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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
74/172

74.

 黒雲の下まで降りて来ると、馬車は中から小型の泥人形に囲まれており、やや遠方からは中から大型だけでなく、特大の泥人形迄が迫って来ているのが見えた。

 上空から見下ろすと、地上に居た時よりも状況が良く見えた。

 明らかに劣勢。と言うか、既に詰んでいると言ってもいいだろう。

 周りは広大な荒野で、身を隠す場所なんてあろうはずも無かった。

 あろうはずも・・・?

 あ、あった!!ここからもう少し北に行った所に、急斜面の崖を有した小山が見えた。あれを背にすれば、敵は全面だけだから多少は持ち堪えられるかも知れない。

 まあ、超絶不利な状況が超不利な状況になる程度の気休めにしかならないが、何もしないよりはいいだろう。

「竜さん、みんなの上空をゆっくり飛んでちょうだい」

 竜氏は黙って高度を落としながらゆっくりと旋回して戦って居るみんなの上空を飛んでくれた。


「みんなーっ!この先にちょっとした崖が有るから、そこに向かってぇーっ!崖を背にすれば、多少は守り易いわぁ~!!急いでぇぇ~っ!!」

 あたしは剣を抜いて崖の方を指し示した。

「竜さん、このまま旋回していてね。あたし、デカブツだけでも始末して奴らの注意を引き付けるから」

 竜さんの返事が無い。

「竜さん?」

「シャルロッテ殿、下界を見ていて気が付きませんか?奴らのターゲットはシャルロッテ殿だけだったはず。ですが、今見るに他のみなさんにも襲い掛かって居る様に見受けられますが?」

 確かに、今までと違って積極的にみんなに向かって攻撃している様に見える。

「どういう事?」

「あ奴らは学習能力があるのではと申しましたが、シャルロッテ殿だけでなく人族全般をターゲットに加えたのでは?」

「それって、あたしが敵を引き付けていれば済むって事じゃあなくなったという事?」

「はい、非常にゆゆしき事態かと」

「どうしよう・・・」

 次第に高度が低くなっていき、地上の闘いがはっきりと見えて来た。

 今までとは戦いの様相が変わっていて、あちこちで混戦になっていた。


「あちこちで、みんなが包囲されてるわ。このままじゃ各個撃破されちゃう。竜さんっ!」

「承知」

 まだ何も指示は出して居ないのに、竜さんは低空飛行に移り、更に速度を上げて行った。

 速度を上げたまま包囲されている仲間の近くをすり抜けて行く竜氏。その際、両足を降ろしてその鋭い爪で泥人形にダメージを与えて居るらしく、ガンガンと振動が伝わって来て居る。

 後方を振り返ると、上半身をむしられた泥人形が点々と立っていた。

「みんなあぁ~っ、崖に向かってぇぇっ!急いでえぇっ!!」


 何度も何度も、戦場を低空飛行で往復したおかげか、仲間のほとんどが崖の前に集合する事が出来たみたいだった。

「竜さん、ドラゴンブレスでみんなと泥人形の間に堀を造れないかな?」

「ほう・・・」

 突拍子も無い事を言うあたしに一瞬驚いた様だったが、そのまま急旋回をするとみんなが背にしている崖に向かい、その崖の上部に着陸してくれた。

 一瞬目を合わせると胸を張り大きく息を吸い込み、背中の方まで頭をそらせ、一気に息を吐き出した。

 まばゆい光と共に、エネルギーの奔流は地面に突き刺さり、そのまま横方向に弧を描く様に移動していくと、味方を囲む様な堀が一瞬で出来上がった。

 だが、いきなり無警告で放ったので最前列に居た聖騎士団の兵士はみんな驚いて腰を抜かしてしまっていた。

 ああ、みんながこちらを見ながら腕を振り上げて何か叫んでいる。何を言ってるのかは・・・なんとなくわかる。みんな、ごめん。


 さて、取り敢えず結構深い堀が出来たので、少し時間がかせげるはず。

 あたしは、再び竜氏に乗り崖の下に降りた。


 そこに待って居たのは、思っていた通り賞賛の声ではなく、猛烈な抗議だった。


 聞こえない、聞こえない、なーんにも聞こえなーい。

 仕方がないので、みんなの気持ちが収まるまで、その抗議に耐えた。時間無いんだけどなぁ。


「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・!!」

「・・・・・・・・・・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・」


 必殺スキル!❛馬の耳に粘土❜!

 なあ~んも聞こえないもおぉんんんっ。




 ん?そろそろみんなも落ち着いたかな?

