88.
竜さんは翼をたたみ、一気に垂直降下を始めた。
あたしは、振り落とされない様にひっしに背中の鱗にしがみついた。
それほど高度をとっていた訳ではなかったので直ぐに地表に達したのだが、先に落ちた剣が見当たらない。
と言うか、地表には蛮族がすし詰め状態なので奴らの体が剣を隠してしまっているのだろう。
「着地します」
言うが早く竜さんは急制動を掛けて着地した。
その風圧で周囲のミニゴーレムも蛮族も全て吹き飛んでしまい、一瞬ではあるが視界が良好になった。
どこだ?どこだ?周囲を見回すが、レイピアはどこにも見当たらない。まさか、大地にめり込んでしまったのか?
背中を冷や汗が流れた。
ふと気が付くと、目の前の地面に矢が刺さった。竜さんは翼を広げ周りからの攻撃から守ってくれているのだが、気休め程度にしかなっていない。早く見付けないと。
そうだ、一か八かやって見るか。
「竜さん、合図したら一瞬飛び上がって頂戴」
そう声掛けをすると、あたしは剣を握り精神集中をした。
徐々に気が溜まっていってるのだが、時間の経つのがとても遅く感じた。
そろそろいいか?いや、もう少し、もう少しだ・・・
目の前の地面には次々と矢が刺さっている。いつ自分に刺さるか気が気ではない。こいつら、知能が低いくせに敵だけは判るんかかいっ。
そんな中での精神集中は容易ではなかった。が、やるしかなかった。
よしっ、いける。
「竜さんっ!今っ!!」
即座に竜さんが飛び上がった。物凄い風圧に押し潰されそうになりながらも、あたしは最後の一手を放った。
「見ていろ蛮族っ、今必殺の ロッテあたあ~~っく!!!!」
あたしは、両手で持った剣の剣先に意識を集中して、ほぼ全力の精神波動攻撃を放った。
そして、放ちながら同時に左足に重心を置いたまま、左足を軸に三百六十度ぐるんと旋回したのだった。精神波動を放出したまま。
放出が終わったタイミングで竜さんが降りて来た。
「これは、、、、。シャルロッテ殿、こりゃまた凄まじい事を思いつきましたなぁ。流石の私も脱帽で御座います。もうほとんど災害ですぞ」
あたしは、はあはあと荒い息を吐きながら剣を杖によろよろと立ち上がって、自分のした事の結果を直接確認した。
「あらあぁ~」
予想はしていたが改めて周囲を見回すと、周囲は綺麗に薙ぎ払われて土が剥き出しになっていた。
近くに居た蛮族はみんな薙ぎ払われてしまい、元気な蛮族はかなり遠くに居たので今なら安全にレイピアを探せそうだった。
だが、見渡す限りレイピアは見つからなかった。
「まさか、溶けてしまった?」
「いえいえ、それは無いでしょう。溶けていれば、ゴーレムの発生は収まっているはずです。それに、あの程度の攻撃じゃびくともしませんよ」
「あの程度って・・・」
竜族から見ると、あたしの攻撃なんて、あの程度なんだね。そんな存在に戦いを挑むなんて、先人はよほど頭が悪かったのかな。
「おそらく地面にめり込んでしまっているのではないですかね?精神を集中してみて下さい。さすれば埋まっているおおよその位置は分かるかもしれませんな」
あたしは精神を集中させてレイピアの気配を探ってみたが、さっぱり判らなかった。やっぱり溶けてしまったのかな?
