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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
15/187

15.

「ええっと、感動に浸っている所大変申し訳ないのですが、時間が無いのでそろそろ本題に入りたいとおもうのですけど、宜しいでしょうか?」

 堪り兼ねて声を掛けてみたのだったが、涙でぐちゃぐちゃの顔で一斉に振り向かれて、あたしはめっちゃ怖かった。



 その後、気を取り直して事情聴取と相成った。

「ええっと、改めて聞くけど今後は協力して貰えるって事でいいのかな?」

「はい、この身はいかようにもお使い下さい。必ずやお役に立てるでしょう」

「わかった、期待している。まずは、いろいろと質問がしたいんだけどいいかな?」

「はい、答えられる事でしたらなんなりと」

「まずは、ミッドガルズ側はあたし達の事をどの位把握してます?」

「国境にとらわれない大陸をまたにかけた盗賊団だとか。団長のムスケルと言う男は情け容赦のない卑劣な男なので、罰を与えないといけないのだとも言ってました」

 

「おれって、そんなに悪どかったか?」

 いきなり物凄い評価をされたので、お頭は面食らっていた。


「なんであたし達がここに居るのか、知っているの?」

「自分も下っ端なので詳しい事は聞かされていません。ただ、奴らは帝国に稼ぎに来ていて国境封鎖で帰れなくなって困っているから協力してククルカン要塞を陥す様に話を持ち掛けろと命令されただけですので」

「それを真に受けて交渉に来たのね」

「えっ?真に受けてって?」

「考えてもみなさいよ、あたし達の事を盗賊だと思っているんでしょ?盗賊同士が連携取って攻城戦出来ると思う?」

「いや、確かに。じゃあ何で?」

「おそらく囮でしょ。あたし達が戦っている間にトンズラしようとか?」

「確かになぁ、ありえる話だな」

 お頭も、うんうんと頷いている。

「お頭、要塞の現在の兵力はわかる?」

「ほぼ出払って居るので報告では千かせいぜい二千位かな?」

「ミッドガルズの人数は?」

「全員なのかはわかりませんが、現在潜伏しているのは百位かと」

「ほらね、こっちはみんな集めても、圧倒的に少ない上に、相手はプロで要塞に居るのよ。普通に考えたら自殺行為でしょう」

「た 確かに言われる通り です」

「デビットさん、元軍人さんでしたよね?今でも要塞内に顔が効いたりします?」

「顔ですかぁ・・・どうでしょう、確かに当時の同期が今ではそれなりの地位に就いて居るはずではありますが」

「籠絡だね、それならやるよ。アナスタシア様のお名前を出してもいいんだろ?」

 意外な事にメアリーが名乗り出てくれた。

「そうなんだけど、大丈夫?」

「あんた、わたしを誰だと思っているんだい?任せなさいっ」

「宜しくお願いします」

 蛇の道は蛇、ここはプロにお任せしたほうがいいかもね。

「デビットさん、ミッドガルズに帰ったら共同で要塞を陥とす話、承知したと伝えて?条件は、そうね宝物庫からくすねた物一つで手を打つって」

「えっ?えっ?」

 デビットさん、口が開きっぱなしだよ(笑)

「本気で組むつもりだったら怒り出すでしょう。最初から騙すつもりなら・・・条件をすんなり飲むはず」

「なるほど・・・」

「もし、本気で怒ってきたら、条件は交渉の余地ありって伝えて頂戴」

「お嬢、本気で山賊やるか?おまえさん才能あるぞ」

 真剣な顔でお頭に褒められたけど、ちっとも嬉しくないんですけど・・・

「やーよ。高貴なあたしが山賊なんてする訳ないでしょ」


「ちなみにさぁ、ミッドガルズってどこに潜伏しているの?」

「それが、交渉が終わったら向こうから接触して来る事になっているので、どこに居るのかわからないのです」

 心なしかしょぼんとしているのは気のせいだろうか?

