48.
食材まみれのあたしが助け出されたのは、その日の宿営地に着いて料理人が食材を探しに来た時だった。
馬車の荷台で食材に埋もれて呻いているあたしを発見して料理人はさぞや驚いた事だろう。
それまで誰も覗きに来ないと言うのも、どおなんだろうと思う。みんな冷たい。
救出された時、あたしの顔は一抱えもある何かの干し肉に半日押し付けられていたのだった。いや、顔だけでなく、全身が肉に埋もれて肉まみれだった。
くんくんすると、息を吸う度に、いや息をしなくても体中が肉臭くなっていた。
うええぇぇ、あたし、これでも乙女だよおぉ。肉臭い乙女なんてやだよおぉぉ。
旅先で風呂に入れないから、臭いが落とせなくて心底困った。水浴びをするにも水面が火山灰で覆われて居てなんか嫌だ。
そしたら、お頭が「すり下ろしたショウガでも体に塗るか?」だって。
あたしゃあ豚肉かいっ!!!
後から聞いたのだけど、件のサボテンは、あたしの発した気の力で森に帰ったそうだ。
と言われても実感が全くないのだけど。あたしの気の何が功を奏したのだか、さっぱりわからない。
わかったのは、、、物凄く疲れるって事だ。アナ様が倒れた意味がわかった気がする。
しかし、一回使う度に倒れて居たんじゃだめよねぇ、って、今後も使わないといけないの?気が重いんだけど。
竜氏が言うには、使えば使う程負担が軽くなるって言うけど、気の長い話だ。そんなに倒れたくないかなぁ。
「ご気分はいかがですかな?」
夕食の支度でみんなが慌ただしくしているのをぼんやり見ていると、ふいに竜氏声を掛けられた。
周りには夕闇が忍び寄って来ていたので、竜氏はシルエットになっていて、その表情は計り知れないのだが、心なしか優しい様に感じられた。
「うーん、まだ少しだるいかな。でも、そんなに疲労感はないかな」
「さようでございますか。ですが、初めてでのあの威力、そして回復の速さ。剣との相性は抜群の様で御座いますな」
「そうなんですか?実感ないんですけど・・・」
「段々わかって参りますよ。段々とね。ですが、私が見て来た人類の中でも、あなたは群を抜いております。自信をお持ち下さい」
「はあぁ」
ソウイウモノナノデショウカ?
不思議と翌日に疲労は残って居なかった。体が対応してきているのだろうか。
あたしも、あのデタラメビックリ人間達の仲間入りって事?それはそれで嫌だなあぁ。
段々人間じゃあ無くなって来るみたいで、かなり嫌だ。
お頭達に少しは近づいたのかなぁ?
あれっ?人間から外れると近づくお頭達って、、、ひょっとして、お頭達って、、、人で無かった?今更なんだけど。
思わず振り返ってお頭の事をガン見してしまったのだが、結構距離が離れていたはずなのに、あたしがガン見したとたんこっちに気が付かれた。
「あんだぁ?」
直ぐに訝し気な表情で見返して来た。
他人の視線を察知するとは、、、本当に人間なのか?
