃったのなら、説得は丸投げに出来たものを・・・本当に残念だ。