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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
44/187

44.

 その後も、絶え間なく情報が上がって来ていた。

 トッド室長が居なくても、滞りなく上がって来ている。

 思わず、室長がおらんでもいいんでないのかって思ったりもした。


 しばらく様子を見ていたんだけど、大して興味を引く情報は入って来なかった。一つを除いて。


 紙の束を持った女性の職員が神妙な面持ちでやって来たのは、あたしがこの情報処理室に入ってから小一時間ほど経った頃だった。

「あのぉ、シャルロッテ様。重要な情報では無いのですが、興味深いものが入って来ていますけど、ご覧になりますか?もっとも、まだ裏が取れていないので、あくまでも参考までに、、ですが」

 ここの職員は、男性ばかりだと思っていたんだけど、女性もいたんだ。

 そう思いながら、退屈しのぎに持って来てくれた報告書|(仮)を受け取り目を通した。


 まず最初の報告は、、、、なになに 幻の神獣の目撃報告?

 なにそれ?えーっと、遥か南方の海で三百年ぶりに幻の神獣の目撃談が相次ぐ?

 神獣、、、。そんなものがまだ生存していたんだ。ていうか、あまり目撃されると幻じゃあ無くなっちゃうじゃない(笑)

 どんな神獣なの?ふんふん、体長百メートルを上回るの魚型の獣?おおきいなあ。でも、詳細はそれだけなんだね。

 名前は、、、メダカーン?

 なんか、これだけじゃよくわからないし、南方の海じゃあ今回の騒動とは関係ないわね。

 まあ、いいか。

 次の報告は、、、。


 そこには カーン伯爵夫人と家族について と表題が付いていた。

 書いてある内容を要約すると、こんな感じだった。


 カーン伯爵率いる反乱軍が首都ボンバルディアに入城して五日後、約百名もの使用人を引き連れて伯爵夫人はやって来たそうだ。

 彼女の目的地は、迎賓館。贅を極めたその広大な敷地と建物を自らの所領にするのが一番の目的だったらしい。

 息をするよりも贅沢が大好きな彼女の欲求を満たすには、迎賓館はおあつらえ向きだった。入城したその日から、豊富な国庫の財源と夫の立場を背景に贅沢の限りを尽し始めた。

 調度品は全て自分の好みの物に替えさせるのは当たり前。寝具は毎日新しい物に替えさせ、着る物も同じ物は二度と着ない為、当座の着替えとして三百着を超えるドレスを持ち込み、さらに王都中の仕立て屋を招集して新しいドレスの政策を命じる周到さだった。着ないのであれば捨てるのかと思えば、専用の倉庫に保管させて置く異常な執着心を持っていた。倉庫には決して足を踏み入れないにもかかわらずその床には足首が隠れる位毛足の長い絨毯を敷き詰めさせた。

 食事も、少ないと見栄えが悪いからと、大皿に大量に作らせ、食べるのはどの皿も一口だけ。大勢のシェフが心血注いで作り上げた華麗に装飾された料理さえも、食べるのは一口だけ。一口食べるとすぐに下げさせた。残りの物は使用人に食べさせるのかと思えば、決して食べさせずに廃棄する事を厳命していた。

 味が好みに合わないとか、豪華さが足りない!粗末である!とかのくだらない理由で多くのシェフが奴隷落ちさせられ地下牢に幽閉されているとの事だった。

 何が彼女をこんなにも物欲の権化にしているのか、理解しがたかった。もっとも、理解などしたくもなかったが。

 夜になると、若くて美形の男達を何人も周りにはべらせ、、、って、こんな事も調べ上げるのおぉ??びっくり!

 王都二百五十万の市民が十日は暮らせるであろう金額を、彼女一人が一日で使ってしまう浪費ぶりなので、イルクートの収入だけでは満足のいく贅沢は出来なかったであろう事は容易に想像が付く。

 伯爵がクーデターで王都を欲しがる気持ちも分からないでもない。決して許せる事ではないが。

 そこまで読んで、ふと今はどうしているのだろうと言う疑問が浮かんだ。ラムズボーン要塞には来て居なかったはずだ。無事奴らから奪還して平和になった王都に居られるとも思えないし、捕まって処刑されたと言う話も聞いていない。贅沢の権化である彼女に、落ちぶれた生活が出来るとも思えない。どうなったんだ?

