87.
午後からはアウラの作戦通り、一か所でグルグルと旋回をしながら泥人形を集中降下させる事に集中した。
相変わらず、上空からはどうなっているかさっぱり分からなかったのだが、下を見下ろして居ると旋回している真下だけ蛮族の動きが乱れている様な気がする。
泥人形と蛮族の間で熾烈な戦いが繰り広げられているのだろうか?
その後もゆっくりと旋回を続けて居ると、なにやら大ぶりの何かが動いているのがぼんやりと見えて来た。そして、その数が十を数える頃動いている何かの正体がやっと確認出来た。
泥人形だ!等身大より大きめの泥人形が暴れて居たのだった。その全身には無数の蛮族がたかっている様だが、泥人形は力強くその剛腕でたかった蛮族を薙ぎ払って居た。
何体かの泥人形は蛮族の群れの中に沈んで行ったみたいだが、いまだ健在で元気に?戦って居るその数は次第に増えて居る様に見える。
ここまで来ると上空からでも戦いの推移は手に取る様に分かって来た。
五メートトル程にもなると、蛮族に対してはほぼ無敵状態だった。
無敵人形は時間と共にその数を急速に増して行った。
等身大人形も、無敵人形の後方でその数を急速に増やしていっている。もう大量生産状態と言っても良いだろう。
「竜さん、いい感じね」
「はい、もう大丈夫でしょうね。次のポイントに移動しましょうか」
後はこの繰り返しだった。
問題は、蛮族のこの非常識な数だけだった。正直このレイピアが後百本位欲しいと思った。
その後も同じ事を延々と繰り返し、泥人形増産ポイントも二十か所を数えた頃、今まで飛んで来た辺りを見回して見た。
それぞれのポイントでは無敵化した泥人形達が何体も無双状態で頑張って居るのが遠目にも認められた。
ここである事に気が付いた。それはある程度大きくなって無敵状態になるとそれ以上に合体をしないらしいという事だった。無駄な巨大化ではなく、主目的を合体から攻撃にシフトしている様に見える。
「これは・・・」
新たな気付きに驚愕していると、竜さんも同じ事を考えていたみたいだった。と言うか、又あたしの頭の中を覗いていたのだろう、話し掛けて来た。
「彼らの中には、高度な思考が働いて居るみたいですな」
「高度な思考?」
「はい、効率化・・・とでも言ったら宜しいのでしょうか?ある条件を満たすと無駄な合体を辞めて必要以上には大きくならず、他の仲間を大きくする方向に全体の動きをシフトしている事からもその事が伺えますな」
「それって、相手の力に合わせたより合理的な大きさになっているって事かしら?」
「そうですな。相手からはやられず、尚且つ圧倒出来る大きさを条件、と言うか目標に活動している様に思われます」
「じゃあ、あたし達が戦った時、あんなに巨大になったのって・・・」
「ええ、それだけ我々が脅威に思えたのでしょうね」
あたしは呆然となった。あんなに苦労したのって、あたし達のせいだったの?