「やっぱり、信用されていないんだねぇ。ま、その位用心深くないとやってられないんだろうけど」

「そうだぞぉ、お嬢も少しは見習えよ?」

 お頭、なんか嬉しそうでない?なんだかなぁ~。



 デビットさん達が帰って行った後、みんなで相談会だぁ。

 何を相談するかって?そりゃあ、ここまで舐め腐った奴らにきつーい一撃をって。

 取り敢えず、今夜の要塞襲撃はおあずけって事で、まずはミッドガルズへのお仕置きをどうするか。

 帰って行ったデビットさん達ご一行にはきちんと送り狼を付けてあるので、ミッドガルズの潜伏先は判明するだろう。問題はククルカン要塞の攻略だが、メアリーの報告待ちで現在の所する事は無かった。

 ただ、付近で監視をしているであろうミッドガルズの見張りの掃討はきちんと行い、数名の見張りを捕獲した。

 思った通り、捕獲した捕虜からは有意義な情報は得られなかった。


 その後緊張を伴っているものの、平和な時間が過ぎて行った。

 騒ぎは、日が暮れ始めた頃に起こった。


 静かだった森の中が急に騒がしくなった。要塞方面の見張りに就いて居た者が走って戻って来たのだった。

 なにごとか叫びながら駆けて来るものだから、寝ていた人も起き出して来てしまった。

「お頭~っ、姐さ~んっ!」

 叫びながら、物凄い形相で段々と近づいて来る。何度も転びながら・・・。

「お頭~っ、姐さ~んっ!」

 きたきたきた・・・

「どうしたっ、テツ!」

 でたよ。また、後ろから出現したよ、顔面修羅場のおっさん。

「あ、みなさんここにおりましたかっ!来ましたよ、来ましたっ」

「だから!なにが来たんだ!いつも報告は簡潔にと言って居るだろうがっ!」

「すんません。要塞から敵兵が出撃して、こちらにやって来ますっ!」

「来たか!お嬢っ!」

「敵兵はどんなのが来たの?」

「へい、全員騎馬兵でして、なぜか武装していません、手ぶらです。その数十数騎」

 みんな顔を見合わせている。

「お嬢、どう見るよ?」

 お頭はなぜか嬉しそうに聞いて来る。はいはい、あたしにでもわかりますよお、大丈夫です。

「では、みんなでお出迎えしましょう」

 そう、メアリーの説得が功を奏したとみていいだろう。なぜか悔しいけど。

 要塞からの使者と思われる一団を出迎えに、首脳部全員で林の縁迄出迎えに出た。


 徐々に速度を落とした集団は、林の手前で停止した。その最後尾にいるのは、黄色のツインテールだった。

 出迎えたあたしたちの前で馬から降りた一行は、先頭に立つのあたしの前でなく、アナスタシア様の前に歩み寄るとおもむろに膝まづいた。

 あっけに取られているあたし達を尻目に、先頭の最上位と思われる将校が口を開いた。

「お初にお目に掛かります。パンゲア帝国南西方面軍ククルカン要塞守備隊所属ブライアン・ロジャース中佐であります。この度は猊下に御目通り叶いまして恐悦至極に存じます」

 帝国兵は鬼畜揃いだとおもっていたのに、意外と礼儀正しいのに驚いた。

「我々はかつてデビットさんとは苦楽を共にして来た間柄で御座います。デビットさんが猊下にお味方するのであれば、我々も全力でサポートさせて頂く所存であります」

 アナスタシア様はと言うと、いたく感動したご様子で口元を手で覆っている。

「ほんとうに、ほんとうに、こんなわたくし達の為にありがとうございます。わたくしは、この御恩にどのようにして報いたらよろしいのでしょう」

「とんでもございません、身に余るお言葉を賜り恐悦至極に存じます。どうぞ、お気兼ねなく我々をお使い下されば、至上の喜びに御座います」

 おうっ、突然後ろからメアリーに突っつかれた。話を進めろって事か。

「早速で申し訳ないんだけど、時間が無いので話を進めてもよろしい?」

 ブライアン中佐は、意外だと言わんばかりの表情でこちらを見ている。あたしの事、下っ端とでも思っていたのかしら。

「あ、ああ、そうだな、急がないとまずいな」

「一応あたしが、アナスタシア様護衛の責任者のシャルロッテです。どうかお見知り置きを」

 一瞬、連中の間に動揺が走ったのは気のせいだろうか?ま、気にしない事にしよう。

「要塞の現在の兵力は?」

「あ、うむ、そうだな、今現在は二千五百位だ」

「その内、あたし達に組してくれそうな人数はわかります?」

「二千って所か」

「ほとんどじゃない。それなら簡単に制圧できそうね」

 なんて、気楽に言ったら、凄い形相で睨まれた。

「馬鹿言っちゃいけない!残りの五百が問題なんだ!」

「なんなの?残りの五百って?」

「自分達は皆帝国に制圧された亡国の兵なんだよ。だから帝国に信用されていない。だから裏切らない様に御目付け役が付けられているのさ。要塞指揮官のハイデン・ハイン将軍とその選りすぐりの配下の兵がそうなんだよ」

