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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
47/169

47.

「剣筋は良い様ね。でも、まだ甘ちゃんの剣ね、剣に全然殺気がないもの。剣って何する物か知ってる?剣は人を殺す物。相手を殺す目的で抜く物よ。相手を殺す勇気が無いのなら抜くんじゃないわよ。自分が死ぬわよ」

 あたしは、はっとした。そんな事は十分わかって居ると思っていた。うん、思っているだけだったと思い知らされたのだった。

 それよりも、こんな奴に偉そうに能書きを垂れられたのが癇に障った。言って居る事が真っ当なだけに言い返せない自分も情けなかった。

「それにね、あなたの剣には癖があるのよねぇ。解り易いわよ。それにね、良くも悪くも、とおぉぉぉっても剣筋が素直なのよ。素直で癖があるから、剣筋を見切るのが簡単なのよ」

 うーん、どう返したらいいんだろう。

 あたしが困惑していると、更に言って来た。

「もっと体幹を鍛えるべきね、剣筋が若干ぶれているわ。剣筋を安定させるには、体幹を鍛えるのが一番の早道よね」

 うーん。困って居ると更に攻め込んで来た。

「それにぃ、その剣」

 えっ?この剣?この剣が何?あたしは、自分の剣をしみじみと見つめた。

「剣の腕もそうなんだが、使う剣も選ばないとねぇ。そんな安物の剣じゃ何も出来ないわよお」

 安物って・・・。

「せめて、なにか属性でも付いて居れば違うのかもねぇ」

「属性・・・」

「今のあんたじゃあ勝負にならないわねぇ、このままじゃああちきの勝ちよぉ、他にかかってくる人は居ないのかし   らっ!!」

 突拍子も無い声を上げた奴は、唐突に地面に両手を付いて居た。

 当然、膝も付いて居る。

「これって、あたし達の勝ちよねー」

 陽気な声と共に奴の後ろから出て来たのは   ニコニコしたアウラだった。

 アウラ?何をしたの?

「へへへっ、これこれっ」

 アウラは両膝を前に突き出すゼスチャーをした。ああ、膝カックンをしたのか・・・。

 膝カックン?そんなのが効くの?ビックリなんだけど、もっとビックリしていたのは奴だった。

 驚愕の顔で自分の膝とアウラを交互で見てから、助けを求める様にあたしを見て来た。

 そんな顔で見られてもあたしだって・・・。

「お おまえ なぜ ?」

 奴はアウラをしげしげと見つめて居た。

「ん?」

 アウラはきょとんとしている。

「お前は、、、気配を消せるのか?」

「気配・・・?しらなーい」

 そう言いながら、アウラはトコトコとあたしの元に歩いて来た。


「ねぇ、あたい達の勝ちでしょ?ね?ね?」

 アウラは満面の笑みだった。

「・・・うう」

 しばらく呻いていた奴は、がくっと肩を落とした。


「あーはいはい、負けた、負けた。あちきの負けね。まさか不意を突かれるとか思ってもいなかったわよ」

 やれやれと首を横に振って居る。

「いいわよ、約束ですものね。解決策を教えてあげるわ」


「はあぁぁぁ」

 あたしは、釈然としない思いでため息を吐いた。


「サリチアへ早く行きたいんだったわね。それなら瞬間移動すればいいのよ」

「瞬間移動って、そんな事出来る訳無いじゃない」

「あらあ、出来ないのお?あなた達は」

 今何て言った?

「あなた達はって?どういう事?出来る人が居るって事?」

 奴ははっとした顔をした。

「あなた達は知らない方がいいわよ。瞬間移動なんて、ろくでもない事なんだから。地道が一番よ」

 うーん、言っている事は至極真っ当なんだけど、なぜか腹が立つのは喋り方のせい?

