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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
5/177

5.

 近づく者には、人にでも魔物にでも災いが降り注ぐ疫病神と噂される聖女様と、その護衛に抜擢された15歳のじゃじゃ馬少女の織りなす物語です。

 聖騎士見習い予定の少女シャルロッテが、ドラゴンをも倒す聖女様の護衛として初めての任に就く所から物語は始まります。


 夢の世界から現実世界に引き戻されて、言われるままに窓の外を覗くと、確かに街の上空が真っ赤に染め上げられていた。火事?火事よね。少しすると、焦げ臭い臭いが漂ってきた。間違いなく火事だわ。どこが燃えているのかしら?

「方向と距離から思いますに、くだんの宿の辺りかと」

「まさか、アウラが失敗したんじゃ?急いで助けに行かないと!」

 と、その時だった。床下から声がした。

「誰が失敗したって?」

 地下へ行く階段からふいに声がした。振り返るとニヤッとドヤ顔のアウラが顔を出していた。

「アウラぁ~っ!無事だったのぉ?心配したわよおぉ~」

 へへへと頭を掻きながら全身が姿を現わしたのだが、顔を始めとして体のあちこちがススで汚れていた。

「いったいどうしたの?まさか・・・やっつけた後、火を点けて来たの?」

「まっさかあぁ、そんな事はしないわよお。結果として火は点いちゃったけどぉ」

「「「!!!」」」

 恥ずかしそうにしなを作っているアウラであったが、全然笑えなかった。君は一体何をしてきたのだ?

「あのね、予想通り深夜に賊が三人押し入って来てねぇ、あたいと待機していた仲間とで取り押さえたんだけどお、尋問の最中に賊の一人が突然暴れ出してランプを蹴っ飛ばしちゃってねぇ、えへ。一気に燃え広がっちゃったからどうしようもなかったのよお」

「えへじゃないわよ。火傷しなかったの?」

「うん、あたいも仲間も大丈夫だったんだけどぉ・・・賊はねぇ」

「えっ?っちゃったの?」

「蹴とばされたランプの油をまともに被っちゃったのよぉ、三人共火だるまになっちゃった。助けようとはしたのよ、でも建物に燃え移っていたから逃げ出すので精一杯だったの。不可抗力よ、どうしようもなかったのよ。だって火の勢いが異常に激しかったんだもん。てへへ」

 はぁぁぁぁぁ、頭痛いわ。ま、悪党の巣窟だし、自業自得とも言えない事もないし、死んでくれたのなら、あたし達の事がばれる心配はないから良しとするか。

「で?何か新しい情報は入手出来たの?」

「うーん、予想通り金で雇われた下っ端だったから、特に情報はなかったわ。ああ、昨日キャンプ襲撃した連中が帰って来なかったので、大騒ぎになってるって言ってたわ。情報はその位かなぁ」

