43.
休めと言われたが、とっても休んで居られなかったあたしは、森から出て街道を見渡せるちょっとした高台に居た。
いつの間にか雨は小降りになっていた。降り積もった火山灰と激しかった雨のせいで街道は泥沼の様だった。
馬車はもちろんの事、歩きの者も膝近くまである泥のせいで、満足に歩けない状態だ。
そんな中、お頭の号令の下『うさぎ』の面々が街道に出て、火山灰の泥を除去してくれている。
水を含んで重くなった火山灰をスコップで街道の両脇にどけていくのは生半可な苦労ではないだろう。だが、作業をしてくれている人をみていると、どう見ても『うさぎ』とは無関係と思われる一般の人が大勢参加しているではないか。
どういう事なんだろう。みんな旅の途中なんだから先を急ぎたくはないのだろうか?
怪訝な顔をして街道を見つめていると、アウラが声を掛けて来た。
「彼らはボランティアみたいですよ。避難させて貰った上に食料を分けて貰った事がよほど嬉しかったのでしょう、自ら進んで参加してくれているそうですよ」
「そうなんだ。ありがたい事ね。でも、ベルクヴェルクまでは何百キロもあるのよ、開通するまでいったい何か月かかるか・・・」
そう、ベルクヴェルク迄の全行程が火山灰に埋もれている訳ではないものの、少なくともここから数十、いや百キロ程度は埋もれていると考えるべきだろう。
更に、雨でドロドロになった火山灰が泥状となり、それが乾いたらスコップで掘り進んだとしても一体どれほどかかるのか想像も出来なかった。
それなので、シャルロッテは悩み焦っていたのだった。
しかし、「下手な考え休むに似たり」だった。
「もうしばらくお待ちください。現在、我が配下がこちらに向かっておりますれば」
竜氏だった。
配下?それってもしかして・・・。
あたしの表情から考えている事がわかったのだろうか?
「はい、先日イルクートから食料を運んだあのモノ達でございます」
「ああーっ、あの竜くん達?又、来てくれるの?」
あたしは、嬉しそうに声を上げた。だが、その時疑問が浮かんだ。
「あ!でも、あの小型の竜達よね?来てくれるのは嬉しいんだけど、あの短い手でスコップ持てます?」
浮かんだ疑問をそのまま声に出していた。
その質問を聞いた竜氏は優しく微笑んでいる。
「ほっほっほっ、ご心配はいりませんよ。彼らは炎のブレスが吐けますので火山灰位問題無く排除出来るはずですから」
「そうなんですか?凄いんですねぇ」
「はい、ですので今街道で働いている方々には安全な場所まで下がって頂けますでしょうか?」
どんな形で火山灰を除去するのか想像が出来なかったが、この状況での助っ人の申し出は、実に心強かった。
アウラに頼んで、街道で作業をしている多くの人々に非難を促してもらった。
みんな、首を傾げながら街道から離れて、それでも何が起こるのか気になるのだろう、街道を見下ろせる場所まで避難すると、腰を落として汗を拭っている。まるで何かの見世物の開演を待つ観客の様だった。
「おい、お嬢。何が始まるんだ?」
「あんた、何始めるつもりなんだい?」
眉を顰めながらお頭達が斜面を登って来るのだが。
「あたしも良くわからなーい。でもね、もう直ぐ助っ人が来るみたいなんだよねぇ」
「助っ人だあぁ?」
そりゃあ、わかりますよ、その気持ち。あたしだって同じ気持ちだもん。
それから小一時間ほど経った頃だろうか、あたりがざわざわとざわついて来た。
みんな、何事かときょろきょろ辺りを見回している。
次第にみんなの視線が一点に集まり出した。それはベルクヴェルクの方角だった。
最初は遥か地平線の彼方に赤い点が見えるだけだった。そして何事かと見ている内に、その赤い点は明滅しながら次第に大きくなって来た。
そして、赤い点の上空?にはなにやら黒い点も見えて来た。
その頃には、森に居たほとんどの人々がその異変に気が付き、興味津々に近寄って来る何ものかを見守っているのだった。
子供たちは、わくわくしながら何が来るんだろう、何が来るんだろうとはしゃぎながら見つめている。
大人は、只々呆然と立ち尽くしているだけだった。
年配者は、この世の終わりだとしゃがみ込んで己の崇拝している宗派の念仏を唱えている。
そんな中、目ざとい者がやって来るモノに気が付いて叫び声を上げた。