「取り敢えず、火山灰は除去してあげるけど、すぐ積もるから早く行きなさいよ。それから、あんたには、これ」

 奴は自分の顔の前で左手を振った。すると、何も持っていなかった奴の左手にはいつの間にか細身の剣、レイピアが握られて居た。

 手品師か?こいつ・・・。

 奴が剣を出したとたん、周りに居た兵士達が剣を抜いて庇う様にあたしの前に壁を作った。

「あらあらあら、そんなに殺気立たないでよう。あちきは何もしないわよぉ。ただ、このお嬢ちゃんにプレゼントをあげようと思っただぁけ」

 そう言うと、くるんと剣を回転させ刃の方を持ち、握りの方をあたしに向けて来た。

「さあ、持ってお行きよぉ、これはいい物よぉ」

 奴が差し出した剣は、見るだけでもいわく付きの物だとわかる。

「これを、、、あたしに?」

「そうよ。だから、あなたは一日も早くそれを使いこなせる様に精進なさい。きっとあなたを守ってくれるわ」

「なんで?なんでそんなに良くしてくれるの?あたし達は敵同士なのよ?」

 あたしから最もな質問をされた奴は目を見開いて一瞬固まった。

 そして、ゆっくりとこちらを向いた。

「なんでだろうねぇ、きっとあんたらが真っ直ぐだからかな?あいつらは、目的の為なら汚い事でも平気でやるのよ。そういうのって虫唾が走るのよね。ま、そう言う事かな?あちきはやるなら真っ向からやり合いたいのよ」

 こんな奴の言う事、信じていいのだろうか?あたしは迷っていた。

「あとね、あんたらが圧倒的に弱いから、、、。あんたらに手を貸しても構わないかな、、、ってね」

 うーん、喜んでいいのか、悪いのか?

 お頭を見ると、やはり困惑した顔をしている。


「さあて、ちゃっちゃとやっちゃいますか」

 奴がさっと右手を上げると、奴の周りにさわさわと風が起こり始めた。なんだろうと思い見ていると、起こった風が次第に纏まり渦を巻き始めた。

 その渦がどんどん大きくなって、周りの火山灰を巻き上げつつ、天に向かって伸びて行った。

 これは、竜巻?風邪魔法?なんでこんな事が出来るの?

 やがて大きくなった竜巻は、ゆっくりと移動を始め次第に速度を速めていった。

 そして、街道に沿って移動を開始した。みんな口をあんぐりと開けて呆然と竜巻を見ている。

「なんて事だ」

 お頭は思わず呟いていた。

 目の前で繰り広げられている現象は、あたし達人間の理解の範疇を遥かに超えていた。

 唖然とするあたし達に対し上空から奴の声が降り注いで来た。

「ほらぁ、早く行かないと又灰で道が埋まるよぉ。急ぎなさあああい♪」

 周りを見回すが、既に奴の姿はどこにもなかった。竜巻が離れて行った後には奴の声だけが残っていた。

「なんなの?変な奴」

 遠ざかっていく竜巻を呆然と見送っていたのだが、ふいに声を掛けられた。メアリーさんだった。

「何ぼーっとしてるのっ!さっさと行かないと、又灰で埋まっちゃうよおっ!!」


 そうだっ、そうだった。いそがなきゃ。

 みんなに声を掛け、準備の出来た者から出発して貰った。


 得体のしれない竜巻の後を付いて行くのは、かなり気味の悪いものだったが、ここに居てもしょうがないので前に進む事にしたのだが、凄いの一言だった。                           

 だって、あれだけあった火山灰が一瞬で消えてなくなっているのだ。何なんだろう?異能の力か風魔法なのだろうけど、あいつ、そんなものまで使えるの?