 ここまで来ると、ほとんど只の好奇心でしかなかった。


 ぱらぱらと報告書を流し読みしていて、ふとあるページで手が止まった。

 それは報告書の最後の方だった。

 そこには、迎賓館の謎 と書かれていた。

 読み進めると、王都を制圧し伯爵夫人が迎賓館の主になった三日後、唐突に迎賓館が消滅したと書かれていた。

 消滅?どういう事?あれだけの規模の建造物が消滅?破壊とか崩落ならまだ理解出来る。消滅?消えた?理解が追い付かない。

 あたしは、この報告書を持って来てくれた女性職員を探した。ああ、居た居た。

「ねえ、あなた!報告書を持って来てくれた、そこのあなたぁ」

 すぐにあたしに気が付いた女性職員は後ろに縛った髪の毛と巨大な胸をを揺らしながら小走りにやって来た。制服の上着がきつそうだったが、今はどうでもいい事だった。

「なんでしょうか?シャルロッテ様」

「ここに書いてある迎賓館消滅って、どういう事?」

 と、単刀直入に質問した。

 あたしが差し出した報告書のページを見た職員は、困った様な表情で頭を下げあたしに告げた。

「申し訳御座いません、私はこちらで上がって来た情報を整理するのが仕事でありまして、報告書の内容や詳細についてはわからないのです。ですので、この報告書を持って来た調査員に直接ご説明をさせますね。多分上で休んで居ると思われますので、今呼んでまいります。しばらくお待ちください」

 そう言うと、小走りに走って行ってしまった。


 あたしは、その調査員?が来るのを待つ間に迎賓館の威容を思い出していた。

 国外からの賓客をおもてなしする為の施設であるので、見栄もあって王城にも劣らない景観及び内装となっていたはずだ。石造りでお城の様な佇まいの三階建ての建造物が辺りにその威容を誇って居たはずだった。建物のいたるところには贅沢の粋を施してあった。庭にもかなり手が入っていたはずだった。

 あたしも子供の頃行ったきりだが、たしか廊下は子供のあたしが足を取られて転ぶくらいに毛足の長いふかふかした絨毯が敷き詰められていたはずだ。

 又、周囲は深い掘りに囲まれており、警備も万全だったはずだ。例え戦になっても何か月かは籠城戦が出来る位には堅牢な造りになっていたと思う。そんな迎賓館が消滅?誰かが持って行った?まさかねぇ、もう、あたしの想像の範疇から外れていた。


 そんな事を考えていたら、さっきの女性の職員さんが二人の子供を連れて・・・・子供?なぜ子供?調査員を呼びに行ったんじゃないの?

 驚く表情のあたしの顔をみて、職員さんは微笑んだ。

「驚くのも無理はありませんね、彼女達は当組織の中でもトップクラスに優秀な調査員なのですよ」

「えっ?」


 そこで、さらにあたしはカウンターパンチを食らった気分だった。彼女?女の子?確かに女の子の様だった。だが、こんなせいぜい十歳に成るか成らないか程度の子供達が調査員?そんなに我が国には人材が居ないの?

 すると、その少女達は一歩前に出て深々とお辞儀をした。

「お初にお目に掛かります。私はシュトラウス情報調査室所属の調査員のアンジェラと申します」

「お初におめにかかります。私もシュトラウス情報調査室所属の調査員のジュディと申します。以後お見知り置きを」

「あ ああ はい」

 あたしは、元気一杯の挨拶に圧倒さてしまった。

「では、詳しくは彼女達にお尋ね下さい、私はこれにて失礼致します」

 そう言うと、女性職員はこばしりに、、、彼女はいつでも小走りなんだなあと走って行く後ろ姿を見送っていると、周囲でも何人かの男性職員が揺れる巨大な胸を見送って居る姿が目に付いた。まああたしには関係ないと、小さな調査員達を連れて別室に有る休憩スペースに向かった。

