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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
42/187

42.

 突然目の前で山が爆発して腰を抜かしたあたし達だったが、その爆発したのがこれから行くはずの山みたいだったので、驚きもひとしおだった。

 驚くにしても、どこに驚いたらいいのか、まだ頭の中で整理が出来ていないというのが正直な感想だった。

 おそらく、ここから見た限りでは爆発したのはラムズボーン要塞のあるランゲ山である事は間違い無いと思われた。


 だが、唐突に、驚くのは後回しにしないといけない事に気が付いてしまった。

 火山から立ち昇った黒々とした噴煙が、ある一定の高度に達した後水平に拡散方向を変えたのだった。

 つまり、、、段々とこちらに迫って来ているのだった。

 このまま、ここに居ると火山弾の直撃を受ける恐れがあるかも知れないので、まずはアナ様を安全な所に避難させなければならない。

 安全な所?こんな所にそんな都合の良い所がある訳無いじゃないっ!!

 と、自分に突っ込んでみたが、只の現実逃避にしかならない。

 とにかく、少しでも火山弾を防げる所、、、、もう時間が無い。選んでいる暇はなかった。

「みんなぁ、後方の森に下がるよぉ!急いでー!!」

 そう、森に逃げ込めば多少は木が火山弾を防いでくれるだろう。急いで恐怖でパニクッている馬を落ち着かせて森に向かわなければならない。

 何人かの馬に逃げられた者達は、アナ様の馬車に取り付き、みんなで馬車を押し始めた。

 自分の避難よりもアナ様の避難を優先させたのだった。馬車の上にも何人かの若者が登り、持っていた盾を馬車の上に広げ両手で必死に支えている。

 何枚もの盾を屋根の上に展開して馬車を守ろうというのだろう。

 国が存亡の危機を迎えると、防御力が劇的に上がると言うが、まさに今のこの者達の行動がそうなのだろうか?

 誰が言ったでもなく、みんなが率先してアナ様の馬車を守ろうとしている。それも、己の危険を顧みずにだ。みんな、立派な勇者だ、国軍の正規兵にも劣らない立派な勇者だ。あたしはそう思った。

 なんとかアナ様の馬車は森に入る事が出来、適当な所で停止した。すると、集まって来た若者達が馬車の周りの木に登り始めた。そうして木の上で上空に向けて盾を構えた。

 馬車の上と木の上。二重に防御線を築こうと言うのだ。果たして人間の構える盾程度でどの位防げるのか疑問ではあるが、みんな必至だった。


 やがて、空は黒煙で覆われ、辺りは真っ暗になってしまった。

 誰かが叫んだ。

「さああぁ、来るぞおぉ。みんな気張れぇぇぇぇっ!!」

 

 光の届かなくなった真っ暗な森の中、『うさぎ』のみんなは盾を構え、又馬車の下に潜り、大木の幹にしがみ付き、やって来るであろう火山弾に備えて居た。

 ここに居るほぼ全員、火山の脅威に直面するのは初めてであった。近くで噴火があるとどうなるか、どんな被害があるか、どう対処したらいいか、どこへ逃げたらいいか、なんとなくの知識でしか知らなかったので、今、自分のしている事が正解なのか疑心暗鬼の中その時を待ち構えて居た。

 魔獣の恐ろしさは広く知られていたが、普段接している大自然の恐ろしさは、意外と認識されて居なかった。

 ランゲ山が噴火したのは大昔の記録によると千年以上前の事と言われているので、そんな穏やかだった山が、突如襲い掛かって来るなどと誰もが予想だにしていなかった。人々の認識は死火山。死んだ山。安全な山でしかなかったのだ。


 しかし、いくら待っても恐ろしい火山弾は降って来なかった。正確には、一発だけ森の近くに家程もある大きさの物が着弾したのだが、大きいのはそれだけで、後は細かい物だけだった。

 まだ距離が遠かったせいなのか、風向きのせいなのか、火山弾を吐き出すタイプの噴火でなかったのか、そこの所は謎だったが、当座の危機は去ったかの様に思えた。

 シャルロッテは馬車から離れ、一面真っ暗な大地を見回した。まだ、ランゲ山の方では噴火が続いている様で黒煙が途切れずに吹きあがって居た。そして、真っ暗な空が真っ赤に染め上げられている事から溶岩が絶え間なく溢れ出ているであろう事が容易に想像出来る。又、しきりに火山性微動が起こっているのが不気味だったが、次の行動に移るのは今だと判断したシャルロッテは『うさぎ』の参謀であるオグマ氏に指示を出したのだった。


