39.
「おまえ、一体何言ってるんだ?」
驚いた様にお頭が聞いて来た。場もざわついている。
「あんた、自分が何言って居るかわかっているの?」
メアリー さんまで文句を言って来た。
場の閣僚達は、このやり取りをこわごわと遠巻きに見ているだけだった。
部屋の反対側では、食料や必要物資を運び込んでいた兵達がビックリした様な顔で遠目からこちらを覗いて居た。
「何故かわかりませんが、敵はここには居ません。もし居るのなら、こんなに大勢の兵が集まる前、あたしとアナ様と竜氏だけの時に襲っって来て居るはずです。特に、アナ様が失神なされた時、あの時が最大のチャンスだと思います。あの時に手を出して来なかったのですから、既にあの時にはここから離れて居たはずだと考えるのが正しい見方ではないでしょうか」
「竜氏の戦力を恐れて様子見をしていたとは考えられないですか?」
ロジャース中佐は可能性のひとつを指摘して来た。
「それはありません。もしあったとしても、戦力が竜氏だけの時に手を出せないのなら、大勢で警戒している今はもっと手が出せないでしょう」
「なるほど、、、確かに今の方が安全か」
他のみんなも、うんうんと頷いている。腑に落ちたのだろう。
「じゃあさお嬢、居なくなったとして、どこへ消えたの?周りは既に囲んであるんでしょ?パープルだけなら、ひっそりと逃げ出せるでしょうけど、あのパープーバカボン伯爵が一緒にいてそんな上手く行くとは思えないんだけど」
アウラの疑問も当然だろう。
「それはわからないわ。あたしは伯爵じゃないからね。でも、おおよその見当はついてるわ。だから、今わたしたちがしなくてはならない事は、居ない敵を詮索するよりも、生存者の救出とその治療、同時進行で更なる戦いが起こった時に備えて万全の準備を整える事。取り敢えず、警戒は厳にしつつ、夕食にしましょう」
さっきまでいきり立っていた閣僚達も今は納得した様で、それぞれ散って行った。
「あんた、伯爵の行方について見当が付いて居るって言ったわよね?どこに逃げ道が有るっていうのよ?」
またしても、メアリーさんは喧嘩腰だったが、あたしはもう気にならなかった。これが普通なんだなって思う事にしたから。
「湖を渡ったのではなく、空も飛べない。だとしたら?」
はっとした表情のメアリーさんは絞り出す様にその答えを口に出した。
「ち か なのか」
「正解。地下道って考えるのが最も現実的かなって」
「なるほど・・・」
「でもね、疑問がない事もないんだわ」
「ほう、どんな疑問だ?」
「伯爵一行は、ここの出身じゃあない。だから、この要塞内の地理に詳しくないはず。どうやって地下道を知ったのか?」
「そうだな、情報によるとここの兵達とは仲違いしていたそうだから、すんなり聞けるとは思えんか」
「地下道の在り方にはいくつかあって、ひとつは事前に戦いに備えて掘られていた場合、それだったらここの兵に聞けば知る事は出来るでしょう。それ以外にも自然に形成された場合と自分達で掘った場合が考えられるわ」
「掘るっていっても、この短時間に掘れるのでしょうか?」
現実派のロジャース中佐は納得がいかない様だった。
「お頭?異能者の能力って、様々な物があるのですよね?」
「ああ、有り得ねえ能力も有るって聞くぜ」
「だったら、一瞬で穴を掘る能力なんて、有っても不思議ではないのでは?まぁ、あくまでも可能性での話しですけど」
「否定はできねえな」
また、みんなは考え込んでしまった。
「兎に角、食事が終わったら、ここの元主であるアーリントン男爵にお話を聞きにいきましょう。地下室に隠れていて助かったのでしょ?」
「正確には、地下牢なんだがな。重症らしいが、話しは出来るそうだ」
「では、一旦解散して食事にしましょう」
あたしがそう話を打ち切った為、みんなは思い思いの場所へ移動して行き、ここにはあたしとアウラと、何故か竜氏だけが残った。
「どうしたの竜さん?あたしに話したい事があるんでしょ?みんなの居ない所で」
「ほっほっほっ、ばれましたかぁ。なかなか鋭くおなりだ」
竜氏は嬉しそうだったが、急に表情を硬くした。