「ええっ!?ドラゴン?あれ、ドラゴンじゃねえのかっ!?」
「ああーっ!!本当だっ!!ドラゴンだっ!!ドラゴンがやって来るぞーっ!!」
「ええーっ!!なんでぇ~?襲って来たのぉ!?」
「ドラゴンって、敵じゃないのおぉ?何で街道を掃除してるのおおぉ??」
そう、『うさぎ』の者なら、敵で無い事はじゅうじゅう承知なのだが、まだ、一般市民にとってはドラゴンは人を襲う凶悪な獣としての認識が大半を占めているのが現実だった。
ましてや、炎を噴き上げながら一直線に迫って来るのだ、恐怖を覚えるのに十分と言っても良いだろう。
恐れおののき、逃げ惑うのも無理は無かった。だが、そんな人々の前に両手を広げ立ち上がった人が居た。
「みなさん、落ち着いて下さい。あの、竜達はわたくし達の窮状を救う為に遥かベルクヴェルクの山からやって来て下さったのです。恐れる事はありません、みなさんでお出迎えいたしましょう」
悲鳴を上げ混乱が広がりつつあった森に、凛とした声が響き渡った。
それは、長らく眠りに就いていたアナスタシア様だった。
そのお声にはっとして振り返ったみんなの顔に安堵の色が広がって行った。
そして、一人、また一人とアナ様の周りに人々が集まり膝まづき始めたのだった。そして、頭を深く下げ胸の前で両手を強く握り祈り始めたのだった。
「すげえよなぁ、あの求心力。俺達じゃあ天地がひっくり返ったって出来ない相談だよ」
「ホントよね。あの人心を心の底から心酔させるあのお力は、まさに聖女様そのものよね」
感心しきりのお頭とメアリーさんだったが、あたしは何で今の今まで寝ておいでだったアナ様が竜の事を知って居るのか、そっちの方が気になった。
「さあ、わたくし達の為に遣わされた竜達の為に祈りましょう。感謝の気持ちを込めて祈るのです」
ついさっきまで騒然としていた森の中は静まり返って現在は物音ひとつしていなかった。
そんな中、次第に接近して来た竜達の吐く炎のブレスの音とバサバサと羽ばたく音、そしてドスン、ドスンという音を伴った地響きだけが、次第に大きくなっていった。
あたしは祈りをせずに森の端に出て竜達の仕事を見ていたのだが、その作業内容には竜ってこんなに器用なのかと感心してしまった。
竜は作業をする一匹だけが街道に降り立ち歩きながらブレスを吐いていたのだが、それも細く収束させた炎を正確に街道に吐き出し火山灰を吹き飛ばしていた。
しばらくその作業を続けると、炎がかすれていく。するとおもむろに作業をやめどこかへと飛び立って行った。
すかさず次の竜が降り立って作業を続けるといった具合で、見事な連携だった。
そうかあ、それで交代要員として上空には十匹位の竜が飛んでいるのね。
感心して見ていると、竜氏がやって来た。
「竜さん、ありがとうございます。それにしても、素晴らしい連携ですね」
「いえいえ、とんでもございません。あれは竜族の中でも末端に近い種なのですが、それでも知能が結構高いのですよ。これ位は難なくこなせます」
「そうなんですね。でも、上空を飛んでいるよりも後ろを歩いていた方が疲れなくて良いのでは?」
「ははは、そうですね。でも、彼らは歩くより飛んでいる方が好きなのですよ」
「ああ、そうなんですね。それで、終わった後はどちらに?」
「おそらく食事でしょうな。それと休憩ですか、又次の作業の為に戻って来ますよ」
「本当に、感謝しかありません。あたし達はどうやってこの恩義に報いれば良いでしょうか?」
「恩義など感じる必要はありませんよ。みんな出来る事をしているだけですから」
竜氏は屈託のない笑顔で答えた。以前は無表情だと思っていた彼だったが、最近は表情が豊かになって来たんだなと思った。
街道に視線を戻すと、丁度森の前を竜が炎を吐きながら通り過ぎる所だった。
その足元を小さな子供達が歓声をあげ、手を振りながら一緒に走って居るのが見えた。熱くないのだろうか。
小型とはいえ、大型の熊よりも更に大きな竜が炎を拭きながらのしのしと歩いていて、その脇を子供たちがはしゃぎながら走って居る。なんてシュールなんだろう。
そして、目を逸らす事が出来ない現実にも気が付いた。
それは、吹き飛んだ火山灰の行方だった。
