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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
91/169

91.

 空が白み始めても、『ムラ』に向かって出発した者は誰も帰って来なかった。

「行くしかないか」

 そう呟きながら身支度を整えて立ち上がると、同じく身支度を整えたみんなが集まって来た。

「お嬢、行きましょう」

「姐さん、準備は出来てんで」


 不安がたっぷりの旅立ちではあったが、なぜかみんなの顔には不安は無い様だった。

 なぜだろうと思っていたら

「お嬢が居れば、どんな化け物が待ち構えていても安心よねぇ~ww」

「そうそう、ほんまやねぇ。姐さんとお頭が居れば、怖い物なしやねぇww」


 あたしって、どう思われているのよ?と、憤慨していたのだが

「どうしました?大丈夫ですよ、そんなに緊張されなくても」


 だそうだ。

 はぁ~、冷静な竜さんを見て居ると、怒るのも疲れました。


 やがて準備が整い、一行はヘマトキシリンの街を出て『ムラ』に向かって歩を進めた。


 昼前に、『ムラ』を見下ろせるらしい小高い丘に到達した。

 馬車を降りて丘に立ったあたしは、前方に広がる景色を見下ろした。

 眼下には一面に草原が広がっており、その真ん中にか小さな集落が見えて居る。おそらくあれが目的の『ムラ』と言う集落なのだろう。

 ここから見た感じでは、集落には特に違和感を感じなかった。

 先に向かった先行偵察隊員もメアリーさん達も、ここからは見え無かった。

 何者かの襲撃を受けたにしては、『ムラ』は平和そのものの様で、周辺にも襲って来たであろう敵の軍勢の姿はまったく見えなかった。

 襲撃を受けたのではないのか?

 ここから見られるのは、平和そうに集落の中を歩いて居る数人の住人だけだった。

 今起こっている事を考えると実に違和感満載な風景と言えた。


「どうする?このまま殴り込むか?」

 ぬっと顔を出したお頭が、ニヤニヤとそう言いだした。

「そうしたいんだけど、メアリーさん達が帰って来ない事が気になるのよねぇ」

「ん-、確かになぁ。あいつは性格はアレだけど、腕だけは確かだからなぁ。あいつが後れを取る事はかんがえずらいんだが・・・」

「そうなのよ。メアリーさんですら後れを取る相手が居るのなら、このまま突入したら大変な事になりはしないかって」

「だけどなぁ、このままここでじっとしていてもしょうがないぞ」


 集落を見つめながら、しばらく考えていたが良い案が浮かぶ訳も無く、かと言ってこのままここに居る訳にもいかなかった。

「しょうがないわね。少人数で突入しましょう」

 あたしはため息交じりにそう言い放った。

 正直、『ムラ』に突入するのは気が重かった。


 だが、みんなはそんな事を心配しているそぶりは見せておらず、それどころか妙にはしゃいでいるのは何故だろうか?

 あたしが、心配し過ぎなの?

 渋い顔でそんな事を考えていると、竜さんが話し掛けて来た。

「シャルロッテ殿、ここは何が起こるかわからないので、わたしが先頭を務めましょう。『ムラ』の中央あたりから奇妙な波動を感じますので、そこに向かおうと思います。まあ皆様よりも耐久力がありますので、不測の事態にも対処が可能かと思います」

 これは、願っても無い申し出だった。確かに竜さんが後れを取る様な相手だったら、あたし達なんか簡単に吹き飛んでしまうだろう。ここは、竜さんのご好意に甘えるしかないだろう。

「すみません。宜しくお願いします。あたし達ではどうしようもないと思いますので、ここは甘えさせて頂きます」

 そう言ってあたしは頭を深々と下げた。

 みんなも、あのお頭さえも頭を下げていた。みんなも、手に負えない相手だと薄々感じているのだろうか。


 基本方針が決まったので、急いで支度を終え、竜さんを先頭にゆっくりと丘を降りて行った。

 普段だと、無駄話のひとつも聞こえてくるのだが、今回は誰も一言も発しなかった。

 相当緊張しているのだろう。かく言うあたしも、緊張で唇が乾燥して居たため、そっと水を含み大きく深呼吸をした。

 だんだん『ムラ』が近づいて来て、集落の出口に飾ってある大きなバイソンの頭蓋骨もはっきりと確認出来る距離までやって来た。


 あたしは、ごくりと唾を飲んでから静かに命令を出した。

「これから竜さんを先頭に『ムラ』に侵入します。お頭とアウラはあたしと一緒に竜さんの後ろを守ります。ポーリン達は左右を固めて頂戴。聖騎士の皆さんは撤退する時の為に『ムラ』の入り口を確保していて下さい。『うさぎ』の面々は『ムラ』全体に散らばって隅々まで調査をお願いします。もし、危険が迫りましたら、合図を出しますので全力で逃げて下さい。さあ、行きます」


