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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
63/168

63.

 あたし達は『うさぎ』の副頭領のレイモンド氏と一緒に東門要塞の上に居た。

 『うさぎ』の頭領であるムスケルの名と組織名をかたった一団が、あたしの仲間をさらって行った。

 当然、あたし達も黙っている訳にもいかず、街中にいつも居る『うさぎ』の繋ぎ役に支援を依頼した所、『うさぎ』の副頭領のレイモンドさんが自ら立ち上がってくれた。

 勿論、立ち上がった理由は、あたしからの支援要請だった事もあったが、半分以上は自分達の名前をかたって居る奴らが居る事が許せなかったのが大方の理由だったのだろう。

 徹底的に叩き潰してやると、みんなは妙に燃えていた。

 レイモンド氏には、手はずは全て整えたから、この東門要塞の最上部、言わば特等席で見ていてくれと、連れて来られたのだった。


 しばし呆然と国境方面を見て居ると、後方から物凄い地響きと砂埃が近づいて来るのに気が付いた。

 その正体は、物凄い数の騎馬兵だった。街中の路地という路地から無数の騎馬兵が湧き出して来て、あたし達に向かって、すなわち東門要塞に向かって走って来るのだった。

 そして、門をくぐると騎馬兵達は一目散に街道を国境方面に向かって砂埃を上げて走り抜けて行った。

 街の中だけでなく、街の外でも数えられない数の騎馬兵が三々五々に集まって来ており、どんどん砂埃の奔流に合流しながら国境方面に向けて街道を爆走して行った。

 あっけにとられたあたし達の足元を駆け抜けて行った騎馬兵の集団は、街道を進みやがて道なりに森の向こう側に消え去って行った。

 

 一体何が起こっているの?あたし達は恐る恐るレイモンド氏を見上げるが、彼はただニコニコと微笑むだけだった。

「もう直ぐ、作戦は第二段階に移行します。眼下の東門をご覧下さい」

 一体何が起こるのかと見下ろしていると、重厚な門が閉じられていく所だった。

「えっ!?東門を閉鎖したの?非常時でもないのにそんな事をしたら大混乱よ?」

「ははは、では非常時でしたらいかがですかな?」

 促される様に下を見下ろすと、門の前に立て看板が立てられ、門番の兵士がなにやら大声で叫んでいる。


「静まれーっ!静まれーっ!この先の街道沿いに弱いながら魔獣が大量に発生したので、現在自警団が退治に向かって居る。直ぐに退治されるので、それまでしばし東門は閉鎖とする」