その時竜さんが突然叫んだ。
「おう!私とした事がうっかりして居りました。シャルロッテ殿、背中に乗って下さい、すぐに飛び立ちます!」
「ええっ?なになに?いったいどうしたの?」
だが、竜さんの目が真剣だったのと、その縦に細くなった黄金の瞳が何かを伝え様としている感じだったので、黙って指示に従いこちらに向けている背中に飛び乗った。
背中に飛び乗るや否や竜さんは緊急離陸した。
「ど どうしたの?突然」
「私も耄碌したものです。レイピアの行方が判らなければ、聞けばよいのです。知っている者に」
「知っている者?」
「ええ、シャルロッテ殿、あのレイピアの特徴は何でした?」
「周囲にゴーレムを・・・・あっ!!」
「そうです、上空からゴーレムが大量に発生している所を探せば良かったのですよ。そこにレイピアは有るはずですから」
「なるほどーっ!動転していて気が付かなかったわ」
目の前で陽の光を浴びて光り輝いて居るコバルトブルーの鱗を目の前に見ながら、あたしは竜さんに心底感心していた。
種族は違えど、こんな思慮深い大人になれたらどんなに素晴らしいだろうか。もっとも、そんな事言ったら大笑いされるから絶対に言わないけどね。
「そんな事はありませんよ・・・」
「えっ?何か言いました?」
風を切る音で竜さんが言った言葉が聞き取れなくて聞いたのだけど、そっけなかった。
「いえ、なにも。それよりも先はまだ長う御座います。今の内に回復薬を飲んでおいて下さい」
あたしは長丁場に備えて腰に回復薬をぶら下げて居た。
怪我は治らないが、疲労に対してはある程度の回復が見込まれる優れものなのだ。味が最悪でなければもっと良いのだけど。
「うげえ~っ!!」
不味い味に顔を歪めながら、必死に回復薬を飲んでいると、ふいに声を掛けられた。
「見付けました」
竜さんの冷静な声に下を見下ろすと、妙に蛮族達の密度が濃い所があった。
良く見るとそこではゴーレムが大量に発生している様だった。
間違いない、あそこにあたしのレイピアがある。
あたしは竜さんの首を叩いた。竜さんもあたしに振り返った。
お互いにアイコンタクトを取ると、竜さんは優しく微笑んだ、、、気がした。
「では、回収に行きますかね」
「どうするの?」
今度はニヤッと笑った。
「しっかり掴まって居てくださいね」
そう言うと、羽をたたんで一気に急降下を始めた。
「うわあああぁぁぁ」
いきなりの急降下に思わず叫んでしまった。
すると、今度は大きく口を開いた。
「ん?」
と思った瞬間、まばゆい光で目の前が真白になり思わず目をつぶった。
なんと竜さんは地上に向けてドラゴンブレスを放ったのだった。
地上はきれいに薙ぎ払われ、黒く焼き焦げた大地が円形に剥き出しになっていた。
その中央にはキラリと光る物が・・・。
あれは・・・?
竜さんは一気にその中央に向かって降下すると、再び上空へと羽ばたいて行った。
矢の届かない高度まで上がると、竜さんは首をこちらに向けて微笑んで来た。そんな彼の口には、まごう事の無いあたしのレイピアが咥えられていた。
「竜さん、ありがとうっ!」
あたしは、思わず竜さんの首に抱きつき無意識のままその首を撫でまわしていた。
「さあ、無駄に時間を費やしてしまいましたが、作業を続行しましょう」
再び上空を旋回しながらゴーレム育成に励んだ。
振り返ると、国境沿いでも順調に作業が進んで居る様で、遠目に三~五メートトルのゴーレムが暴れているのが見える。
こちらも更に大きな十メートトルクラスのゴーレムを続々と生産しているが、比較的時間に余裕が出て来たので、さっきヤツが現れた時の事をぼんやりと思い返していた。
ホント、あんにゃろー、会いたくもない時に限って現れるんだから、嫌になっちゃう。もっとも会いたい時なんて無いんだけどね。
そう言えば、気になる事を言っていたなぁ。あれって・・・・。
「ねぇ、竜さん。聞いてもいいかなぁ?」
それとなく、自然に、なにげない様に、ぼそっと聞いてみた。
あ、竜さん、今溜息をついた。聞きたい事、判っちゃったかな?