 ここは、パーテーションで区切られていて、休憩する人もほとんど居ないので落ち着いて話が出来ると思ったのだ。


 テーブルを挟んで向かい合わせに着席を促すと、あたしはにこやかに話し掛けた。

「あたしはシャルロッテ、疲れて帰って来たばかりなのにごめんなさいね」

 そう言うと、可愛い調査員さん達は顔を真っ赤にして両手を前に突き出しふるふると振って居る。可愛いんだけど。

「「そんな、滅相もありません。私達の様な末端の者にお声を掛けて頂き恐縮至極であります」」

 あらあ、誰かさんとは違ってしっかり躾がされているのね。


 すると、後ろでくしゃみがした。アウラが入って来たみたいだ。


「そんなにかしこまる必要はないわよ」

「「そんな訳には参りません」」

 堅いなぁと苦笑いしながら、改めて疑問点を彼女達にぶつけてみた。

「そんな事よりもさ、迎賓館が消滅したってどういう事?」

 ふたりは顔を見合わせている。なにか不都合でもあるのかな?しばらく黙って見ているとブルーの長い髪の毛を後ろで束ねた方、アンジェラが恐る恐る話しかけて来た。

「あのぅ、信じて貰えないかもしれませんが、聞いて頂けますでしょうか?」

「うん、大丈夫、あなた達の話す事は信じるから話してみて?」

「はい、あの日あたし達は迎賓館でカーン伯爵の動向を窺って居りました。あれは、深夜の日付が変わって直ぐでした。あの日は月も無く真っ暗な夜でした」

 そこまで言うと、今度は緑色をしたショートの髪の毛が良く似合うボーイッシュなジュディが話を続けた。

「真っ暗な闇の中、突如迎賓館の建物がぼんやりと光り出したのです。正確には、建物を包む様にと言ったら良いのでしょうか、その空間が迎賓館を取り囲む様にまあるく光り出したのです、何の前触れも無く、、、です」

「うんうん、まるで石鹸の泡に取り込まれるみたいにまん丸に光り出して、次第に明るさが増して行き、そう辺りは天上の月が降りて来たみたいに輝きだしたのでした」

 アンジェラも同意する様にそう付け足した。

「月・・・まんまる・・・」

 確かに、そんな事いわれても、即座には信じがたいわよねぇ。

「そして、しばらくそのまん丸の光の玉を見ていると・・・」

「「突然消えたのです。パッと!!」」

 身を乗り出して同時に叫ぶ二人に一瞬圧倒されたのだった。

「消えた、、、んだ」

「「はい!即座に迎賓館があった所に駆けつけました。真っ暗で良く分からなかったのですが、それでも建物が無いのはわかりました」」

「真っ暗なのに?」

「はい、建物が有るはずがないのです。地面が無かったのですから。私達も駆け寄った時に深い穴に落ちそうになりました。さっきまで迎賓館かあった場所には巨大な穴が突如出現していたのです」

「えっ!?」

 どういう事?地面が無い?深い穴?

「辺りは真っ暗で確認しようが無かったので、私達はその場を離れました」

「松明で確認しなかったの?」

「それも考えましたが、この珍現象を起こした奴が近くに居る事が考えられましたので、危険と判断しました」

 なるほど、優秀って言われるだけの事はあるわね、いい判断だわ。

「お嬢より判断力があるんだな」

「そう、そうなのよ、あたしも今そう思って・・・って、何言うのよ!!!」

 当然ながら、声の主はお頭だった。アウラも居た。ちっ、可愛くない!


