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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
57/171

57.

 王都でのクーデターからこっち、身の回りの環境の変化は目が回る様だった。

 あたしの家は父上がシュトラウス大公国聖騎士団の団長兼国軍総司令官を務めるリンクシュタット侯爵家だ。

 侯爵家ではあるのだが、あたしには、兄が二人と姉が一人居るので、家を継ぐ必要が無い為、毎日邸宅の中の森を駆けずり回ったり剣の修行をしたりと、比較的自由な生活を送って居た。

 そんな自由を謳歌していたある日、突然大公国の東の僻地にあるベルクヴェルクへの出向を命じられた。

 聖騎士団に入団を目指す見習いのあたしに対しての出向命令は異例の事なので、あたしは驚いたものだった。

 ベルクヴェルクは希少鉱物であるアダマンタイトの数少ない鉱山がある事で有名であり、お隣のパンゲア帝国と鉱山を巡って争いの続いている最前線でもあった。

 その郊外にある修道院には、国民の信仰厚い聖女様であらせられるエレノア様の妹君のアナスタシア様が修道女として務めておられた。

 そして、あたしの任務は、、、そのアナスタシア様の護衛だった。

 だけど、最初は凄く嫌だった。だって、聖女と言えば聞こえはいいが、アナスタシア様と言えば、いい噂は聞かない。何故なら、アナ様の二つ名は『熊殺しの聖女様』だった。

 僅か十八歳の少女が、『熊殺し』とは穏やかではなかった。更に驚いた事に、熊殺しの聖女様はお一人で何万ものパンゲア帝国の軍勢を抑えて居ると言う。

 一体どんな聖女様なんだと思った。

 アナ様には、もう一つの名前があった。『疫病神』、もしくは『周りを不幸にする女神』だった。

 近くに寄る者をことごとく不幸にすると言う物だった。

 そんなこんなで、護衛のはずだったのだが、、、何故か全国を駆け回り、行く先々で戦いに巻き込まれ、あまつさえ泥だか岩だか砂だかわからない人外魔物と戦うはめにもなった。

 これも、アナ様の不幸体質のせいなのだろうか。


 だが、それもどうやら一段落が着いたようだ。

 これで、平和になるといいな。もう、いさかいは沢山。もう、人の死ぬのは沢山だ。

 今までの事を思い出しながら、そんな事を考えていた。

 先だってまで戦いの舞台だった城塞都市サリチアの市街地を見下ろすと、多くの領民が戻って来ており、日々復興していくのが見て取れた。

「さあて、そろそろ定例会議の時間ね」

 あたしは城壁の階段をトントン降りながら司令部棟にある会議室に向かった。

 会議室では、主だったメンバーは既に会議室中央にある大きなテーブルを囲んで着席しており、会議の開始を待っていた。


 定例会議は、兄様の司会で始まった。

「本日の報告は、数点ある」

 そこで、一旦言葉を切り一同を見回してから言葉を続けた。

「まず、王都の復興なんだが、ほぼ復興なったとの事だ。ただ、復興にかなりの資金を投入した為、そうとう国庫が厳しいらしいので、サリチアの復興は現地でなんとかしてくれと言う事だ」

「仕方のない事ではあるが、まぁ、サリチアの復興はせいぜいフントハイム男爵に頑張ってもらおうじゃあないか」

「次に、まあ、やはりなと言う感じで別段驚く事ではないのだが、参謀総長のシュヴァインシェーデル伯爵が失踪したそうだ。フィレッチア准将の失敗の連絡が届いたのだろう。身内もろともそっくりいなくなったそうだ。分不相応の夢を見た結果と言う事だな。現在、王都で追討部隊を編成して、行方を追って居るそうだ。すぐに一族郎党捕まるだろう」

「それで、と。火山の噴火についての報告も上がって来て居る。国境を超えた後、勢力を弱めつつではあるが、未だ帝国内を奥地に向け進んで居るそうだ。まもなく帝都ルルティアに達するそうだな。現在、政治・経済の中心はコルドバに移っているそうなので、甚大な被害とまではいかない様だが、皇宮があるのでそれなりに大変な状況だろう。支援要請があれば出来る範囲で協力はしたいと思う」


 そこで、おずおずとアウラがお頭に質問をした。

「あのぉ、通常皇帝が住まわれている場所って、国の中心じゃないんですか?」

 あ、あたしもそれ疑問に思ってたんだ。何でだろう?