「おおよその見当は付いて居ますよ」
そう静かに返事を返して来た竜さんだったが、どうせ頭の中を読んでいて全て判っているのだろう。もう、長い付き合いになる、大体お見通しだ。
「じゃあ、教えて貰えます?なんで奴は竜さんの本名を知っていたのですか?」
「良くその事に気が付きましたね。事ここに至っては知らぬ存ぜぬは、、、駄目なのでしょうね。そう、あの者とは千年来のお付き合いとなりますか」
「せっ 千年っ!?そんな訳 そんな訳あるわけないじゃないっ!」
「ははは、姿かたちが変わっておりましたので、私も騙されました。が、あれは間違いなく、、、あの方です」
「でも、千年なんて・・・」
「あの方は、、、人族では、、、ありません」
「!!!」
人族では無いって、、、まさか魔族とか?只の変態異能者じゃ無かったの?
「そうですな、変態ではありますが、人族でも魔族でも御座いません。もっと上の存在になります」
「もっと上?上って・・・」
「この世界には地上で繁栄する種族を管理する存在というものが御座います。そうですな、あなた方が神と崇めている存在とは別のものです。、もっとも、神などと言うものは人族のこしらえた架空の存在になりますが」
「・・・神が存在しない?」
「八柱の管理者によってこの地は管理されているのです。竜王様も大地を管理する管理者なのです」
「あいつが管理者だって言うの?有り得ない!もし、管理者だって言うのだったらなんであたし達にこんな事ばっかりするの?おかしいじゃない!」
だってそうだろう。管理者だって言うのならなんであたし達に害をなすの?もっとあたし達に恩恵を与えるべきじゃないの?
あたしは、理解が出来なかった。きっと、誰が聞いても理解出来ないだろう。否、出来るはずがない。
そりゃあそうだろう、産まれて来てからずっと信じて来た事柄が間違っていたって言われれば、混乱するのも無理は無かった。
「えーっと、何か誤解をお持ちの様ですが、神と言う存在はあなた達人族が自分達に都合の良い様に勝手に創り上げた偶像であって、何の力も持ち合わせておりませんし、人族だけ優遇するなんて有り得ません。その自分達だけ優遇しろと言う考えは人族の驕りです」
「力をもたない?驕り?」
「はい、管理者とは人族だけを護るものでは御座いません。基本、突出する存在を押さえ、滅びに瀕している種族をささやかに助けるのが管理者の務めなのです」
「基本?基本って?」
「あくまでも基本のスタンスと言う事でして、目に余る場合はその限りでは無い、と言う事です」
「それって、三千年前の出来事の事を言っているの?」
「そうですな。あの時の人族は酷過ぎましたので、あの様な残念な結果になってしまいました」
「でもっ、あたし達はあんな非人道的な事はしていないつもりよっ!滅ぼされる言われなんかないわっ!」
思わず頭に血が昇ってしまい、竜さんの背中から落ちそうになってしまった。
「落ち着いて下さい。私に言われましても、判断を下すのは管理者ですので。私は只のしもべに過ぎません」
「あ、ごめん。ついカッとなっちゃった。でも、管理者が判断をするのだって言うのなら、奴が判断したって事なの?人間を滅ぼそうって」
あ、竜さん、黙っちゃった。変な事言っちゃったかな?
「これは言っても良い内容では無いのですが、私の独り言として聞いて頂きたい。八柱の管理者は各人がそれぞれ使命を持っているそうです。ちなみに竜王様は大地の管理ですが」
「じゃあ、奴の使命って、、、人間の殲滅?」
「さあ、それは判り兼ねますが・・・」
思わず話し込んでしまい時間の経つのも忘れてしまっていた。
その事に気が付いたのは、目の前を蛮族が急上昇して行くのを見た時だった。
「えっ!?」
思わず、空へと昇って行く一体の蛮族の姿を目で追って居た。
「蛮族が、、、飛んでいる?」
竜さんも唖然と見上げている。
その空飛ぶ蛮族は、あたしをあっという間に追い越し、遥か上空、空の彼方に消え去って行った。
なにごとっ!?