「お嬢様、少々まずくなりましたな。明日はおそらく、朝から火事の犯人捜しが始まるでしょうから街から出るのは難しくなるかと」

「あ、そっかぁ、そうだよねぇ。犯人が捕まるまで門は閉ざされる可能性はあるかぁ」

「ああ、それだったら夜の内に脱出しちゃえばいいよ。あたい達でサポートすれば簡単よ」

「馬車は?」

「馬車は大きいから置いて行くのね。代わりの馬車を用意するよ」

「無理よ。あの馬車はお屋敷一軒建つ位お金が掛かっているのよ。置いていけないわ」

「まあったくうぅ、貴族様って奴は何でそんな所に無駄なお金掛けるんだろうねぇ。気が知れないわ」

「アダマンタイトのシャーシにワイバーンの幌。用意出来る?」

「!!!」

 おお、おお、驚いてるわ。そりゃあたしだって驚いたさ。無理もない。

「ジョン・G、何かいい方法ないかな?」

「そうで御座いますね。ない事も無いので御座いますが」

「さすが、じい。で?どうするの?」

 あ、じいのこめかみがぴくって引きつった。

「お嬢様、何度も申し上げたと思いますが」

「ああ、分かった、分かった。だってジョン・Gって言い難いんだもん」

「それでしたら、ジェイとお呼び下さりますれば」

「わかった、今後はそう呼ぶわ。で?どうすればいい?」

「はい、ここはアウラ殿にお願いしまして、一旦街の外に出して貰います。アウラ殿、普通の馬車なら用意可能でしたな?」

「ああ、直ぐに街の外に用意出来るよ」

「でしたら、街の外に出たら、その馬車で次のキャンプにでも行き、そこで待機しましょう。そうすれば、落ち着いた頃に我々の馬車を届けて頂くのも可能でしょう。馬車が届いたら旅を再会すれば宜しいかと存じます。このまま街に居りますと、何が起こるか分かりませんので、お勧めは致しかねます」

「なるほど、ジェイの言う通りかも知れないわね。でも、市販の馬車で危なくはないかしら?」

「その点でしたら、影の者が4名居りますれば大丈夫で御座いますし、うさぎの皆様のお手を借りられるのではないでしょうか?」

「うん、大丈夫、任せて。腕っ利きを用意するから身辺警護なら心配いらないよ」

「そかっ、迷惑かけるけど宜しくお願いします」

 なぜだろう、普段だったら警護なんていらないって突っぱねるだろうに、素直に頭が下げられた。アウラを受け入れたって事なんだろうか?あたしにも分からないや。

「そ そんな、頭を上げてくださいよ。あたいらがお役に立てるのなんてこんな時位しかないんだから、目一杯頼ってくださいよお。みんな、張り切ってお役目に就きますって。じゃあ、あたしは、仲間に連絡して手はずを整えて来ますんで、今しばらくここでお待ち下さいね。直ぐに戻ってきますんで」

 そう言うと、地下に続く穴に飛び込んで行った。窓の外を見ると先程よりも火の手が激しくなってきている気がする。夜空は真っ赤に染まっていて、時折火の粉が降ってきている。街の建物はほとんどが石造りなのだが、宿場のあった旧市街は木造の建物がほとんどだという。これ以上広がらないとよいのだけど。確かに、こんなに被害が大きくなってるんだったら、犯人捜しにやっきになるだろうなあ。やはり夜中に抜け出ないと面倒になりそうね。


 空が薄っすらと白み始める頃、シャルロッテ一行は街の外に居た。アウラが用意してくれた馬車に乗り次のキャンプ地であるウーフーに向かっていた。すこし距離を置いて付かず離れずうさぎの手のメンバーが旅人を装って付き従ってくれている。

「ふぅ、危なかったぁ、まだ空が赤く染まっているわねぇ、あんなに火って燃え広がるものなの?」

「そうで御座いますねぇ、普通はあそこまでは広がらないのですが、想像ですが、なにやら怪しげな宿らしいので可燃物を大量に抱え込んでいたのではないでしょうか?」

「なるほどねぇ、有り得るわね」

 会話はそこで途切れた。みんな疲れていたのだ。夕べはあの後アウラが戻って来て、誘導されるままに街の中を人目を避けながら城壁脇の民家まで移動して、脱出用に掘られていた地下道を使わせて貰って外へ出たのだった。その民家はうさぎの仲間の家だそうで、地下通路は度々使っていたとの事だ。

 すっかり夜は明けて朝日が射して来ていたが、シャルロッテ達には眩しい意外の何物でもなかった。御者席のジェイことジョン・Gは正面から登って来る朝日に目を細めて眩しそうだった。隣の席のタレスは・・・相変わらず感情の読めない顔をして黙って前方を凝視していた。シャルロッテは後ろの荷台で横になっていた。

 この時間帯は普通なら街から出て来た馬車が沢山居るのだが、今日は火事の為街の門が閉鎖されているのだろう、一台も見掛けなかった。街に向かう馬車は数台すれ違ったので、街は火事で入り口は閉鎖されているかもしれないと教えたのだが、みんなそのまま街に向かって行ってしまった。きっと急いでいたのだろう。