「そうなんだ、帝国軍って数は多いけど寄せ集めの軍隊なのね。だったら話は早いじゃないの、みんなでその直轄の五百を叩けばいいんだから楽じゃない」

「あんたは、なに話を聞いていたんだ?選りすぐりと言ったはずだぞ。ただの五百じゃないんだ、一人が百人に相当する強者揃いだから五万人に匹敵するんだよ、勝てる訳が無い。それに、ハイデン・ハイン将軍相手ってだけでみんな戦意喪失してしまって戦う前から総崩れになるのが目に見えている。戦いになんかならない」

 えっ?そうなの?そんなに凄いの?ハイデン・ハイン将軍ってそんなに凄いの?

「じ じゃあさ、一緒に戦わないんだったらあなた達は何しにここに来たの?」

「自分達は、将軍と戦う事の無謀さを教える為に来た。その上で、逃げ延びる猊下をサポートするつもりだ」

 えっ、そうなの?

「お頭、お頭なら何とかなるわよね?」

 さっきから難しい顔をしているお頭に聞いて見る。

「すまん、確かに要塞奪取を勧めたのはオレだ。だが、ヤツが居るのなら話は別だ。ヤツが出て来る前に出来るだけここから離れるんだ」

「えー-っ!!お頭がそんな事言う?」

「何とでも言ってくれ。今直ぐ逃げるんだ!ヤツを相手にするくらいなら国境を強行突破する方が作戦としては成立する、おーいっ!今直ぐここから撤収する、準備をしろーっ!!」

「えっ?えーっ??なになになに、なんで、なんでよぉ!」


「その御仁は状況が正しく見えてらっしゃるようだ。我々も全力で国境突破を支援しよう。その方が何人かは生き延びられる可能性が出て来る」

 おもむろに立ち上がったブライアン中佐は、静かに抑揚のない声でそう呟いた。

 驚いたあたしは、深刻な顔をしているお頭をまじまじと見た。

「悪いが、あいつとは戦えん。戦うのなら聖女様のお命は無いと思ってくれ。とても守りきれん」

「自分も同じ意見です。先ほども言いましたが、自分らがここに来たのは、将軍と戦う為ではなく、砦内の味方でサポートして国境を越えてもらう為です。幸い国境に展開している部隊には顔が効きます。夜陰に乗じて脱出する事も出来ましょう」

 ブライアン中佐の意見は、国境突破の一択の様だった。

「幸いな事に、我々の出陣目的は、ミッドガルズとか言うネズミの討伐と盗まれた宝物の奪取にあります。別方向で騒ぎを起こせば聖女様が逃げおおせる可能性は十分に有るでしょう」

 聞いていると、それしか方法が無い様にも思えて来るが、しかし。

「ブライアン中佐、もう一つ問題があるのだけれど」

「なんでしょうか?」

「砦内に持ち込まれた、竜の卵、ご存じです?」

「それが何か?」

 怪訝そうな顔をする中佐だが、この件は無視出来ない案件なのだ。

「アナスタシア様の国境突破の件は了解しました。おそらく貴方の仰る通りなのでしょう。直ちに国境に向かいましょう。ただ、国境に向かうにあたって竜の卵も返して頂きたい」

「な!!あれは我々の物だ、何故渡さねばならない!?」

「あなた、とてつもなく勘違いをなされていますね、卵の所有権を持つのは産んだ母親だけなんですよ?分かってます?」

「母親?母親とは?」

「母親とは、卵を産んだ者です」

「そんな事はわかっている!聞いているのは誰が産んだのかと言う事だ!」

「産んだのは、ベルクヴェルク山脈に棲まわれている暗黒竜の王、竜王様よ。あたし達は卵を奪還する様に竜王様から依頼されてここに来ているの。もし返して貰えないのでしたら、竜族との種の存続を賭けた戦いになりますけどよろしい?どんな大将軍と言えど、無数の竜と戦って勝てるとお思いですか?」