 つい、あたしの耳はダンボになってお頭の答えに聞き耳を立ててしまった。

 お頭は、腕組みをして前を見たまま、こっそりと話し出した。

「俺も詳しくは知らん。知って居るのは、頭と体の仲が悪いって事だけだ」

「えーっ、意味が分かりませーん」

 アウラが膨れた顔をする。をいをい、会議の最中よ。

「頭である皇帝と身体である軍部か事あるごとに対立しているって事だ。それ以上は知らん」

 吐き捨てる様に、小声で呟いたが、そこはそれお頭の小声である、当然全員の耳に届いてしまっている。

 お頭は腕組みをしたまま目をつぶって全く動じていないが、さすがのマイペースアウラも真っ青になってしまっている。

 突如立ち上がり、頭がテーブルに着くのではないかと思える程腰を直角に曲げている。

「もっ、申し訳ございませーーん!!」

 そんな状況でも語尾を伸ばせるアウラも、ある意味凄いもんだ。

 兄様は、苦笑いしながら、よいよいと手をひらひらさせた。


「大事な報告はもう無いから、そんなに気にしなくとも良い。いい機会だ、ブライアン・ロジャース大佐、もし、不都合が無い様だったら帝国の事を教えては貰えまいか?もちろん、話したくない部分は話さないでも良いのだが。どうだ?」

 突然話を振られた大佐はビックリしていたが、軽く微笑みながら話し出した。

「事は国の内情に関する事なので、あまり詳しくは申し上げられませんが、まあ、世間話程度に聞いて頂ければ幸いに御座います」

「おお、かたじけない。無理を言ってすまんな」

 兄様は、身を乗り出して、聞く気満々だ。世間話で終わらせる気が無い事は一目瞭然だ。

「いえいえ、それではアウラ嬢が疑問に思っている辺りからお話ししましょう。我が帝国は帝都ルルティアを中心にして発展して参りました。ですが現皇帝のバンクロフト三十四世陛下が即位なされてから事態が一変しました。それまでの歴代皇帝陛下は拡大強行政策を基本方針として国を発展させて参りましたのに対して、今代皇帝陛下は融和を前面に押し出す方針を打ちだしたのです」

 そこまで一気に話すと、一旦卓上の水を飲んだ。

「それのどこがいけないのか?って顔をされてますな」

 アウラの不思議そうな顔を見た大佐は優しく微笑んで話を続けた。

「分かりやすい例をあげると、希少鉱石であるアダマンタイトの鉱山ですな。残念ながら我が帝国にはアダマンタイトを産出する鉱山が無いのです。が、お隣であるあなた方のお国にはこれが御座います」

「ベルクヴェルクの鉱山ねっ!」

 アウラが元気よく答える。

「はい、これまではこの鉱山を力尽くで手に入れようとして参りましたが、先帝である三十三世陛下が崩御なされて、三十四世陛下がご即位なされてから、融和政策を前面に押し出してこられたのです。軍事力でなく、話し合いによる売買で入手しようとされたのです」

「えーっ、それって至極真っ当じゃない?全然間違ってないと思うわ」

 アウラは鼻の穴を膨らまして力説する。

「ははは、そうですな、至極真っ当ではあるのですが、物事には必ず表と裏があるのですよ。今まで軍を前面に押し立てて来たのに、急に軍は引っ込んで居ろ、これからは話し合いだって言われたら、軍部はどう思うでしょう?」