「お嬢様。そろそろ朝食にいたしませんか?アウラ殿が朝食を荷台に用意して置いたと申しておりましたので頂きましょう」

「ん 朝食? ううん、まだ目が醒めないよお」

 朝食と思われる包みが荷台の隅にみえたので四つん這いになってよろよろと近寄って手に取った。

「これだね。はい」

 手に持った包みを助手席のタレスに渡そうと差し出したその瞬間、手に持った包みから矢が生えていた。

「へっ?」

次の瞬間足元にも矢が突き刺さっていた。

「き・・・・・・」

 叫ぶよりも早くジェイは馬に鞭を撃ち猛然とダッシュさせた。中腰だったシャルロッテはそのまま後ろに転がって馬車から転げ落ちてしまった。

「お嬢様、振り切りますのでしっかりとお掴りになって下さいませ」

 ジェイは気が付いて居なかったが、タレスがいち早く気が付き馬車から飛び降りてシャルロッテの元に向かった。

 シャルロッテはと言うと、こぼれ落ちた後くるくると回転して立ち上がった所を後ろに居た護衛のうさぎの戦士に腰のベルトを掴まれて馬に引き上げられていた。

 前方を見ると、右手の林から手に手に弓や剣を持った10人位の騎兵が、いや統一された服装でないので盗賊のたぐいであろう男達が飛び出して来て馬車を追い始めていた。

「大丈夫ですかい?」

 シャルロッテを拾い上げてくれた護衛のリーダーが前方を睨んだまま聞いて来た。

「あちこち打って大丈夫でないけど、大丈夫!あいつらを追うわよ!」

「がってんで!野郎ども、行くぞっ!」

 掛け声と共にみるみる加速していったうさぎさん達は速かった。うさぎが速いと言うのは事実だったのね。あっという間に賊の最後尾に追いつくと追い越しざまに剣で次々と太ももに切りつけて行く。他のメンバーも頑張っていた。勝負は一瞬で決まった。まるで一般人と兵士の戦いの様で一方的だった。足を斬られた賊は次々と落馬して街道上に転がってうめいている。

 うさぎさん達は盗賊を全員落馬させるとUターンして呻いている賊の所に戻り周りを取り囲んだ。

「お前らのリーダーは誰だ!」

 馬上から有無を言わせぬ威圧的な声を掛けているのは護衛のリーダーだった。威圧的な声で、お前らには拒否権は無いと言う事を分からせているのだろう。

「いてぇよぉ、治療させてくれよぉ」

「お前らなにもんだ!」

「俺達にこんな真似して、只で済むと思っているのか!」

「血が 血が出てるっ!死んじまうよぉ」

 なんとも情けない事この上ない。骨のある奴はいないんかいっ。

「ちくしょおっ!」

 おっ、骨のある奴いたー--(笑)こっちのリーダーに向かって斬りかかって来た。が、次の瞬間両手を手首から切り落とされて転がってしまった。

「うおおおおおおおおっ」

 痛いのだろう、地べたをのたうち回っている。

「馬鹿が!痛い目に会いたく無かったら素直に答えろ。リーダーはどいつだ!」

 観念したのか、賊達は大人しくなった。

「お 俺がリーダーだ。話したら命は保証してくれるんだろうな」

「まだ、分って居ない様だな。お前達に条件を出す権利なんかねえんだよ。黙って白状するか、死ぬか、二つに一つだ。俺の気分が良ければ助かるかもしれんがなあ」

 黙って白状?素直に白状ではないのかな?黙ってたら白状出来ないとおもうのだけど、突っ込むのは止めよう。などと、こんな場面でくだらない事を考えているシャルロッテだった。

「分かった、何でも聞いてくれ」

 護衛のリーダーがあたしの方を見た。あたしが尋問していいって事だね。

「あたし達を襲った目的は?」

「目的って、盗賊が仕事をするのに金と女以外の目的なんてあるかい」

「そう、じゃあ質問を変えるわね。誰に命令されたの?黒幕が居るでしょ?」

「う・・・そ それは、誰にも命令なんかされていない、俺達の意思でやってるんでい」

 いま、一瞬躊躇したわね。見逃さないわよ。

「正直に白状するつもりは無い様ね。それなら、ご希望通り死んでもらうわね。さあ始末しちゃってちょうだい」

「まっ! 待ってくれ!まだ死にたくねぇ、ベイカーだ、ベイカー男爵に払う上納金の為だ!最近さらう女が少なくなって上納金が足りないんで盗賊の真似事をして稼いでいたんだ!」