 見回すと、みんなゼイゼイ息を切らしながらこっちを睨みつけているが、もう文句を言う元気も無い様だった。

 やっと、あたしのターンが来たわね。

「みんなーっ!さっきはごめーん。みんな追い詰められていて、余裕がなかったから許してねーっ。とっさにあれしか思いつかなかったのよお」

「だからってなぁ・・・」

「でも、結果的には深い堀が出来たから、多少は時間的余裕が出来たでしょお?結果オーライよねえぇ」


「いつもこんな感じなのですか?あなたも苦労が絶えませんなぁ」

「・・・・・・・」

 聖騎士団の副団長であるマンフレット・フォン・ガーランドに同情された『うさぎの手』の頭領であるムスケルは複雑な表情で黙り込んでいた。

「私もシャルロッテの嬢ちゃんと組むのは初めてなのですよ。騎士団長に「お転婆だが宜しく頼む」とだけ聞いてやって来たのですが、いやはや噂以上で驚きました。はっはっはっ」

「あいつが動くと、災いが待ってましたとばかりに降りかかってきやがる。もう勘弁して欲しいぜ」

「はははは、それでも見放さずずっと寄り添っておられますなw」

「けっ!逃げ出すタイミングを逃しただけでい」


 傍から見て居ると、仲が良さそうに見えるが、お互いの名前位は知って居ても、あくまでも初対面である。

 妙にほのぼのとした中年を尻目にシャルロッテは次の対応に追われて居た。


 深い堀が掘れたとはいえ、相手の物量はえげつない位に圧倒的なので、どれだけ時間が稼げるのかは未知数、、、と言うか、ほんの僅かな時間にすぎないであろう事は火を見るよりも明らかだった。

 直ぐにでも、堀を埋め尽くし這い上がってくるだろう。

 それに対して、こちらに出来る事は、上からのドラゴンブレスとあたしとポーリンの精神波動攻撃、後は、みんなで直接剣で叩くだけしか無かった。

 ドラゴンブレスも精神波動攻撃も無限では無い。体力、気力が無くなればもう撃てないから使いどころが難しい。剣で叩くのも、体力が無くなればお終いだ。

 どう考えても、ジリ貧なのは最初からわかっている。残り少ない力を有効に使わないとあっと言う間にヂ・エンドだ。


「良い事を考えたわ」

 みんなが、あたしに注目した。「また、馬鹿な事言うんじゃねえだろうなぁ」なんて目で見て来る者も若干一名居るが、たいていの者は、期待に満ちた目で見つめて来る。

 あたしは、気を取り直して発言を続けた。

「このまま奴らが一体の超大巨人になるのを待つの。成長中は動かないみたいだから、その間あたしたちも休めるでしょ?超大巨人が出来上がったら、竜さん、あたし、ポーリンが交代で奴の片足を破壊するの。そうしたら奴は、倒れて崩れるから再び合体を始める。そしたら又暫く休めるわ。聖騎士団のみなさんは、這い上がって来た小さい奴だけ追い落としてくれればいいし、その間に何かいい対抗策を考えるの。どう?いい考えでしょ?」

 あたしは、得意満面でそう言い放ち、みんなも「おーっ!!」と歓声をあげた。

 お頭は、眉間に皺を寄せてこっちを睨んでいるが、気にしない。なんてったって、あたしは頭が切れるのだもの。


「さぁ、みなさーん、持久戦に備えて陣変えよお~。盾をもった人は最前列ね~」

 と、みんなに指示を出していると、苦々しい顔でお頭が声を掛けて来た。

「おい、お嬢」

「なあに?」

「お前、竜の爺さんの言ってた事、もう忘れたのか?記憶力が悪いのは知っているが、大事な事くらいは覚えとけや」

 なに、いきなり失礼な事を・・・。

「ああ、あたいもそれ思ってましたぁ。奴らが学習しているって事ですよねぇ」

 アウラまで参戦して来た?

「そや、うちも思うとったわ。大巨人化をやめて、小型化してる話しやろ?」

 ポーリンまで?


「そうだ、堀の中見て見ぃ。巨大化してるか?一体化してるか?こまいのがわらわらよじ登って来て居るのが見えんか?」

 確かに、無数の子供位の大きさになった泥人形が我先にと登って来よるのが見て取れる。

「お前の作戦で、対応しきれるのか?」

「あ・・・・ううう・・・」

「休むどころか、延々と終わりの無い戦いに突入するんじゃあねえのか?」

「うううううう・・・・・」

「ちっ、しょーがねーなー。おい、アウラこれやる。みんなに渡して時間稼ぎして来いや」

 そうして、お頭はずっとしょって居た背中の荷袋からなにやら細い棒状の物を二十本ほど出して来た。

 あ、あれは・・・以前に竜さんから貰ったダイナ・マイトだ。まだ持っていたんだ。


「へっ、俺はこう見えて心配性でな。いつでも予備を持って居ないと心配なんだよ。いつもなら、予備が無くなった時の予備とか、予備が無くなった時の予備が無くなった時の予備とか持っているんだが、今回は数が少なかったから、これだけしか無いがな」

 頭をボリボリ掻きながら話すお頭は、照れくさそうだった。


 爆発物を持って嬉々として走っている少女達を見ながら、これでいいのだろうかと思わないでも無いのだが、今は緊急時だから見なかった事にしよう。

 連続して響いて来る爆発音と振動を背に、今後の事を考えようとするが何も浮かばず、うるうるした目でお頭を見上げるが、そっぽを向かれてしまった。

 冷たい・・・。

「お頭にも、次の手が見つからないだけですよ。安心して下さい」

 そう、アウラに慰められたが、次の手が見つからないのに安心していいのだろうか?