炎のブレスによって吹き飛ばされた火山灰は、当然だが街道の両脇に堆積していった。
その堆積した火山灰の下には、、、この地方の特産物である小麦の畑が広がっていたのだった。
現在、街道沿いの小麦畑は、分厚い火山灰の下に埋もれてしまい、壊滅と言わざるを得ない状況だった。
「あーあ、これじゃあ小麦の被害は甚大ね。事が収まったら父上に交渉して損失を補填して貰わないとね」
遠ざかって行く竜の後ろ姿を見送りながら、あたしは呟いた。
おそらく、竜はこのままラムズボーン要塞まで街道の火山灰を除去してくれるのだろう。あたしはあたしに出来る事をしようと頬をぱんぱんと叩いて気合を入れた。
竜が通り過ぎた後を見ると街道が綺麗になっていた。
あたしは振り返るとみんなに向かって右手を上げて叫んだ。
「さあっ、急いで出発の準備をして頂戴っ!!すぐ、出発するわよおっ!!」
そう叫ぶとアナ様の立っておられた所に向かって駆け出して居た。
「アナ様あぁっ!!」
しかし、、、膝まづいた人々をかき分けてアナ様の所に到着した時、そこにはアナ様の姿はなかった。
そして、地面に横たわって居るアナ様に気が付いた。
「アナ様・・・」
慌てて駆け寄りアナ様の脇に腰を降ろした。
「アナ様、まだ体調が戻ってなかったのね」
周りを取り囲んだ人々が心配そうにおろおろと見下ろして居た。
「はい、ごめんよ、ごめんよ」
騒ぎに気が付いたお頭が、人混みをかき分けてやって来た。
あの無駄な怪力も、こんな時には役に立つ。
お頭に抱え上げられたアナ様は直ぐに馬車に運び込まれ、移動しながら竜氏によって回復の為の処置がなされる事となった。
その後、あたし達は火山灰が綺麗に除去された街道の上にあり、一路南下していた。
ラムズボーン要塞の事が気になってしょうがないのであるが、今は仕方が無かった。
あたしは後ろを振り返り振り返り、疾走する馬の上から煙が立ち昇り続けるラムズボーン要塞をいつまでも見ていた。
そして、数日の旅路の末、ベルクヴェルクに戻って来たのだった。そんなに長い事ここに居たわけでもなかったのだが、不思議と懐かしい感じがした。
到着後、アナ様を修道院へお送りし、竜氏に回復支援をお願いすると共に、アナ様直属の従者としてタレスとジェイを貼り付けた。
怪しい、、、と言うか、不気味な奴が徘徊しているので、周囲をメアリーさんを中心にした「うさぎ」の精鋭で二十四時間の警備体制を組んだ。
あたしはお頭と側近のオグマさんを伴って、ベルクヴェルク街はずれにある表向きは宿屋とされている大きな屋敷の前に来て居る。この屋敷の地下には密かに設営されている公国最高機密の一つ、シュトラウス情報調査室があった。
ここは、あたしにとっては秘密基地の感じがしてわくわくする場所なのだが、国の行く末を決めると言っても決して大げさではない大切な情報を分析する施設の一つだった。
あたし達が屋敷に近づくと、中からどこにでも居そうで特徴の無い平均的なおじさんが出て来た。
この人こそ、この施設を束ねている室長のトッド・ウイリアム氏だった。
「おおっ!!シャルロッテ様、お帰りなさいませ。大活躍でしたなぁ」
「ないないない、活躍なんてしてないって。ただ、新旧伯爵に振り回されて右往左往していただけよお」
「いやいや、ご謙遜を。結果的に反乱分子は排除出来たではないですか。ま、ここではなんですので、中にお入り下さい。色々情報は上がって来ておりますれば」
あたし達はみんなから穴倉と揶揄されている地下の情報処理室へ移動した。ここに潜るのも久々だった。
情報処理室では、相変わらず大勢の職員が走り回って居た。
部屋に入ると顔見知りの職員が何人も会釈しながら右へ左へと走って行く。相変わらずここは戦場の様だった。
部屋の中央にある巨大な机の上には、相変わらず巨大なわが国の地図が鎮座しており、色々な色のピンが立って居て、あちこちにメモの書かれた付箋が貼られている。
視線は、自然と国の北東部、ラムズボーンの辺りに吸い寄せられてしまう。
そこには、噴火、もしくは溶岩の流れを意味するのだろうか、赤い毛糸がラムズボーン要塞のあるナンシー湖から四方に伸びて居た。
それを見た時、あたしは胸が締め付けられる思いがして、両手を握りしめて下を向いてしまった。