 後の方に居た気の弱そうな奴が内情を暴露してくれた。自分だけ助かりたかったんだろう。

「あっ、この野郎!裏切りやがったな!」

「お おめえの言う通りにやってこんなざまだ。もうおめえの命令は受けねぇ、俺は死にたくねぇ」

「随分と人望の厚いリーダーだ事。メンバーはこれで全員って事はないわよね。アジトはどこかしら?」

「お、俺が案内するっ!だ だから俺だけでも助けてくれぇ」

 さっきの裏切者だった。後半は涙声だった。

「いいわよ、正直に案内するのだったら命は助けてあげる。嘘をついたら、、、分って居るわよね」

 声も無く首を前後に盛大に振って居る。こんな時は首でなく頭を振るって言うんだっけか?ま、どうでもいいわ。

「そいつの傷の手当をしてやって頂戴。他の連中は約束通り処分して頂戴」

「よろしいので?」

 護衛リーダーが小声で聞いて来る。

「生かしておいたら、又殺しや追いはぎや人さらいをするわよ。これ以上悲しむ人は増やしたくないの」

「了解しました。仰せのままに。おい、あっちの林の中に連れて行け。俺はお嬢を馬車まで送ったら戻って来る」

 後の事を、配下の者に任せ、馬車に向かおうとした時、向こうから走って来る人影に気が付いた。あら、タレスじゃない、助けに来てくれたのね、なかなかやるじゃない、ちょっと遅かったけどね。

「タレス、助けに来てくれたのね、ありがとう。ジェイは?」

 すると、後ろを振り向いた。なるほど、土煙をあげて馬車が一台疾走してくるじゃない。

 馬車が止まるか止まらない内にジェイが飛ぶ勢いで降りて来た。そんなに無理したら腰やっちゃうよぉ。

「お お嬢様っ!よくぞご無事で。大変申し訳ありませぬ、このジョン・G一生の不覚で御座いますっ!お嬢様になにかありましたら御屋形様に何と言って申し訳したらよいか、この皺腹かき切ってお詫びしても足りない所でございました。本当に、ご無事でよう御座いました」

 後半は、ほとんど涙声になっていた。そんなに、、、、切腹を免れたのが嬉しかったのだろうか。

「優秀な護衛が居たから助かったのよ、お礼をいうなら彼らに言ってね。本当に国軍の兵士と比べても見劣りしない動きだったわよ」

「おお!そうでありました。此度はお嬢様の危機をお救い下さりまして誠にもって感謝の極みに御座います。心より御礼申し上げます」

 でたっ!執事の十八番っ!左手を胸に当て、腰を直角に折り曲げる最高位の礼。貴族相手などにする礼を山賊さんにしてるって事は、少しは彼らを認めたって事なのかな。

「あ いやいや、執事殿、そんなにされなくとも。我々は自分に出来る事をしただけですから、さあ、頭を上げてください。いやあ、まいったなあ、こんな事されたの初めてだよ。お嬢!笑って見ていないでなんとかしてくれよぉ」

 ふふふ、熊をも倒す猛者さんも形無しねぇ。

「さぁ、ジェイ、余計な時間を食ったわ。先に進むわよ。馬車を立て直して頂戴」

「はっ、はいただいま」


 その後は順調に何事も無く、夕方にはキャンプウーフーに到着した。街の封鎖が続いていたせいか、キャンプする馬車の数は半数にも満たなかった。しかし、陽が落ちてから続々とイルクートの街からの馬車が到着して来た。耳を澄ましていると、あちこちで情報交換が行われていた。どうやら、予想通り街から出る時のチェックは厳格を極めていたらしく、荷物は全て確認され服も脱がされた人もいたらしい。ブリードスローンが門の所に居たという話しがあったけど、始めて聞くなぁ。