 すると可愛い調査員達は椅子から立ち上がって、お頭の方に向き直って頭を下げて挨拶をしていた。

「「あの『うさぎの手』のムスケル様とお見受け致します。」」

「お初にお目に掛かります。私はシュトラウス情報調査室所属の調査員のアンジェラと申します」

「お初におめにかかります。私もシュトラウス情報調査室所属の調査員のジュディと申します。以後お見知り置きを」

 さっきと全く同じだった。ずいぶんと訓練が行き届いているんだな。

「挨拶はいいから、その続きを聞かせてくれないか」

 お頭とアウラも近くから椅子を持って来てどっかとすわった。椅子がぎしぎし悲鳴を上げているが、我関せずなお頭だった。

 再び椅子に座った二人は話を始めた。

「夜が明けてから、迎賓館のあった所は 大きな穴が開いてまして建物は残骸すらありませんでした。そして驚愕したのは、その巨大な穴の形なのです」

「形って?」

「そうですねぇ、例えて言うなら巨大なボールを地面に押し付けた感じですかねぇ」

「私達調査員は、物事を客観的に見る様訓練されており個人の意見、感想は一切入る事はないのですが、敢えて言わせて頂きますと丸い球形に地面を切り取られたとしか思えません。そんな事が可能とは思えませんが」

「なるほど、、、それで消滅なのね。ねえお頭、やっぱり異能者の仕業なのかな?」

「でたらめ人間と対峙しているからなぁ、何が有り得るのか、有り得ないのか基準がわからなくなってきたなぁ。それよりも、迎賓館が消失した時に誰が中に居たんだ?」

「はい、あの時に中に居たのは、カーン伯爵と伯爵夫人、そして伯爵の次男、三男、四男の所在が確認されております。それ以外にも、使用人が百八十二人確認されております」

「それが全部一瞬に消えてしまったと」

「はい、そうとしか報告の仕様がありませんでした」


 誰も言葉を失い、その場には重苦しい沈黙か訪れ、周りで大勢の職員が走り回る音だけが響いていた。

 お頭がこめかみを押さえながらぼそっと呟いた事で重苦しい静寂が打ち破られた。

「あの馬鹿長男は何で居なかったんだ?迎賓館に。あそこが奴らの仮の住まいだったろうに」

 うんうんと頷きながらアンジェラがぽつりぽつりと話し始めた。

「確かに、あの迎賓館が彼らの現在の住まいでした。前日までは長男も帰って来ておりました。あの問題の日だけ未帰宅でした。その事に深い意味があるとは思わず、私達は迎賓館だけを監視しておりました。迂闊でした」

 己の迂闊さに恥じ入り俯いてしまった二人だったが、柄にもなくお頭が優しい声を掛けた。

「お前さん方が悪い訳じゃあないさ。こんな事が起こるなんて、誰が想像出来るよ。気にするんじゃねぇよ」

「そうよ、あなた達は十分以上の働きをしているわよ。お陰で、なんだか全容が見えて来た気がするわ」

「ほう、頼もしいじゃあないか。どう見えて来たんだ?」

 お頭が意地悪そうな顔を向けて来た。

「うん、あの日だけ居ないって不自然じゃない?どう考えても長男が身内殺しをしたとしか思えないわ。あの長男なら、紫の奴らを擁しているのだから、実行は可能だと思うの」

「まあ、これだけ情報があれば誰だってそう思うわな。じゃあ犯行に及んだ動機は何なんだ?」

「動機ぃ?そんなの知らないけど、あのバカボンの事だもん、どうせテッペンに立っていばりたかったんじゃあないの?王都占領という面倒な所は父親である伯爵がやってくれたから、自分は美味しい所だけ持って行こうとしたんじゃないのかな?」

