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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
184/186

184.

 まばゆいばかりの閃光が収まっても暫くは目が開けなかった。

 眩しいと言うよりも、目が痛くて、知らず知らずの内にうめき声が漏れていた。

 いきなりぶっ放されたので、対応が一瞬遅れた為もろにその閃光を見てしまったのだ。

 出力は目一杯押さえてくれていたのでダメージは軽くて済んだのだけど、それでもいまだに目の前は真っ白で何も見えなかった。

 暫く呻いた後、少しずつ目を開けて見ると、辛うじてみんながしゃがみ込んで両手で目を塞いでいるのが、なんとなく見えて来た。


「ごめーん、ちょっと力を入れ過ぎたわぁ」

 可愛く頭をポリポリと掻いているが、全然可愛くないぞ。

 みんな、のたうち回っているじゃあないか。

 あたしは、比較的慣れていたのでこんなもんで済んだが、クロエ姉様達は初めてだからたまったもんじゃなかったろう。

「クロエ姉様、大丈夫ですか?」

 視界がまだ完全に回復していなかったので、巨大な・・・いや、比較的大きなシルエットに向かって歩み寄りながら声を掛けてみた。


「だいじょうぶな訳ないわよ。なんなの?何が起こっているの?」

 うめくような、クロエ姉様の声が返って来た。

「もうしわけありませーん、うちの子手加減が出来なくって」

 ふらふらしながらクロエ姉様の隣に行くと、しゃがんで地面に片手をついたまま頭を振っていた。

 うん、いきなりこんな状況に出くわしたら誰だって訳が・・・え?

 その時、クロエ姉様から信じられない言葉が漏れてきた。

「おもしろい・・・」


 おもしろ い?

 聞き間違った?

「面白いわ。あなた方、こんな恩恵ギフトを持っていたのね。そっか、だからそんなに余裕があったし、非常識なほどの無茶を平気で言えたのね。納得だわね」

 あらぁ、姉様、意外と冷静に見ているのね。そっかぁ、あたし達のあの力は恩恵ギフトって言うのか。普通に認知されている力だったのね。

 そんな事を考えていると、アドが寄って来て姉様に話し始めた。

「姐さんは、もっと非常識な力を持って居るんですよ」

「な・・・」

「非常識って?」

「常識では考えられない力って言うか、歩く天変地異と言うか・・・、人では無いと言うか」

「ふふ ふふふ  ふふふふふ あっはっはっ!!」

 いきなり笑い出した姉様に驚いてしまった。どこがおかしかったんだろう?

「ふふふ あなたって、あの頃から破天荒たったけど、今も全然変わらないのね。なんか安心したわ」

 えっ?破天荒?あたしって・・・そんな風に思われていたってこと?こんなにおしとやかなのに・・・。

 あ、アド。フッって鼻で笑った!ぶー。


「こうやって姐さんとポーリンで脱出用のトンネルを掘りますので、トンネルが出来次第順次ここから全員脱出して貰います。脱出後は海岸沿いに西に向かえば姐さんの長兄であるラング様の治める王国があります。そこまで辿り着ければ王国が守ってくれるはずです」