 考えれば考える程謎な奴だ。敵かと思えば力を貸してくれるし訳が分からない。極めつけは、このレイピアだ。

 持っただけで、ただものではない事はわかったんだよね。なんせ、持った瞬間手の先から力が抜けて行く様な妙な感覚があったから。

 ひょっとして、これって俗に言う『魔剣』?持っていていいのか?命を吸い取られるのか?謎だらけだった。

 この剣を直接触るのは怖いので、現在はワイバーンの皮で造ったロープでしばって馬の背に括りつけている。


「シャルロッテ殿、ちょっとその剣を見せて頂いても宜しいでしょうか?」

 振り返ると竜氏だった。

 ロープごと剣を渡すと、興味津々と言った様子で見回している。やがて、大きく息を吐くと、こちらに向き直った。

「シャルロッテ殿、この剣は名品ですぞ。是非使い込んであげて下さいませ」

「ええーっ、これ魔剣じゃあないの?だってこの剣、握るとなんだか力が吸い取られる感じがするのよ。寿命が短くなりそうよ」

「はっ、はっ、はっ、はっ、並みの剣ではないと言うのは当たりですな。ですが、魔剣なんかではありませんよ。それどころか、これは、、、そう、伝説の剣とでも言って良い物ですな」

「伝説の・・・」

「そう、この力が吸い取られる感じは、剣自体が生命エネルギーを吸い取って力に変えているのです。もっと力を付ければ流出する力も制御出来る様になりますので、心配はいりませんよ」

「じゅうぶん心配なんですけど・・・不安満載です」

 生命エネルギーが吸い取られるって、恐怖意外にないと思うんですけど・・・。

「彼と戦ってみてお分かりになったかと思いますが、今のままでは足元にも及ばないでしょう。彼に対抗するには、この剣の力を使いこなす事が必須だと思うのですが」

 竜氏の言わんとしている事はわかる。まっとうな意見だと言うのもわかる。でも、決心がつかない。怖い。逃げ出したい。

 なんで、あたしばっかりこんな思いをしなくてはならないんだろう。

 

「どうした?この剣が怖いのか?俺が代わってやってもいいんだが、やはりそれはお前がマブダチから貰った物なんだから、お前が使うべきだろう」

「だっ、誰がマブダチよおっ!失礼ねぇっ!!」

 本当に失礼なお頭だ。

「ナブダチでなかったら、なんでこんな伝説クラスの剣をタダでくれるんだ?普通はくれないだろうよ」

「普通じゃないのかも知れないじゃないよお」

 確かに奴は普通じゃないけどさ・・・。

「そうね、サリチアに着くまでにはまだ多少は時間があるから、無駄でもあがいてみるかねぇ」

 む 無駄って、、、なによお。確かに、メアリーさんに比べたらへなちょこだけどさあ。


「俺の勘だけどな、この剣ってもしかして・・・」

「わかっているわよ、ムスケル。これが、伝説の剣だとしたら、使う者の剣技は関係ないって事でしょ?」

「そう言うこった。さすがだな、エルンスト・ガトーの孫はダテじゃないってこったな。はっ、はっ、はっ」

「ふんっ、あんたにゃ言われたくないね。ハイデン・ハインの愛弟子なんかにはね」

「うるせーっ!!!二度とその事は口にするんじゃねえええっ!!いまいましいっ!!」

 そう言うと、お頭はさって行ってしまったのだが、なに?今の会話。えっ?えっ?ハイデン・ハインって、、、あの帝国の大将軍?

 お頭の師匠?えっ?初耳なんですけど、どういう事?それに、あの怒り方って・・・。

 聞きたいけど、聞いたら物凄く怒られそう。超地雷な感じがする、、、。

 あ、もしかしてアウラなら何か知ってるかも?

 さっと後ろに居たアウラに振り返ると、、、即、横を向いて視線を外した。それも、むち打ちになるんじゃないかって位勢いよく。

 完璧にあたしの疑問を拒絶した感じだった。これは聞いても無駄か、、、。

 

