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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
23/168

23.

「いったいどういう事だ?理解が追い付かないんだが」

 カーンの奴、王都を完全制圧したばかりじゃねえか、癪ではあるがクーデターは完全に成功しただろうに、なんで放棄するんだ?このまま暫定政府を立ち上げてシュトラウス大公国全土を掌握しちまえばいいものを。

 確かに、公王を始めとする政府首脳は取り逃がしてはいるが、その優位性は揺るがないだろう。唯一不安材料があるとすれば、聖女様を味方に出来なかった事だろうが、そんなもの奴の持つ圧倒的武力で何とでも出来るんじゃないか?一体何が起こったんだ?


 オグマは、よろよろと立ち上がり真っ直ぐこちらを見上げている。身長は俺の方が上なので、見上げるのは仕方がないのだが。

「お頭の考えて居る事は手に取る様にわかります。圧倒的に有利な状況なのにどうして撤退するのか? でしょう?」

「うっ、手に取るのか・・・」

「はい、手に取ります。実はこの状況は想定内でした。遅かれ早かれいずれ自滅するであろう事は容易に推測出来ていたのですが、想定外だったのはこんなに早く王都を見限った事なんですよ。あまりにも早過ぎます」

「だよなぁ、クーデターを起こしちまったんだから、後戻りは出来ないはずだ。一気に推し進めないと待って居るのは自らの滅亡しかない訳だからな。それがわからないアホウとは思えないのだが?」

「はい、想像でしかないのですが、恐らく王都の建物、いわゆる箱物は手に入ったのだけど、国民の人心を掌握出来なかったのが原因かと思われます。思っていたより国民の中にある聖女様の存在が大きすぎた?と言う事でしょうか?」

「そんな事で、王都を放棄するのか?そんな事位最初からわかっていてクーデターを起こしたのではないのか?」

「ですから、これは私の想像なんですって。奴にとっての想定外は、政府首脳が無傷で逃げおおせた事と、聖女を確保出来なかった事。じゃないんですかねぇ」

「ううむ・・・」

「それと、決定打となったのは自分の地盤であるイルクートが反旗を翻した事。自国の国民に支持されなかった事が大きいんでないかと」

「いやいや、それはおかしいぞ。イルクートが反旗を翻したのなら、王都を掌握しつつイルクートも落としてしまえばいいだろう。奴にはそれが出来るだけの軍事力があるはずだぞ」

「奴が問題視しているのは、イルクートの離反ではなく、その城壁に掲げられているリンデンバーグ家の家紋の入った旗ではないですかね」

「ああ、あの旗か」

「ええ、あの旗に武器を向けるって事は、聖女様ひいてはリンデンバーグ家に武器を向けるって事になりますからねぇ。兵達の動揺もかなりのものかと。それを裏付けする情報も入って来ております。最大で八十万にも膨れ上がったカーンの軍も、毎晩千人単位で兵が脱走しているらしく、現在も兵の流出が止まらない様ですよ」

「なるほど、空中分解しつつあると言う訳か。脱走した兵達の行先はもちろんイルクートだろうな」

「はい、続々とイルクートに集まっているそうです」

「まずいな・・・」

「と言いますと?」

「わからんか。今続々と脱走兵がイルクートに向かって居る、そしてイルクートはそれを受け入れている」

「はい」

「その中に、カーンの密命を受けた兵達が紛れていたらどうなる?」

「あ、なるほど・・・」

「何をするかはわからんが、もし旗を燃やされたらどうする?燃やした上で、これは公王派の用意したニセモノだ!とでも言い出したら?聖女様は公王派によって軟禁されているから、これを開放すべし!とか言って扇動されたら?」

「イルクート内は大混乱ですな」

「そう、あくまで想像でしかないんだが再び兵を掌握する事も可能だとは思うんだよ。でもな、大きな疑問がひとつあるんだよ」

「折角確保した王都を放棄する必要性  ですな?」

「そうだ。それが謎だ。王都を放棄したカーンはどこに向かっている?」

「それが・・・王都から東に向けて一斉にばらけたみたいでして、未だに敵の本隊の動向が掴めていません。イルクートにも、ここパレス・ブランにも、北のサリチアにも向かっています」