「まぁ、お嬢の頭じゃそんな所だろうな」

「なによおぉ、それっ!随分馬鹿にしてるじゃない?」

 あたしは、ちょっとカチンとした。何故ちょっとなのかって言うと、自分でも多少は自覚しているから。

「お二人さんはどう思うよ?」

 今度はお頭は調査員の二人に話を振った。当然二人はビックリした顔をしてお互いに顔を見合わせている。

「どうだ?」

「あ、あの、私達は観察して報告するのがお役目で、私心を挟む事は許されておりません」

「ここは正式な場所じゃねえ、俺が良いって言ってるんだ、忌憚なく意見を言ってみろよ。普段は何も言えずにストレス溜まってるんだろ?構わねえから言っちまいな」

 お頭にかかると、ルールも慣習もどこかへ飛んで行っちゃうわね、毎度の事だけど。

 お互いに顔を見合わせて何事か一言二言言葉を交わした二人だったが、遠慮がちに口を開いた。

「この事は極秘事項になっていたのですが、あの長男は伯爵の実の子供ではありません。母親が嫁いで、、、というか、伯爵に買われて来た時には既にご懐妊されていたのです」

  知らなかった、、、調査員ってそんな事も嗅ぎまわっているんだ。ひょっとして、あたしの子供の頃の秘密も探られているとか?ぶるぶるぶる、なんか震えが来た。

「ほう、父親違いなのか。確かに他の兄弟みたいにぼやーっとしていないとは思っていたがな、それで父親は誰なんだ?」

「さすがにそこまでは調査は行われておりませんが、夫人の家系は代々異能者を何人も輩出しておりますので、従兄弟とかその辺りではないかと思われています」

「ん?なんで従兄弟だと思うんだ?」

「あくまでも推測の域を出ないのですが、長男が率いている紫の異能者軍団は全て母親の一族なのです。ですので、何か深い繋がりがあるのではと推測する次第であります」

「ううむ、その一族が力を増やす為に伯爵に嫁として差し出したとも考えられるな」

「はい、私共もそう考えております。ただ、そこで疑問が一つ浮かんできます」

「何故、母親も一緒に抹殺したか?」

「はい、そうです。父親と兄弟を始末したのは何となくわかります。母親を無理やり妻にした男とその血筋ですから、復讐心で始末した可能性もあるのでしょう。でしたら、なぜ母親も?と言う疑問が・・・」

「ただ、単に相性が悪かった。じゃあ駄目か?」

「うーん、有り得ない事ではありませんが、動機としては少々弱いかと」

「だよなぁ、ちなみに母親の一族ってもしかしてあれか?」

「はい、良くご存じで。ご想像通り、あの悪名高いパープルトン家です」

「悪名高い?」

 あたしはたまらず口を挟んだ。パープルトン?聞いた覚えがないんだけど。

「お嬢は知らなくて当然だな。パープルトン家って言うのはなお嬢が産まれた頃には既に衰退の一途を辿っていたんだよ。

「なぜ、衰退したの?それに、そんな落ちぶれた家から良く伯爵家にお輿入れ出来たわね?」

「まあ、ありていに言えばウインウインの政略結婚だな。パープルトン家はお家再興をしたい、伯爵は異能の血が欲しい。それに夫人のメディアは絶世の美女だしな。話はとんとん拍子に進んだって話だぞ」

「そんな異能の血を欲しがって一体何を・・・あ、そうなんだ、その頃からクーデターを考えていたって事?随分気の長い話なんだけど」

「やっとわかってきたか。ま、ほとんどが推測なんだがな」

「いえいえ、ムスケル様の御考えは私達の認識とも一致しておりますれば、大筋では間違いはないかと」

「そうか、しかし動機がわかってもなぁ、今一番知りたいのはその長男の行方なんだよ。それと、奴が連れている異能者がどれほどの能力を持っているかだ。ほかにもそんな厄介な力を持っている奴が居るのかも気になるな」

「そうですね、報告ではまだ十数人は存在していると聞いています。相手の力が分からないとこちらも手の打ちようがありませんからね。今、パープルトン家の方にも仲間が調査に入っております、もうしばらくお待ち下さい」