はああぁぁぁ、なんかどっと疲れたわ。
「攻める側の強さが、そのままゴーレムの大きさになって帰って来るって事でしょうか」
「はああ、あれ造った奴って、相当頭が良いのね。って言うか、あれってゴーレムって言うのね」
暫く黙って何かを考えていた竜氏が、あたしの方に首だけ振り返ってきた。
「その事なのですが、、、これは私個人の考えなので正解かどうかは保障出来ないのですが・・・」
「えっ?なあに?」
「その剣とゴーレムの魔法を造ったのは、、、人では無いのかも知れません」
「!!!」
「あくまでも、私の私見です」
「どういう事なのかしら?」
遠い目をしながら竜さんがぽつりぽつりと話し始めた。
「これは竜王様から伺ったお話しなのですが、今から三千年程前、この地には巨大文明が栄えていたそうです」
「巨大文明?それってあたし達のご先祖様ね?」
「いえ、違います。現在の人族の前にこの地で栄えていた人族です。その文明はあまりにも力を持ち過ぎました。そうですね、今風に言えば、侵略国家とでも言うのでしょうか?周辺の国の民を虐殺する事によって国土を広げていったそうです。その様子を見ていて憂慮した竜王様は何度となく当時の人族の王に忠告を行いましたが、聞き入れられず、あまつさえ当時からベルクヴェルクにおわした竜王様に戦いをし掛けて来たそうです」
「な なんて無謀な・・・」
「ええ、無知とは恐ろしいものであまりにも無謀な、暴挙と言っても良い判断でした。竜王様は天界を司り大地を統べる神の一柱であらせられますので直接そのお手を煩わせる事はありませんでした。お怒りに、と言うよりも人族の無知さに悲しまれた竜王様はその当時心を通わせていた一人の人間に一振りの剣をお与えになり人族の完全なる征伐をお命じになられたそうです」
「その剣って、、まさか」
「はい、恐らくシャルロッテ殿が今お持ちのその剣です」
「なんて事・・・・」
もう、あたしの貧弱な頭では理解が追い付かなく、眩暈さえしてきた。
「人族は二百万もの兵を繰り出してきました。竜王様はその人間に剣と同時に僅かですが恩自らの血の力を授けました。そしてその愚かな人族に対しそのゴーレムの剣をもって、愚かな人族共を殲滅するべしと命じたのです」
「・・・・・・」
「その結果、この土地の人間は壊滅して、文明も完全に滅んでしまいました。今繁栄している人族は、その後この地に流れ着いて来た人間が細々と立ち上げたものなのです」
「それで、多くの人間を滅ぼしたその人は?」
「竜王様に剣を返納しました。そして、この地に住んで居た女子供老人を含む一千万にも及ぶ命を奪った責任は自分にあると、ベルクヴェルクの山裾に小屋を建て、それから三百年に渡って供養を続けていたそうです」
「そうなんだ。三百年も、、、って、三百年って、その人人間だったんでしょ?」
「はい、竜王様のお力をお分けして頂いたので、長寿だったものと思われます。他にも、怪我をしても傷跡は瞬間で治癒したとか。ほぼ不死に近い状態だったのでしょうね」
「信じられない・・・」
「その後、この地に流れ付いた人間達の怪我や病気を治したり、戦いの悲惨さを説いて回っている内に人民の信頼を得まして・・・」
「まさか、その人って・・・」
「その者は、マルティシオン・ド・リンデンバームと名乗ったそうです」
「マルティシオンって、、、まさか、聖神マルティシオン様、、、」
「はい、現在まで連綿と受け継がれてきている、マルティシオン教の創始者、、、ですな」
「そ そんな・・・。マルティシオン教の祖師様が人間で、、、その上そんな大虐殺をなされていた方だなんて・・・」
「あの、アナスタシア殿の異能のお力は、竜王様のお力なのです。代を経るにつれてそのお力は薄まっていったはずだったのですが、今代になって、何故か薄まった能力が突然復活された様ですな」
「ううううううう…。言いたい事は山ほど有るけど、今は目の前の問題と向き合うべきだわ。あたしは、現実逃避します。そんな難しい事は考えたくないので、目の前の事に逃避します。決定っ!」
あたしは、周りを見回した。そして、大きなため息を吐いた。