 堀を見ると、轟音と共に泥人形の成れの果てと思われる塊が上空に吹き飛んで居るのが見える。それなりに成果は上がっているのだろうが、如何せん相手の数が多すぎるので、一体どの程度抵抗出来ているのか疑問ではあるが・・・ん?上空に?上空に破片が吹き飛んでいるって?吹き飛んだ破片は・・・落ちて来て、あたし達の周りで小人人形に再生してるじゃああぁんんんんっ!!

 見ている間にも、足元の小人人形は合体を続け、どんどん大きくなっている。

 叩いても叩いても、奴らの数は減っていない、と言うか、却って堀を越えてあたし達の周りに進出して来て居るじゃないのおお。

「お頭あぁ、駄目じゃああああんんっ!!」


「がはは、俺も人間だ。こんな事もあるさっ」

 そう言うお頭に緊張感は皆無だった。と言うか、そもそもお頭に緊張感を求めるのは無謀な事であったなと、改めて思い知った。


「竜さ~ん、どうしよう、今後の対策が浮かばないよおぉ~」

 あたしは、最後の砦と言うべき竜さんに泣きついた。

「そうですな。私はこのまま飛んでお山に帰る事も出来ますが・・・」

 この返しに、あたしは呆然としてしまい、思考が完全に停止してしまった。


「そ そんな ご無体な・・・。まさか、竜さんがそんな事言うだなんて・・・」

 

「いや、今回ばかりはお手上げですな。まさか人族にこの様なものを造り上げる事が出来るとは、思いもよりませんでした、驚きです。異能者は、魔族の末裔だと言う話もまんざら的外れでは無い気がしますな」

「何か、何か打てる手はないの?何か対抗策はないの?あたし達は、もう打つ手が無いって事なの?」

 あたしの問いは、ほとんど悲鳴の様になっていたがなりふり構っていられなかった。

 だけど、次に竜氏の口から出た言葉は、あたしの思考を停止させ、心をへし折るのには十分な威力があった。


「今後は、あ奴らに全面降伏して、その傘下に入る事も選択肢に入れなければならないかもしれませんな」


「・・・・・・・・・・」


「おい、爺い、本気で言ってるんか?俺達人族をなめんじゃあねえぞ。敵わないから降伏だあ?ざけんじゃあねえっ!俺達はなあ、魔族の末裔だか何だか知らんが、あんな奴らの言いなりになってまで生きたいなんて思ってねえ!降参なんて考えている暇があったら、その分暴れ回ってやるぜ!」

 お頭は完全に頭に来ているみたいだった。

「このままジリ貧になって潰されるなんてまっぴらだ!少しでも力が残っている今が最後のチャンスだ、俺は敵に突っ込むぜ。最後に、敵に心胆を寒からしめてやるぜ!ちびっ子共、お前らは最後までお嬢の盾になってやれ!」

 ポーリン達は、どうしたもんかと思案気に固まっていたが、そんなお頭に頷き返していた。

「言われんでも、うちらは姐さんと一緒やで、最後まで」

「おう!頼んだぜ。あばよっ!!」

 そう叫ぶとお頭は自慢の大剣を抜き、駆け出して行った。

 堀の中には幾回もの合体を繰り返して見上げるほどの巨体になった泥人形が何体も、待ち構えて居た。

 その中の一体目掛けてお頭が突っ込んで行った、その時だった。ふいに周囲がまばゆい光で包まれ、みんな目が眩んでしまった。


 反射的に目を閉じて光から目を庇ったものの、同時に凄まじい地響きでみんなは目をつぶったまま地面に転がってしまった。

 暫く転がっていただろうか、恐る恐る目を開けてみると何体も居た大巨人は一体残らず消えてしまって居た。

 何が起こったのかと、周りを見回していると、誰かが叫んだ。

「あああっ!あれっ!空の上っ!!」

 何事と上空を見やると、上空に人影が二人浮かんでいた。

 まだ、目が良く見えないので、擦りながら凝視すると徐々にその姿が分かって来た。


「ん?女性と、、、、んー、子供?子供なのか?」


 その瞬間、ひとつの確信が胸の中に溢れた。

「女性と子供ぉ?あああっ!!まさかっ!?」



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