唖然としている間に、更に一体。いや、二体、三体、四体、と次々に撃ち上がって来るが、器用にも竜さんは右に左にと避けて居る。
なんなんだよ!と下を見下ろすと、巨大になり過ぎたゴーレム達が蛮族を掴んでは上空に向かって投げ上げて来て居ていたのだった。
「竜さん、長居し過ぎたみたい、次の場所に移動しましょう」
しかし、必要以上には大きくならないんじゃなかったの?あいつら、二十メートトル以上あったわよ。
後ろを振り返ると、まだ巨大化したゴーレム達は、こちらに向かって蛮族を投げつけて来て居る。
更に、けっこう離れたのに投げたゴーレムがこちらに届いているのだから驚きだ。なんて怪力なんだよ、あいつら。
蛮族は物ではないぞ。何をやっているんだ。知能の無い存在の怖さか。何をしてくるか想像もつかないわ。
「恐らく、我々が長時間上空に居たので、敵認定されちゃったのでしょう」
「なんだか、面倒な奴らね。前から面倒だったけど」
その後は、一か所に長く留まらない様に気を付けて作業を行ったが、さっきの話の内容がショキングだったせいか作業に集中しながらも頭から離れる事はなかった。
「もし、、、、奴の使命が、、、人間の殲滅だったら、、、黙って運命を受け入れるしかないの?竜王様に匹敵する様な相手だから抗う事は出来ない?」
長い沈黙の後、竜さんは重い口を開いた。
「私も人族と比べたら、圧倒的な力を持っておりますが、それでも管理者の前に出ましたら、ワイルドベアーの前の蟻にも劣ります。もし、あの方が本気を出されましたら、手の施し様が御座いません」
「まだ本気は出していないと?」
「はい、例えましたらもし竜王様が本気を出しましたら、この大地は一瞬で灰になります。あの方がそれと同等のお力を持たれているとしましたら、対抗する術は御座いません」
「持っているとしたらって、どの程度の力があるのか、判って居ないの?」
「基本、管理者同士は一切の干渉はいたしません。お互いがどんな力を持つか、何をしているのか不明なのです。各々が成すべきことをするのみなのです」
「でも、今までも何回も奴のしようとした事の邪魔は出来たわよ。全力で当たれば、何とかならないのかなぁ」
「希望を打ち砕く様で、大変心苦しいのですが変に期待させてもいけませんのではっきりと申し上げます。もし、私が百万体存在したとして、全力であの方に当たったとしても、一瞬で壊滅させられるでしょう。その位の戦力差があると思って頂ければ間違いは無いかと思います」
「そんなに?」
「はい、今まで我々の前に現した姿は、ただの分身だと思われます。分身ですので、その力も僅かでしたので見事に隠ぺいされておりまして、私も気が付きませんでした。それでも、そのお力は私の及ぶ所では御座いません」
「そんなぁ」
「何故我々の力に合わせておられたのかは分かりませんが、完全に遊んでおられた様に感じました。何を考えておられるのかは、今度目の前に現れた時にでも直接お聞きになられるのが宜しいかと」
「えーっ、聞いても教えてくれるぅ?あいつが・・・。その前に、会いたくないんだけどぉ」
「ですが、それ以外に情報を得る方法は無いかと。あの方はシャルロッテ殿をいたく気に入っておられるご様子でしたので、もしかしたら答えて頂けるかも知れません」
「気に言ってって・・・なんか、嫌だなぁ」
あたしは、とても気が重くなった。
「もしかして・・・。これは確証の無い事なのですが、試されているのでしょうか?我々、と言うかシャルロッテ殿が・・・」
「何を試すって言うのよぉ」
「さぁ?何をでしょう?どこまであがくか?でしょうか」
「悪趣味ぃ~っ」