「ここまで、泥巨人、、、えっとゴーレムだっけ?そいつを巨大化させた地点は二十七箇所。だけど、どの場所のゴーレムも三メートトルよりは大きくなっていないわね。それって、蛮族を強敵と認識していないって事なのかな?」
「恐らくは・・・」
「あんな大きさのゴーレムじゃあ、何年経っても撃滅なんて無理だわ。作戦失敗ね。帰って新たな作戦を立案しないとだわ。竜さん、申し訳ありませんが、一旦帰って頂けます?」
あたしは、レイピアを鞘に収めようとしたが、突然竜さんに止められた。
「宜しいのですか?このまま帰ってしまって」
「だって、そんな事言ったって、こんな小さなゴーレムでちまちまやってたってきりが無いわ」
「小さくて駄目なら、大きくして差し上げれば宜しいのでは?」
「そんなっ、大きくなんてどうやるのよっ!見てよ、全然大きくなんてなっていないじゃない」
「先程の話しをお忘れになりましたか?ゴーレムは、一体どの様な規則で大きさを決めているのでしたか?」
「それわぁ、、、相手の力にあわせて・・・だっけ?」
「その通りです。では、ゴーレムが大きくならざろうえない相手をぶつければ、もっと大きくなるのではありませんか?」
竜さんは、涼しい表情で無理難題を吹っかけて来るが、無理な物は無理なのだ。
「それは理想論よ!そんな相手がどこに・・・・!?」
えっ?えっ!?ええええっ!?まさかそれって・・・。
竜さんが横顔でニヤッと笑った様に感じた。
「今までに、大きくなった事・・・ありませんでしたか?」
「あ あたし達が、相手する って事?」
「はい、確実に大きくなりませんかねぇ?」
「そ そりゃあ、大きくなり過ぎて困ったけどさあぁ、、、でもお」
「なにも、あの無数の蛮族の群れの中に入って戦いましょうとは申しておりませんよ。あんな中に入らなくても、安全に戦える術があるじゃあないですか?」
「それって、、、まさか」
「ええ、その腰に差しているもう一方の剣で、シャルロッテ殿の波動を奴にぶつければいいのですよ。頭でも吹き飛ばしてやればよろしいのではないのでしょうか?ふおっふぉっふおっ」
なんとまぁ、見た目はヒト族の老人なのに、よくもまぁ恐ろしい事を考えるものよ。
「お一人で大変でしたら、ポーリン殿にも近場のゴーレムを攻撃して頂ければ宜しいかと」
「はあぁ、そうね。このままやっていても埒が明かないのは確かだと思うから、そのアイデアに乗っかる事にするわ。一旦戻って、明日朝イチからやりましょう」
剣を鞘に収め、ゆっくりと大きく輪を描きながらみんなの元に降りて行った。
当然の事ながら、出迎えてくれたみんなは驚きの表情だった。
「姐さんっ、どうしたんですか?何か不都合でもありましたかぁ?」
「オイ、お嬢、どうしたんだ?」
まあ、そうだろうなぁ。
司令部に帰ったら、ちゃんと説明をしなくちゃいけないわね。
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翌朝目覚めると、抜ける様な青空だった。
昨夜は、新たな攻撃方法のあらましを説明し、みんなの同意を貰った。
今日、一番忙しくなるのはポーリンだった。
ポーリンには壁のこちらから遠距離攻撃を行って貰う為、彼女の精神波動攻撃の有効射程距離を知らなければならなかった。
その為、彼女には壁のこちらから何度も攻撃を放って貰い、おおよその到達距離を確認した。翌日は、有効射程距離ぎりぎりにゴーレムを造らなくてはならないのでこの確認は必要だった。
あたしは、この有効射程距離一杯の所に中型のゴーレムを造って行き、それをポーリンが攻撃して、大型へと育てる事になる。
ゴーレムがこっちに来られたら大変な事になるので、極力壁から離れた所で育てなければならないので、ポーリンには頑張って貰わないとならない。
基本的には、壁の近くはやや小さめ、奥地は大きめに造る予定だった。
ポーリンにはかなり無理をさせると思うが、ここは若さを頼って頑張って貰いたい。
勿論、支援は万全だ。ポーリン用の馬車を用意して、馬車で移動しながらゴーレムの頭をかっ飛ばして貰う。疲れて来た時の為の回復薬も馬車に積載しておき、疲れてきたらその都度回復して貰うつもりだ。
ポーリンは、あたしよりも早く起き出していた。緊張で寝れなかったのかな?