「えっ!?ま じゅう?どういう事?」

「噓も方便ってね。これで人質も安全に怪しまれずに足止め出来ます。その間に、作戦は第三段階に移行します」

「あの屋敷に閉じ込めておいて、包囲殲滅するの?」

「あはははは、狭い屋敷内でそんな事したら、双方被害が出ます。人質の安全も保障は出来なくなりますが宜しいので?」

「それは、困るわ。絶対に駄目!」

「ですので、連中には街から大人しく出て行って貰います」

「でも、門は閉じられているわよ」

「それでいいんです。門が閉じられれば連中も焦るでしょう、早く先に行きたいでしょうからね。イライラして来たそのタイミングで門が開けば?」

「あ、大急ぎで出て行こうと焦る」

「そうです。焦れば先に進む事に集中してしまい、周囲に対する警戒も疎かになるのが人情です。その時がチャンスなのです、一瞬で殲滅します」

「でも、イライラしたタイミングってどうやって?」

「その為に、屋敷に部下が潜伏して待機しているのですよ。門を開くタイミングと、奴らが出た後の屋敷内の掃討の為に、五十名程が潜んでおります」

「はああああぁ、良くこんな短時間にこんな綿密な作戦を立案して実施出来るわねぇ、驚きしかないわよ」

「お褒め頂き有難うございます。これも、常日頃からの準備の賜物、、、ですかね」

 子供の様に満面の笑みで笑うレイモンド氏は可愛くも思えた。まるで、悪戯が成功した時の子供みたいなんだもの。


 その時、ふと街の中を見ると、例の囚人輸送用の黒い馬車が街の角を曲がって姿を現したのが見えた。

 来たか、、、、。

 仲間の二台の護衛の馬車を先頭に門の前で開門を待つ人波をかき分けて、無理やり最前列に出ようとしていた。

 二台の馬車の前では人相の悪い男共が数人、剣を振り回しながら周りを牽制しているものだから、集まって居た人々が悲鳴を上げて逃げ惑っている様だった。

 門の前まで来ると、さっさと門を開けろと門番と押し問答をしている様だったが、門番に「魔獣を退治に行った自警団が帰って来るので、それを受け入れるのが先なので、出るのは暫く待って欲しい」と言われて、言い合いになって居た。

 だが、どうやらその言い合いも作戦の内で、直ぐに門を開いて先に馬車だけを出す事に同意した様だった。

 人買いの三台の馬車は門番に罵声を浴びせながら、東門をくぐり街道へと進んで行く。


 東門を出て街道を進んで行く馬車の進行方向を見ると、先程爆走して行った騎馬兵達が整然と隊列を組んで戻って来ているのが見える。このまま行くと、人さらいの馬車と自称『魔族討伐の自警団』は街道上でぶつかる事になる。どちらが道を譲るかで、又揉めないのだろうか心配になる。

 手に汗を握りながら見て居ると、人さらいの馬車は、そのまま揉めずに知らん顔をしてすれ違うつもりなのか、護衛のゴロツキ共は幌の中に引っ込んで大人しく隠れている様だった。

 一方、自称『魔族討伐の自警団』はと言うと、ジェントルマンよろしく、馬車を優先的に通すつもりの様だった。指揮官が右手を上げて何かを叫ぶと隊列はすっと街道の両側に別れて馬車に先に行く様にうながしている様だった。

 兵士達には、笑顔が見えて、何やら馬車に声を掛けたり手を振っていたりしているみたいだったが、これも相手を油断させる演技だと言う。

 やがて人さらいの馬車は、しずしずと左右に別れた自警団の隊列の間を進んで行く。一見その場はほのぼのとした感じにも見えた。

 みんなは息を飲んで、その瞬間を東門の最上部から見守っていた。

 離れて見て居ると、まるで夢の中の世界を見ているみたいで現実感があまりなかった。

 ぼーっと他人事の様に見て居ると、その時は突然訪れた。


 馬車が自警団の隊列のほぼ真ん中に到達した時だった。

 突如指揮官が剣を握った右手を天に向かって振り上げた。

 すると、一斉に剣を抜いた自称自警団員の動きは素早かった。

 一瞬の内に馬車は兵士達に押しつぶされ壊滅してしまった。

 本当に一瞬の出来事だった。

 まさに、押しつぶすと言う表現が一番正しいのではないかと思う程の出来事だった。

 馬車から兵達が離れた後には、動く者はいなかった。

 あたし達が居る東門要塞からも、驚愕の声が上がって居た。


 事を成しえた後の自警団の動きは素早かった。主の居なくなった三台の馬車を街道から近くの空き地に移動させ、穴を掘って亡骸を埋め始める者、捕らえられている人々を助け出す者と、各々が手際よく働いて居た。


「メイ~~っ!!」

 そんな状況を見たポーリン達は、叫びながらまるで墜落するかの勢いで階段を、、、落ちて行ったw

 ああ、良かった。後は、あの中にメイが無事で居てくれれば万々歳ね。

 あたしは隣でニコニコと状況を見守って居るレイモンド氏に向き直った。

「あ あの 有難うございました。心からお礼を・・・」

 そんなあたしの言葉を遮ると、レイモンド氏は遥か下を馬車に向かって走って行くポーリン達を見ながら話し出した。

「あいつの、ポーリンのあんな顔は見るに堪えませんやね。自分の事だと顔色ひとつ変えねえくせに、仲間の事となるとああですよ、なんとかしてやりたいじゃあないですか。みんなも好きでやってる事なんですから、礼には及びませんや。我々の名前を騙った輩に対する制裁でもありますからね」