 あたし達は、そろそろと『ムラ』の中に侵入して行った。

 緊張感満載のあたし達と違って、集落内部は平和そのもので、中腰で恐る恐る歩いて居るあたし達を奇異の目で見る村人達の表情は何故かしらけた感じだった。


「なんでこの村の住人は、うちらを変な目で見てくるん?」

 ポーリンが訝しげに呟いた。その口調には不愉快さが滲み出ていた。

「見慣れないよそ者が、怪しげな格好で歩いて居るのだもの、しょうがないですわ、、、でも・・・」

 アウラはいつも冷静だが、やはり言葉尻に不快感を滲ませていた。

 みんなこちらを見ているのだが、無表情で一言も発し無いのは、やはり不気味だった。不快にもなろうと言うものだ。

 いったい何があると言うのだろう。


「うがあああぁぁっっ!!」

 突如お頭が周りの村民に対して威嚇をしたので、みんな家に逃げ込んでしまった。子供達は半泣き状態だった。ほんとに子供なんだから。


 あたし達は静かになった村の中をそろそろキョロキョロとへっぴり腰で歩いていたが、竜さんは知っている所を歩くかの様にすたすたと歩いて行く。

 やがて、目的地である村の祭壇に到着した。

 おそらく長年何かを祭って来たと思われる歴史の有りそうな祭壇があった。その祭壇は巨大な岩を組み合わせて造られたほこらの中にあり、洞の上部には幹の周囲が大人が手を繋いだら五人分はあるであろう巨木が根を下ろして覆いかぶさる様に下の洞を護ってた。

 遠目には、ただの小山にしか見えないだろう。

 その祭壇の前には、この村の長老と思われる老人達が厳しい視線をこちらに向けながら立って居た。

 その中でも、ひと際年齢を重ねていると思われる爺様が口を開いた。

「お前様方、何をしに来やった。ここは、お前様方が来る様な場所ではありゃあせん。大人しく帰った方が身の為じゃぞい」

 頭髪は完全に白髪となっており、顔も全面真白な髭で覆われており、伝説の仙人の様ないで立ちであった。だが、その声は驚くほどしっかりとしており、思わず圧倒される程の圧があったのには驚いた。


 いつまでも圧倒されている訳にもいかず、恐る恐る来た目的を話す事にした。ちょっと、いや、かなり怖かったけど。

「無断で村に入って来た事は謝ります。お騒がせして申し訳ありません。ですが・・・」

 そこまで言うと、突然力強い声で言葉を遮られた。

「お主らも、リンデ様のお力が目当てか?やめておきなさい、リンデ様のお力は人間にどうかなる物ではありゃあせん。前に来た愚か者共同様命を落とすだけじゃ。悪い事は言わん、早々に立ち去る事じゃ」


 その言葉は突っ込み所満載だった。

「前に来た者って、、、その人達はどうなったのっ!?今、どこに居るのっ!?」

 あたしの心臓は急にドキドキし始めた。早鐘を打つとは、この事だろうか。

「今までにも、大勢の愚か者がここにやって来たが、誰一人として生きて帰っては来ん。止めたのじゃがな、みんな言う事を聞かんでお洞の中に入って行きおったわ」

「な、なんで誰も帰って来ないの?どういう事なの?」

 あたしは、こ思わずこの長老に詰め寄った。

 すると、哀れな者を見るかの様なさげすんだ目で見返して来た。

「ここはのう、遥か数百年も前にリンデ様から我がご先祖様が守護を任された天界への入り口なのじゃ。何人たりともリンデ様の元へ行く事はあいならん。分かったらとっとと帰りなんせ」