「もう直ぐ日が暮れます。急いで散っていった馬や馬車を回収して下さい。本隊は、ここで野営をしますので終わったらここに集合して貰って下さい」

「後、文献で呼んだのですが、噴火の後は雨が降りやすいのだそうです。火山灰を大量に含んだ粘性の高い雨だそうです。馬車や馬はなるべく高い所に集めて下さい。幸いこの森は少し高台になっているみたいなので野営には最適でしょう。そして、ありったけの天幕を張って、馬も人もその下で休息を取る様にして下さい」

「じゃあさあ、天幕の回りには排水用の溝を多めに掘った方がいいわね」

「うん、アウラ良い所に気が付いたわね。その辺の指示をみんなに出してあげてね」

 んーと、後は何したらいいかな。忙し気に走り回るうさぎのみんなを目で追いながら考えていると森の外れの方から大声で呼ばれた。

「姐御~っ!一般の旅人が保護を求めて来てるんだが、どうしたらいいっすかぁ?」

 確かに街道にはあたし達だけでなく、それほど多くは無いが一般の旅人も居た。

「いいわ、受け入れてあげて。あたし達の野営地の周辺で野営させてあげていいからね、食料も出せる範囲で供与してもいいから。ただし、アナ様の警護は厳重にしてね、誰が紛れているのかわからないから」

「がってんでさぁ!」

 そう言うと、声を掛けて来た男は走って行った。


 そして、予想通り日が暮れる頃になって雨が、灰色の雨が降って来た。降り始めた、、、でなく、いきなり土砂降りとなって襲い掛かってきたのだ。

 雨が降り始めてから、避難して来る旅人の数が増えはじめて、その数は増える一方だった。

「オグマさん、食料の手持ちは大丈夫?」

「それなんですがね、逃げ出した食料馬車は全部回収出来たんですが、元々あっしらの分しか持って居なかったんで、直ぐに無くなる訳ではないんすが、この分だともっても後数日って所ですかね。旅人への供出を制限しても、空になるのが数日伸びる程度っすかねぇ。勿論、近くの仲間にも援助を求めているんですがね、この雨っすからねぇ、思う様に集まるかどうか・・・」

「うん、わかったわ。取り敢えず、助けを求めて来た人には救いの手を差し伸べてあげてね」

「了解っす」


 なんだかんだ噴火から動きっぱなしなのでいい加減疲れて来たので大きな木の根元に座り込んだ。

「はあぁ、いい加減疲れたわ」

 思わず独り言が漏れた。するとかん高い声が近くで上がった。

「木~火月土火~?なんですか、それ?」

 それは、スープとパンを持って近寄って来るアウラだった。

「なに?それ?あたしは、疲れたって言っただけよお」

 あいかわらずのアウラだった。


 あたしは木に寄りかかってパンを食べ始めた。アウラも横に腰を掛けてパンを食べ始めた。

「お嬢、お嬢の言った通り雨が激しくなって来たね。街道はもう川になってるよ」

「うんうん、早目に避難して良かった。速くラムズボーンに行きたいんだけど、そうもいかないわねぇ」


 夜も更けて来たが、まだ噴火による微振動が続いている。黒い雨もやむ気配が無く、街道はどんどんとぬかるみになっていった。

 夜が更けるに従い助けを求めて来る旅人達はどんどん増えていった。

 やがて、夜が明けて来て次第に状況が分かって来た。

 本来見渡す限り一面に広がって居たはずの広大な麦畑が一夜明けると、、、広大な泥の沼になっていた。

 街道もどろどろの火山灰に覆われてぬかるみとなり、馬車が走れる状況ではなくなっていた。


「まいったなぁ、これじゃあ乾燥するまで動けんなぁ」

 またしても頭をぼりぼり掻きながらぼやいているお頭だった。


 こんな状況でも『うさぎ』の偵察隊には影響がないのだろうか、着々とラムズボーン要塞の状況が入って来るのだった。

「姐御、心して聞いて下さいよ。実際に見て来たあっしでも未だに信じられない状況なんですよ」

「えっ!?そんなに?何が起こっているの?」

「はい、まずラムズボーン要塞のあるナンシー湖ですが、どうやら湖の真ん中、要塞が噴火口でした。要塞は完全に吹き飛んでしまって湖から陸地は無くなってしまっていました」