 そう言うレイモンド氏の顔は、まるで愛娘を見る父親の顔の様だったので、あたしもなんか胸が熱くなる思いだった。


 三百名から居る兵士達を掻き分け掻き分け前進するポーリン達を暫く眺めて居ると、やがてメイに逢えたのだろうか、抱き合ってピョンピョンしているのが見て取れた。

 良かった、無事だったんだ。あ、こっちを向いて手を振って居る。あたしも嬉しくなって、身を乗り出しながら思いっ切り彼女達に向かって手を振ったのだった。


「姐御、こちらにも顔を出して頂けますでしょうか?」

 そんな声に振り返ると『うさぎ』のメンバーが片膝をついて控えていた。

「屋敷の方ね?」

「はい、ただ門外とは違い主だった者を生け捕りにしましたので、多少手間取りましたがこちらも無事終了致しました。首謀者の見分をお願いできましたらとお知らせに参りました」

「わかったわ、直ぐに行きます。みんな無事だった?こちらの被害は?」

「ご心配、有難うございます。建物内での立ち回りだった事と、生け捕りにしたかったので何人かは軽傷者が出ましたが、ほぼ被害は御座いません」

「良かったわ。みんな強いのね」

「これもお頭に厳しくしごかれたお陰です」


 あたし達は、東門を降りると、人買いの屋敷へと歩を進めた。

 人波を掻き分け街並みを進み路地への角を曲がると、屋敷の裏口の前では数名の『うさぎ』の仲間が周囲を警戒していた。

「あ、姉御、どうぞどうぞ」

 そう言うと、裏木戸を開けて中へと促してくれた。

 中に入ると、戦いの跡が生々しかった。

 柱という柱には刀傷が刻まれていたり、血の付いた剣が刺さったままだったりしているし、室内も泥だらけだし、壁も飛び散った血でいたるところが赤く染まって居た。部屋と部屋の仕切りも蹴倒されたみたいに外れて転がって居た。

 うわぁ、早まってこんな中突入していたら大変な事になっていたなと、改めて良かったなと思った。

 案内されるまま歩いていくと、ひと際広い部屋に出た。

 そこでは、十名程のごっつい男達が縄で縛られて座らされて居た。恐らく、人さらいの幹部達で、『うさぎ』を騙った張本人達だろう。


「姐御、尋問なさりますか?」

「ええ、もちろんよ」

 あたしは、幹部達の前に進み出て、偉そうに腕を組んで侮蔑の眼差しで見下ろしてやった。尋問するには相手の平常心を崩してからの方が思いがけない事をぽろっと漏らしてくれると習った覚えがある。実践は初めてだけど。


「なんでぃこのアマわっ!!」

 あたしは一言も発せず、表情も変えず只々汚い物を見る様な視線を送り続ける。

「なんとか言ったらどうだっ!!」

「・・・・・・・・・・」

「てめぇ、俺達にこんな真似して、タダで済むと思っているのかっ!!」

「・・・・・・・・・・」

「てめぇ、俺達が誰だか知っててこんな大それた事をしたんだろうな?」

「・・・・・・・・・ 」

「俺達にこんな真似したんだ、一族郎党皆殺しにしてやるからな!覚えてろよっ!!」

 そろそろいいかな?

「一族郎党皆殺し?あんたみたいなゴミに、そんな力あるの?そうは思えないのだけど」

「てっ、てめえぇっ!人を馬鹿にしくさって!いいかっ!その耳かっぽじってよおおく聞けよ、俺達はなぁ、この国はおろか大陸中にもその名を轟かせている大盗賊団『うさぎの耳』の大幹部よっ!どうだ、恐れ入ったか!てめぇの一族なんて簡単に皆殺しにしてやるぜっ!!」

