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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
93/188

93.

 あっけに取られて、何も言えないあたし達を見下ろしながら、その人物はニコニコと微笑んで居た。

「どうした?まさかワシを忘れた訳ぢゃああるまい?」

 子供の外見で、年寄り臭い発言をする人物。そう、その様な人物がそうそう居るわけもないし、忘れられるはずもない。竜王様の分離体、子供竜王様だった。


「子供竜王様、どうして突然ここにお出ましになられたのでしょうか?」

 すると、今までニコニコと上機嫌だったその顔が一瞬で曇った様に見えた。

 なぜか、申し訳なさそうにも見える。

「何か   あったのでしょうか?」

 取り敢えず、おずおずと尋ねてみたのだが、驚きの答えが返って来た。


「すまん、本当にすまんのう、ワシの力不足ぢゃ」

 えっ?なに?何がどうしたって・・・

「どういう事なのでしょう?」

「うむ、先だっての竜脈に沿った火山の噴火なんぢゃが、思いの外ダメージが深くてのぅ。いやぁ、迂闊だったわい」

「ダメージ?迂闊?何が迂闊だったと?」

「ああ、竜脈の修正が終わって安心して体力の回復をしていたんぢゃが、その間にのう、事態が悪化してしもうたんぢゃよ」

「悪化って?又噴火するのですか?」

「いやぁ、噴火ならまだいいのぢゃがな、、、その、何と言うか、、、まぁ、ありていに言うとぢゃな、この大地自体が沈むと言うか、、、無くなってしまうんだわ。はっはっはっ。いやまいったねぇww」

「無くなる?大地が?この大地がぁ?無くなってしまうと言うのですか?はっはっはっじゃあ無いですよっ!どういう事なんですかっ!!」


 あたしの勢いに押されたのか、頭を掻きながらばつの悪そうな顔をしているが、追及の手を緩めるわけにはいかなかった。

「この大地が無くなったら、あたし達は生きていけないじゃないですか。どうしてそんな事になったのです?誰がそんな事を仕組んだのです?どの様に無くなるのです?いつ無くなるのです?大地は全て無くなるのです?あたし達はどうしたら良いんです?」

「をいをい、そんなに一度に言わんでくれよ。とにかくだな、時間が無いんぢゃ、優先順位の高い事から順を追って説明するから」

「お願いします」

 あたしの睨む様な眼差しに多少気圧された様に子供竜王様は苦笑いしていた。まだ言いたい事は沢山あったが、今はまず聞く事が先決だろうと、あたしは口をつぐんだ。ど突くのは後でもいい。


「まずぢゃな、近々この大地は粉々になって海に飲み込まれてしまう事になるだろう。その前に何も知らない多くの国民を退避させてやらなくてはならん。無くなる範囲は、概ねお主らの国全部と南東にある小国ぢゃな」

「バンゲア共和国もか・・・」

 お頭の表情が珍しく真剣だった。

「そこでぢゃ、避難の為の経路を用意した。西はお主らがシルヴァーナと呼んで要塞をこしらえている西の外れ、東はベルクヴェルクの鉱山、そして中央は、ほれそこに見えて居るぢゃろう、あの集落ぢゃ。その三か所に新大陸に繋がる転移門を設置した」

「新大陸?その三か所でその新大陸とやらに避難が出来るのですね?」

「もっと用意したかったのぢゃが時間が無くての。取り敢えず新しく造れたのは東と西の拠点だけでな、ここの集落にはその昔ワシの力を与えた若者がここに住んでおったので、その連絡用に造ってあった転移門を流用したんぢゃよ」

「それって、あの入っちゃいけない洞の事ですか?天界に繋がっていて入ったら二度と戻れないと言う」

「ははは、確かにあれは一方通行になっておってな、入ったら二度と戻れん。ぢゃがな、行先は天界ぢゃなくワシの元ぢゃ。もっともだいぶ前から接続先は海を渡った先にあるちょっとした無人の大陸にしてあるがの」