 はったりは大きく堂々とよ。減少している竜族に大軍団なんている訳ないけど、そんなのわかる訳ないしね。言ったもん勝ちよ。ぷぷぷ、ほら、もう動揺しちゃってるし。

「そ それは本当なのか?本当に竜王から?」

「当然でしょ?自分の子供が可愛くない親が居ると思って?」

「ううううむ、困った。あの卵は将軍が持っておられるのだ。とってもじゃないが、返してくれとは言える状況にないぞ」

 中佐は頭を抱えて歩き回っている。部下もお互いに顔を見合わせて深刻な顔をしている。


 その時だ。なんとも愉快そうな笑い声がその場に響き渡った。

「ほっほっほっほっ、シャルロッテ様、事態は解決いたしましたな」

「えっ?えっ?」

 突然笑い出したのは、竜執事殿だった。

「簡単な事で御座いますよ、竜王様のお卵は熱には滅法強いのです。あの要塞ごと火の海にしてしまえばお終いで御座います。簡単にお卵を取り返せます。ついでに、国土を焦土と化せばその間に国境を安全に越えられますな」

 中佐達は驚愕の表情で竜執事殿を凝視している。

「あ あなたはいったい・・・」

「ああ、自己紹介を忘れておりましたな。わたくしめは、今代の竜王様にお仕えしておりますヴィーヴルと申します。今はヒト化をしておりますが、れっきとした竜族で御座います」

 凄みを伴った自己紹介に、中佐以下は身じろぎも出来ないでいた。竜執事殿の目は、黄色く変わっており瞳孔は縦に細く、まるで爬虫類の様だった。

「いかがでしょう?国土を焦土と化するのは、お望みではないのではありませんか?」

「いや、それはわかっているのだが、どうやって将軍に伝えるかが問題なのだ」

「ほっほっほっ、それならお悩みになることも御座いますまい。まもなく先方から動いて参りますでしょうから」

「なんですと?それはいったい・・・」


「たいへんだーっ!!!たいへんだーっ!!要塞から兵がでたーっ!!」

 要塞の方を見ると、なにやらオレンジの騎士の一団が走って来るのが見える。

「あ、あれは・・・」

「悪魔だ! オレンジの悪魔だぁ!」


「オレンジの悪魔?」

「そう、将軍の直属の騎士団だ。とうとう見つかってしまったか。もうお終いだ」

 事ここに至っては、なすすべも無くオレンジ色の一団が接近して来るのをただ見つめる一行だった。

 ただ一人、竜執事殿だけはニコニコと事態の推移を見守っていた。


 やがて、オレンジに染め上げた鎧を全身にまとった十数騎の騎馬隊があたし達の前に到着した。

 選りすぐりと聞いていたはずだが、到着したのは半数の兵で、残りの半数の兵は途中で落馬して転がっているか、必死に再度馬に跨ろうと慌てていた。

 辿り着いた兵も、心なしか顔色が悪く、みんな一様に前かがみになっていた。


 先頭にいた長身の騎士が馬から降りて来て、又してもアナスタシア様の前に膝まづいた。

 なんで、あたしの前でなくアナスタシア様の前?なんか、もやもやするぅ~。


「ご無礼を陳謝致します。我が主、要塞指揮官のハイデン・ハインがあなた様と話がしたいと申しておりますれば、我々と同行して頂きたい」

 いったい何を考えているんだ?

「わたくしに選択肢はあるのですか?」

「いえ、御座いません」

「なら、聞くまでもないのではありませんか?」

「くれぐれも、失礼の無きようにと仰せつかっておりますれば」

「そうですか。わかりました、参りましょう」

「ちょ ちょっと待って!アナスタシア様をお一人でなんか行かせられないわよ。あたし達も行きます、いいわね」

「ご随意に」

 アナスタシア様って、普段はぼーっとしているのに、なんでこんなに思いっきりがいいの?少しは周りの事も考えてよね。

「馬車を持って来てちょーだい!みんな一緒に行くわよ!」

 林の中は、急遽騒がしくなった。


 思いもかけず、敵の本丸に強襲を掛ける事となった。

 いや、屠殺場に引き出されるにわとりと言った方が正しい表現なのだろうか。

 心情的には後者なのだが・・・



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