「なるほど・・・。脱出後には、そんなつてがあったのですね。それでしたら脱出作戦も納得ですが、あなたは大事な事をお忘れですよ」

 動揺から立ち直った姉様が突っ込みを入れて来た。

「大切な事ですか?それは、捕虜にされているリンクシュタット派の重鎮の皆様方の身の安全とその奪還  ですかね?」

 アドにとって、この突っ込みは想定内の事の様で、落ち着いて受け答えをしていた。

「そうよ。まさか、それも対策が出来ているなんて言わないわよね?」

 ゆっくりと立ち上がった姉様は、正面から真っ直ぐにアドを見下ろすように、そう聞き返した。その眼差しにはいぶかしむような感じが滲み出ていた。

「ふふふ、そこまで対策がなければ、領民脱出計画なんて言い出しませんよ」

 アドはどこかうれしそうだった。

 反対に、姉様は大きなため息を吐いていた。まるで呆れたとでも言うように。

「はあ~。私達が五十年かけてもなしえなかった事を、あなたはいとも簡単に出来ると言うのね」

「まあ、我々は言うなれば歩く非常識部隊ですからねww」

「なによ、それ」

 今度は完全に呆れていた。まあそうだろうなぁ、あたし達の持っている物と言ったら、ほとんど伝説級の物ばかりだもんね、信じられないのも無理は無いわね。

「実は我々は船を保有して居るんですよ、強力な船をね。領民脱出開始と同時に、この船で救出部隊を直接フィレッチア一派の屋敷に送り込み領主様達を救出します」

 今度はあきれ顔から驚愕の顔に変わった姉様だった。


「ちよっ、ちよっ、ちょっ。船?聞き間違いでなかったら、あなた、船って言った?フィレッチア一の館はこの要塞の一番奥にあるのよ。こんな陸地で船の出る幕なんて全く無いってわかって言ってる?」

 慌ててアドの言葉を否定する姉様に、こんどはポーリンがにまにまと嬉しそうに説明を始めた。

「そら、普通はそう思うやろな。せやけど、うちらは普通やないから、常識で考えたらあかんでぇ」

「でも・・・」

「うちらの船は空を飛ぶんやで。空を飛んでな、そのフィレッチアなんたらの館に直接乗り込んで救出作戦を実施するんやで」

「・・・・・・・・・・・」

 どうやら姉様は、言葉が出なくなったようで、口をパクパクしている。

 ポーリンの説明は大雑把すぎるので、再びアドが説明を始めた。

「脱出トンネルが出来次第、高齢者と病人・怪我人、女性・子供から避難を始めます。夜になったら船で館に乗り付け救出作戦を開始します。お分かりいただけたでしょうか?」

「うーん、うーん、良くわからないが、良くわかったわ。領主様達の事はお任せして、我々は脱出に全力を注げば良いと言う事なのですね?」

「ご理解が早くて助かります。ひとつだけお願いが御座います。いかんせん我々は人手が足りません。ですので、兵隊をお借りしたい」

「それは可能ですが、どの位いればよろしいか?先ほども言いましたが、そんなに大勢は用意できませんよ?」

「それは大丈夫です。領民の脱出行の間、追撃されないように我々と農地とを隔てている背の高い壁から連中が出て来ない様に見張って頂きたい。もし、連中が出て来ようとしたら、それを妨害してもらえれば良いだけですので、千でも二千でも構いません」

「なるほど。それでしたら直ぐにでも準備を整えましょう。サキ、直ぐにこの事を長老達に伝えて準備を始めて頂戴」

「はい、直ぐに行って参ります」

 そう言うと、再びサキさんは廊下に飛び出して行った。フットワークの軽い人だ。


「して、その空飛ぶ船とやらは、今どこに?」

 うんうん、気になるよねぇ。

「今は、要塞から少し離れた塩の川当たりで待機しております。城壁で狼煙を上げれば直ぐにやって来る手はずになっておりますので、ご安心を」

「わかりました。で、作戦の決行はいつを予定しているので?」

 姉様は、少し落ち着いた?いや、きっと考えるのを止めたのだろう。驚くことなく冷静に聞いて来た。

「みなさん家財道具が有るでしょうから、荷車も通れるように大きなトンネルを掘るつもりです。家財道具を積み込む時間が必要でしょう。明後日、日の出と同時に決行で宜しいでしょうか?」

「ええ、了解しました。領民全員に周知させます。それと、塀のこっち側に三か所あるフィレッチア派の駐屯地は作戦決行前に制圧しておかないといけないでしょう。連中、すっかりだらけているので我々だけでも簡単に制圧出来るでしょう」