「あっ!」

「はい、軍部から見たら、お前達は役立たずだ、お前達は不要だって言われている様なものですから、承服しかねますよね。軍事侵攻がいいか悪いかは別にして、立場が無くなります。存在価値を全否定されていると思ってしまったのです。そこで、強硬派は軍の機能の中心地のあるコルドバに集結しそこを発展させる事によって、政治の中心地としてしまったのです」

「政治の中心地をそんなに簡単に変えられるものなのか?」

 お頭が訝しげに口を挟む。

「私も一介の兵隊に過ぎませんので、裏事情はわからないのですが、軍部のトップの国家元帥閣下が相当のやり手らしく、穏健派を抑え込んでおり、皇帝陛下は、事実上お飾りとなっております。更に悪い事に帝都ルルティアに噴火が迫っており、大混乱だと言う話です」

「そんな国家の一大事に、身内のゴタに巻き込んでしまって申し訳ない」

 兄様が立ち上がり深々と頭を下げた。

「あっ、いやいや、頭を上げて下さい。私達も誇り高き兵士です。命じられたからには、命を懸けて任務を遂行するまでです。ハイデン・ハイン将軍が急にコルドバを離れククルカン要塞に居を移したのには何か深いお考えがあるのでしょう、きっと何とかしてくれるはずです」

「けっ、あいつにそんな思慮深さなんてあるもんかよっ」

 お頭が憎々しげに吐き捨てた。

「ははは、将軍が仰られた通りだ、ムスケル殿は照れ屋だから、なかなか素直になれないそうですな」

「「「ぶっ」」」

 思わずみんなは吹き出してしまった。

 お頭は、真っ赤になって、、、と言うか、赤黒くなってふてくされている。

「まま、将軍はムスケル殿の事をとっても買っておられますし、信用なされております。深い絆で繋がれているのですね」

「けっ、よせやい!身の毛がよだつぜ」


 そんな時だった。部屋の外で立哨していた従者がそっと入って来て紙切れを兄様に渡した。

 見た瞬間片眉をぴくっと上げると、兄様はあたしに視線を移した。

 えっ!?ナニ?あたしに関する事?

「ロッテ、お前の部屋に泥棒が入ったそうだ。直ぐに戻りなさい」

 えっ?泥棒?

「でも、あたしの部屋に盗む物なんて・・・」

 その時、はっと思い当たる物があった。レイピアだ。あたしの持ち物で唯一価値のある物。そして、今現在絶対に他人には渡せない、渡してはいけない物だった。

「失礼しますっ!」

 そう挨拶すると会議室を飛び出した。後ろからは、アウラとメアリーさんも駆けて来ている。

 廊下を疾走し、何回か角を曲がって中庭に出ると兵達が騒いでいた。

「あっ、シャルロッテ様、剣がっ、剣が盗まれましたあっ!!」

 兵達がわらわらと叫びながら駆け寄って来た。みんな、東南の城壁の方を指差しているので、そちらに追い詰めたのだろう。

 いったい誰が盗み出したんだろう?例の異能の変人が取り返しに来たとか?だとしたら、やばい?

 もし、今レイピアを抜かれたら、又例の巨人が現れてしまう。急いで取り戻さないと大変な事になる。

 

 階段を一段おきに駆け上がり、城壁の上に出た。

 そこには、大勢の兵士に囲まれた犯人とおぼしき男がレイピアを抱きかかえて右往左往していた。

 あたしは、人混みをかき分けて最前列に出て犯人と対峙した。

 その犯人は、見た事の無い男だった。服装から農民あがりだと思われた。

 剣を胸の前で大事に抱えてきょろきょろとしている、表情からは必死さが伺われる。そりゃあそうだろう、盗みをして追い詰められているのだから。だが、この男がこんな大それた事をする様には見えない。違和感満載だった。誰かに騙されたか、操られているのか?

 あたしは静かに男の前に歩み寄り、なるべく優しく諭す様に語りかけた。

「あなたには、あたしの剣が必要な理由があったのかしら?話し合いに応じてくれるのなら、問題解決に向けて前向きに善処する用意があるわよ。まずは剣を置いて話し合いましょう?あたしはあなたの敵じゃないわ」

 だが、その男は剣を抱きしめたまま目には涙を浮かべて震えるだけだった。怯えているのだろうか?