「王都から東の国中に散らばったって事か?なぜそんな事をする必要がある?王都に立て籠もれば守りも堅いだろうに、なぜ敢えて危険に身を晒す?」

「固まって逃げれば、こちらの追撃もし易い?散り散りに逃げれば的が絞れない」

 みんなが考え込んでしまったので辺りは一旦静寂に包まれた。

 

「しょーがねーなぁ、ここに居ても仕方がない、一旦イルクートに向かうか?まさかとは思うが、ここに聖女の嬢ちゃんが居る事がバレたら、敵が集まって来兼ねないからな」」

 その時、室内に凛とした声が響き渡り、ムスケルは頭を抱えた。言わずと知れたアナスタシアの声であり、こんな時の彼女はろくでも無い事を言い出すに違いないのが手に取る様にわかるからだった。


「わたくしは、ここから動きません。ここは、先祖代々わがリンデンバーグ家が数百年に渡り守護奉って参りました聖地です。リンデンバーグ家の者としてここを放置する訳には参りません」

 その眼差しは、いかなる異論も受け付けませんと言っている様な圧が感じられた。

 意思が固い と言えば聞こえはいいが、要するに頑固なのであった。

「あのなぁ、放置する訳にはいかないって言うが、あんたの姉さんは放棄しちまったんだぜ」

「それでもです。姉が放棄したのなら、わたくしが守らねばなりません!」

「カーンの残党に囲まれても?」

「それでも・・・」

「ハッキリ言わんとわからんか?お前さんがここでカーンの奴に捕まったら、一番困るのはお前の姉さんだぞ?聖女様という立場上お前さんを切り捨てる決断を強いられる事になるんだぞ、いいのか?それで」

「う・・・・・・」


 あからさまに動揺しているアナスタシアの姿に満足げなムスケルだったが、その恐るべきスキルの発動にまで考えが及ばなかったのは致し方が無いのだろう。


「さあ、うるさい奴らが来る前に逃げ出すぞお、直ぐに出発する準備をしろっ!」

 配下の者にそう命じると落ち込んでいるアナスタシアの元に行き声をかけようとしたその時だった。


「おかあああぁしらああああぁぁぁぁ」

 先ほど、出発の指示を出した配下の男が情けない声と共に戻ってきた。

「し 支度は出来たのか?」


 戻って来た彼は声だけでなく顔も情けなかった。いったいどうしたんだ?

「馬が動きませええん」

 大の男が半分泣きべそをかいているではないか。

「はっ?ガキじゃねええんだからよ、動かねえんだったら引っ張っても動かせよ。何年この仕事やってんだよっ!ったく、この忙しい時によお」

「まあまあお頭、なんか嫌な予感がする。俺が見てきましょう」

 そう言うと、オグマは立ち上がり配下の男と連れ立って足早に部屋を出て行った。


 部屋を出て行く二人を見て居るとため息が出て来た。

 いったいいつからここは幼稚園になったんだ?命令されなくても自分で最低の判断は出来る集団に作り上げて来たはずなんだがなぁ。一から教育のし直しをせんといかんのか?

 聖騎士の嬢ちゃんに出会ってから、なんか調子が狂っていけねえや。

 頭をボリボリと掻きながら、ふとある事に考えが至った。

「まさか・・・いや、そんなはずは・・・」

 振り返って、床の上で両手を組んで一心に何かを祈って居る風の少女を見下ろすと、その考えがより一層真実味を増して来た様な感じがしてきた。

 なんてこった、これが・・・聖女様の、いやアナスタシアの嬢ちゃんの固有スキル『周りを不幸にする』  か?

「いやいやいや、そんな有り得ねえ  信じたくねぇ 俺は自分の目で見たものしか信じねぇ」


 そうつぶやくと、部屋を飛び出していったが、飛び込んで来たその異様な光景に立ちすくんでしまった。

 パレス・ブランの広い中庭では、大勢の者が右往左往していたが、際立っていたのは、見渡す限りの全ての馬が座り込んでいて、手綱を引っ張ってもピクリとも動こうとしていない事だった。

 有り得ない、ありえない。未だかつてこんな光景は見た事が無い。これが、聖女の嬢ちゃんの意思だというのか?