悔しかった。自然の驚異に対して人間に出来る事など大して無い事は十分わかっているのだが、それでも悔しかった。自分の無力さが情けなかった。
そんな色々な感情が心の中でグチャグチャになっていて、知らず知らず目頭が熱くなっていた。
「思いつめたらいけませんよ。我々にはまだやる事が残っております。後悔などしている暇はございません。急ぎ、次の手をうたねばなりません」
はっとして顔を上げると、トッドさんが熱いミルクを持って立って居た。
そして、あたしにミルクを渡しながら、遠くを見る様な目で続けた。
「偉そうな事を言っておりますが、わたしもその昔、落ち込んでいる時に言われたのですよ。あなたの御父君に」
ドキッとして、反射的にトッドさんを見つめた。
「悩んだり後悔したりするのは、死の床に就いた時でいいと。今は、まだ他にする事が、出来る事があるんじゃないのかってね。最後を迎える時にその人の生きざまが評価されると言います。最後の時を笑って迎えるか、後悔しながら迎えるか。笑って満足して死んでいく為には、今何をすればいいか。それを模索するのが人生だと教わりました。自分よりも年下の御父上にね」
はははと、頭を掻きながら照れ笑いをするトッドさんだった。
「最後に後悔しない様に、今は精一杯出来る事をしましょう。ねっ?」
なんか、心が吹っ切れた気がした。ああ、父上の思いがみんなの心の中に生きているんだと嬉しくなった。
「そうね、やる事一杯だわ。まずは、情報の整理からかしら?」
「はい、今現在集まって来て居る情報内容をお話しします」
トッドさんは、メモと思われる分厚い紙の束を手に取り、一枚一枚目を通しながら頭の中でまとめて、重要度の高い順に話そうとしてくれている。
「えー、まずは今一番の関心事のラムズボーンの噴火ですね。現在まだ噴火を続けております。ただ、当初真っ直ぐに東に向かって伸びておりましたが、途中から北東に進路を変えてサリチア壊滅の危機は回避されました」
良かったぁ、聞いていた職員の顔にもほっとした安ど感が広がったみたいだった。
「ですが、ご存じの通り、噴煙は国中に広がっておりまして、ここにも灰が到達しております。降り積もった火山灰による農作物などに与える損害は甚大な物になると考えられます」
「ああ、その事なんだけど、帝国のククルカン要塞司令官のハイデン・ハイン将軍とダイレクトにやり取り出来ないかしら?この噴火の事を知らせたいのだけど」
一瞬、ビックリした表情のトッド所長だったが、すぐににっこりと微笑んだ。
「はい、既に繋ぎは付けてありますよ。ちなみに噴火の件は既にシャルロッテ様のお名前で発信してあります」
「あらぁ、ありがとうございます。さすがですねぇ」
「いえいえ、当面の問題ですが、街道の整備はシャルロッテ様のおかげで解決済ですので、後は農作物の被害とその補償。溶岩流による森林火災とその消火。そんなところですね」
更にメモをめくると一枚のメモをまじまじと見つめた。
「これは・・・」
それだけ一言いうと、眉をひそめた。
「シャルロッテ様もご存じの事と思いますが、ラムズボーン要塞は遥か昔にランゲ山が噴火した際に河口に出来た巨大なカルデラ湖であるナンシー湖の真ん中に出来た広大な溶岩の島の上に出来ておりました」
「うんうん」
「ですが、今回そのラムズボーン要塞の中央が噴火口となっていたせいで、要塞と要塞のあった島は吹き飛んでしまいました。当然要塞も集落も壊滅してしまいました」
「・・・・そんな」
予感はしていたが、あたしの頭は真っ白になった。
要塞と集落の領民を合わせると、十万人以上は居たはずだ。それが一瞬で壊滅とは・・・。
「現在も情報は集めておりますので、何か新しい情報が入りましたら順次報告を上げてまいります」
更に次のメモをめくると説明を続けた。
「次の情報は・・・、ふむふむ、アドソン湖のこちら側、ベルクヴェルクの鉱山の近くに進出して居た数万の帝国兵の部隊がオレンジの悪魔と一緒に、全て自国に帰還しております」
「へええええ、そうなんだ」
「後はですね、王都の方の情報ですが、伯爵勢力は完全に排除されて以前の日常が戻っております。一旦避難した住民達も戻って来ており、食料など物資も豊富に出回り市場も正常に開かれ、クーデター前の生活を取り戻しております」