でも、気力十分の顔をしていたので、疲れは取れているのだろう。
「ポーリン、無理はしては駄目よ。攻撃を継続する事が大事なんだから、休み休み無理なく攻撃してね。あなたが頼りなのよ、倒れないでね」
「まかしといてーな。うちはまだまだ若いんやさかい、ばっちりやってみせるって。見とってやぁ」
頼もしい限りだ。
万が一、ゴーレムがこちらに向かって来た時の為に、壁際には相当数の兵力を配置する予定だった。
もう、かなりの数の兵が移動を始めている。
機は熟した。
あたしも気合十分だった。もちろん、出すものは出して来た。
さあて、行きますか。
竜さんは、いつもと変わらず、ひょーひょーとしている。あのヒト?は、いつ、どんな時も平常運転だから、心配はいらないだろう。
「じゃあ、行って来ます!」
見送りのみんなに手を振り、羽を広げ待機している竜さんに飛び乗った。
例によって、全身キラキラと輝くコバルトブルーの綺麗な鱗を朝日に輝かせ、竜さんは空中に音も無く飛び出した。
みるみる上昇して行き、あっという間に予定地点上空に到達した。本当に空を飛ぶのって早い。あたし達の最速の移動手段の馬でさえ、イモムシの歩みの様に感じられる。
下を見下ろすと、案の定学習しない蛮族共が矢を打ち上げて来て居る。やれやれだ。
あたしはレイピアをすらっと抜いて竜さんの背中に紐で括りつけた。これで安心して両手を放して精神波動攻撃が出来る。
あたしの担当は、奥地のゴーレムだ。奥地に行くにつれてより大型にしていく。
可哀想だが仕方がない。少しでも早く恐怖を感じて逃げ出してくれるのを願うだけだった。
ぐるぐる旋回を続けて居ると、地上では混乱が始まった。突如ミニゴーレムが大量に発生して、蛮族共が退治に追われているのだろう。
しばらく待つと、何体かのゴーレムが二メートトル程に育ったので、後の事はポーリンに任せて壁から一定の距離離れた次のポイントに移動して旋回を始める。
そうやって、壁沿いに二十ポイント程でゴーレムを育てたので、いよいよ奥地に移動して更に大きなゴーレム作りだった。
ここまでは、なんの妨害も無く楽な作業だった。日差しも暖かく、気を抜くとあくびが出てしまう。
いかんいかん、気を引き締めなくちゃ。
旋回して二メートトル程に育ったら、上空からの精神波動攻撃で十メートトル程に育てたら次のポイントに移動する。そんな同じ作業の繰り返しだったので、どうしても緊張感が薄れていくのだろう、周囲に対する警戒も疎かになって、ただの流れ作業になっていた。
もう、五十ポイント程でゴーレムを育てただろうか、全く危険も無く退屈な作業だった。
こちらは、ただゴーレムが有る程度大きくなるのを待つだけだったので、多少心の余裕があったのが油断に繋がったのだろうか、その時はまだその事に気が付いていなかった。
「ねぇ竜さん。このゴーレムの件も蛮族大量発生もあの変態異能者の仕業よね」
「うーん、おそらくそうではないかと思われますね」
「ならさ、何で次の一手を打って来ないのかな?ゴーレムの件はもう終わった事だとしても、蛮族の件は今現在進行中よね?これだけの数を国境沿いに集めたんだからさ、後は突撃あるのみなのでは?はっきり言って、この数が雪崩れ込んで来たら、あたし達は国を捨てて逃げるしかないわよ」
「確かにそうですな。どうひいき目に見てもこの数の暴力に人族があがらえるとは思えないのですが、一向に攻め込んで来ませんな。なぜか共食いをしてまで、この地に留まっておりますな」
「そうなのよ、これって不自然なのよ。食料を得るために国境に集まって来るのは理解出来るとして、何故動かないの?何故共食いをしてまでもこの地に留まるの?絶対おかしいわよ」