 あたしは、取り囲んだ兵士達を後ろに下げ、敵意が無い事を見せ、さらに話し掛けた。

「お金が必要なの?今ならまだ親身に相談に乗れるわよ。でもね、一旦その剣を抜いてしまったら、大勢の死傷者が出るの、そうなったら、あなたの命どころか、あたしを含め、みんなの命すら保証が出来なくなるの。だから、お願い話し合いに応じて頂戴」

 そこまで言って、やっと反応を見せた。

「う うそだっ、そんな事を言って、剣を渡したらおらは処刑されるんだ、助ける訳なんかねえ、すぐに八つ裂きにされるに決まっている。役人がおら達百姓の話しなんか聞く訳ねえっ!」

「そう、そう思っているのね。じゃあ聞くけど、あなたはこの後どうしたいの?」

「おらは、村に帰る!帰らねばならねえんだ!あの噴火で農作物は全滅だ。村のみんなは今日食べる物もねえんだ。この剣を持って帰って売れば、食料が買えるんだ。そうすれば女子供にままを食わしてやれるんじゃ!あんたら恵まれた連中にはわからんじゃろ、食料が無い事の辛さが、みじめさが、虚しさがっ!」

「なぜ、日頃から食料を備蓄しておかなかったの。備蓄しておけば、違ったでしょうに」

「備蓄だああぁ?作った作物なんぞ、みんな片っ端から税で持って行かれて、備蓄どころか日々の食う物も不足しちょるんだ!どうやって備蓄せえ言うんじゃ。取り立て意外にも下級役人がしょっちゅう村に来て、見付けた食料はみんな持って行くんじゃ。わしら農民に死ねいうんか?みんな言うちょる、帝国に行って兵隊になって略奪しまくった方が生きて行けるってな」

「では、その剣を売ってお金を得たとして、何日食い繋げるのかしら?その後はどうするの?又盗みをして食い繋ぐの?そんな事するよりもっと根本の所を改善しなくちゃ、問題の解決にはならないわ」

「はっ、そんなの理想論よ!問題の解決だって?そんな事してる間におら達農民はみんな干からびちまうわ!解決する力も権限もねえのに、どうしろっちゅうんだ!」

「それなら、私がそれを責任を持ってやろうじゃないか」

 あたしの肩に、ぽんと手を置き前に進み出て来たのは、マイヤー兄様だった。

「私は、このニヴルヘイム要塞を治めているマイヤー・フォン・リンクシュタットと申す。そなたらの現状、しかと承った。前領主が酷い搾取をしていた事は、代わって謝罪しよう。今後の食料補給を含めて最大限の善処をお約束しよう、どうだろうか、その剣を返しては貰えまいか」

 さすがのこの男でも、兄様の事はわかる様だった。足ががたがた震え出している。

「ま まさか、領主様?将軍様?」

 やさしい眼差しで頷くと、兄様は声高らかに宣言した。

「今までは、今までだ。私がここを治める限り、そんな無法な事はさせない。我々貴族は農民の方々に農作物を作って頂いて生かして貰っているのだ。そんな農民の方々を粗末に扱うなど言語道断。役人にはそこの所を徹底させよう。今後は非道なふるまいはさせない」

「おお おお・・・」

 声も出せず、涙を流して膝まづく農民の男だった。

「辛い思いをさせたな、税制に関しては、必ず対処をする。さしあたっては、日々の食料だが、この近隣の領民に対しては、食料を含め要塞に蓄えてある備蓄を供出させよう。更に、フントハイム男爵及びフィレッチア准将の蓄えていた私財は全て放出しよう、これで当面の食料問題は解決するのではないかな?追って、王都にも支援要請はするつもりなので、安心されたい」

