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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
79/168

79.

 ご出馬?

 どこへ?

 何をしに?


 なんだ、なんだ、なんだ、状況が呑み込めない。

 なんで今この状況でエレノア様が御出馬なされるのか?


「まだ、国内の混乱が収まっていないのに、危険すぎる。なんで・・・」

「国内の混乱が収まっていないからでしょう。国内の混乱を治めるのが、聖女様のお勤めで御座いますれば」

「だけど、あの変態異能者の所在も分からない今、エレノア様が大衆の面前にお出ましになるのは危険だわ!」

「確かに危険だと思いますな」

「だったら・・・」

「だからこそ、、、でしょう。こんな時だから、エレノア様も我が身を顧みずご自分に出来る事をなされようとしておられるのでは?」

「そ そうか、そうよね。だったら、あたしもあたしに出来る事をするわ。あたしもエレノア様をお守りに出ます。アナ様に許可を貰って来ます」

 あたしはアナ様のいらっしゃるであろうベルクヴェルクの修道院まで一気に走った。


 修道院に着くと、アナ様は近所の子供達と一緒に裏に広がる畑で野菜の収穫に勤しんでおられた。

「アナ様~」

 アナ様に駆け寄りながら声を掛けると、あたしに気が付いたアナ様が立ち上がって笑顔でこちらに手を振ってくれている。

 ここの所見慣れていた、ズボンにアーマーでは無くふわっとした薄桃色の見ているだけで心がほんわかしてくる様なワンピース姿だった。


「シャルロッテ様、いかがなされました?」

 不思議そうな顔で見返して来る。

 駆け寄ったあたしは、一気にまくし立てた。

「アナ様、聖女様が、エレノア様が御出馬なされます!」

 聞いたアナ様は、きょとんとしていた。


「出馬?エレノア姉様が?どういう事なのでしょうか?」

「あの、今情報が届いたばかりでまだ詳しい事はわからないのですが、これからエレノア様をお助けする為エレノア様の元に参上したいと思います。ご許可をお願い致したいのですが」

 そう言うと、あたしは頭を下げた。

 頭を上げると、アナ様が力強く微笑んでいた。

「シャルロッテ様のお仕事はなんでしょうか、もう一度お教え願いますでしょうか?」

 優しく話し掛けてこられてはいるが、その声には意思の強さを感じられた。

 普段からアナ様の場合、意志の強さと言うよりも、石の強さだなと感じてはいたが、今日のアナ様は石は石でも巨大な岩山を感じた。

 こりゃあ駄目かなと思った時、アナ様は優しい面持ちで意外な事を仰られた。

「わかりました。では、急いで旅の準備をいたしましょう」

「はい?」

 ああ、忙しい、忙しいと急にアナ様が修道院に入って行ってしまった。

 えっ?えっ?なに?どうなっているの?

 忙しいって、何?


 しばらく呆然と立ち尽くして居ると、すっかり旅支度を済ませたアナ様が出て来た。

「さあ、出発しますよ」

 あたしは、一瞬思考が固まっていたが、直ぐに我に返った。

「あ あの 出発って?」

「何をぼおっとしているのですか?出発しますよ?」

「え えーっと、どこに行かれるので?」


 あたしには、今置かれている状況が呑み込めなかった。

 なぜ、アナ様が旅支度を?旅に出るのはあたしの方なのに・・・。

 考えれば簡単な事なのだけど、認めたくない自分がいたのかも知れない。


「勿論、パレス・ブランに向かいます。エレノアお姉様が、ご出立されるのでしたら、私がその護衛につくのは当然の事。私の魔法剣士としての技がお役に立てる良い機会ですわ。私が出るのですから、私の護衛でもあるシャルロッテ様も同行するのは当然の事でありますわよね」

 なんか、以前のアナ様とは別人に見えるのはあたしだけ?

 ニコニコと話されるアナ様を見ていて、はぁ~っとなんかため息が出てしまった。


「わかりました、支度をしますので少々お待ちを・・・」

 と、言いかけた瞬間だ。

「支度は全部済んでるぜ。直ぐにでも出られるぞ」

 振り返ると、満面笑みのお頭を始め、いつもの面々が立って居た。

 そこでトッド室長が一歩前に歩み出た。

「今回の事案につきましては、王都の国軍総司令部からも特命が来ております。聖女様の身の安全を第一に行動すべし。その際に掛かる費用は全て国が持つ事。特例ではあるが聖女様の御身の安全を守る為であれば国軍の指揮権を期間限定で認める事も考慮する事。必要な物は国が用意する事。だそうです。更に、これも特例ではありますが、今回参加する兵士については、国家非常事態法に基づき国軍の兵と同等の権限を認めるので、特別遊撃隊としてマンフレット・フォン・ガーランドの指揮下で活動せよ。だそうです」