 ひっと、周りから息を飲む音が聞こえ、その瞬間その場から一切の音が無くなっていた。

「よ 要塞が無くなったって事?」

「はい、綺麗に吹き飛んでいました。ですが、驚愕点はそれだけではありません。最初の噴火口は要塞の真ん中でしたが、、、噴火するに従い噴火口が横に、そう東に移動しだしたんです」

「火口が移動?そんな事があるのか?」

 お頭が眉をしかめながらそう問うて来た。

「そう言われましても・・・」

「それで、何メートル移動したの?」

「それが・・・噴火口はナンシー湖を外れ山を下り、一直線に東に、、、現在五百メートル程移動しており、まだまだ止まる気配は見えません」

「!!!」

「なんなの?それ。そんな事って有り得るの?」

 メアリーさんも驚いたと言うか呆れていた。

 思わずあたしは幕舎から出て、遥か遠くに見えるであろうラムズボーン要塞を望み見た。

 確かに黒い煙の柱は東へ移動している様だった。

「確かに、煙が移動している」

 信じられない事だが、遥か彼方に黒い壁が立ち上がっていた。巨大な巨大な煙の壁だった。

 ラムズボーン要塞のあったランゲ山から東に向けて、巨大な壁が出来つつあった。


「どういう事?どこまであの煙は続いているのだろう。こんなの初めて見たよ」

 あたしは、いつまでも茫然と煙に見入っていた。


「自然の驚異?まさに天変地異ねぇ」

 心底感動したかのように言うアウラだったが、すかざずメアリーさんに突っ込まれた。

「あんた、そんな事言っていると、誰かさんと一緒に見られるわよ。嫌でしょ?」

 なに、その例え。ひどい言われようでない?

「う~ん、そうねぇ。嫌かも」

 をいをい、アウラさん、酷くないかい?

「まだ、今なら間に合うぞ」

 そう言うと、あたしに視線を送って来た。お頭ぁ~っ!お頭まで酷いよぉ。


「なぜ、こう言われてるかわかるか?」

 お頭はあたしの目を見ながらそう言った。


「そりゃあ、この噴火が人為的かもしれないって事でしょ?」

「えっ?そうなの?」

 アウラは素っ頓狂な声を上げた。

「ほう、その根拠はなんだ?」

「あいつが言ってたでしょ?行ったら死ぬって。つまり、あいつは知っていた、この惨劇を。何故知って居るのか?それはあいつ、もしくはあいつらがこれを起こした。でなかったら予知能力の有る奴がいるか。まあ、あいつらが起こしたと考えるのが妥当なんじゃない?」

 ニヤニヤした笑いを顔に浮かべたお頭は、あたしの頭をぽんぽんと叩いた。

「ふふん、ちゃんと考えてはいるんだな。よしよし」

 なに、それ?あたしは子供じゃあないんですけど。


 その時だった。

 誰かが大きな声で叫んだ。

「何か飛んで来るぞーっ!!」

 手の空いた者が何人か森の外に出て来て空を見上げている。

 あたしも大急ぎで森の縁に出て空を見上げて見た。

「あ、あれは?」

 そう、あの大きな羽。あれは、、、竜氏だった。一体どこに行ってたのだろう。

 段々近づいて来た竜氏はあたし達の目の前に降り立ち人化すると珍しく興奮した様に話し掛けて来た。

「驚きましたな、この噴火は尋常じゃないですぞ」

「竜さん、要塞を見て来たの?」

「ええ、ちょっと気になる事が有りまして、状況を確認しに行ってまいりましたが、想像を絶する状況でしたな」

 身体に付いた火山灰を両手で払いながら竜氏はそう言った。

「そうなの?ラムズボーン要塞は?要塞のみんなは?」

 あたしの質問に、竜氏は暗い目で静かに淡々と話し始めた。

「最初の噴火は、、、その、ラムズボーン要塞でした。要塞内の農地から噴火が始まった様でした。私が到着した時には既に、、、要塞を含めた湖の中の広大な島は吹き飛んでしまっていて、現在島は完全に消滅してしまい湖の水位も半分以下になっておりました」