「なんでそんな・・・・」

「この地も人族が増えすぎてきておってな、移住先として用意しておったのぢゃよ。まさか、こんな事で使う事になるとは思いもよらなかったがの」

「それでは、入ったみんなはその大陸に?」

 あたしは無くなる大陸の事をすっかり忘れ、嬉しくてバンザイをしたくなった。

「うむ、恐らくな。向こうは基本自給自足ぢゃ。生きているかは彼らの能力しだいぢゃな」

 でも、可能性があるのなら、きっと大丈夫だろう。なんたってあのメアリーさんが居るのだもの。こういう時のメアリーさんは滅茶苦茶心強いもの。

「わかりました。あたし達は一人でも多くの国民をあの洞に誘導すればよいのですね。でも、国内全部に知らせて回るのは…」

「そこは大丈夫ぢゃ。既にお主の身内とやらに頼んであるからの。もう王都とサリチアでは移動の準備を始めているのではないかな」

「そうなんですね、父様と兄様が動いて居るのなら安心です、安心しました」

「うむうむ」


 あたしは、既に出発準備を済ませて待機している聖騎士団の方々にイルクートを中心に国民の避難の呼びかけをお願いする事にした。

 なぜなら、聖騎士団なら国民の信頼が厚いから信用して貰えるのではないかと言う目算と、みんな騎馬兵だったので早く遠くまで知らせる事が出来るからだった。

 聖騎士団の動きは早く、指示をだすと全員が一斉に四方に旅立って行った。


「さて、我々はあの集落へ赴き避難民の受け入れを頼むとしようかの」

 そう言うと、子供竜王様はふわりと宙に舞うとあたしの馬車の脇に降り立った。

「ほれ、時間がないぞ、さっさと行くぞい」

 なんか楽しそうだ。


 あたし達は再び『始まりの村』に向かうのだった。


 予想通りなのだが村の入り口には、例の長老達が集まってのお出迎えだった。

 それは歓迎の出迎えでない事は、彼らの前面に展開している竹やりを構えた若者達を見れば一目瞭然だった。

 やれやれ、又実りの無い押し問答をしなくちゃならないのか?時間が無いのになぁ。

 だが、子供竜王様は何故か隣でニコニコしたままだった。


 やがて村の入り口を封鎖している彼らの前で馬車を停め、あたし達は降り立ち、彼らと向かい合った。

「又性懲りも無くやって来おったな。もう二度と来るなともうしたはずじゃ」

 え?言われたっけ?出て行けとは言われたけど、来るなとは言われてはいないぞ?