「ひゅーっ、すげえすげえ、国も本気出して来たな。しかし、又あいつが来るのかよ」

 お頭以外のみんなは、素直に喜んで居る。

 だが、ジェイは難しい顔をしていた。

「すなわち、、、これだけ配慮してやるんだから、万が一失敗したら、、、護衛失敗の責任は全部取れよ って事でしょうな」

 えーっ、そうなのお?もっとも失敗するつもりはないけど、、、。

「ずいぶんとえげつなくないでっか?」

 ポーリンが膨れながら、そう言い放った。だいぶ怒っている様だ。

「これが、政治の世界なのですよ。どんな事にも裏が有るって事でございます」

 さすが室長、伊達に長生きして居ないって事ね。

 でも、責任転嫁的な裏は歓迎出来ないわ。

「物凄い悪意を感じるのだけど・・・」

「おお、さすがのシャルロッテ殿にも感じられましたか」

 それって、馬鹿にしてない?あたしは、思いっ切りトッド室長を睨みつけたが、彼は気にも留めていない様だったのが悔しい。

「シャルロッテ殿の存在は、お父上にとっては最大のウイークポイントなのですよ」

「なぜです!?あたしは、あたしで父上とは関係ありません」

「そうはいかないのですよ。お父上を蹴落としたい連中にとっては、シャルロッテ殿の失態はお父上に対する絶好の攻撃理由ですから、みなさん鵜の目鷹の目で粗探しをしておるのですよ」

「そんな不毛な事をしているんなら、手柄を立てる事を考えればいいのに」

「ははは、尤もなご意見ですが、城内の魑魅魍魎にとっては、相手を引きずり下ろす事の方が心躍るのですよ。それに、お父上のミスをあげつらうよりはシャルロッテ殿のミスを突く方が簡単なのですよ」

「腐っているわね」

「腐って居なくては、トップは目指せないものなのですよ。そうやって何百年も来てしまいましたので、今更真っ当にはなれないのでしょう」

「そうだぞ、そんな魔物の巣窟を一掃したいのなら、まずはお前が権力を握ってあいつらを蹴落とすしかねえだろうな。はっはっはっ」

 他人事だと思って言いたい放題言ってるし・・・。

「まあ他人ですからしょうがないですな」

 竜さんったらまた、他人の心の中覗いてるし・・・。


「シャルロッテ様、姉様が心配なので、もう出発したいと思うのですが、宜しゅうございますか?」

 アナ様が不安そうに見つめてくる。この眼差しには抵抗出来ないってアナ様はご存じなのだろうか?

「はい、勿論で御座います。只ちに出発いたしましょう」


 こうして、ゆっくり休む間もなくあたし達の旅が再び始まったのだった。



 しばらくはやる事もないので、あたし達はのんびりと馬車に揺られていた。

 あたしは、御者席の脇で背もたれに寄りかかってなんとなく空を見上げて居た。

 そう言えば、こんなに青い空を見るのって久しぶりだなぁ、あの火山の噴火からこっち、のんびり空を見ている余裕が無かったのかも知れない。

 周りを見回すと、みんな思い思いに時間を過ごして居る。

 ポーリン達は、六人でなにやらゲームに興じているし、アウラは防具の補修に余念がない。お頭は、、、、、昼間から酒を吞みながら干し肉にむしゃぶりついている。

 老人ズは、一言もしゃべらず、置物の様に前方を見たまま座っている。

 他のみんなも、それぞれがやりたい事をやっている感じだ。

 全体的に、緊張感はあまり感じられなかった。


 目的地は、エレノア様のおわすところ。

 エレノア様のおわすところは、、、現時点では不明。

 トッド室長に頼んで、現在全力で情報を集めて貰って居るので、取り敢えずはパレス・ブランに向かっている。

 そもそも、なんでエレノア様がパレス・ブランをお立ちになったのかの情報もないのだ。どこへ向かわれたのかなんて、分かるはずもなかったのだ。

 それでも、エレノア様にもしもの事があったら、エライ事になるので、全力で追いかけるしかなかった。


 エレノア様、ご出立の報を受けた王都からは、エレノア様護衛の為、聖騎士団遠方派遣旅団の一団が即刻王都を進発したと報告があった。

 指揮官は、ケアレ・スミス伯爵。噂では、常日頃から聖騎士団副団長の座を狙って居るらしく、その正体は参謀総長シュヴァインシェーデル侯爵の腰巾着で、父上の失脚を願っている一派の一員として有名だった。