 そこまで聞くと、剣を足元に置き土下座を始めた。額を床に擦り付け号泣を始めた。

 はあぁ、疲れたわぁ。あたしは兄様と顔を見合わせた。

「兄様、ありがとう御座います、助かりました」

 あたしは、ほっとして兄様に礼を言った。

「いやいや、いくら辺境とは言え、こんなに酷いとは思わなかった。これは大至急是正せねばなるまい」

 ああ良かった。これで一件落着ね。あたしは彼に右手を差し出しレイピアを受け取ろうとした。

「話もついたし、その剣は返して貰ってもいいかな?」

 恐る恐る顔を上げたその男は、照れた顔をしながら剣を両手で掲げ差し出して来た。


 やれやれ、やっと終わったか、、、その時不意に掛けられた声に、レイピアを受け取るべく伸ばした右手がぴくっと止まった。


「なーんだ、もうお終い?つまんないなぁ~」


 その声は、まさかっ、慌てて周りを見回すと、城壁上部にある回廊の端にあるのこぎり型狭間の所に見覚えのある人影が座って居るのに気が付いた。

 そうだ、あの変態野郎だった。

「どう?あちきがあげた剣は?役に立ったでしょ?」

 満面の笑みでこちらを見ている。

「あなたさあ、行動に一貫性が無いんだけど、一体何が目的でつきまとっているのかしら?」

「はははは、つきまとっているだなんて何の事ですかな。たんに、あなた方が気に入っているだけなんですけどねぇ」


 あははは、迷惑以外ないんだけど・・・。

「一言、いい?」

「え?どうぞ?」

「迷惑っ!!邪魔っ!!きもいっ!!うざいっ!!厄介!!セクハラっ!!余計なお世話っ!!」

「あらぁ、そんなに照れなくてもぉ、ほんっとうに照れ屋さんなんだからぁ」


 だめだぁ、こいつ完全にイカレている・・・。

 誰かぁ、こいつをなんとかしてえええぇぇっ・・・。


「あのぉ、一つ宜しいでしょうか?」

 場にそぐわないのんびりした声、竜氏だった。

「なんだい?なにか聞きたいのかい?」

 竜氏に劣らずのんびりとした声で奴が聞き返して来た。

「はい、あなたはあのレイピアをどこから持って来たのでしょう?」

 意外な質問だったのか、驚いた様な顔をしている。

「んー、どこから、、、ねぇ。一体どこなんだろうね?あちきは預かっただけだから、どこからって言われてもねぇ」

「そうで御座いますか。では、どなたからお預かりされたのでしょう?」

「それは、ひ み つ♪」


 あたしは頭を抱えてしまった。

 横を見ると、兄様が口をぽかんと開けて立ち尽くしていた。

「おまえ、こんなのと付き合っていたのか?変わった趣味だったんだな、知らなかったよ」

 じ じょーだんじゃあない!こんなのと、誰が付き合いますかっ!!

「お言葉ですが、あたしはこんなのと付き合ったりはしていませんっ!!断じて違いますっ!!勝手に現れるだけですっ!!」

 あたしの剣幕に、お兄様も驚いて苦笑いしているが、悪い冗談だ!!

「悪い、悪い、冗談が過ぎたな、許せよ」

 そうやって、直ぐにひとの頭を撫でて誤魔化そうとするんだから、昔から進歩が無いのね。あたしだって、いつまでも子供じゃないのよっ!!ぷんぷん。

 そんなあたしの気持ちなど知ってか知らずか、、、いや、知らないだろう、兄様は奴の方に向かって話し出した。

「単刀直入に尋ねるが、貴殿は見た所、とてもスタイルが良くおまけにかなりの二枚目とお見受けするが、敵なのか?味方なのか?そして、ヒトなのか?人外なのか?」

 お、こいつ、驚いているぞ?なんでだ?


「あんた、、、あちきの顔がわかるのか?」

 ああ、そうか、何故かわからないけど、こいつの顔が判別出来ている。異能の力、(隠形)が何かの力によって抑えられているのだろうか?