「ねえ、ジェイ、ブリードスローンって何?」

「わたくしも話しでしか聞いた事が無いのですが、象の改良種だそうで、なんでも、嗅覚が人族の十倍以上あると聞いた記憶が御座います。その様な物を配置したとなりますと火事場の臭いのする者をターゲットにしていると推測されます。夜の内に脱出して正解で御座いました」

「関係ない人がひっからないと良いのだけど」

「その辺はうちの者が情報を集めているから、何か分かったら知らせるわ」

 ふいに、暗闇から姿を現わしたのは例によってアウラだった。

「あんたねぇ、毎回毎回心臓に悪いわよ」

「あら、お嬢の毛が生えている心臓だったら心配いらないわよぉ、ほほほほ」

「ほんっとに、口が減らないんだから。で、どうしたの?」

「お嬢の馬車を持って来たわよ。それと、情報がひとつ」

 ここまで言うと、声をひそめた。

「人買い商人、捕まえたわよ。今、手の者が尋問している。他の売られた人達を助けないとね。こっちは任せて、上手くやるから。決して恩人であるお嬢の御父上の名を汚す真似はしないから安心して」

「ん、信用している。宜しくね。でさぁ、ひとつ聞いてもいい?」

「なにかしら?あたいに答えられる範囲でなら何でも聞いて?」

「んーとね、しきりに恩人だとか言ってるんだけど、その辺教えて貰えないかなあって」

「ああ、その事ね。あれは、もう十年以上前だったかな。まだ、あたい達も食べて行く為に色々と悪い事をしていた頃の話しね。ある地方貴族の館に押し入ったんだけど、運悪く国軍の一団がやって来てね、何も盗らずに逃げ出したんだって。その時兄貴がへましちゃってね、足に怪我しちゃったんだ。倒れて歩けなくなってた所にお頭が戻って来て肩を貸してくれて逃げ出したんだけど、後少しって所で国軍の将校と出くわしちゃって、もはやここまでって切り死にする覚悟で向かっていこうとしたら、その将校は行けって言ったんだって。生活が苦しいのは判るが、今は自分に出来る事を精一杯やってまっとうに生きろ、無駄死にするなって」

 初めて聞く話しだった。父上からは聞いた事も無かった。

「それからだよ、お頭が殺生はしないと決めたのは。お金は持っている奴からしか取らない。盗みも悪い奴からしかしないってね。真っ当な悪党になったんだ」

 又出たよ、真っ当な悪党。(笑)

「で、後日談があるんだけど、その時に襲撃をかけた地方貴族ね、かなりの悪党だったんだって。領民に高い税金を掛けてずいぶんねこばばしていたんだって。人身売買もしていたらしくて調べたら、なんとカーン伯爵の遠縁なんだって言うから驚きよね。国軍が来ていたのも脱税関連の取り調べだったんだって。結局、上からの圧力でお咎めなしになったとか。悪い奴が大手を振ってお日様の下を歩いているなんてほんっとうに頭にくるわよねぇ」

「そっか、そんな事があったんだね。だから、あたし達に手を貸してくれたんだね」

「それもあるけど、あたいがお嬢の事を気に入ったからって事もあるんだよ。今後はあたいもお嬢の護衛に就く事になったからよろしくね」

「あらぁ、心強いわぁ。でも、護衛って、あたしがどこに行くか知ってるの?」

「知らないわよ、知ってる訳ないじゃない(笑)」

「それなのについて来ていいの?」

「いいよ、何処だってついて行くよ。だって、役に立ちたいんだもん、今からあたいはお嬢の直属だから、何でも遠慮しないで言ってね」

「うーん、わかった頼りにしてる。取り敢えず、今夜は休んで。明日は朝早いから宜しくね」

「了解であります、マイ マスター」

 をいをい、どこで覚えたんだよ、そんな言葉。とにかく、今日は疲れた。夜中の脱出行に加え、馬車からは落とされるし、明日は筋肉痛かなぁ、やだなぁ、ま、今夜は焚火当番終わったら早く寝よう、寝かせて貰えるのならね。