 そう言い残すと、姉様も部屋から出て行った。


「姐さん?」

 感心してアドのやり取りを見ていたら、突然アドに声を掛けられた。

「え?なに?」

「先程見た感じですと、あの塀の向こう側の農地は小麦畑のようでしたね。もうすっかり黄金色をしていましたよ」

「ほうほう」

「ですので、今ならよーく燃えるはずww」

「焼き払うのね?」

「トンネルが掘り終わって、領民が避難を開始したタイミングでお願いします。派手にね。その間にお頭を中心に救出作戦を実施したいと思います」

「こっちに連中の注意を向ければいいのね、わかったわ」

「ええ、大暴れしちゃって下さい。ただし領民の退避が終了したら、そのタイミングで城壁の外から増援が雪崩れ込みますので、姐さん達は大急ぎでトンネルに向かって下さい」

「え?増援?増援って何?そんなはなし聞いて無いわよ?」

「そうでしょうとも、今言いましたから」

 アドはいつもケロッとした表情で、サラッとこういう事を言うんだよなぁ。

「うちも聞いて無いで?何なんや、増援って」

 ポーリンも驚いているようだ。

「私達がここを脱出して王都に向かう道中、後ろから追手がかかったら面倒でしょ?なので、フィレッチア派の連中と遊んでいてもらおうと思うのですよ」

 何を当たり前の事を聞くんだ?とばかりにアドは淡々と話すが、あたしたちにとっては『??????』だ。

「それはわかったけど、誰がその任に就いてくれるっていうの?」

「いるじゃあないですか。城壁の外にうじゃうじゃと」

「うじゃうじゃ?外って、まさか蛮族?」

「ええ、脱出の最後に城壁に穴を開けてから逃げます。そうすれば後は勝手に雪崩れ込んでフィレッチア派の連中と勝手に遊んでくれるでしょう」

「うわっ、アドえげつなーい」

 思わずポーリンが叫んだがアドは全然平気だった。

「使えるモノは有効に使わないといけないでしょう?別段不思議な事は言っていないわよ?でしょう?」

 アドの独特の発想には付いて行けないし、口ではかなわないから、もう突っ込むのはやめる事にした。

「何か所かあるっていうフィレッチア派の駐屯地の制圧の方は大丈夫なの?」

 取り敢えず話題を変えてみたのだけど、返事は廊下の方から聞こえて来た。

 ハッと振り向くとそこにはジェームズさんが立って居た。

「私の居ない間に面白い事をやろうとしていますね。冷たいですよ、私も混ぜて下さいよ。三か所ある連中の駐屯地でしたら、私の方で制圧しておきますよ?」

 ジェームズさんは、出口の壁に片手をついて、楽しそうに笑っている。駐屯地の方は任せて良さそうだった。

「決行は明後日でしたら、明日中に駐屯地は片付けておきましょう。お任せ下さい」

 大まかな計画は情報共有が出来たので、今日は一旦は解散となった。


 アドが合図を送ったのだろう。寝て居たら夜半過ぎにお頭達が船でやって来た。一瞬みんなが元気そうなのでホッとしたのだが、そんな面白い事になっているのなら、もっと早く呼べとうるさく騒ぐので、心配したのが馬鹿馬鹿しくなったのは内緒だ。

 そんな中、嬉しい知らせもあった。

 あたしの名代として一足先に王国に行っていたウェイドさんがお頭の後から顔を出したのだった。

「ただいま戻りました。王国はしっかりと存在していましたぞ。こちらの状況を説明しましたら、『人手はいくらあっても良いだろう』と、領主様が兵を出してくれる事になりました」