 反論しようと一歩前に踏み出そうとしたが、そこで子供竜王様に制止されてしまった。

 あたしにウインクした子供竜王様はトコトコと長老の前に歩み出た。


 訝し気な長老達も、竹やりを向けて来る若者達も意に介しない子供竜王様は静かに、そして力強く話し出した。

「お主たち、長い間この転移門の管理ご苦労ぢやったの。礼を言うぞ」

 いきなりの上から目線の発言に、みんな顔を見合わせている。そりゃあそうだろう、ちょっと見は只の子供なのだから。

「なんだ?このガキ。ここはガキが来る場所なんかじゃあねえ、さっさと帰って母ちゃんのおっぱいでも飲んで寝ちまいな」

 完全に舐め切って居てみんなで笑っている。怒らせてもしらねえぞ。

「ふぉふぉふぉ、威勢が良いのはいい事ぢゃ。ぢゃが、今は時間が無いでな、ちょっと手荒にさせてもらうぞ」

 そう言うと、子供竜王様はさっと右手を振った。

 すると、長老達も若者達もふわりと宙に浮きあがってしまった。

「こ こりゃあ、どうなっておるんじゃ!」

 みんな、何が起こって居るのか解らず、空中でじたばたしてしまっている。

「どうぢゃ、少しは話を聞く気になったかの?」

 再び右手を振ると、彼らはそっと地面に着地して、そのまま尻餅をついてしまった。

「あ あなたは・・・・」

「その昔、このムラを作ったマルティシオン・ド・リンデンバームに力を与えたのは、ワシぢゃ。ワシの事は聞いてはおらんかの?」

「な なんと・・・あの あの伝説の世界を滅ぼしたと言われている、暴虐の暗黒竜様で?」

 みんなの驚愕の表情は中々の見物だった。

 あたしは、思わず吹き出してしまったが、子供竜王様に睨まれて慌てて口を両手で押さえた。

 大きなため息と共に、疲れた様に子供竜王様は呟いた。

「やれやれ、暴虐の暗黒竜とは・・・なんちゅう言われ様ぢゃ」

「あはは、まあまあ、伝聞とはそういうものと聞きますよ。気を落とさないで下さい」

 言いながら、思わず顔がにやけてしまったが、気付かれなかっただろうか。


 その後、手短に事の次第を説明した子供竜王様は、避難民が殺到する前に村人を纏めて避難する様に指示を出し、村人達は指示通り洞の中に消えて行った。


 これで取り敢えず一息付ける事になったので、子供竜王様に疑問をぶつける事にした。

「どうして、大地が消える事になったのですか?事前に判らなかったと言うか対処が出来なかったのですか?」

「うむぅ、おぬし痛い所ばかり突いて来るのう。まぁ誤魔化してもしょうがないかの。どうやら複雑な呪いが掛けられていたみたいで、判らなかったのぢゃよ。はっはっはっ、申し訳ない」

「だからあぁ、ここは笑って誤魔化す所じゃあないでしょう!どうしてくれるんですか!」

「だから、避難先を用意したぢゃないか。そんなに怒るなって」

「怒りますっ!!目一杯怒りますとも!!」

「悪かったとは思って居る。ぢゃがのう・・・」

「言い訳は結構です。避難の事はいいとしても、こちらは戦力が半分もその新大陸とかに飛ばされてしまって、今後の活動に大きく制限が掛けられてしまったんですよ?本当にどうしたらいいのか頭が痛いですよ」

 ホントこの機に乗じてカーン伯爵に行動を起こされたら、対応が出来ないどころかお手上げだわよ。

 だが、子供竜王様の次の言葉に、あたし達は何度目かの思考停止状態になってしまった。


「それだったら、迎えに行けば良いぢゃないか」

「・・・・・」

「簡単な事ぢゃろが」

「あのねぇ、あたし達人間は、竜種みたいに空を飛べないんですよ。知ってました?昔から羽が無いんです。知ってました?」

 すると、子供竜王様は面倒くさそうに、夕べ野営した丘を指差した。

「お主らは、あそこを調べたのかの?」

 みんな一斉に昨夜の野営地だった丘を見上げた。

「あそこが何か?」

「あそこには背の高い木が一本も生えていないのに疑問は持たなかったのかのう」

「そう言えば、低木と草ばかりだった様な」

「あの丘の下は、全て岩なのぢゃよ。全てが一つの巨大な岩なのぢゃよ。ぢゃから、大木は根が張れんのぢゃよ」

「岩で出来た丘?それがなんだって言うのです?迎えに行くのと何の関係が?」

「ふぉっふぉっふぉっ、あの丘の裾に道祖神があるはずぢゃ、それを調べてみるのぢゃな。いい物が隠されておるかもしれんぞ。ワシはお主達に渡したい物があるので取りに一旦山に戻るが、急いで探してみるのぢゃな。ふぉふぉふぉ」

 そう言うと、子供竜王様は煙の様に消え去ってしまった。


 いったいなんなんだと思ったが、子供竜王様の言う事はいつも突拍子も無い事ばかりなので毎回驚いてばかりも居られないのだった。仕方がないから取り敢えずその道祖神とやらを探しに行く事にした。

 お頭の手下達には洞の守備と誘導を任せて、さっそく丘の麓に向かった。


 当初、なだらかな丘だと思っていたのだが、こうして改めて見回すと、意外と急斜面で大きな丘である事に気が付いた。

 みんなで手分けして丘の周囲を探して見ようと思ったのだが、拍子抜けする位簡単に道祖神が見付かった。

 来る時は気が付かなかったのだが、ムラから向かうと見事に真正面にあったのだった。


 わらわらとみんなで件の道祖神を取り囲んで、まずはじっくりと観察をした。

 道祖神だった。

 何か読めない古代文字が書かれており、それなりに古そうだった。それ以外は何の変哲も無い道祖神にしか見えなかった。

 これの何を調べろと?