 焚火に薪を放り込むと火の粉がぱあっと舞い上がって天に昇って行った。何を思うでも無く夜空に登っていく火の粉を見上げていた。周りでは、まだ宴会をしているグループがあり賑やかな笑い声が聞こえて来る。

 ぱきっと木の枝の折れる音がして、脇に置いてあった木の棒にそっと手を伸ばした。

 その男は、暗闇から現れた。旅人の装いをしてはいるが、妙にこざっぱりとしていて、垢にまみれた旅人感が無い。そりゃあ、あたし達もそうなんだけど、立ち姿に隙が無い。何者?手に触れた木の棒を握りしめる。

「いやぁ、驚かせて申し訳ない、そんなに警戒しないで貰えるかな」

 そう言うと図々しくも焚き火を挟んで向かいにどっかと座った。

「深夜に、女の子が一人で居る所にやってきて怪しまれないとでもお思いです?さすがにそれは無いでしょう?」

「はっはっはっ、こりゃあ一本取られた。確かにその通りだ、怪しさ満載であったな。いや、その点は謝る、失礼をした。だがなあ、朝になるとみんな出発の準備やらで忙しくて話が聞けなくてなぁ、こんな時間になってしまった、許せ」

「自分は南のフランカーから来たジョージ・マッケンジーと言う。この国で兵隊として雇って貰おうと思ってな、仕官先を探しているのだ」

「で、そのジョージさんはなぜあたしの所へ?あたしは兵隊を募集しておりませんが?」

「うむ、仕官をするにあたってだな、色々とこの国の内情を調べてから決めようと思って聞いて回っているのだ。どこなら雇ってくれそうかな?」

 なるほど、傭兵志願か。どうりで姿勢に隙が無い訳だけど、なんだろう傭兵志願には見えないんだけど。育ちが良すぎる感じがするのよね。背は高いし、それなりに二枚目だし」

「残念ですが、あたしはそちらの方には疎くて、お力になれなくて申し訳ありません」

 ここは、相手にしないに限るわね。

「いや、どんな事でも構わないのだ。ああ、そうそう良く噂に聞くのでだがこの国にはとても強い魔法使いもしくは魔導士の方がおられるとか?なんでも、不思議な魔法を使ってパンゲア帝国の攻撃を防いでいると聞くが、ご存じないだろうか?」

 こいつ・・・

「兵隊として雇って貰うのに、なぜくだんの魔法使い様の情報が必要なのかな?」

 いいタイミングでアウラが割り込んで来てくれた。ジョージなんたらはギョッとして後ろを振り返って目を見開いていた。分かる、いつもはあたしがその気持ちを味わっているから。でも、あたしは見ちゃった。とっさに腰の剣に手をかけていたのを。

「あ、いや、あちこちで話に登るのだが名前すらみんな分からないと言うのでちょっと気になってな」

 しどろもどろ?

「なるほど。東夷とうい様は目立つのがお嫌いでね、名前もあまり出さないのよ」

「おおっ、魔法使い殿は東夷殿と申されるのか。変わったお名前ですな。あなたは、その東夷殿を知っておるので?」

「知っているも、わたくしは東夷様のご用で王都まで行く所でね」

 えっ?な何言ってるのアウラさん。東夷って誰なんですかあぁ?

「東夷殿は今どちらにおいでなのですかな?」

「そんな事を聞いてどうなさるのですか?東夷様が北方の城郭都市サリチアにおられるのは極秘なんですよ。あ、内密に願いますよ」

「勿論ですよ。他言はしません」

 嘘つけ。しかし、サリチアに誰が居るんだ?