「実は、わたくしは龍脈近くに居りますと、竜王様と心を通わす事が出来るのです。それで先程、竜王様のぼやきが聞こえて来たのです」
「ぼやき?」
「はい、例の紫の方々なのですが、突然気配が煙の様に消え失せたそうなのです」
「消え失せた?ちなみに、竜王様はどの辺りまで感じる事が出来るのかしら?」
「さあ、わたくしも正確には存じ上げませんが、この世界は竜王様が管理されておられますので、どこに隠れても感知出来るはずなのですが・・・」
「それでも感知出来ない場所があるっていう事?」
「信じられませんが、そうとしか思えません」
「竜王様も万能ではないって事なのね」
アウラが楽しそうにそう言うと、竜氏のこめかみがぴくぴくっと引きつった。
「問題なのは、その感知できない場所が自然に出来た物なのか、故意に作られた物なのかと言うところなのです」
「「!!!」」
「すみません。その物言いですと、彼らが自らその空間を作って存在を隠した可能性が有ると言って居る様に聞こえるのですが?」
「そうですね、あくまでも可能性ですが、有り得ると言う事です。若しくは彼らを匿った存在があるのではとも疑っております」
「匿う?」
「はい、もっとも人族に出来るとは思えませんので、それ以外の存在・・・ですね」
「魔族・・・か」
はっとして振り返ると、いつの間にかお頭が立って居た。
「魔族?それって伝説の生き物じゃないの?」
「ああ、さっきまでは俺もそう信じていたのだがな」
すると、突然アウラがかん高い声を上げた。
「そうかあぁっ、だからさっきあくまでもって言ったのね」
「えっ?どう言う事?」
あたしにはアウラが何を言って居るのかわからなかった。
「さっき竜さんが言ったじゃない、あくまでもって。あくまでも、、、悪魔でも でしょ? いったああああぁい!!」
アウラの頭上にお頭の拳骨が炸裂し、アウラは痛みの為床をのたうち回っている。お前はおやぢか。
「いや、アウラ嬢の言われるのも、全く見当はずれではないのですよ、今回は」
「「まじか?」」
「はい、我が竜族に敵対している種族は魔族しかないので、可能性はあります」
「魔族・・・本当に存在しているのか?」
「ここ三千年ほどは存在は確認出来ていないのですが、どこかで細々と生きながらえている可能性は否めません」
「そこは、きっぱりと否定して欲しかったんだがなぁ」
「ほんとうよねぇ、厄介な問題が次々と。誰のせいなのかしらねぇ」
メアリーさんも話に参加して来た。
「どうせ、メシ食ってないんでしょ?ほれっ」
差し出した手を見ると、バメメの葉に包まった物を持っていた。臭いから中身は焼いた肉だろう。
「ほれ、アウラの分もあるからさっさと食べな」
床で転がって居るアウラにも持って来てくれたのだった。
バメメの葉は、その広くて大きな表面に薄く油が染み出ていて水分をはじくので、食事を包んで持ち運ぶのに重宝している。また、その油の香も食欲をそそる効果があって評判だ。もっとも、好き嫌いの問題であるので苦手な人も一定数居るが、あたしは大好きだった。
あたしとアウラはそそくさと持って来て貰った食事を済ませ、改めて魔族談義をする事になったが、その前にこの要塞の元々の主であるアーリントン男爵に話を聞く事にした。
男爵一行は、地下牢から出て、日の当たる一室をあてがわれて治療を受けていた。
「邪魔するぜぇ」
そんな男爵一行が休む部屋に、お頭は遠慮なく入って行く。
当然、あたし達常識派は遠慮がちに入って行く。
「なんだね、君達は。男爵閣下はこの通り重体なのだ、少しは常識をわきまえたらどうなのかね」
「その通りだ、そもそも男爵閣下はお前達みたいな下賤の者が直接声を掛けるなど恐れ多い!」
お頭はこちらを振り返って肩をすくめて見せている。駄目だ、こいつら とでも言いたいのだろう。
この期に及んで身分が大事とは貴族って奴は・・・。あたしはお頭の前に出た。
「クーデターを起こすと言うのは、男爵様の常識の範疇なのかしら?」
ちょっとむかついたので、嫌味を言ってみた。
「クーデターを起こしたのは、やむからだおえなかったからだ!」
「そうだっ!一部の連中が政治を独占して好き勝手やっているから、我々が民衆の為に立ち上がったのだ!」