 だめっ、もう可笑しくて可笑しくて我慢が出来ないっ!もう、吹き出しそうwwwww

 だが、笑いを堪えてぷるぷるしているあたしを、恐れおののいてびびっていると勘違いしたのかこの男は、さらにまくし立ててきた。

「この俺はなぁ、何を隠そう、その『うさぎの手』の大幹部、ムスケル様よっ!!どうだ、びびったか!だがな、もう手遅れだぞ、一族皆殺しにしてやる!!」

 何を隠そうって、、、そういう事は一生隠しておくほうがいいと思うわよ、死にたくなかったらね。もう、可笑しくてしょうがないわよ。腹筋よじれそう。

「・・・・・・・・・・」

「どうした、恐ろしくなって口もきけなくなったか、己のした事の重大さに恐れおののいているんだろう、あわれだなぁ」

 あわれはあんただよ。ほんと、無知って怖いわよねぇ。

「あんた、あたしの一族を皆殺しにしてくれるんだったわね?どこに居るか知ってるの?」

 思わぬ返しに、一瞬驚きの表情を見せたが、直ぐに気を取り直して喚き始めた。

「我が組織を舐めるなよ、そんなの簡単に調べ上げてやるぜ!」

「そう、でもそんなに手間かけさせるのも悪いから教えてあげるわよ。あたしの実家は王都ボンバルディアにあるわよ。ちなみにね、あたしの父様はムスケルとは顔見知りのはずなんだけどねぇ」

「な なに、適当な事言ってやがる」

「ああ、そうそう父様はねぇ、シュルツ・フォン・リンクシュタットって言うの。聖騎士団団長兼国軍総指揮官をしているから警備は厳重よ。襲うなら十分準備をしてからでないと近寄る事も叶わないわよ、頑張ってねぇw」

「な なにを・・・・・・」

「聖堂騎士団は強いわよぉ、しっかりねぇw」

 あらあら、真実を明かしたらキョドり始めたわw

 あたしは、自称ムスケルさんのまえにしゃがんで向かい合った。

「ねぇ、あんたさあ。ムスケルの名を、『うさぎの手』の名を騙るってどういう事かわかってる?」

「な 何を言ってやがる、お 俺はうさぎの手のムスケルだ!」

「ふ~ん、だったらさ、この人知ってる?」

 あたしは、レイモンド氏を指した。

「し 知るかよっ!そんな奴」

「へえええええええええ、知らないのお?へええええええええ」

「な なんなんだよっ!!そいつが何だって言うんだよ!!」

「この人はねぇ、『うさぎの手』の副頭領だよ?知らないんだぁ、自分の副官を知らないんだあぁ、へえええええ」

「うっ、、、きたねーぞ」

「あんたらを襲撃したのはね、この街に居る『うさぎの手』のメンバーだったんだよ。あんたら、終わったね。あんたらを生かすも殺すもあたし達の気分次第って訳だよ。理解できたかい?」