 みんなは、周りの下草をまさぐったり、道祖神本体の石を持ち上げようとしていた。

 なんの発見も無く、みんなの興味も薄れて来た頃、ジュディが「そうかっ!」と声を上げた。


「どうしたの?何かわかった?」

 あたしの質問に、ぱあっと表情を明るくしたジュディは道祖神の前にしゃがんだ。

 そして、道祖神前面に刻まれていた文字をなぞりながら、あたしに振り返った。

「この正面に書かれているのは、古代文字です。通常は道祖神と書かれているか、豊穣、魔除け、道中安全、疫病、災害等に関する文字が書かれるのが普通なのですが、これは現代文字にすると、『翼・護・社』となります」

「なんじゃそりゃ?意味分らんぞ」

 お頭の疑問ももっともだ。訳がわからない。

 だが、ジュディには何か解ったのだろうか、説明を続ける。

「そして、裏面です。苔に覆われていましたが、ここに彫られているものに見覚え御座いませんですか?」

 そう言うと、場所を空けてくれたので、あたしは脇に回って道祖神の裏側を覗いた。そこには、確かに見覚えのある文様が彫られていた。

「こ この文様は・・・・ううん、間違いは無いわ。これは紛うことなき聖女様の、リンデンバーム家の家紋。なんでこんな所に・・・」

「現時点では、推測でしかないのですが、この『ムラ』を作ったのが聖女様の祖先だとすると、そのご先祖がここに何かを隠した、、か、ここで何かを護っているのでは?と解釈できます」

 みんなが、驚きの顔でジュディに注目する。

「な 何を隠したって言うの?何の為に?」

 あたしの勢いに、仰け反りながらもジュディは落ち着いて言葉を続ける。

「何を隠されたのかは推測でしかありませんが、先程の子供竜王様の、迎えに行けば良いとの言葉と合わせて解釈するなら、海を渡る何物か、ここに刻まれている“翼”の文字から拡大解釈すると、何か空を飛ぶ物、と推測されますが・・・」

「馬鹿言っちゃいかん!!空を飛べるのは、人以外のものであって、人が空など飛ぶことは出来ん!ありえんっ!それが自然の節理と言うものだっ!!」

 お頭は、興奮したのか、はあはあと荒く息と唾をを吐きながら、そう叫んだ。だが、あたしは得心が得た感じがした。

「でも、お頭。あたしも人だけど空を飛んだわよ?竜さんの背中だけどね」

「そ そりゃあ、お前が飛んだんじゃあなく、飛ぶことの出来るものの上に乗っただけで・・」

「だったら、上に乗る事の出来る何物かがここに有るって考えられないかな?」

 形勢不利と悟ったのかお頭の声は小さくなっていた。

「それが、、、羽だって事 ナノカ?」

「そんな事はあたしにだってわからないわよお。それを知る為にもこの道祖神の謎を解かなくてはならないって事でしょうに」


 パチパチパチ 不意に後から手を叩く音がした。

 子供竜王様だった。戻って来られたんだ。


「みんな賢いのぉ、その通りぢゃ。この村はワシが力を与えた青年、お主らが聖女様と呼ぶ一族の始祖が始めた村ぢゃよ。その後、他所から空渡る船で流れ着いたのがお主達の祖先ぢゃ」

「おおおお・・・」

 みんな驚いていた。

「その時乗って来た、空渡る船は損傷が激しくての、放棄されたのぢゃが、あの者は諦めずに三百年に渡って修理をしておったわ。その時、岩山だったここに船を隠して一人修理を続けておったわ」

 その場は、しーんとして、誰も言葉を発しなかった。

 意を決してあたしは気になった事を尋ねた。

「それで、その空飛ぶ船は直ったのですか?」

「直った。船体は完全に直って飛行には耐えうるはずだと言っておった」

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 その場に歓声が沸き起こった。だが、次の一言でふたたび静寂が訪れた。

「船体の修理は出来たのぢゃが、動力が如何ともし難かったそうぢゃ。飛行するには搭載している 四基の発動機の内最低でも三基が動かないと駄目なようぢゃ。だが、直せたのは二基のみだそうぢゃ」