・・・、ま、常日頃から人外だとは思っていたけど、、、。
「なんだぁ、ひとの顔じろじろ見やがってよ」
ビックリしたあぁ。
「別にぃ、いい男だなあって思ってさ」
取り敢えずはおだてておかないとね。
「なに、今更当たり前の事言ってるんだよ」
全く謙遜ってものが無いのが、お頭らしい(笑)
流石に二日続けてトラブルは起こらないみたいで、平和に今夜の宿営地に着いた。
今夜は街道から少し離れた所にある森だった。そんなに広大な森では無かったのだが、その中央には小さな池があった。
噴火前だったら綺麗な水で水浴びが出来ただろうに、今は表面が火山灰で覆われてしまっていて叶うべくも無い。
やる事がなかったあたしは、まだ明るかったので剣を持って森の中に歩を進めた。少し剣を振ろうかなと思ったのだが。
「おーいっ、そこの肉女っ、どこ行くんだ?そんなに肉の臭いをさせて森に入ったら、魔物に襲われるぞぉ」
肉・・・・って。
「ほっとけっ!!!」
なんて失礼なんだろう。なんか、ムカムカして来た。
思いっきり剣を振って憂さ晴らしをしたい気分だ。
それほど茂っていない草むらを、どしどしと踏みしだきながら入って行き、剣を振っても邪魔にならない空き地を見付けすらりと剣を抜いた。
呼吸を整え、お頭の顔を脳裏に思い浮かべると、むかむかむかと怒りが甦って来た。怒りに任せて思いっきり気を練ってから思いっきり横殴りに剣を振り抜いた。
◆◆◆◆◆ ムスケル side ◆◆◆◆◆
「あんたさぁ、どう思っているの?」
焚火の前に腰を降ろし、黙々と薪を突っついているムスケルに立ったまま詰め寄っているのはメアリーだった。
「どうって、何がだ?」
どこか上の空のムスケルはそっけなかった。
「決まっているでしょ?あの娘の事よ。あんな物騒な剣、持たせていていいと思っているの?」
「仕方がねえだろ?あいつが貰った物なんだからよ、俺達が口を挟める事じゃあねえだろう?」
「だけど・・・」
「あんたは、あの聖女の嬢ちゃんの事だけ考えていればいいんでねえか?それが任務だろうよ」
「そう言うあんたはどうなんだい?なんでこんなにあの娘に肩入れしてるんだい?」
「俺か?俺は、、、いいんだよ。あいつの父親に恩があるからな。それに、あいつと居るとよ、退屈しねえんだよな」
メアリーは、やれやれといった顔でかぶりを振って居る。
やれやれと言われたってだなあ、しょうがねえじゃあねえか。
どの道お嬢が戦力になってくれれば、俺達も楽が出来るんだからいいじゃねえかよお。
「この後、あのデタラメ野郎達に一戦挑むかもしれないんだからよぉ、戦力は大いに越した事はねえだろうが。ま、戦力ったって大したことはねえだろうがな」
「そりゃあそうだろうけどさ、あの剣がどの程度の物かは知らないけど、所詮は扱う者の技量が・・・ん?」
突然、鳥が一斉に飛び立った。森中の鳥が飛び立ったんじゃないかと思える程の数だった。
一体何が起こった?一瞬で場に緊張が走る。みんなは既に立ち上がって戦闘態勢に入っている。
森の中で一番弱い鳥が逃げ出すって事は、強大な何かが現れたと言う事だろう。
剣を構えた兵が何人か森の奥に向かって駆け出して行った。
何が出やがった?
立ち上がった所で、俺は不意に気が付いた。
ん?こいつは、、、まさか? そうか、そうだったのか。
「ちょっとお、お頭っ、何ぼおっとしてるのよおっ、早く行かないとっ!」
「おーおー、普段冷静沈着なくせに、何焦ってるんだ?メアリーらしくねえぞ」
「なんだって言うのよっ」
「よーく見て見ろよ。素直な心でよ」
「なによっ、それっ。わたしはいつでも素直で・・・あらっ?」
やっと気が付いたか。異能者探知機が反応していない事に。
「ねえねえ、なんで?竜の人が座ってお茶飲んで居るのよお」
「決まってるだろ?危険はねえってこったよ」
「じゃあ じゃあなんなのよ、何で鳥が一斉に飛び立ったのよ」
「周りをみてみろよ、誰かが居ないんじゃあねえか?」
本当にわからないのか、きょろきょろと周りを見回していたが、気が付いて俺に向き直った。
「お嬢 お嬢が居ない、、、のか?」
「そおおいう こった よっと」
俺は勢いよく立ち上がった。
「おい、行くぜ。お嬢がなにやらかしたか、見に行こうじゃないか」
と言ってゆっくりと歩き出したが、もうこの周りには誰も居なかった。既にみんなは震源地|(?)に到達しているのだろう。
今度は何をしでかしてくれたのか楽しみではあるが、竜の爺いが大人しいのが気になる所だ。
暫く歩くと人混みが見えて来たのだが、場は静寂に包まれていた。どうなってるんだ?