こんな状況になっても元気なのね、この人達は。反省は全く無しか。
「民衆の為に、その民衆を皆殺しにしたのね、立派なものね」
お、みんな固まった。まだ知らされていなかったのか?クーデターの結末を。
「それは、一体どういう意味だ」
「どういうもこういうも無いわよ。そのまんま。伯爵様ご一行様は、要塞内の何万もの無抵抗の領民を年寄りも子供も関係なく皆殺しにしてトンズラしたのよ。民衆の為ですって?はっ、良く言うわよ」
あらら、みんな真っ青になっちゃったよ。
「嘘だっ!そんなはず無い、有り得ない!お前らのでっち上げに決まって居る!」
「あたしが言ってるんだから、間違いないわよ。そんなに信じれないのだったら外に出てご自分のその曇った目で確認していらしたらいかがかしら」
いい加減鬱陶しくなって来たわね、こいつら。対話によって聞き出すのを止めて拷問に切り替えようかしら。
「貴様の様な小娘の言う事など信用出来るか!」
そこまで言うんだ。あたしの正体も知らずに。いっそ「控えおろう!」をやるか?と思っていたら、メアリーさんに先を越されてしまった。
「あんたらねぇ、身分だなんだって言う割に自分らは身分を無視してるよねぇ、どういうつもりなんだい?」
「どういう意味だ」
「あんたら下賤の者のくせに態度がでかいって言ってるんだよ」
あーらら、メアリーさん怒らせちゃった。しーらないっと。
「下賤だと?無礼なっ!」
「無礼だって?男爵風情の腰巾着が偉そうにしているんじゃないよ。無礼はあんたらだよ。いいかい、このぼーっとしている嬢ちゃんはねぇ、シュトラウス大公国聖騎士団の団長兼国軍総司令官を務めるリンクシュタット侯爵様のご息女なんだよ。あんたらが直接話をしていい相手じゃあないんだ」
あーあ、言っちゃった。ぼーっとしてるは余計なんだけど、まあいいか。
「嘘だ!そんな訳あるか!そんな身分の高い人がこんな最前線に来られる訳が無い。身分詐称は大罪だぞ、わかっているのかっ!」
メアリーさん、肩をすくめて首を振って居る。
「だめだ、こいつら頭が沸いちゃっていて会話が出来ないよ。どうするよ嬢ちゃん、始末しちまうかい?」
目が怖いですって。
「あのですね、このお姉さんは本当に怖い人なので、あまり怒らせない方がいいですよ。ああ、ちなみにこの方は聖騎士団開闢以来最高の剣士と言われたエルンスト・ガトー様のお孫さんなので、不意打ちが通用すると思わないでね」
その一言で、剣に手をかけていた何人かは、慌てて手を離した。
「まさか、、、俺達はそんなのを相手にしていたっていうのか?勝てる訳ないじゃないか」
メアリーさんは、ちょっと自慢げに胸を張って居る。お爺様を知って居る人が居て嬉しいのね。でも、それに続いた言葉が問題だった。
「エルンスト・ガトーの孫っていったら、泣きわめく赤子ですら容赦なく切り捨てるそうじゃないか」
「魔王の再来とも言われているよな」
「無抵抗の領民を皆殺しにしたのもこいつじゃないのか?」
あーあ、しーらないっ。地雷踏んじゃった。自らの首を絞めちゃったわねぇ、成仏してねぇ。メアリーさん、こめかみに血管が浮き出てるよぉ、ほら目も血走ってきたし、握りこぶしも震えてる。
そのまま閣僚達はメアリーさんに首っ玉を掴まれて部屋から引き出されて行った。
「殺さないでねぇ~」
その時、寝ていたアーリントン男爵が起き上がって来た。どうやらあまりにも騒がしいので目を覚ましたみたいだ。
「本当なのですか?聖騎士団団長のお嬢さんだと言うのは」
「あ、男爵様、まだ寝ていないといけません」
あたしは駆け寄り男爵を制した。
「ふむ、確かに師団長閣下の面影がありますな。それで、私達はどうなるのでしょうか?私はどうでもいい、せめて部下達には恩赦を ごほっ ごほっ」
そこまで言うと、咽って突っ伏してしまった。
あたしは言おうかどうか迷っていたが、意を決して本当の事を言う事にした。
「先程も申しましたが、伯爵はディープパープルを使いあなたの部下も領民も皆殺しにして現在逃走中です」
「なんと、、、そこまでしますか、あの男は」
男爵は顔を両手で覆うと嗚咽とともにシーツが涙で濡れていった。