 悪意丸出しのこんな奴を、なんで野放しにしているのか、大人の都合ってやつなんだろうけどあたしには理解する事が出来ない。

 あたしは単純だから、とっとと潰してしまえばいいのにと思ってしまう。あたしみたいな単細胞は政治家には向いて居ないんだろうね、もっともなるつもりもないけどさ。


 その後、旅を進めて行く内に少しずつ状況が判明していった。

 各地に張り巡らした情報網から入って来る情報によると、どうやらエレノア様は食糧難を解消して飢えている国民を助けたくご出馬されたそうなんだが・・・。

「そもそも、なぜ聖女様がお出ましになると食糧難が解消されるの?意味がわからないのだけど?」

「ほんまや、訳 わからへんわなぁ」

「ねぇ、ジェイ。どうしてか理由知ってる」

 はて?なぜ私に?と言わんばかりの顔でジェイが不思議そうにこちらを見ている。

「ははは、確かに私は聖騎士団団長兼国軍総指揮官であらせますお父上様のお傍で働かせて頂いておりましたが、聖女様の能力につきましては極秘中の極秘でして、私程度では良くわからないと言うのが正直な話しなんです」

「そうなの?」

「はい、聖女様は国によって護られておりますので、その情報も厳重に管理されてしまうのです」

 国によって厳重に管理と言われたら、なす術も無いので集まった情報から推測するしかなかった。


 ここまで集まった情報によると、どうやらエレノア様は我が国南部、王都ボンバルディアの南に広がるランデル平原に向かって居る可能性が高いとの事だった。

 王都に有る国内でももっとも権威のあると言われているシャンデ大学院の学長は、様々な報告により、国内北部に生息していたワイルドボアー、アサルトバイソン、マイルドベアーの大多数は餌を求めて既に国南部、それもランデル平原に向かって集中移動中との見解を発表していた。

「食肉獣が国南部に移動していて、エレノア様も南部に移動中と・・・まさか、獣狩りに出掛けられたと?」

「「「「「「「そんな、ばかな」」」」」」」」

 みんなあたしの呟きを、一斉に否定した。息もぴったりに。


 そんな時だった。それまで黙って難しい顔をしていた竜さんが口を開いた。

「遥か昔に竜王様からお聞きした話しなのですが、何百年か前に竜王様とやりあった人族の勇者は、願うと荒地を草原に変える力があったとか」

 それは、、、初めて聞く話しだった。もう、驚くしかなかった。

 みんなも驚いているのか、黙ってしまった。


「なるほどな。それで納得がいったぞ。聖女さんの家系は、かの勇者の末裔だと言うじゃねーか、その力を使うつもりでランデル平原に向かったんだろう」

 お頭がしたり顔で言った。

 そうなの?なんか納得がいかないんだけど。

「でもさあ、ランデル平原は、平原って言うだけあって既に草は豊富よ。わざわざそんな所に行って力をお使いになるとは思えないんだけど」

「ふんっ、ガキの発想だな」

 お頭は、見下す感じで言って来た。

「な なんでよーっ!!」

 あたしはむかついたんだけど、お頭は気にも留めない感じで更に続けた。

「あのなぁ、いくら平原って言ったって、そこに大量の大型動物が入り込んで来たらどうなるか考えたか?あっという間に今生えている草は食べ尽されてしまうって思わんか?草原なんだから低層の草ばっかりなんだ、直ぐに丸坊主だよ」

「あ・・・」

「だから、聖女さんがどんな力を持っているか俺は知らんが、わずかな草しかない草原を、森にでもしようとして出張って来ているんじゃないのか?広さも十分だしな」

 あー、もう何が何だかわからないよー。あたしの頭じゃ理解が追い付かないんですけどお。

「ふんっ、無い頭をいくら使ったってしょーがねーんだよ。とにかく、行って直に自分の目で見ればわかるんじゃねーのか?」」

「うん・・・」

「取り敢えず、ランデル平原近くの『うさぎの手』のメンバーには先行して調査をする様に命令を出してある。お前は大急ぎで聖女さんに合流する事だけを考えていればいいんだ」

 そう言い残すと、さっと歩いて行ってしまった。

 呆然と見送って居ると、ジェイが話し掛けて来た。

「ムスケル殿は見かけとは違って、大変にお優しいお方なのですね」

 そう言うとウインクして来る。


「こらあぁぁっ、爺いっ!!余計な事言ってやがると、ぶっとばすぞっ!!」

 地獄耳でもあったらしい・・・。

「おおぉ、怖い、怖い・・・」

 そう言うと、ジェイはこそこそと離れて行ったが、何故か顔は笑って居た。


 それからも旅は順調に進み、毎日何回も情報がもたらされて来ていた。情報調査室も全力で情報収集に当たってくれている様で情報の信ぴょう性も上がって来て居る感じがする。

 当初、国内の情報がメインだったのだが、ここ数日は国外の情報の比率が多くなって来ていた。

 具体的に言うと、我がシュトラウス大公国の南部で国境を接する国々、南部小国連合の情報が増えて来たのだった。

 その内容は、驚くべき事だらけだった。


 八万・・・?  嘘よね。



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