 呆然と立ちすくんでいると、オグマが戻って来た。

「お頭っ」

「みなまで言うな。これが現実だっていうんならそれに従うっきゃねえだろうがよ。とんだ貧乏くじを引いちまったもんだぜ」

「そうですな、で、これからいかがいたしますか?ここから動けないのでしたら、盾籠る準備  ですかね?」

「だな、ぐじゅぐじゅ言っててもはじまらん。直ちに兵を城壁に配置して周囲の警戒を厳としろ!直ちに総員戦闘配備だ!忙しくなるぞぉ」

「そうこなくっちゃ。直ちに臨戦態勢に入ります」

 オグマは、周りの兵達に声を掛けながら人混みに消えて行った。


 ここ、パレス・ブランは聖神マルティシオンを崇拝する国内最大であり唯一のマルティシオン教会の聖域として人々の信仰の中心であった。

 現在でこそ、マルティシオン教会の本部として国内に知られているが、その昔は戦いに特化した山城だった。

 広大でなだらかな丘陵の中央にそびえる二百メートルクラスのアルドラ山。左右対称で美しいその山は山頂に巨大なアルドラ湖を有しその外輪山にパレス・ブランはあった。

 山城として戦いに明け暮れ、血塗られていた頃は全体が漆黒の城だったと伝えられている。現在は全て純白の荘厳なる建物となっており、昔の面影は全くなかった。

 聖域の中心たるパレス・ブランとは山頂にある元山城の白亜の教会を指し、ここは極少数の選ばれた者しか入る事は出来なかった。今回のアナスタシア達もカーン伯爵の兵達もここには入らず、山の裾にアルドラ山を取り囲む様に広がるアルドラ・パレスに滞在していた。

 唯一、聖女様捜索の為、アナスタシアとムスケルだけが一度だけパレス・ブランに入っただけだった。

 この山裾にある第二宮殿であるアルドラ・パレスも元は戦国時代に本城であるパレス・ブランに登れる唯一の道を守護する為に造られた城だった。ここ以外から山頂に上がる事は不可能だった。

 このアルドラ山が難攻不落と言われているその所以は、この山の生態系にあった。この山のどこからともなく発生してくる蛇、蛙、蛾、鼠、蟻、蛭、蚊、ダニ全てが致死性の猛毒を持っていた。山に入ると五分と持たずに命を落とすと言われている。

 しかし、不思議な事に、これらの猛毒を持つ生物はパレス・ブランとアルドラ・パレス、そしてこの二つを繋ぐ参道にはこれまで一匹たりとも侵入して来ないのだった。聖女の力によるものなのかは未だに不明なのだが、これもここが聖域と言わしめる重大な要素となっているのは確かだった。しかし、一般にはその事は知られていなかった。なぜなら、そもそもこのお山は聖地であるので誰も近寄る事がなかったので、毒虫の事もいつしか人々の知識から消え失せていたのだった。

 聖なる力に護られた聖なるお山、それがアルドラ山であり、パレス・ブランであった。

 

 今、この聖なる地で身動きが出来なくなったアナスタシアを始めとする一行は、山裾にあるアルドラ・パレスで来るかどうかもわからないカーン伯爵の手勢を迎え撃つ準備を始めた。

 幸い、元々が戦う為の城だったので外部からの攻撃に対しての守りは堅く、少ない兵力でも持ち応えられると思われた。

 カーン伯爵軍から離脱して来た兵が相当数やって来たが、内部で破壊工作をされても叶わないので中には入れず、イルクートに行って貰った。


 敵対勢力による大掛かりな攻撃は幸いにも今の所無かったので、護りを固める事に専念出来たのは幸いだった。

 そんな中、見張りから敵兵力と思われる一団が接近して来ているとの報告が上がって来た。


 城門に上がって見ると、確かに隊列を組んだ一団と統制が取れない一団が緩やかな丘を登って来るのが見える。数は、、、そうだな、五百って所か。鎧の色と掲げている旗からカーンの野郎の兵ではないな。どこの奴らだ?