 あたしは、ため息を吐きながらお頭の事は諦め、改めて竜氏に尋ねた。竜氏なら無下に拒否はしないだろう。

「ねぇ、使う者の剣技は関係無いって、どういう事?剣って使う者の剣技が一番重要なんじゃないの?」

「はい、通常の剣におきましてはその通りで御座います。ですが、その剣は通常の剣では御座いません」

「伝説の、、、ってやつ?」

「はい、伝説かはわかりかねますが、その剣は扱う者によって発揮される能力が変わるのです」

「力が一定ではないって事?」

「はい、その通りで。扱う者によっては、駄剣にも秘剣にもなり得ます」

「秘剣?」

「秘剣とは扱う者の能力と剣の能力、ひいてはお互いの相性によって、計り知れない能力を発揮する剣の事を言います。竜王様がご即位なされましてから千年余、現在に至るまでには勇者が持っておりましたエクスカリバー、名も知れぬ男が所持していた魔剣ティルフィング、今はその所在も分からない聖槍グングニル、そして竜王様がアナスタシア殿にお渡しになられた竜王の剣。その四振りしか確認はされておりません。ですので、その剣が五振り目になるかどうかは、シャルロッテ殿次第で御座います。ただ、その可能性は皆無では無いとだけ申し上げさせて頂きます」

「それって、、、物凄く責任重大じゃないのよ」

 あたしは焦りまくったが、この後続いたアウラのノー天気な言葉に固まってしまった。普通言わないだろう、思っても。


「皆無ではないって、ほとんど不可能ですよって遠回しに言われているみたいですねぇ♪」


 その場に居合わせたみんなの視線がアウラに集まったのだが、当のアウラは気にするでもなくニコニコしている。

 天真爛漫?いや、ノー天気だろう、こいつは。


 ノー天気娘はほっといて、あたしはこのいわく付きのレイピアを使いこなす為の特訓をする事になった。

 だが、時間が無いので、行軍しながら馬上での特訓となった。

 特訓と言っても、剣を振る訳ではなく、ひたすら精神集中と気を練る事に全神経を集中させる事が特訓の全てだった。

 気を練る?ちょっと何を言って居るのかわからないのだが、竜氏がそう言うのだから仕方がない。

 目をつぶってひたすら精神を集中して、気を練った。これってひたすら眠くなるのだったが、竜氏は目ざとかった。

「シャルロッテ殿、気を練るのであって、気を寝るのではありませんぞ。気が寝てしまっては意味がありません」

 すかさず、お叱りが飛んで来る。

 食欲は我慢が出来ても、睡眠欲は突然忍び寄って来るのでたちが悪い。やる気に関わらず気が付くと、意識が飛んでいるからどうしようもないのだ。

 結果あたしの太ももは、痣だらけになってしまった。


 その様な日常が繰り返されたある日、本隊の前方を進んでいた偵察隊の一名が馬を走らせ帰って来た。

 偵察隊は、十名ほどの一団から成っており、一台の馬車と騎馬隊で構成されていた。

 表向きは仕入れの為の商人の一団と言う事になって居た。謎の印籠は持っていないが、馬車の中にはダイナ・マイトが一本鎮座していた。

 万が一の時は、これに着火して馬車を吹き飛ばして、その隙に逃げる事となって居た。

 今回は、その中の若手が一名戻って来たのだった。


「報告っ!!現時点では特に問題はありませんが、コージィ・カクタスが街道沿いで散見され始めました。その数、次第に増えて来ております。でわっ」

 報告を終えると、その者は元来た道を戻って行った。

「コージィ・カクタス?」

「自走性のサボテンよ。滅多に人前には出て来ないんだけど、どうしたのかしら?」

 メアリーさんは首を捻っている。

「自走性?歩き回るの?」

「そう、夜間に歩き回るんだけど、基本寂しがり屋でね。山奥で野宿していると体に寄り添って来るからやっかいだ」

「寄り添って?」

「そう、全身とげとげの体で、触れるか触れないかの距離でぴたっと」

「ええーっ!!」

「朝起きてビックリだよ。寝返り打とうものなら、針が刺さって悲鳴もんだよ」

「うげええええぇぇぇ・・・」

 こわっ、そんなのには会いたくないわああ。


「いや、それは違うぞ。あれは寂しがり屋なんかではなくて、只の愉快犯。人が驚いているのを見て喜んでいる性悪な奴だ。その証拠に、人里には来ない。山奥で一人で寝て居るとやって来る」