みんなは掛ける声も無く、ただ黙ってその様子を見下ろすだけだった。
「なんていう事を、なんていう事を、、、」
敵とは言え、この様子は居たたまれないものがあった。
「閣下、お悲しみの所大変心苦しいのですが、あの男をこのまま野放しにしておくと、今後どれほどの命が失われるか知れないのです。ここは、どうかあたし達にお力をお貸し願えないでしょうか?血を分けた甥を捕まえるなど気が進まないのは十分承知して居ります、ですがここは・・・?」
号泣していた男爵から微かに笑いが漏れた気がしたので、言葉が途切れてしまった。
「閣下?」
「いや、失礼。“あたし”、、、ですか、まだ直っておらんのですな」
「えっ?」
「昔、お父上に直す様散々叱られていたのを今思い出しました。あの頃はまだ小さな少女で、野山を駆けまわっておりましたな」
「まあ、そんな昔にお会いしておりましたのね、知りませんでした」
「昔の話しです。大事なのは今です、今をなんとかしなければ。甥も叔父も関係ありません。あの男は悪魔です、生かしておいてはいけない。私に何か出来ますか?大した事は出来ませんが奴を捕まえられるのなら、なんでもお申し付け下さい」
男爵の目には、もう悲しみはなかった。強い意思の力が感じられた。
そこで、魔族の話しを分かる範囲で男爵に説明した。
「そんな事が・・・」
信じられない様子だった。無理も無い、だってあたしだって信じられないもん。
「闇雲に探し回っても時間ばかりかかってしまいます。どこに隠れるか、どこから逃げ出すか、ヒントでもいいんです、何か情報は無いでしょうか?」
男爵も心を決めたのだろう、真剣な表情で考えてくれている。
「隠れ場所ですかぁ、彼らはここに来たのは初めてのはずですから、隠れ場所など知る由も無いはずなんですがねぇ。もっともそんな物の存在は聞き及んで居りませんが。魔族に関する言い伝えもこの地では全く聞いた事が無いんですよ。ヒントと言われましても・・・ぐふっ、ごほごほ」
いけない、無理をさせちゃったか。
「閣下、一旦休憩しましょう。部屋の外に伝令を待機させておきます。何か思い出しましたら、伝令にお申し付け下さい。我々は一旦失礼させて頂きます」
男爵をベッドに寝かして、あたし達はお暇する事にした。
「あら?もう終わったの?」
廊下の向こうからメアリーさんが歩いて来た。すっきりした顔をしている。折檻は終わったのかな?殺してないといいけど。
「男爵の具合がわるいので聞き取りは後にしたの」
「あらそう。こっちも殺したりはしていないから安心して。ちょっと、ほっぺたをなでなでしただけだから」
口は災いの元 ね。彼らもこれで学習したでしょう。
司令部に戻ると、情報がだいぶ集まって来て居た。
男爵配下の兵の生き残りは百人弱。その内戦闘に耐えうる者は僅か三十人程。四~五万は居たと思われるので、ほぼ全滅と言っていいだろう。
一般市民の被害も凄まじく、十五万人以上いたはずが、五体満足な者は二百人程度だった。
敵の状況がわからない現在、安全と言っていいのかはわからないが、取り敢えず比較的守りやすい城内に全員避難して貰う事にした。
後方の食料貯蔵基地からは船を総動員して食料や生活物資を城内に運び入れている最中だ。イルクートからの物資も届き出したので食料に関しては一安心だった。
王都へはハトによりラムズボーン要塞の状況を知らせてあるので、数日すれば今後の指示は送られて来るだろう。
サリチア戦線からもハトが届いていた。
城塞都市サリチアは兄のマイヤーが指揮する軍団が攻撃をかけており、近くにあるニヴルヘイム山に司令部を置き、連日猛攻を仕掛けているそうだ。そちらの方は心配ないだろう。
とにかく、今出来る事は一人でも多くの負傷者を救出する事だった。その日は動ける者を総動員して、夜を徹した救助作業が行われ、日が登る頃には概ね負傷者の収容及び軽傷者の治療が終了する事が出来た。重傷者の治療は現在進行形で治療が進められている。
竜氏には敵の気配を探って貰っていたのだが、とうとう夜が明けてもその気配を感じる事はなかった。まさか、本当にここからどこかに行ってしまったのだろうか?