「ううううううう・・・」


「さあて、理解が出来た所で答えてもらおうか?あんたらの人数は?」

「ここに居るので、、、全部だ」

「随分こじんまりしたうさぎの手ね。後ろには誰が居るんだい?」

「以前はカーン伯爵が後ろ盾だったけど、今は、、、誰もいねえ」

「仲間におかま言葉を使う異能者が居たりしないんかい?」

「そ そんな奴は、見た事ねえ、本当だ」


 あたしは、おもむろに立ち上がってレイモンド氏に向き直った。

「もういいわ」

「はい、後の始末はお任せ下さい。何かありましたら、その都度ご連絡致します」

「うん、宜しくね」

 そう一言言うと、あたしは屋敷を後にした。奴らが何か喚いていたけど、知ったこっちゃない。


 メインストリートに出た所で戻って来たポーリン達と合流した。

 メイがちょこちょこと前に出て来た。

「姐さん、この度は色々とご迷惑をお掛けしました」

 神妙に頭を下げるメイの肩を軽く抱いてやり優しく話しかけた。

「いいんだよ。おかげで人さらいと人買いの一味を一網打尽に出来たんだ。結果オーライだよ。でも、もう少し周囲には気を配ろうな」

「はいっ!!」


 その日は、そのまま解散して休養する事とした。

 せっかく寝ていたのに、つまらない事で起こされて、眠気が吹っ飛んだあたしは、ブラブラと街中を歩いていたが、ふと飛び込んで来た怒声に足を止めた。

 そこは、かなりの大店おおだなの店先だった。看板には、『イシワータ商会』と書いてある。

「イシワータ商会?どこかで聞いた事がある様な・・・」

 その時、店の暖簾を突き抜けて一人の男が転がり出て来た。

 ギョッとして、思わず立ち止まって凝視していると、通りを歩いている人達の声が聞こえた。


「あーら、またやってるよ」

「毎日、毎日、同じ事で叱られて、学習しないのかねぇ」

「どんなに怒られてもめげない精神力だけは感心するよねぇ」

「そうそう、私だったら耐えられないわよ」

「怒る方もいい加減毎日同じ事の繰り返しじゃ、心が病んじゃうわよー」


 ああ、思い出したよ、アナ様の所にリアカー引いて来て居たあのドジな男かぁ。確かに、変わっていたなぁ。

 この店の人間だったのかぁ。

 あたしは、遠巻きに見ている通行人の婦人に質問をしてみた。

「あの、あの人はいつもああなんですか?」

 急に話しかけられて、最初はビックリしていた様だったが、すぐに堰を切った様に話し出した。

「そうなのよお、毎日毎日同じミスを繰り返して、毎日毎日怒られているんだけど、全く堪えないというか、何故怒られているのかが理解出来ないみたいで、次の日になると又同じ事を繰り返すのよお。どうも一晩寝ると経験した事がリセットしちゃうみたいなので、同じ事を繰り返すんじゃないかって治療師のセンセーが言ってたわよ。その癖店の場所は覚えているのが不思議よねぇ」

「あらぁ奥さん、あれはミスとか言うもんじゃ無いわよ。一般常識からかけ離れた行為を当たり前の様にしていて、それがおかしいって認識できないみたいなのよお」

「そうそう、まず挨拶が出来ないし、する意味も理解出来ないのよ。夕方の鐘がなると、仕事の途中でも持ってた物をその場に置いて、帰っちゃうのよねぇ。有り得ないでしょ?お客に届ける商品だって平気で道の真ん中に置いて帰っちゃうのよ。わたしも何度となく遭遇して、店に届けにいったわよぉ」

「そうそう、それで次の日怒られても、顔色ひとつ変えず、何で怒っているのだろう?って不思議な顔で怒られているわよねぇ。理解する頭が無いのかしらねぇ」

「それがわかって居るのだったら、外に行く仕事は朝イチだけにするとかできないんですかねぇ?」

 すると別の奥さんが話に入って来た。

「ダメダメ、朝イチで出発しても、途中で何か気になる事があると全てほっぽり投げて、そっちに夢中になっちゃって、帰って来るのが夕方になるなんてしょっちゅうよ。商品は、当然道の真ん中に置きっぱなしよ」

「あちゃーーーっ、駄目だこりゃあ」

「それにね、他人の物と自分の物の区別が付かないみたいで、食べたい物があると、売り物だろうが他人が食べて居る物であろうが、手を出して勝手に食べちゃうんだ。怒られてもキョトンとしてるんだよ。何で怒っているのって」

 あたしは頭を抱えたくなった。まるで子供の様だ。今まで良く生きてこられたもんだと感心してしまった。

「だからね、どこもみんな出禁になっちゃってさ、最近は聖女様の修道院が唯一の仕事だったんだけど、その聖女様も失踪なさってさぁ、本格的にやらせる仕事が無くなって、毎日ああやって怒られてるんだよ」

「はぁぁぁ、でも、良く首になりませんですね?」

「そうなんだよねぇ。だからね、最近はベルクヴェルクの七不思議って言われているんだよ」

 うーん、筋金入りの問題児かぁ。

 

 この時はまだ、この常識外れの問題児に常識外れの異能の力が眠って居るなどとは知る由もなかった。

 何故知る由も無かったのかは、、、知る由も無かった。



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