「寂しいから、やって来るんでしょうに」


 お頭とメアリーさんの漫才が始まったので、あたしはそっとその場を離れて列の先頭方向に移動して行った。巻き沿いを喰わない様に。

 さて、どうするか。報告を無視するか、確認に行くべきか。

「そりゃあ行くべきでしょう」

 あ あの、竜さんや。お願いだから人の表情を見て、心の中を読むのは止めて頂けませんですかねぇ。

 あたしは、渋い表情になるが、竜氏はニコニコしている。

 あたしは決心した。

「アウラ、行くよっ」

 そう言うと、愛馬に鞭を 打たずに、首筋をポンポンと叩いた。すると、全て了解しているが如く愛馬は走り出した。

 アウラもその後から付いて来た。

 何故か、竜氏も付いて来た。


 暫く走ると、前方に偵察隊の一団が見えて来たので、あたしは速度を落としてその一団に並んだ。

 すると、リーダーの青年が馬を寄せて来て並んだ。彼はノイマンと言って、茶髪でロンゲの国軍の少尉だった。

「これは、姐さん、わざわざお越し頂くとは・・・」

 ビックリした顔をしている。

「ノイマン少・・・でなくって、番頭さん、良くお似合いね、そのお姿」

 すると、恥ずかしいのか頬をぽりぽりと掻きながら、俯いてしまった。

「で、サボテンが出たんですって?」

 あたしは本題に入った。別にそのサボテンを早く見てみたいという好奇心とかではない、純粋に指揮官としての責任感からくるものだ。これっぽちも好奇心は、、、たぶん無い、、、はずだ、、、と思う、、いや、思いたい。


「ケン、隊列はこのまま進めてくれ。後は任せたぞ」

「了解であります」

 ケンと言う若者に隊を預けると、少尉は こちらです と街道を戻って行った。

 すると、すぐ立ち止まって道の端に馬を寄せ茂みを指差した。

「こいつです」

 近くに寄って草むらを覗き見ると、三十センチ位の何の変哲も無いサボテンが目に入った。

「これ?何の変哲も無い様に見えるんだけど・・・確かに言われてみれば周りの植物相とは明らかに違っているわね」

 街道を進んで居て、良くこんな些細な事に気が付くもんだと感心した。周りを良く見るとぽつぽつと同じ様なサボテンが目に入った。確かに数が多い、

「通常は、この様な人通りの多い所には姿を見せないはずなのですが、これは異例の事です」

「理由はわかるの?」

「うーん、自分は専門家で無いので確かな事は申し上げられません、あくまでも推測なのですが、天変地異に怯えて人の居る所に集まって来たのではないかと・・・」

「この子達って、放置したら何か弊害はあるのかしら?」

「そうですねぇ、しいて言えば、、、痛い位かと」

「そっか、説得しても帰ってくれないだろうから、放置するしかないのかしらね」

 すると、竜氏から驚きの発言があった。


「シャルロッテ殿、せっかくですから帰って頂きましょう。訓練の成果を試す良い機会ですよ」

 えっ!?何言ってるの?訓練の成果ですって?どういう事?

「さ、時間がありません。馬から降りて下さい」

 有無も言わさない雰囲気だったので、仕方が無くあたしは馬から降りたのだが、竜氏はあたしに謎のレイピアを差し出して来た。

 あたしが受け取ると、矢継ぎ早に指示を出して来る。

「剣を抜きましたらズズッと地面に刺して下さい、さっ、お早く」

 えいやっと地面に剣を突きさすと、今度は精神を集中して気を練れと言う。はいはい、やればいいんでしょ、やれば。

 しばらく気を練っていると、今度は剣を握れと来た。

 一体何なんだと、地面に刺さったままの剣を握ってみ・・・た?