人混みをかき分けて最前列に出ると、、、なんだこれは、ドラゴンが暴れたのか?
そこは、ちょっとした広場になっていた。普通の広場と違うのは、森の木が軒並み倒れているのだった。よく見ると自然に倒れたのではなく、みんなスパッと切り倒されていた。
凄い事になってるじゃんか。しかし、妙だな、あの剣の長さでこの数の木を切り倒すのは至難の業だぞ。どうやったんだ?
みんなの視線の真ん中では、お嬢が剣を両手で握り横に振り切ったままの姿勢で固まっていた。
やっちまった感満載だなぁ、解り易い奴だぜ。
「ねぇ、ムスケル、どうなっているの?」
「どうって、見たまんまだぜ。あいつがやっちまったって事だろ?なぁ、竜の爺さんよ」
俺達の後に付いて来た竜の爺さんに話を振った。
「そうですな。更に気を練るのが上達したと言う事ですかな。気を剣に乗せて振りぬいた為、剣先からほとばしった気の力が剣の一部となって、言わば長い剣となって周囲の木を切り裂いたと思われますな。物凄い上達と言えましょう」
「そんなにあの娘と相性が良かったの?あの剣」
「そういう事になりますかな。しかし、そんな剣を何故あの御仁は所持していたのでしょう?不思議ですな」
「分からんことを考えていてもしょうがねえ。取り敢えず今一番大事な事は、、、飯だ!」
「そおねぇ、戻りましょうか」
メアリーも納得した様で、踵を返してキャンプに戻って行った。野次馬達も三々五々にキャンプに戻って行く。
その場には、お嬢とメアリー、竜の爺さん、そして俺だけが残った。
俺は呆然と立ち尽くすお嬢に歩み寄って肩をぽんと叩いた。
「おい、そろそろキャンプに戻るぞ」
しかし、俺の力にもお嬢は微動だにしなかった。
ん?どうした事だ?
不思議な事に、華奢な身体のお嬢が、俺の剛腕で掴まれてもピクリとも動かなかった。
こ これは・・・。
すると、お嬢が俺に向き直ってきた。
どうしたんだ、こいつ。目が据わっていないか?
お・・・?、こっちを向いたお嬢のレイピアの切っ先が徐々に上がってきた?
なんだあ、やる気かあぁ。
切っ先が真っ直ぐ俺に向いて来た。俺は丸腰だったので、取り敢えず両足を開いて腰を落とした。
なんだなんだ、やるつもりかぁ?まあ、やるっていうならいいけどな。俺もお嬢の実力を一度見たかったし、いいチャンスか。
「ほれっ、やるなら構ってやるぞ。さっさと来なっ!」
目が据わっているのが気になるが、まあいい。今はこいつとの闘いを楽しんで・・・うおっ!!
「こ こいつ、なんて速さだっ!!」
突然、目にも止まらないスピード出で突っ込んで来やがった。
流石の俺でもかわす事が出来たのは奇跡的だった。
どうなってやがる。この速度は、尋常じゃあねえぞ。背筋がぞっとしたぞ。
胸元を見やると薄っすらと直線に血が滲んでいた。かわしたと思っていたんだが、かわしきれていなかった様だった。
稲妻の様な突きを放ったお嬢は、くるっと方向転換すると再び突っ込んで来た。物凄い勢いで。
「うおっ!!」
再びギリギリでかわした俺の胸には赤い線が一本増えていた。
俺はしげしげと胸の二本の赤い線をしげしげと見つめた。有り得ない、俺が一撃を入れられるなんて・・・。
どういう事なんだ?まさか、あの剣のせいなのか?それにあいつのあの目だ。あの据わった目は異常だ、
「おいっ、竜の爺さん!どうなっているんだ?あの目の色は異常だぞ」
目の端にちらっと映った竜の爺さんにそう問い掛けた。
「そうですなぁ、気の力が溢れて暴走してしまっておりますな」
「暴走か・・・」
どうりでなぁ、それで納得だ。全てが規格外だ。
「時間が経てば収まるのか?」
ちらっと竜の爺さんに問いただしたんだが、一瞬あいつから視線を離してしまった。
はっとして、あいつに視線を戻すと、構えている剣の切っ先が光り出していた。
これって、まさか・・・。まずいんじゃないか?