今日は朝食が終わってから、再び閣僚が集まり今後の活動について話し合いを行う事になっていた。
食事が早目に終わったのでぼーっと窓の外を眺めて居ると、正面の門からゆっくりと出て行く竜氏が目に入った。
あたしは何故か後を追って見たくなり、大急ぎで食堂のある建物から飛び出して、正門から出て湖の方に向かっていた。
すると湖畔で佇む竜氏を見つけたので、ハアハアと大きく息をしながら隣に並び湖を眺めた。
竜氏は波の無い凪いだ湖面を静かに見つめていたので、あたしはその脇で声をかけず黙って立って湖面を眺めてみた。
どの位立って居ただろうか、ふいに竜氏が口を開いた。
「信じられない事ですが、あの連中はもうこの地域には居りません。もっと申し上げますと、この大陸に居るのかもわからないのです」
「なんか言ってましたよねぇ、消えてしまったって」
「はい、正に消えてしまったのです。人族が我々に察知されずに消息を絶つなど有り得ない事ではあるのですが、現実にはこの様な事が起こっているのです。竜王様も驚いておいでです」
「やはり、異能の力なの?それとも、、、、魔族が関与しているの?」
「情けないお話しなのですが、全く分からないと言うのが正直な所なのです。どんな異能の力があったとしても、この様な事は考えにくいのです」
「考えにくいって事は、考えられない事もねえって事だろう?」
いつの間にお頭をはじめとするいつもの面々が勢ぞろいしていた。あたしはもう驚かない。もういい加減慣れました。
竜氏も慣れたのか、平然としている。ま、最も竜氏が驚くなど滅多にない事ではあるのだけど。
「異能の力とは、己の生命力を力に変えて発動するのですが、もし、今回の様な転移を行うには人族の生命力では到底足りないのです。ですので、不可能だと」
「もし、、、もしの話しだがよ、他人の生命力をどうにかできたら、何とかなるのか?」
お お頭何てこと考えてるの?他人の生命力を?他人の命を奪うって事?
居合わせた全員が目をぱちくりさせている。そりゃあそうだ、何て恐ろしい考えなのよ。
「それは、他人の生命力を吸い取るって事で宜しいので?」
「ああ、そんなとこだ」
「それなら、、、、いや、それでも足りないかと・・・」
「その人数が数万だったらどうだ?」
「・・・・それなら、、、あくまでも可能性の話しとして申し上げますが、、、否定は、、、出来ません。しかし、、、」
「悪魔でも・・・か。上手い事言いやがる。そうだな、もしやる奴がいたとしたら、そいつこそ悪魔だな」
「悪魔って、いたのですね。それも、伝説とかでなく現実の世界に・・・」
勇猛を誇るオレンジの悪魔のブライアン・ロジャース中佐も言葉を失ってしまっていた。
「お嬢、この後どうするよ?何か手を打つか?それとも・・・」
「あたし達に出来る事をするだけよ?連中は何処かに飛んで行ったんでしょ?だったらここは安全だから、住民達には家に帰って貰いましょう。完全に元には戻れないでしょうけど、あたし達は彼らが立ち直る為のお手伝いをしましょう。ロジャース中佐は帝国にお帰りになりますか?」
「そうだな。私たちは、内戦が片ずくまで手を貸してやれと言われただけですから、確かに帰るには丁度いい頃合いかもしれませんね。部下たちと相談してどうするか決めるとします」
「うん、わかりました。今まで有難うございました。本当に助かりました」
「気にしないで下さい。うちの将軍閣下があなたの事気に入っただけですから」
「相変わらず物好きな奴だぜ。あのキザ野郎はよ」
「あらっ、妬いているのかしら?」
「なっ!!!!!てめー、なんて事言ってるんでえ。言って良い事と悪いことがあるぞっ!!」
メアリーさんに突っ込まれたお頭は顔が茹でだこになって居る。そう言えば、こんなお頭見るの初めてかもしれない。
「お頭、『うさぎの手』はどうするの?残って、復興のお手伝いしてくれるのかな?」
すっかりペースを乱されたお頭は、しどろもどろになりながらも、威厳を保とうと胸を張ったが、出て来た言葉は態度とはかけ離れたものだった。
「そ それわよお、なんちゅうか、ほれ、だから、んーーーっ、察しろよ!」
お頭は真っ赤になって後ろを向いてしまった。変なのお。
「随分と楽しそうですね」
伝令担当のまだ若い兵がなにやら紙切れを持ってやって来た。
「どうしたの?何かあった?」
「はい、王都からハトが届きました」
そう言うと、右手に持っていた紙切れを差し出して来た。
「あら、王都から?随分早いわね。何かしら」
あたしは手紙を読んで目を見張ってしまった。
「ん?どうした?何言って来たんだ?」
いつの間にか平素の顔に戻ったお頭が覗き込んで来た。
あたしは大きく息を吸い込み、一瞬間を置いてから言い放った。
「本日をもって、、、、カーン伯爵追討軍は 解散します!」