「では、長居してしまったが、これで失礼させて貰う。お邪魔をしたな、許せよ」

 そう言うと、再び暗闇に消えて行った。なぜか、見送っていたアウラが右手をそっと上げて消えて行った男の法を指差した。

「ん?何しているの・・・かな?」

「配下の者を貼り付けました。あいつ、怪しいですよ。多分、フランカーの者では無いですね。北方の、そうパンゲアなまりを隠していましたね」

「えっ?もしかして、スパイ?」

「スパイと言うよりは工作員ではないでしょうか?あの身のこなしは、只者では無いように見受けられますが。それもなかなかの技量かと」

 いつの間にか、ジェイとタレスも起き出して来た。

「ああ起きちゃった?」

「ほっほっほっ、異様な気配を発していましたのですぐに目が醒めましたので、ずっと様子を伺っておりました」

「だったら早くきてよお、どうしようかとおもっちゃったよぉ」

「大丈夫でございます。お嬢様の対応でよう御座います。それに、アウラ殿のされようとしている事も分かりましたので静観させて頂きました。勿論、不測の事態には直ぐに飛び出せる様に用意はして居りましたのでご安心下さいませ」

「あらぁ、執事殿にはバレバレでした?」

 アウラは頭をぽりぽり搔きながらジェイを見ている。あたしは、訳が分からずぽかんとしてしまった。

「はい、アウラ殿は最初から疑っていらっしゃいましたね。鎌をかけ始めたので直ぐに意図が分かりましたですよ」

 心なしか、ジェイがドヤ顔している様に見えるのは気のせいだろうか?

「東夷と言う名前は偽名ですな。東方に居る異人と言う意味です。城郭都市サリチアの名を出したのは、彼の地はムスケル殿が以前お嬢様の御父上様と出会った場所だからですかな」

「まいったなぁ、そこまでバレていたのかぁ。そうだよ、あいつが工作員なら本国に連絡すると共にサリチアに潜入するかと思ってね。サリチアに情報をリークしておけば、勝手にやりあってくれるかなと。それに、もし帝国が攻撃を仕掛けてきても、ねえ、あそこはカーン伯爵の遠縁の支配する街だしあたいらにとっても敵討ちになるっていうもんさ。ま、住人もほとんどが脛に傷を持ってて伯爵のつてで逃げて来た連中ばかりだから痛くも痒くもない辺境都市だしね」

「あきれた、そんな事考えていたんだ」

「まあねぇ。奴が聖女様について探りを入れて来たと分かった時に思い付いたんだ。他所に意識を向けさせた方が良いってね。それに、奴は聖女様を魔法使いって言ってたからね、帝国がそう思っているんだったら話を合わせた方が良いかなと・・・?」

 そこまで一気に話した所であたしのきつい視線に気が付いたアウラは話を止めた。

「どうしたの?お嬢」

「寝る。アウラは明日は馬車に乗って頂戴。話はその時に。おやすみ」

 そう言うとシャルロッテはテントに向かってすたすたと歩いて行ってしまった。残された三人はお互いに顔を見合わせて肩をすくめていた。

 それが何を意味しているのかは知る由も無い。何故知る由も無いのかは知る由も無い。

 そうして平和な夜は更けていった。周りの賑わいは、まだ終わりそうにもなかった。

 聖女様の待つベルクヴェルクの修道院への道のりはまだ長い



始まりました。

作品を書き始めて3作目となります。

経験値不足の為、どんな内容になるのか心配ではありますが、精一杯書いて参ります。

拙い語彙力で書き上げて参りますので、暖かく見守って下さりますように。


P.S.

 今回出てきましたジョージ・マッケンジーと言う名前ですが、日本のプロ野球ファンだったら一度は聞いた事があるかも知れません。

実在の元ダイエーホークスの捕手で城島健司さんがモデルです。

実際にドラフト会議の時、他の事をしながら耳だけ会議に参加していたのですが、どの時ふと耳に入って来たのです

「福岡ダイエーホークス 一位指名 駒沢大学 ジョージ・マッケンジー  捕手」と

えっ?外人?と思いテレビを見ると  城島健司 だったんです。確かにジョージ・マッケンジーとも聞こえるなって。

ああ、空耳アワーだったか と。

これは実は 実話なのでした。(笑)



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