そう思っている間にも剣先の光は輝きを増していった。
ま まずいっ
「伏せろ~っ!!」
そう叫ぶと、俺は横っ飛びに飛び退った。
一瞬遅れて、俺の頭上を光の帯がかすっていった。
「あぶねぇ~っ!!森の木を切り倒したのは、こいつのせいだったのかぁ」
地面に伏せたまま、俺は倒れて行く森の木々を見上げながらため息を吐いた。
それは想像を絶する光景だった。森の奥の方まで光の剣が届いてしまったらしく、薄暗くなった森の奥の方ではまだ木の倒れる音が続いている。
これはもはや歩く災害と言ってもいいだろう。
なんだって次から次へと問題ばかり起こすんだよ、あいつは。
「あ、ムスケル、、、あんた ぷぷぷぷぷぷ」
俺と一緒に地面に這いつくばって難を逃れていたメアリーが後ろから声を駆けて来たのだが、セリフの後半が笑っているのが気になった。
「なんだ?笑って居ないではっきり言えよ!」
「あ あんたさ、さっきあの光の剣をかわしそこなったでしょ? ぷぷぷぷぷぷ」
「ひいひいーっ、もう駄目っ!堪えられない~っ」
メアリーは地面をバンバン叩いて笑いを堪え、、、きれてなく、笑い転げていた。なんなんだよ。
ぎりぎりだが、俺はちゃんとかわしたぞ?何がおかしいんだ?
「む ムスケル、頭、頭、後頭部、後頭部、ひーっ、ひーっ」
後半は言葉になっていなかった。
なんなんだいったい。ぶつぶつ言いながら後頭部を撫で、、、撫でかけて固まってしまった。
「!!!!!!!!!」
ない!ない!ない!
後頭部を撫でたが、俺の後頭部に、、、髪の毛がなかった。
手にはジャリジャリした感触しかなかった。
むう~、さっき後頭部を光の剣が擦った時に、髪の毛を削られたのか、、、。
なんてこった、後頭部からそっくり髪の毛が無くなってしまった。
不幸だ。
俺はなにげに不幸だ。
周りを不幸にするのって、アナの嬢ちゃんでなくあいつなんじゃねえか?
「おいっ、竜の爺さん。あれ、何とかならんか?」
俺の後ろで膝を抱えてうん〇座りをして居る竜の爺さんに助けを求めた。
竜の爺さんは座ったままにこにこしていた。
「大丈夫でございますよ。気の力が急速に減衰いたしております。もう収まるでしょう」
光の剣、二発で打ち止めかぁ。だいぶ、気の力が増して来たって事か。
おまけに、今回は気絶していない。だいぶ進歩したのか。
やつは剣をだらんと下げ呆然としている。
多少は正気が戻ったのか?