「ちょ ちょっとリンデ様って誰っ!?天界って、何っ!?意味が分からないんだけど」

 ここで、この長老は大きく息を吐いた。そして、肩をすぼめ頭を左右に振った。

「やれやれ、お前さん方も頭が悪い人間じゃったか。死なないと分からない様じゃな」

 その瞬間ポーリン達が一斉に剣を抜いて構えたのが気配で分かった。あたしは両手でポーリン達を制した。そして、更に情報を引き出す事にした。

「このお洞の中に入ったらみんな死ぬって事?」

「だから、そう言っておるじゃろうが。言葉が分からない痴れ者なのか?」

 さっとアウラがあたしの前に飛び出して来た。その手には刃の短いダガーが握られて居た。

「この無礼者っ!!この方をどなたか知っての発言かっ!!」

 あらあら、珍しくアウラが切れたわね。

「いいのよ、アウラ。それで、なんで入ると死ぬのかしら?中に魔物でも居るの?」

「ふんっ、そこまでは知らん。だが、なんびとたりとも通すべからずと言い伝えられて来て我が一族が御守り申し上げて来たんじゃ。実際に入った者が出て来た事はありゃせん。そりゃあそうだろう、この先は天界じゃからの。人間が生きて帰って来れる場所じゃありゃせんわい。さっさと帰りなんせ。忠告はしたからの」

 そこまで言うと、老人達はぞろぞろと解散して行った。


 あたしは、腕組みをして考え込んでしまった。彼らの言っている事は本当なのだろうか?真実だとして、これはどういう事なのだろうか?

「お嬢、どう思います?」

 アウラがダガーを仕舞いながら聞いて来る。

「薄気味悪い爺い達やわ。なんなん?」

 ポーリンも険しい目付きで帰って行く老人達を見ている。

「おう、確かに薄気味悪い爺い達だが、気になる点も多々あるぞ」

 お頭も顎を撫でながら前に出て来た。

「まず、リンデ様なる者だな。こりゃあ、長い年月の中で多少変わって来た可能性はあるが、聖女様の事じゃあねえか?」

「ああ、そうか。聖女様のリンデンバーグ家の事かぁ、それでリンデ様か」

「ああ、それにな疑問なんだが、この洞、そんなに中が広い様には見えないんだがな。後から後から侵入者が入ったらどうなる?誰も出て来ていないんだろ?中は溢れ返っていると思わんか?」

「そうねぇ、おかしいわね。それにこの中で死んでいるのなら、腐敗して腐敗臭が辺りに漂ってもおかしくないわね。でも、そんな気配もないのよねぇ」

「それって、入った人がどこぞに飛ばされておるって事なん?」

 ポーリンも不思議な顔をしていた。

「天界ってワードも謎だわよねぇ。別の世界って事なのかしらね。竜さん、何か思い当たる事あります?」

 ずっと黙って洞を見ている竜さんに尋ねた。


「そうですね。わたしが聞き及んだ中に、天界と言う言葉はありませんね。もし、それに相当する物があるとすれば、、、」

「管理者の世界   ね」

「想像ですので、確証はありません」


「おい、管理者ってなんだ?」

 訝し気なお頭の質問に丁寧に答えている暇は無かった。

「この世界を管理している竜王様の様な存在よ。で、管理者の世界ってあたし達が行ける所なの?」

 あ、何?その無表情な顔は・・・

「わたしでも行く事は叶わない世界であるとしか・・・」

「そうなんだぁ。でも、そんな天界への門がなんでこんな所にあるのかしら?」

「おいっ!今はそんな事考えている場合じゃないんじゃないのか?どうするのか考えるのが先だろうがっ」

 お頭は、かなりいらついていた。

 だが、無理も無い事なのだが、その疑問に答えられる者はいなかった。


「竜王様はお休みになられている様で連絡が取れません。なので、情報は一切ありませんね。起きられるのを待つか、このまま突入するか、ですね」

「そんな事は言われんでも分って居るんだよ!いったいいつになったらお前の飼い主は起きるんだよ!?ああ?」

 お頭、もうキレキレモードだ。竜さんは気にもしていない感じなんだけど。


「竜王様がいつ起きられるのかは不明です。ですので私達で判断しなくてはなりませんが、もちろん行かれますよね」

 あたしの目を真っ直ぐ見つめて、そう話し掛けてくる竜さん。あたしは迷いなく答えた。

「ええ、行くわ」

 あたしに迷いが無いのを感じたのだろうか、竜さんは優しく微笑んだ。

「では、まず私が入ります。その代わり約束をして下さい、わたしが入って一時間たっても戻らなかったら、、、、ここから撤収して下さい。わたしが戻れないと言う事は、人族が踏み入れてはいけない領域であると言う事ですので。わかりましたね」

 有無を言わせぬ竜さんだった。

「わかっ  た」


 にこっと笑った竜さんは、くるっと身を翻し洞に向かって歩き出した。

 祭壇の前で止まって、一旦あたし達の方に振り返ると供物の山を跨いで奥に進んで行った。

 すると、息を飲みながら成り行きを見守っていたあたし達の目の前で竜さんは、、、、、忽然と姿を消してしまった。


 そう、、、まるで溶ける様に・・・



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