 その場の空気が一気に凍り付くのがわかった。

「更に噴火口が移動を始めました。それも、東に向かって一直線に」

 それを聞いて、あたしは頭の中で国内北部の地図を思い描いた。ラムズボーン要塞から西に真っ直ぐ、、、まさか。

「サリチア!」

 あたしは叫んでいた。

 そう、ラムズボーン要塞から真西に行くと城塞都市サリチアに行きつくのだった。

 あたしの中で、パズルのピースがはまった感じがした。

 そうか、そうだったのか。何故かあたしは納得したのだった。


「どうした?お嬢」

 お頭が聞いて来た。

「うん、なんかわかった気がするの。やはりこの噴火は自称伯爵によって人為的に引き起こされたものよ」

「なんだと?」

「偶然だと思う?おそらく自称伯爵は目障りな連中を一気に消し去ろうとしているんじゃないのかな?」

「なるほど、、、有り得る話しではあるな」

 お頭はしみじみとそう言った。

「でも、理屈はわかったんだけど、現実問題、そんな事が実際に出来るものなの?」

 メアリーさんの言う事はもっともだったが、心当たりはあった。

 当然、みんなにも心当たりがあるはずだった。


「やつ・・・か」

 誰とはなく、そんな言葉が漏れ出ていた。


「異能者か、、、こんな大それた事が、本当に人間に出来るのだろうか?やはり、魔族が関係しているのだろうか」

「異能者の能力に限界はないのか?」

「防ぐ事は出来ないのだろうか?」

 みんな困惑している。


「竜さん、あなたから見て、この噴火はどの様に見えます?」

 みんなの視線が竜氏に集まった。

 竜氏はそんな視線など気にする風もなく淡々と語り出した。

「これは、、、自然災害ではありません」

 その一言に、一同は息を飲んだ。

「ですが、人族の仕業とも考えにくいですな。いくら異能者の能力が常識外れとはいえ、あまりにも規模が大きすぎます。かといって、魔族の仕業とも考えにくいのです。魔族が出張ってきたのであれば、なんらかの魔力の残滓ざんしが残るはずですが、それも有りませんでした」

「それを確かめに行って来られたのですね」

 メアリーさんが恐る恐る聞いて来た。

「はい、我が主からの依頼もあったので現地で確認をして参りました」

「それでも、成果は無しって事か・・・」

 腕を組んで難しい顔をしているお頭がそう呟くと、竜氏はお頭の方に向き直って意外な事を言い出した。

「それが、そうでも無かったのです」

「ん?どういう事だ?」

「今回の噴火口の移動は、驚くべきことに龍脈に沿って、、、と言うか、龍脈の上を移動しているのです」

「「「なんだってーっ!?」」」

「それって、どういう事なのかな?わかる様に説明願えるでしょうか?」

 あたしの頭では、すでに理解が追い付かないレベルの話しになってしまっている。

「私にも理解しかねる状況なのですが、簡単に申しますと、我々竜族と言うのは、この大地の管理をする為に存在して居ります。管理とは現地に赴くのではなく、龍脈を介して行うのです」

 一同は、うんうんと頷きながら真剣に竜氏の話を聞いている。

「龍脈には竜王様の御力が流れており、所々地表に近づいた箇所があり、その地点を竜穴と呼び、その周りは生命力に溢れます。ですので、自然と竜穴の近くには大都市が出来るのです」