俺はよっこらしょと立ち上がって、お嬢に近づいて声を掛けた。勿論、恐る恐るだったが。
「おい、正気になったか?」
すると、覇気の無い死んだ魚の目をしたお嬢が、俺の呼び掛けに応えてこちらを見た。
「おい、爺さん、これで大丈夫なのか?後遺症は残らないのか?」
慌ててそう訊ねたが、爺さんは落ち着いていた。
「ご存じ無いかとは思いますが、人族はその力に規制が掛かったまま産まれて来るのです。ですので、基本気の力は使えないのです」
「規制?なんだそりゃあ」
「人族は、空も飛べないし、海にも潜れない、強靭な肉体も、毒も持って居ない。攻撃力のある牙も爪もありません。その代わり、生き延びる為に器用な手と知恵が授けられました。その際に気の力を使う能力も付加されたのですが、過剰な力であると判断され、神の手によって封印されたのです」
「だけど、時々使える奴がいるのは?」
「異能者の事ですな。原因はわからないのですが、稀に規制の弱い者が現れる様ですな」
「そうなのか・・・」
「はい、他にも秘剣の存在がありますな。どうやら、秘剣と呼ばれる種類の剣の中には規制を飽和させる能力を持つ物が存在している様に感じられます」
「それが、あのお嬢の剣かぁ。規制が飽和された結果が、あの力かよ。やれやれだな」
俺的には、規制と言うよりも人類を弱体化させる為の呪いの様に思えるぜ。
とにかくだ。いつまでもここで森林破壊を続けている訳にもいかんだろう、早々にあいつを捕獲して撤収するに限る。
それと、あの剣も没収だな、持つたびにこんなに大暴れされてもかなわんからな。命がいくつあっても足りんぞ。
今、又奴らに襲撃されても叶わん。アウラに命じてお嬢を回収させ、俺とメアリーは周りを警戒しながらキャンプに戻った。竜の爺さんはその後を散歩をするかの様に付いて来ていた。
お嬢はアウラに寄り添われてはいるものの、しっかりと自分の足で歩いていたので、だいぶ力の消耗を抑える事が出来る様になって来たとみていいのだろう。
後からお嬢に聞いた所、あの剣が発動している時の記憶は全く無いそうだった。まさか、剣に操られていたとでも言うのだろうか?謎は深まるばかりだ。
そんな事を悶々と考えながらキャンプまで歩いていたが、ふと遠方を見て違和感を覚えた。
そう言えば、毎晩夜空を赤々と染め上げていたランゲ山の噴煙が鳴りを潜めているんじゃあねえか?。今はサリチア方面の空に微かに赤いものが見える程度だった。
どうやら、噴火も収まってきているのだろうか?
明日になったら噴火の情報を集めんといかんな。
お嬢をキャンプに預け、俺は街道に出て見た。
街道に降り積もっていた火山灰も、かつてほどでは無く、せいぜい足首が埋まる程度だった。
時折吹く風で舞い上げられて散って行くからなのだろうか。もう噴火は沈静化していると考えていいのだろうか?
サリチア方面から南下して来た馬車の一団が来たので、北方の情報を聞いて見たんだが、一時の混乱は収まり、今はみんな火山灰から逃れる為に南を目指して移動をしているそうだった。
食料も無く、舞い上がった粉塵の為に布で鼻と口を覆わないと呼吸も困難なんだ、逃げ出すのも致し方が無いのだろう。
ただ、噴火と火山性地震が収まってきていると言うのは、明るい情報だった。
背後に独特の気配を感じたので、俺は気に掛かっていた事を尋ねた。
「あの噴火は竜脈に沿って移動してるって言ってたよな。それって、竜脈の力を使って噴火してるって認識でいいのか?」
「はい、その通りで御座います」
落ち着いた声で竜の爺さんは答えた。
「それってよ、竜脈をと言うか竜脈の力の流れを堰き止めたら、噴火も止まるんでないのかい?」
「ははは、竜脈とはその様な単純な物ではありません。が、もし力の流れを止めましたら、その先の土地は死んでしまい、草木一本生えない死の土地となってしまいます。川や湖の水も腐り果て、生き物は生息が出来なくなりますよ」