「えっ!?えっ!?えっ!????うひゃああぁぁぁぁぁっ!!!」

 全身の力が剣に向かって流れ込んで行く感覚がしたと思ったら、今度は剣が発光し始めた。

 竜氏は、うんうんと頷いているが、あたしは、もうパニック状態だった。何が起こっているんだ?

 あたしは、発光している剣を力一杯引き抜いてみた。すると、剣全体が先程までとは打って変わった強烈な光に包まれ思わず目を閉じてしまった。

 ほんの数秒だったろうか、目をつぶっていると、次第に光はその力を弱めて行き、完全に光は消え去ってしまった。

 目を開けて、ぽかあんとしていると、又竜氏から指示が出た。今度は、剣を振れと言う。

 意味が分からないので、もうやけになって剣を思いっきり振って見た。

 振って見たんだよ、何もない空間に向かってえいって。ふっただけ。当然振っただけだから何が起こるでもなく、一瞬風切り音がしただけ、ただそれだけのはずだった。

 だが、異変?奇跡?は  起こったんだ。


 街道脇の草むらに点々と生えていたサボテン達が、、、、すくっと立ち上がったのだった。

 見ると立ち上がったサボテン達は皆一様に細かく震えていた。

 ええっ!? と思いつつ、剣の切っ先をサボテン群に向けたまま一歩前に踏み出すと、ざざっとサボテン達が後ずさった。

 あ、面白いかも と、更に一歩前進してみる。やはり、サボテン達は一歩後ずさる。

 さっと、左を向いて見ると、左側に居たサボテンだけが後ずさった。これは、、、、間違いない、彼らはこの剣を恐れている。もしくは避けている。

 絶対にあたしの顔を恐れている訳では無い! はずだ。

「あははははは、サボテン達、みんなお嬢の顔に気押されてますねえぇぇ」

 アウラの情け容赦のない声が街道に響き渡った。

 ちっ、後で覚えていろよ。

 

「シャルロッテ殿、訓練の成果は上がって居る様ですな。それでは、次のステップに進みましょう。そのまま剣を構えたまま、剣先に意識をググッと集中して下さい」

 集中?どうやるんだ?なんか、もう疲れてきたんだけど・・・。

「そうしましたら、全身を巡って居る力を剣先からパアァと放出する感じで開放して下さい」

 えっえっ?どうやるの?もっと具体的に教えてよぉ、グッとかパァっとかじゃわからないわよぉ。

 ええいっ!もう何でもいいわっ、やけ〇そよぉ。これで  どうだああぁぁぁぁっ

 目をつぶって力の限り踏ん張ってみたっ!!


 ・・・・・んんっ?どうなった?

 つぶった眼を恐る恐る開けて見ると、周りに居たサボテン達は一匹も  一匹と言っていいのかわからないのだけど、居なくなっていた。

 後ろを振り返って見ると、みんな口をぽかんと開けて前方の草むらを凝視している。やったのか?あたしがやったのか?

 なんかわからないけど、凄いじゃん、あたし。

 凄いんだけど、毎度毎度なんだけど、しまらないあたしだった。きっちり決めて、何事も無かった様な顔で馬に戻れればカッコが良かったのだが、例によって例の如く、あたしは力を使い果たして、その場に崩れ落ちてしまったのだった。

 ちゃんちゃん。


 倒れる刹那、視界に入ったのは竜氏のしたり顔だった。


 次に目が醒めたのは、ガタガタ揺れる食料運搬用の馬車の荷台の上だった。おそらくあたしの寝るスペースを作る為に食料の箱をどけてそこに寝かせたのだろう。あたしの腹の上には元々の住人である食料の入った箱が居場所を返せとばかりにのしかかって居る。

 そうか、あたしが目覚めたのは、こいつらが崩れてお腹の上に突撃してきた衝撃のせいだったのか。

 なんて雑な仕事だ。これじゃあ、たんに邪魔者を放り込んだだけじゃないか。

 お腹が苦しいんだが、周りに誰もいないのか?


 早く助けてくれーっ!!!



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