「この蛮族の群れを見ていて、そう思いました。さあ、どう対処する?何が出来るかやってみなさいと」
「うーん、だからこんなに集まったのに、一向に攻め込んで来ないのかなぁ。まあ、助かるんだけどね」
見渡す限りの蛮族の群れの中で暴れているゴーレムを見ながら、暫く物思いに耽ってしまった。
多少は効果が上がっているのかなぁ?とか、これを見て、奴がどう思うのかなぁとか取り留めも無い事を考えていた。
途中、何回か小高い山のてっぺんで竜さんに見張りをしてもらって用を足し、丸一日ゴブリン製造を続け、気が付くと陽は傾きつつあった。
「しかし、こいつら本当になんなの?何でこれだけゴーレムに痛い目に遭っているっていうのに、撤退しようと思わないの?もう情け掛けるの辞めて、一気に殲滅した方がいいのかなぁ」
さすがに、丸一日竜の背に乗っているのは腰にと言うよりも、、、お尻に来る。ずっとお尻がヒリヒリしていてたまらないわ。
「さて、そろそろ戻りましょうか?先ほどの管理者について話した内容は、どうかご内密に」
「そうねぇ。真実を知らせて混乱を起こされても困るしねぇ。わかったわ、皆にはやんわりとぼやかして話すわね」
「ありがとうございます。混乱は付け入る隙を産みますので、出来ましたら余計な不安要素は排除するに越したことはないですので」
地上に戻ると、みんなのテンションがおかしかった。
と言うか、よく見るとおかしいのはポーリンとその子分達だった。
何か怒ってる?何があったの?
あ、ずんずんこっち来た。何か言いたそうな顔してる?
五人、十個の目があたしを凝視しつつ迫って来た。
「姐さ~ん!聞いてくださいよぉ~」
「どうしたの?ポーリン」
「みんな、このまま作戦を続けるって言うてはるけど、こんなまだるっこしいの、うちもう我慢出来ひんわぁ」
「あらあら、でも他に方法は無いんじゃなくって?」
「うちと姐さんと竜のじっちゃんの長距離攻撃なら、もっと効率的に倒せるんとちゃいまっか?」
ポーリンは鼻息荒く詰め寄って来る。その両脇には必死に押さえようとしているアドラーとメイがしがみついている。
「姐さん、すみません。どうしても直訴するってポーリンが聞かなくって」
申し訳なさげにアドラーが弁解して来て居るが、彼女も大変だなぁって思っちゃった。
「大丈夫よ、アドラー」
一呼吸おいてポーリンの方に向き直った。
「あなたの意見ももっともね。確かにあたし達の波動攻撃と竜さんのブレスを使えば、効率的に蹴散らせるわね」
あたしが同意したと思ったポーリンは、ぱあぁっと目を輝かせた。
「そやろっ、そやろっ、せやのにみんな、頭が堅すぎて話しにならんわあ」
やれやれといった顔をしているが、ここは味方をしてあげる訳にはいかなかった。
「そうね、効率的って事で言えば最も効率的かもしれないわね。間違いなく効率的に大量虐殺が行える。いい?どんな言い訳をつけてもそれは大量虐殺に過ぎないの。あたし達の目的は蛮族の壊滅じゃあないの。大量虐殺でもないの。彼らが恐怖を覚えて、引いてくれればそれでいいの」
「あ・・・」
「あなたは、知能が低い民族は滅べって堂々と言える?知能の低い民族はいくら殺したって構わない!そう言える?それを正義だって言える?」
「ううううう・・・」
「よーく考えて?世の中の人はどう思うかな?波動攻撃で蛮族を撃退しても、最初はみんな喜ぶでしょう。でも、しばらくして落ち着いたら、どう思うだろう?あたし達はアナ様の配下なの。そんなあたし達がみんなの為とは言え大量虐殺をしたら、それはアナ様が、ひいてはエレノア様がさせた事になっちゃうの。マルティシオン教は殺人教団だって思われるかもしれない」
「・・・・」