「そうですよ、自称伯爵の行方も現在仲間が総出で探っております。かなり難航していると聞いてはおりますが」


「みんなそれぞれの持ち場で頑張っているのね、あたしも負けない様に頑張らなくちゃ。でも、何を頑張ったらいいんだろう、、、」

 そこで、又お頭の髪の毛くしゃくしゃ攻撃が発動したー。

 あたしの頭をその巨大な手とばか力でくしゃくしゃしだした。

「おかしらあああぁぁぁ、やめてってばあぁ」

「聖女の嬢ちゃんだってまだ復活していないんだ、お嬢は復活に備えてゆっくりしてればいいんだよ。はっはっはっ」

 全然ひとの話しを聞いて無いし、、、。


「お嬢は、お頭に気に入られているんですよ」

 アウラはそう言うが、あたしにはそうは思えない。面白いおもちゃ程度にしか見られていない気が、、、いや、見られていない確信がある。


 こんな穴倉の中に居ても気が滅入ってくるので、あたしはアナ様のお見舞いに行く事にした。

「二人とも疲れているのに呼び出しちゃってごめんなさいね。戻ってゆっくり休んでね。本当にありがとう」

 そう二人にお礼を言って解放してあげようと思ったのだが、何故か彼女たちは何故かもじもじしていて動かない。

「ん?どうしたのかな?」

 と問いかけると、二人とも突然立ち上がり背筋をぴんと伸ばして敬礼をしてくる。

「???」

「アンジェラ・ラミントン、本日付でシャルロッテ様の元に配属されました。宜しくお願い致します」

「えっ?」

「ジュディ・ラミントン、本日付でシャルロッテ様の元に配属されました。宜しくお願い致します」

「えっ?えっ?」

 どういう事?

「「この度は、迎賓館の監視が終わったので、私達はシャルロッテ様の元に配属される事になりました」」

「聞いて居ないんだけど、、、と言うか、あなた達姉妹だったの?」

 びっくりして二人を見つめると、ニコニコしながら説明をしてきた。

「髪の毛の色は違うのですが、私達は正真正銘姉妹ですよ。それも双子なんです。二卵性なんですけど」

 なるほど、そう言えば何気に似ているわねぇ。

「わかったわ、宜しくお願いするわね」

「「はーい!!」」

「あたしはこれからアナ様のご様子を伺いに行って来るわね。あなた達は自称伯爵の逃走経路及び潜伏先の情報を集めて貰えるかな?」

「「了解です。行ってらっしゃいませ」」


 てな訳で、あたしは久しぶりに修道院に来て居る。

 入り口にはタレスが立ち番をしている。彼には労いの言葉をかけ、あたしはアナ様のお休みになられている寝室へと向かった。

 アナ様はまだ意識を取り戻されていない。心配になったあたしは、竜氏に回復の状態を訊ねた。

「どうなの?そんなに状態は悪いのかな?」

 振り返った竜氏はあたしを見上げて静かに首を横に振った。

「もう回復なされても良いかと思うのですが、なんとも・・・。わたしに出来る事は全てしたのですが、これ以上は・・・」

 なんとも切なそうな表情をしている。

 アナ様は顔色も良く、ただお休みになられている様で、今にも起きてこられそうなのだが・・・。

「ねえ、竜王様だったらなんとかなるのかな?」

 ぎょっとした顔をした竜氏は、立ち上がってあたしに向き直りゆっくりと話し出した。

「竜王様は竜脈を移動させる為、その膨大な竜力を大量に消費なされました。ですので、現在は回復の為深い眠りにつかれております」

「それって、どの位で起きて来れるの?竜力ってなに?」

「さあ、それはわたくしにも計りかねます。数年か数百年か。竜力と言うのは、そうですね、竜王様の生命力、竜の力の源とでも認識して頂けば宜しいかと」

「うーん、竜王様ですら竜脈に干渉したらそんなに力を消耗するのに、奴らは人間なのにやってのけたって事になるわよね。有り得ないと思うんだけど」

「その点はわたしも同意見ですね。有り得ない事です」

 眉間に深い皺を寄せて竜氏が呟くと、すかさず否定する声がした。

「有り得ないなんて事は有り得ないんじゃがな」

 振り向くと、そこには年の頃は七~八歳位だろうか、我が国では珍しい黒い髪の毛の男の子が立って居た。

「警備はなにしてたのよおぉ、しょうがないわねぇ。ボクぅ、ここは一般人は入っちゃいけない所なの、さあお母さんの所に帰りなさい」

 そう言うと、その子供を部屋の外に追い出そうとした時、あたしは違和感を感じてなにげに竜氏を見た。すると、、、竜氏は固まっていた。

「えっ?竜さん、どうしたの?」

 そう問い掛けたのだが、あたしの声は竜氏には届いて居ないみたいで、口をぱくぱくしていた。


「・・・・な  ぜ」


 辛うじてそれだけを言うと、竜氏は、、、活動を止めてしまった。

 反対に謎の少年は余裕の表情で微笑んでいた。



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