「ラムズボーン要塞と城塞都市サリチア、この二つの都市も竜穴の恩恵を受けていると?」

 メアリーさんも心なしか表情が硬くなってきている。

「はい、そのとおりです。今、この時点では肯定も否定も出来ないのですが、何者かがこの龍脈をいじったのではないかと考えるのが妥当ではないかと考える次第であります」

 もう、話しがここまで進むと、あたしも含めて誰も突っ込む事が出来ず、ただただ、蒼い顔をして聞いているのが精一杯だった。二人を除いて。


「悪いんだけど、わたしが今まで得た知識では、竜脈をいじるなんて話は聞いた事がないんですけど・・・」

「ちなみに、竜脈をいじれるのは竜王さん以外にも居るんかい?」

 メアリーさんとお頭は、マイペースだった。

「うーん、そうですね。私が知る限りでは竜王様以外には居ないはずなんですが」

「そうか。悪く受け取らないで欲しいんだがな、竜王さん以外にいじれないんだったら、、、今度の噴火、竜王さんがやった  なんて事は・・・」

 常に冷静沈着な竜氏が珍しく慌てていた。竜氏にも感情があったんだって思った瞬間だった。

 両手を胸の前で横に振りながら慌てる竜氏。

「それはありません。絶対にありえませんとも。そんな事をする理由がありません」

「なら、誰が竜脈をいじったと?」

「そ それは、今はまだわかりませんが、今竜王様が対応策を模索中ですので、今暫くお待ち下さい」

「そうなのね、わかったわ。竜王様に期待しましょう。でも、あまり無茶はしないで下さいね。竜さんは大事な仲間なんですからね」

 意外そうな顔をした竜氏はにこっと笑った。

「ご心配下さり有難うございます。ですが、大丈夫ですよ。わたしは竜族の秘薬を三粒飲んでおりますので」

「秘薬?」

「はい、この秘薬を一粒飲むと百年寿命が延びます。二粒飲むと二百年寿命が延びます。そして、三粒飲むと死ぬまで寿命が延びます」

「はいいいいいぃぃぃ??なんですとおおぉぉ??」

「ですので、死ぬまでは死にませんので、心配無用でございますよ」

 全員が竜氏の冗談に、口をぽかんと開けて固まってしまった。

 竜族の冗談は高尚過ぎて理解しづらいものがあった。


 そんな微妙な空気の中、アウラの甲高い声が響いた。

「ねえねええぇ、そんなにまったりしてちゃだめだよおぉ、このままだとサリチアもラムズボーンの二の舞だよお、何とかしなきゃああぁ」

 両手を握りしめて、ぶんぶん振りながら訴えかけてきた。

 すると竜氏がにこにこと微笑みながらアウラに向かい合った。

「アウラさん、ご心配なく。今、竜王様が対応されております。暫くお待ち下さい」

「対応って?そんな事が出来るの?」

「はい、簡単ではありませんが、時間をかければ竜王様なら可能でございます」

「一体どうするの?」

 あたしは思わず口を挟んでいた。

「先程も申しましたが、竜王様は竜脈の管理をなされております。詳しい理屈はわかりませんが、管理者、、いや管理竜としてサリチアの下を通っている竜脈を北側に少し移動させるそうです。土地の生命力は大きく下がりますが、壊滅するよりも良いでしょう」

「そうすればサリチアは助かるの?」

「わかりません。ですが、今回の事が竜脈への外部からの干渉であるのなら、竜脈を移動させれば噴火口も北に移動するのではないかと思われます」

 もう、ここまで話しが大きくなるとあたしの頭では理解が追い付かなかった。

 竜脈ってうにょうにょと動かせるものなのだろうか?果たしてどうやって動かすのだろうか?疑問は次々と浮かんで来た。

 だが、いくら考えても埒が明かなかったので他の事を考える事にした。


 誰がこの様な大それた事を企んだのか?それは考えるまでもなくあの自称伯爵だろう。

 どうやって実行したのかは今は置いといて、何故王都でなくラムズボーンとサリチアなんだろう?何故王都ではいけなかったのだろう?

 王都では出来なかった理由があるのだろうか?