「勘違いしないでね。あたしはあなたを責めている訳じゃないの。ただ、判って欲しいの。あたし達の動向は国民みんなが、他国の国民も注目しているの。だから軽はずみな事は控えなきゃいけないのよ。判って貰えるかな?あなたの気持ちは痛い程判る、でも今は我慢なの。いつまでの我慢なのかは判らない。でも、きっと天上の偉い方は見てくれているはず。だからきっと何とかなるわ、だから一緒に我慢して頂戴、お願い」
「・・・・・ご・め・ん・なさい」
「あたしだってね、めっちゃ怒っているのよ。なんであたし達だけこんな思いしなくちゃならないんだあああぁってね。ほーんと、笑っちゃうよね。ここに居るみんなは、世界一巡り合わせの悪い者の集まりなんだなぁってね。貧乏神の集団よねあたし達ってさww」
そうして、周りを見回すと、みんな苦笑いをしながらあたし達を見ている。
「そうだな。さしずめお前は大貧乏神だな。大貧乏神権現様だ!」
大きな声で、お頭が縁起でもない事を言ってきた。
「なるほどぉ、正一位大貧乏疫病大明神様って感じですかな。はははは」
レッド・ショルダーのロジャースさんまで変な事を言いだした。
あたしは面白くもなんともないんだが、周りは妙に盛り上がってしまっている。いったいなんなんだ。
「とにかく、別の方法を考えるのなら、奴らが恐怖を覚える方法を考えてね。あたしだって、いつまでもこんな事したくないわよ」
「ほうほう」
な なんだ?お頭がニヤニヤしながら擦り寄って来るじゃあないか。何を考えてるんだ?
などと思って居ると、いきなり尻に激痛が走った。いや走ったなんて可愛い物ではない。尻が爆発したみたいだった。
ぶわあっちいいいぃぃんんっ!!!
あのクソデカイ手で、いきなり尻を叩かれたのだった、、、、らしい。
らしいと言うのは、あまりの激痛に、あたしは失神してしまっていたからだった。
翌朝、自分のベッドで目が醒めたが、痛くて身動きが出来なかった。
うーうー唸っていたら、突然声を掛けられた。
「姐さん、お具合はいかがやねん?」
心配そうなポーリンの声が後ろから聞こえて来た。
なぜ後ろから聞こえて来たかと言うと、あたしはうつ伏せに寝かされていたのだった。
「うううう、お尻がいたーいっ!」
お尻が熱持っている感じで熱かった。
「あ、そう言えばあたしをこんなにした犯人は?」
ん?返事が無い?
よっこらしょと身体を捻ってポーリンを見ると、なんか下を向いてもじもじしている。
「どうしたの?」
あたしの問い掛けに、彼女はビクっと体を震わせた。
「どうしたの?何かあった?」
恐る恐る顔を上げたポーリンはためらいながら話し出した。
「あの、、、口留めされていたんやけど、お頭さんは姐さんが疲れているみたいだから、休ませる為にあんな事をしたんやと。お頭さん不器用やから」
「え・・・」
「今は、姐さんを休ませる為に仲間を連れて奴らに殴り込みを、、、かけています」
あたしはポーリンの言葉に、反射的に起き上がろうとして呻いた。
「なにを、、、いたたたたたたた」
あたしはベッドの上でうずくまってしまった。
「あんな大軍に殴り込みをかけるなんて、無茶だわ いたたたたたたたた 止めなきゃ・・・」
ベッドから降りようとしたんだけど、痛くて動けなかった。
だめだ、早く止めに行かないと・・・くううううう」
だが、その時再び後ろから声を掛けられた。後ろ?いやいや、後ろじゃあない、窓の方からだった。
窓?ここは二階よ?なんで?と思う間もなく、あたしの頭は注意信号を発していた。
そうだ、あの声。あの声だ。二度と聞きたくないあの声だった。
「あらぁ~、いい格好ねぇ~、萌えるわよぉ~ww」