「兄様は、ラング兄様はご健在だったのね?」

「はい、それはもう立派な領主様におなりで、私めの様な者の話しにもきちんと耳を傾けてくださいました」

「よかったぁ、本当によかった・・・」

 不覚にも涙が止まらなくなり、みんなに背を向けて必死に溢れ出る涙と格闘する羽目になった。

 普段だったら『鬼の霍乱だー』とか、悪口が出るだろうに、今日は誰も何も言われなかった。

 みんなの思いやりだと思う事にして、心置きなく涙を流して居ると、おかしらが静かに話し始めた。


「そのままでいいから聞けや。救出作戦は明後日の夜と聞いた。俺らは一旦ここを離れて、どこぞで待機していた方がいいか?」

 お頭にしては、控えめに聞いて来たのには驚いたのだが、そこで、それまで考え込んでいたアドが口を開いた。

「でしたら、このままここにいて下さい。やってもらいたい事がありますので」

「ほう、何をすればいいんだ?もちろん、暴れられるんだろうな?」

「ええ、暴れて貰いますが、今回はひっそりと物音を立てずに暴れてください」

「なんじゃ、そりゃ?」

「リンクシュタット派の居住地の中にフィレッチア派の駐屯地が三か所あります。それを制圧してもらいたいのですが、騒ぎを起こすと人質の安全が保てません。あくまでも秘密裏に一瞬で処分して下さい」

「ふむふむ、ひっそりと・・・かあ。まさに暗殺だな、了解した」

 ニヤリとほくそ笑むお頭の顔が容易に想像出来た。笑うのを堪えて居たら、いつの間にか涙が止まっていたのだった。

「お頭ぁ、繊細にやるんやでぇ、震災とはちゃうでぇ~ww」

 ポーリンが煽るが、珍しくお頭は反応しなかった。


「そう言えばよ。表で蛮族が大勢集まってわちゃわちゃしてたぜ。放置していてええんか?」

 不思議そうにお頭が聞いて来た。

「彼らは最終段階で突入して貰いますので放置して居て下さい」

 アドは、そんな事は気にもしていないようだったが、アウラは違って居た。

「あんなに蛮族が集まって来て、又あの堕天使が来ないか心配よねぇ」

 確かに、それは嫌だ。もう二度と会いたくはないわ。

「嫌な事いわんといてぇ、そないな事言うたら又来そうやないかぁ」

 ポーリンもそうとう懲りたみたいだ。まあ、そうだよね。

 お互いに和気あいあいと情報交換をしながら夜が更けて行った。

 こりゃあ寝そこなったかな?お頭達は宴会状態になっちゃっているから、放置しておこう。

 あたしは、アドとポーリンに声を掛けて部屋を出た。行き先は通路の北端、脱出用のトンネルを掘る現場だった。

 どうせ寝れないんだったら、少しでもトンネルを掘っておこうと考えたんだ。

 二日に分けて掘れば、疲労も軽減されるかなってね。


「いいですか?この角度です。この方向に掘ってください。荷車が通るのですから、坂にはならないように平らに掘ってくださいね。では、私はこれにて休ませて頂きます」

 アドはそう言うと。さっさと行ってしまった。

 あたしはアドと顔を見合わせてしまったが、さっさとやってあたし達も寝ようということになった。


 さっきポーリンは試し掘りをやったので、今度はあたしがやって見る事にした。

 影響が拡散しないように慎重に収束させるんだったわね。

 あたしは返して貰った竜王様の剣を両手で構え、慎重に気を集中していった。

 出力は抑え気味に・・・いいぞいいぞ、よおし気は溜まったみたいだ。このまま行くわよ。

 目を見開いて前方の壁に意識を集中させる・・・いくわよ。

「!」

 あ、だめっ!なんでこんなタイミングで鼻がむずむずしてくんのよお~。

 あああああ、もう止まらな~い、だめだあぁぁぁぁぁっ!

「ふぁ ふぁ ふぁああああっくしょおおおおおぉぉぉんんんっ!!」

 はぁ、スッキリしたww

「あああああ 姐さんっ!!壁っ、壁っ」


 え?あ、そうだ。穴を掘っていたんだった。

 改めて正面の壁を見つめて・・・ビックリした。

 なんで、こんな事に・・・。


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