「よかったぁ」
「尚、王城の方も建造物には被害が無かった為、王族も既に戻られ、通常の政治がなされております」
「ただ、警備部は多忙を極めております。この騒乱を利用して暴利を貪ろうと画策した者どもが多数居りまして、資金力に物を言わせた市場規模での買占めがあり、一時的に物資が市場から消えたのです。しかし、物価が上がる寸前にそいつらを摘発して隠匿してあった膨大な物資を没収し市場に安く流したので、ほとんど影響は御座いませんでした。その様な不埒者を警戒しておられたお父上様の的確な判断のお陰で御座います」
おおっ、さすが父上様。普段から一般市民を大切にせよと仰っておられたが、ちゃんと実行が伴っていておられてシャルロッテは安心致しました。
「エレノア・ド・リンデンバーム様も王族と共に早目に避難されておりましたので、無傷だったパレス・ブラン(白の宮殿)にお戻りになられ聖女としての公務に就かれております」
「じゃあ、現在問題なのは、国の北東部、サリチア付近だけって事?」
あたしを見つめるトッド室長の目がさっきまで淡々と報告をしていた時に比べ、心なしか沈んでいる様なのは、気のせい?
「サリチア方面の報告はですね、、、」
そう言いながら、慌てて分厚いメモの束をぱらぱらとめくっていた室長の手がぴたりと止まった。
「あった、あった。そうですね、今現在戦争を継続しているのはサリチアのみです。噴火口が移動を始め、サリチアに向かって居る事が判明した際、戦闘を中断してサリチアを捨てて避難する様呼び掛けたのですが、連中は都市と心中するつもりなのか、守りを固めたまま閉じ籠ってしまいました。仕方が無く、マイヤー将軍は全軍を連れて近くにあるニヴルヘイム山に有る要塞に籠りました」
「マ マイヤー兄様はご無事なのね?今もニヴルヘイム要塞に籠っておられるのねっ!?」
思わぬ展開にあたしは室長に詰め寄ってしまった。
冷静なトッド室長は、慌てる事無く話を続けた。
「噴火が北方にそれ危険が回避されたので、山を降りたマイヤー将軍は再びサリチアを取り囲んで、現在は膠着状態となっております。城塞都市と言われるだけあって、あそこは難攻不落ですので持久戦が必定かと」
その報告を聞いて、あたしは取り敢えずほっとした。
だが、さっきから気になって居た事があったので室長に聞いて見た。
「トッドさん、さっきから気になっていたんだけどね」
「はい、なんでしょうか?」
「トッドさんの報告ってさ、みんな断定形ですよね?~の様です。とか、~みたいです。とか、~と聞いています。とか伝聞形では言わないじゃないですか。必ず、~ですって断定してますよね」
一瞬鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしたトッド室長は、満面笑みで答えた。
「ははは、そりゃあそうでしょう。わたくしの報告はそのまま王都にまで行ってしまうのですよ。わたくしの言葉はそのまま王国の否、国王様のお言葉として広く国民に、果ては大陸全体に届いてしまうのですよ。いい加減な報告は出来ません。ここの職員は、この報告に命を懸けているのですよ。徹底的に吟味し、確認し、その上での報告なのです。もし、髪の毛一本程でも疑問があれば、総力を上げてでも確認を致します。ですから報告は断定なのです。必要とあれば、隣国であるパンゲア帝国の皇帝の風呂上がりの抜け毛の数ですら数えてさしあげますよ」
あはは、なんか最後の奴だけはドン引きなんですけど・・・。もっと、他の例えを出して欲しかったかなぁ。ははは。
「わ わかりました。それだけ報告には自信があるって言う事ですね。それではお聞きしたいのですが・・・」
「なんでしょう?わたくしが把握している事でしたら」
「例の紫の人達が突然消えたのは異能の力なんでしょうか?噴火口が竜脈に沿って移動したって言うのは本当なのでしょうか?竜脈にちょっかいを出す事って、異能の力をもってすれば可能なんでしょうか?えーと、それから、それから、後なんだっけ・・・」
あたしは、下を向いて指を降りながら質問したかった事を思い出しながら言っていたのだが、ふと顔を上げてみると・・・
そこに、トッド室長は 居なかった。
煙の様に消えてしまっていた。
逃げやがったな。