「ほう、珍しい奴らが来ましたな」

 城門に上って来たオグマがそう呟いた。

「どこの奴らだ?」

「あの旗からすると半分はサリチアの血縁ですかな?残りの半分は・・・食い詰め者かチンピラでしょうか?」

「何しに来たんだ?物乞いか?」

 などと話していると、ふいに呼びかけられた。

「おーい!おーい!そこに変な顔のおっさんはいるかあぁっ!」

 思わずオグマと顔を見合わせてしまった。

「変な顔?お前か?」

「いやいやいや、変な顔と言ったらお頭でしょう いてっ!!」

 失礼な奴だな。なにもんだ?

 見た感じは、、、只の変な奴?馬の上で何やら食っているし。

 どこかで見た感じがするが・・・。


「おーい!そこにいるのはわかってるんだよーっ!早く出ておいでえぇ~」


「なんだ?馴れ馴れしい奴だなぁ。無視するか?」

「そうですねぇ、何がしたいのかわかりませんが、しばらく様子をみますかね?あ、こっちを見た」


「あっ!いたいた。いるんじゃなー-い。居るんなら返事くらいしてよお、冷たいなぁ」

 しまった、見付かったか・・・

 しかたねぇなぁ。

「俺になんか用か?」

 仕方が無いので、返事をしてやったんだが、誰だ?こいつ。ひょーひょーとしていやがって、まったく記憶にねえな。

「やだなぁ、そんなに冷たくしないでよぉ、あんたらのニセ情報で散々無駄足食わされた仲なんだからさあ」

「ん?ニセ情報?なんじゃ、そりゃ?」

 オグマもわからないらしく、首を横に振って居る。

「やだなぁ、忘れちゃったぁ?東夷 とか言うニセ情報で振り回してくれちゃったじゃない」

「ああ、あんときのアホか。確か情事とか言ったか」

「ジョージ・マッケンジーですってばぁ、ま、通り名ですけどね♪」


 うーん、やはり変な奴だ。

「そんな奴がなんの用だ?飯がほしいのか?だったらやらんぞ」

「やだなぁ、そんな訳無いじゃないですかぁ。調べ上げるのに苦労したんですよ、そちらに囲われている聖女様を渡して欲しいだけですよ。悪い話では無いでしょう」

「どこが、悪い話じゃないんだ?」

「だって、渡して貰えれば私も任務終了ですし、あんたも肩の荷が下りるでしょ?ウィンウィンじゃないですかぁ」

 やはり、バカだ。

「そもそも渡す気ねーし、お前、その兵力で奪えると思っているのか?みんな顔色悪いぞ、腹下しているんじゃねーか?」

「余計なお世話です。大人しく聖女のエレノア様をお渡しなさい。でないと、後悔しますよ」

 

 今日何度目だろう。俺はオグマと顔を見合わせてしまった。こいつ、オバカ決定だ。

「(あいつら大した情報網を持っていないのな)」

「(これで、連中がエレノア様の所在を掴めていない事がわかりましたな)」

「なぁにこそこそはなしてるのぉ?逃げ出す相談?逃げるなら聖女様渡してからにしてよねぇ」

「そうか、渡してもいいぞ」

「ほんとおっ?」

「ああ、奪えるのならな。やってみるか?」

 あ、怒ってる怒ってる。なんで、大人しく渡すと思うのかなぁ、やはりオバカ?

 

 向こうは五~六百か。こっちは二百ちょい。こっちはみんな元気でやる気十分。向こうは多くの兵が、お腹押さえている。岩の陰でしちゃっている奴もちらほら見える。見たくないが・・・。