「むうううう・・・それはよろしくないな」
「それにです、現在の竜王様にはその様なお力は御座いません。充電期間で御座いますれば」
「だよなぁ。聞いて見ただけだ。それなら、竜脈の力を介して情報は入手できるのか?」
「情報でございますか?」
「ああ、この一連の噴火に関した情報だ。今現在、噴火はどうなっているのか とかな」
「それでしたら、容易にわかりますよ。少々お待ち下さい」
そう言うと、竜の爺さんは静かに目を閉じて瞑想を始めた。
爺さんが瞑想している間、俺は再び視線をランゲ山に向けて、ここからは見る事の叶わないラムズボーン要塞とその周りのナンシー湖の事を考えて居た。
要塞は地面ごと吹き飛んだという。ナンシー湖の水も半分以上流れ出たと聞いた。一体あの辺りはどうなっているのか気になるのだが、知る由も無かった。
やがて爺さんから声を掛けられた。
「これは・・・、えらい状況になっていますな」
「やはり、そうなのか?」
「ええ、噴火はまだ続いており、帝国の奥深くに向かってゆっくりではありますが進行しております。ただ気になるのは、この噴火を続けさせるエネルギーはどこから来て居るのか、誰が与えているのか ですな」
「どこからか誰かの力が加わっているって事なのか?」
「はい、その様ですな。その、誰の力なのかって所が問題なのですが・・・」
「そりゃあ、、、聞くまでもないって事だな」
「はい」
このまま噴火が続けば、人族だけでなく、全ての生きとし生ける者の生息域が狭まってしまうって事だ。
そうなると、安全な土地を求めて人類同士で争いが発生するのは必至。それに、野生動物が加わって凄惨な状況になるのは目に見えているって事か。
あ!そうなのか。
そこまで考えていて、ふいに閃いてしまった。
「爺さん、何で奴らが噴火を起こしたのかずっと疑問だったんだが、安全な土地を巡っての人同士の共食いを誘発して、俺達人族が自滅して行くのを狙うのが奴らの真の目的なんじゃねえか?それなら、大軍は必要ねぇからな。どこかに隠れて待って居れば、勝手に滅んで行ってくれるからな」
「恐らくですが、正解に近いものと思われます」
「だとするとよお、最初に竜脈を動かしてサリチアを救ったのは、最大の失敗だったって事か?」
「それはどういう事?」
ふいに、メアリーが話に加わって来た。
「つまりだ、俺達最大の奥の手を最初に潰されたって事だよ」
「じゃあ、サリチアを救ったのは、奴らに仕組まれた、奴らに誘導されたって事なの?」
「考えたくはないが、そう考えるとしっくりいくんだよ」
その場には、しばらく静寂が訪れた。
「なぁ爺さん、一応聞くが、噴火を止める方法って、、、ないのか?」
「・・・・あります。ひとつだけ」
「「!!!」」
「諸悪の根源を潰す事です。それでも、しばらく噴火は続きますが」
「話にならん。それが出来れば苦労はせんだろう」
「では、他に何か良い案がおありですかな?」
「・・・・それを言われると・・・何もないんだが」
「今、奴に繋がって居そうな所から手を付けるのがよろしいかと」
「サリチアのベイカー男爵か」
「ええ、奴らの尻尾に繋がって居る可能性があります。が、すぐに切り捨てられる可能性も大ですが・・・」
「とにかく、ここは前に進むしかないって事か・・・」
「さようで・・・」
「今は悩んでいてもしょうがないって事だな。しかたがねえ、寝るべ、寝るべ」
キャンプに戻ると、もうお嬢は食事を済ませて寝たそうだ。
それが正解なのかもしれんな。今夜は当番じゃないから、俺も飯を食ったら酒でもかっくらって寝るとするか、、、。
そして、その夜事件は起こった。
本年最初の投稿になります。
現在、暗中模索の状態で書いております。
方向性が正しいのか、間違った道を進んでいるのか、自分でもわかりません。
神様が現れて、方向性を示してくれればと、思わない日はありません。
今は、ただひたすら書き進めるのみです。
今後とも応援宜しくお願い致します。