「わかるのかと言われてもなぁ、見ているんだから、普通判るであろう?」

「いやいやいや、本来見てもわからない様にしているんだよ、苦労して。そんなに簡単にわかられたら、立つ瀬がないじゃないかぁ」

「うーむ、ロッテの友達だけあって、意味が良くわからんな」

「だ~かぁ~らぁ~、友達じゃあなあいですってぇぇ」

 なんて事を言うんだよ、兄様わっ。

「ええええっ、そんなに思いっ切り否定するなんてぇ、悲しいなぁぁ」

「好きに言ってろっ!!」

 あたしは、竜氏の脇に行き、こっそり話し掛けた。

「ねぇ、あいつの正体、まだ判明しない?」

「はい、思い当たる節はあるのですが、いまいち確証が御座いません。今しばらくお時間を頂ければ」

「そう?わかったわ。さて、奴をどうするかだけど・・・」


 色々と考えを巡らしていると、兄様はマイペースで質問を続ける。

「それで?貴殿は人なのかな?」

 はっとした奴は、兄様の方に向き直った。

「うーん、一応人ではあるんだけどねぇ。なんならそこに居る爺さんに近い立ち位置とも言えるかもねぇ」

 それを聞いた竜氏の表情が険しくなった気がした。目を細めながら言い放った。

「・・・いや、到底竜族とは思えないですな。どちらかと言うと、貴殿は魔族に近い存在ではないのですかな?」

 あたしは奴のこめかみがぴくっと跳ねるのを見逃さなかった。

 絶えずにやにやしていた奴の雰囲気がみるみる変わって行くのがわかった。

 竜さんに言われた事が図星だったのだろうか、突然立ち上がったと思うと突然城壁から空中に身を投げ出した。

 慌てて城壁から身を乗り出して落ちて行く奴を見下ろすと、その背中には何やら光る物が見えた気がした。

 そして、振り向くとそこには右手に短剣を握りしめたメアリーさんが居た。

 す 素早い、いつの間に・・・。


「奴の異能の力が使えなくなっていた様だな。一体何があったんだ?」

 お頭が不思議そうに奴が落ちて行った後を見ている。

 そう、いつもなら、もやもやっと姿を消していくはずなのに、突然逃げ出したのだ。きっと泥人形の産みの親と同じスキルを使っていたんだろう。

 あいつが見破られたのをどこかでみていたのだろう、通用しないとわかっていたので、飛び降りたのだろう。

「これで、今後は奴もそうそう現れて来んだろう」

「どうして?」

 アウラはいつも不思議そうな顔で聞いて来る。男はこの表情に騙されるのだろう、いつもお頭は丁寧に答えてやっている。

「あの、霞の様に消えながら逃げて行く方法が、見破られただろう?」

「・・・!おお、あの泥人形の時の、、、なんでしたっけ?」

「認識阻害だ。その位覚えておけな」

「ああ、ああ、そうでした、そうでした」

「あれが使えないんだから、安全に逃げられないだろ?だから、よっぽど自信がある時にしか出て来ないだろうって事だ」

 ご丁寧な説明、ありがとうございます。アウラも納得がいった様だった。


「でも、そんなリスクを負ってまでも、なんで現れたんだろう?理解が出来ないわね」

 メアリーさんは不思議そうにそう呟いた。

 確かに理解が出来ないし、したくもなかった。


「やはり、目的はあのレイピアなんじゃないのかな?」

「まさか、フィレッチア准将を取り戻しに来たとかは?」

「いやいや、シャルロッテ様に会いに来て居るのでは?」

 みんな言いたい放題だ。

 ほんと、何しに来たんだろう?


 だが、その答えはすぐにわかった。

「シャルロッテ様っ!大変ですっ!」

 叫び声の様な声の方を見ると兵達が集まって騒いでいた。

 あたしが近寄ると、人垣が二つに分かれ、その中心には、先程レイピアを盗み出した男が居た。


 だが・・・彼を見た途端、あたしは全てを理解した。



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