 圧倒的に有利だな。暫くはお手並み拝見といくか。

「こちらからは打って出るなよ。あくまで守りに徹するんだ。近寄った奴だけ倒せばいい」

「了解です。徹底させます」


 さて、どうするのかと思っていたら、いきなり正面から突撃して来た。

 正気か?遮二無二歩兵主体の兵が槍を構えて攻め寄せて来た。

 あのオバカはと言うと、後方で馬上で剣を振り回して、叫んでいる。突撃ーっ!!突撃ーっ!!  と

 やはりオバカだ。

「なぁ、あのバカどう思う?何で待ち構えているのに真正面から来る?」

「何か主目的が他にあって、それから目を逸らす為にわざと正面から攻撃しているのでしょうか?あれでは、素人と言うよりも、只のバカですよ」

「だよなぁ。正面に目を向けさせる必要があるとしたら、本命は山の裏側か?」

「ですが、この山は・・・」

「うむ、そうなんだが、あのバカの事だからろくに調査していないんじゃないか?」

「そんな気がしてきました。山の裏側は警戒しように我々も入れない所ですから如何ともしようがないですね。幸い、アナスタシア様はこちらのアルドラ・パレスにおられるので後方を突かれてもどうと言う事はないんですがね」


 正面を見てみると、敵は五百名は居るはずなのに、実際に攻め寄せて来ているのは百名も居ない様だった。攻め寄せて来ている兵も、半数が腹を押さえてうずくまっていて、元気な者もあまりやる気が無さそうだった。

 なんとなくやる気なくダラダラと攻め寄せて来た兵達も城壁からの雨の様に降って来る矢襖に、這う這うの体で逃げ出し始めている。

「なんか、、、みじめだ。敵兵ながら同情してしまうぞ。どうせなら、カーン伯爵の本隊に来て欲しかったな。これならお嬢でも対処できたな」

「そうですな。いい練習台になったかもしれませんな。おやおや、みんな引き上げて遠巻きに見て居ますな。いったい何がしたいんでしょう?」

 敵陣を見ると、鎧を脱いで休憩している奴も散見する。やる気ないって言うか、相手に対して失礼だろうって話しだろう。完全にこちらが打って出ないと思い込んでいるようだ。ま、打って出ないんだが。

 さて、どうしたもんだか。


「あの、ムスケル様」

 思案にくれていると、後ろからふいに声を掛けられた。

「ああ、聖女様か、どうしました?こんな最前線はあんたが来る様な所ではないですぜ」

 もじもじしながらも大人しく帰る気配は見えない。

「戦況はいかがなものでしょうか?」

「ご覧の様に膠着状態ですよ。あんたの姿を相手に見られると最悪な状況になりますので、引っ込んでいて貰えませんかね。それとも、壮絶な殺し合いがお望みですかな?」

「そ そんな・・・」

「あんたがここに居るってわかれば相手は損害度外視で攻めてきますよ。今はまだ疑心暗鬼でこんな状況ですがね。今しばらく我慢願いませんか?」

「はい、わかりました。中に入っていますので、あまり無茶はしないで下さいましね」

「へいへい、任せなさいって」

 そう言うと、聖女の嬢ちゃんは中に入って行った。聞き分けが良くて良かった。

 で、聞き分けの悪いあいつはどうするかだな。

 相変わらず、剣を振り回して叫んでいるが、誰も動いてくれて居ない。そりゃあそうだろうな。

「やはり、時間稼ぎ  かな?」

「その可能性が大きくなって来ましたな、はたして、鬼が出るか蛇が出るかですな。どうせこちらからは出られないんですから、待つしかないですね。少し休みますか?」

「そうだな、日も暮れて来るから警戒だけは厳重にしておいてくれよ。何かあったら直ぐに呼んでくれ」

「了解です。ゆっくりお休みください」


 俺は、司令部を設置した部屋に戻り、軽く食事をして横になった。横になってはいるが、目は冴えわたっているので眠くはない。

 横になって今までの事を思い返していた。

 何故、カーンはせっかく掌握した王都を早々と放棄したのか?

 何故、ばらばらに撤退したのか?

 撤退した伯爵はどこに向かったのか?

 今、奴はどこに居るのか?

 謎だらけだ。

 一番の謎は、なんで俺があんな小娘達に振り回され続けているんだ?自由な盗賊のはずなのに・・・

 確かにあの方の恩には一生かかっても報いたいのではあるが・・・

 そんな事を考えて居る内に意識が薄れていった。



基本的に土曜日投稿を目指していましたが、私用の為遅くなってしまい申し訳ありません。

今回は、パレス・ブランに立て籠ったアナスタシアとムスケルの話です。

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