 そう考えながら、ふと顔を上げるとこちらを見ている竜氏と目が合った。

 あたしはゆっくりと歩み寄って来る竜氏に、この疑問をぶつける事にした。

「あの、竜さんのご意見をお聞かせ願いたいのだけどいいかしら?」

「私に答えられる事でしたら構いませんよ。此度の噴火の事でしょうか?」

 ああ、やはり見透かされていたのか。

「はい、何故噴火させたのが王都でなくこの地なのでしょう?竜脈をいじるのに、やり易い場所とやり難い場所があるのでしょうか?」

「なかなか難しい質問ですね。竜脈については管理をなされる竜王様にしか分からぬ事でありますれば、正確にはお答えしかねますが、竜王様のお近くでは察知される恐れがあるので出来ないでしょう。離れた場所については、、、いかがでしょうか、相手が異能の力を使って居るのであれば、強力な異能者の近くではやりずらいのではないかと思われます。あくまでも想像ではありますれば」

「想像なんですか・・・」

「はい、過去にこの様な事態は一度たりとてありませんでしたので」

「まるほど・・・、王都には聖女様がおわすので出来なかったと考えられるのね。じゃあ、もうひとつ質問」

「はい、何でしょう?」

「次はどこを狙って来ると思います?もしくは今回失敗しちゃったから、又サリチアを狙って来るのかな?」

 真っ直ぐにあたしを見つめた後、一呼吸をおいてまるで子供にさとすかのように語り始めた。

「シャルロッテ殿には理解が難しいとは思いますが、お聞き下さい。竜脈の管理にはとっても力が必要なのです。あの竜王様の生命力をもってしても容易な事ではありません。ですので、今回急遽竜脈を移動させるのにも直ぐには出来ずに現在力を蓄えているので御座います。その様な訳ですので、人族がそれを行うとなれば一体何万人の生命力を注入せねばならぬか想像も出来ません。そもそも人族の生命力などいくら集めても足りる訳が無いのです」

「そこで、異能者か」

 顎髭をいじりながらお頭が呟いた。

 だが、竜氏の表情は硬かった。

「確かに、異能者の力は一般の人族とは比べ物にならないものがあります。それでも、せいぜい一般人の数十倍、数百倍のレベルでありましょう。竜王様のお力はそのさらに数百万倍以上はあるかと思います。そんな竜王様ですら苦労していらっしゃるのです。いくら異能者の力を結集したとしても、どれだけの事ができるのか。とても竜脈に影響を与えられるとは思えないのです」

「聖女の嬢ちゃんの力でもダメって事か」

「はい、確かにあのお方の秘めたお力は千年前に現れた勇者をも上回るものがおありかと思われますが、それでも同程度の異能者を数百人以上集めないと、、、いや、それでも出来るかどうか」

「だとするとよ、人外の何者かの力が加わったと考えるしかねえんじゃねえのか?」

「消去法でいくとそうなるでしょうか。はたしてその様な者が存在するのかと言う話になりますが、まだ時間はあるでしょうから竜王様と話し合って参りましょう」

「時間があるだって?正気か?」

「ええ、何者の仕業であろうと、これだけの事をしたのです、そう何度も出来るものではありません。しばらく、そう後数年は何も出来ないと思いますので、その間に対策を立てればいいかと」

 それまで黙って聞いていたアウラが口を挟んで来た。

「ラムズボーン要塞を潰して憂さ晴らしをして、それでお終いなのかな?」

「特別な者は暫く動けないとして、普通の人は動けるんだから、このどさくさに乗じて普通に反乱とか仕掛けて来てもいいんじゃないのかな?うわっ!」

 アウラは、例によって例の如くお頭に頭をぐしゃぐしゃにされてしまった。

「確かにな。いい事を言うじゃないか。どうやったのかはしらんが、ラムズボーン要塞を潰したんだ、この機に乗じてなにか仕掛けなければ今までやって来た事が無駄になっちまう。次の手を打っているに違いない」

「次の手ってどんな手だい?」

 メアリーさんが聞いて来る。

「それがわかりゃあ苦労はしないぜ。おめえの方では何か掴んでいねえのか?」

「掴んでいれば、こんな所でのんびりしていないよ」

 だよねぇ、どこもかしこも大混乱だもん、情報も錯綜しちゃっているから、目を塞がれた状態よね。あ、情報?

「お頭、一旦ベルクヴェルクに戻ろう。アナ様も心配だし、情報調査室のトッドさんなら何か掴んで居るんじゃないかな?」

「なるほどな、ここに居ても何も出来ないしな。よし、『うさぎ』に総動員を掛けて街道の整備をさせるから、お嬢は今の内に休んでおくんだ」

 そう言うと、お頭はどこかへすっとんで行った。

 全ては泥沼になった街道が開通してから、、、って事ね。



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