「集まったはいいけど、何か奴らの苦手な物が有るとか?」
「だったら帰ればいいじゃない。何故留まるの?帰る知能すら無いの?」
「ですな。通常、食料が無いと言うのは、生存本能に直接訴えるものなので、例え知能の低いナメクジであっても餌を求めて方向転換はするはずなのです」
「じゃあなんで?」
「これは、私の推測に過ぎませんが。生存本能に逆らう時、考えられるのは生存の放棄。すなわち集団自殺を目論んでいる場合ですな」
「そ そんな事って・・・」
「あるいは・・・操られている時・・・。いわゆるなんらかのマインドコントロールとでも言うのですかな」
「異能者が噛んでいるのなら、コントロールが一番怪しいわね。あいつら知能が低いから簡単にかかりやすそうだもんね。でも・・・」
「そう、ここまで大々的に精神コントロールを仕掛けたのなら、何故最後の仕上げをしないのか?ぼやぼやしていたら、いつ暗示が解けるか分かりませんからな」
「うん、やっている事がちぐはぐなのよねぇ。まあいつもあいつのやる事はちぐはぐではあるんだけどね」
本当に、ぼうっとそんな会話を交わしていたのだが、その時だった。突如会話に割り込んで来る声にギョッとした。
「そんなにちぐはぐですかねぇ」
それは、二度と聞きたくないと思っていた声だった。心臓が止まると思った。
「こ ここは、空の上よっ!なんで・・・」
あたしは驚いて周りを見回した。
すると・・・いた!
奴はあたしの後ろに居た!それも竜さんの尻尾の先端に器用に座って居た。
「!!!」
奴は尻尾の上でにこにこと微笑んでいる。
「な なんでこんな所にっ!」
「あははは、おたくら、あまりにも無警戒だったもんでねぇ、からかいたくなっちゃった、、、って言えばいいかしらねぇ」
毎度ながら、心をイラつかせる喋り方だ、
「あんたっ!こんだけ蛮族を集めたって言うのに何やっているのよっ!!何故、攻め込んで来ないのよっ!!」
「あらぁ、攻め込んで欲しかったのぉ?知らなかったわぁ~wwそれじゃあ、ご期待に答えないといけないかしらねぇ」
「そ そんな事は言ってないわよっ!!あんたの目的は一体何なのっ!?何がしたいの?」
奴はにこにこと穏やかな表情だった。完全に舐められている?
すると、驚いた事に奴は不安定な尻尾の先端ですっくと立ちあがった。
「そうねぇ、お嬢さんとじゃれたい・・・かな?」
「な なっ・・・」
「この未曽有の危機に、まさか敵の物だったゴーレムをぶつけてくるとは、心底驚いたわ。お世辞抜きに賞賛ものよ。あちきの部下にしたいくらいよ。大幹部になれるわよ。ほほほ」
「だっ、誰があんたの部下になんかっ!!」
「より興味を持ったのは本当よ。次は何をしてくれるのか、楽しみになったわ」
あたしは頭が噴火する寸前だった。
「ヴィーヴル、あんただいぶ耄碌したのじゃなくて?あちきが乗っても気が付かないなんて。昔のきれっきれのあんたはどこ行ったのかしらねぇ、ほほほほ」
あたしも立ち上がって、奴に対峙しようとしたのだが、揺れているので腰を浮かすのも無理だった。何故、立っていられるんだ?
「さあ、次の見世物のお題目が決まったわよ。せいぜい楽しませてよねぇ。じゃあねぇ~」
そう言うと、奴は空中に身を投げた。
その際、ゆっくりと左手の人差し指を前方に伸ばし、その先端が一瞬光ったと思ったとたんあたしの視界の端で何かが下に向かって移動しているのが映った。
はっとして振り返ると、切れた紐が宙を舞っていて、そこに縛ってあったレイピアが落ちて行く所だった。
「まずいっ!あれが無いと大変な事になるっ!竜さん、お願いっ!」