「それじゃあ・・・」

「うむ、浮き上がる事は無理だそうぢゃ。浮き上がる事が出来さえすれば飛行は可能だそうぢゃがな」

「なーんや、ほな何の意味もないんやないでっかぁ」

「ぬか喜びじゃーん」

 みんながっかりしているが、何故か子供竜王様はニコニコしたままだった。なんかあるなと思っていると、案の定だった。

「ふぉふぉふぉ、そんな意味の無い事をわざわざ話したりはせんわい。ちゃんと解決策は用意しておるわい」

 そう言うと、子供竜王様は道祖神の前まで歩いて行くと、お頭の方に手招きした。

「ほれ、そこのデカイの。力が有り余っておるんぢゃろ?ちょっと手を貸さんかい」

 訝し気なお頭が歩み寄ると、子供竜王様は道祖神を指差した。

「その石碑を左に回すんぢゃ。そっとぢゃぞ」


「へいへい」

 ぶつぶつ言いながらも、そっと石碑を抱きかかえると、簡単に石碑は動き出した。

「九十度まわすんぢゃ」

 石碑が真横を向いた時、大きな地響きと共に地面が振動を始めた。

「なんだなんだ?」

 みんながきょろきょろと辺りを見回すと、右手にあった草に埋もれた巨大な岩が下に下がって行った。

 いったいどういう仕組みなのだろう。古代の文明は現代よりも進んで居たのだろうか。

 巨大な岩が下がった後には通路とおぼしき地下道が続いていた。


 だが、みんな顔を見合わせるだけで、入る勇気が無い様だったので、あたしが先頭を切って入って行った。

 薄暗い通路を進んで暫く歩くと突然前方が開けて広い空間に出くわした。

 空間の内部は何故か明るかった。おそらく、壁にひかり苔でも生えているのだろう。

 空渡る船って何だろうと思っていたが、、、うん、まさに今見上げている物は、、、まさに船だった。

「これが、、、こんな巨大な船が空を飛ぶの?有り得ないんだけど」


「昔は、こんなのが普通に空を飛び交っておったのぢゃよ。もう失われた文明ぢゃがな」

 後ろから続いて入って来た子供竜王様が懐かしむ様にそう呟いた。

「そうなんやぁ?信じられへんなぁ。ほなさ、その昔の文明はどないしはったんや?」

「うむ、いい質問ぢゃな。先住民がワシに牙をむいたので滅ぼした話は聞いたかな?」

「うん」

「その際ぢゃ。先住民の文明は全て抹消して、一からの再スタートをして貰ったんぢゃよ」

「なるほど・・・」

「文明は、程々でなくてはいかん。あまり発達してしまうと、悪い事を考える奴が出て来てしまうでな。もっとも、ワシ個人の意見に過ぎんがの」

「そうなんですね」

 意見でなく、単なる子供竜王様の趣味なのではと思ったのだが、敢えて言わなかった。ここは、黙って聞いておくのが最善だろう。


「どうじゃ?これなら、多くの人員を運べるぢゃろ?」

 確かに、船体は木造の巨大な船だったので、人は大勢乗れるのだろう。だが、こんなのがどうやって飛ぶと言うのだろうか。

「はい、そうですね。でも、飛び上がれないのですよね?」

「うむ、確かに飛び上がるのは無理ぢゃろうな、奴もワシにそう言い残しておった。だが、飛び上れさえすれば、この船体各所に付いて居るこのくるくる回るもの、確かプロプロじゃったかペラペラじゃったかを回して、前に進めるらしいぞ」

 なんとも、不確かな情報しか無いのに、何処まで信じたらいいのか、思案のしどころだった。


「で?爺さんよ。こいつの講釈は解ったがよ、実際問題どうやって浮かすんだ?そんな技術なんか、今の世界には皆無だろ?」

「ふぉふぉふぉ、勿論そんな技術、皆無のはずぢゃ。当然ぢゃろう」

「じゃあ、どうやるって言うんだよ」

「根性ぢゃよ」

「はあぁっ!?」

「うそぢゃよ、若者は気が短くていかん。暫し待たれよ、じきに浮かす為の物が届くでな」

「ほんとかよ!」


 何が届くのかは解らないけど、とにかくあたし達は届くまでの間、空渡る船の船内を見て回る事にした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] そうですねぇ。自分も皆さんが突っ込んでくれないので仕方なく自力で修正をしています。黒さんの小説は、ストーリーの発想と各キャラが凄く個性があってそこが良い所だと思います。  以下、自分が読…
[良い点] 濃いキャラと癖の強いキャラが凄く良いですw [一言] 初期から通して読んでいますが、濃く癖の強いキャラと意外な展開が多く、個人的に結構ハマってますw
感想一覧
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