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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
14/187

14.

 なんだか訳がわからないけど、それはまずいわね。

「なにがどうなっているのかわからないから、取り敢えず街道から逸れて身を隠して今後の行動を考えましょう」

「お嬢!そんなに大きくはないけど左前方にちょっとした林があるわよ」

 すばやく周りを見回したアウラが前方を指差している。

 そこには、街道から少し奥まった所に小規模な林が広がっていた。

 四台の馬車は人目を避けつつ街道を離れて林の中に吸い込まれて行った。



「詳しい状況を教えて」

 森の中でテーブルを囲んで、先行偵察を行って来たエクレールによる報告会と相成った。

「国境に近づくにつれて兵士の数が増えています。関所には一個中隊位が集まっていました。潜伏予定に考えていた森の周辺にもパトロールの小隊がいくつも巡回していました。どの兵士もフル装備で、ただのパトロールとは思えませんでした」

「なぜ、そんなに兵が集まって居るのか情報は得られた?」

「それが、居合わせた商人達も首をかしげていました。こんな事は初めてだそうです。ああ、そう言えば、関所の近くに宿営地を設営していましたね。かなりの部隊が進駐して来ている様です」

「なんだってこんな時に」

「エク、その宿営地は設営中か?設営済みか?どっちだ?」

 お頭は変な事を聞くなぁ  って  え?

「お頭ぁ、いつの間に沸いて出たのぉ?それと、いつもいつも、突然後ろから声を掛けないで頂けます?心臓に悪いですから」

「はっはっはっ、お前さんがそんな事を気にするとはなあぁ。ま、いいだろう、極力気を付けるさ。で、どうなんだ?エク」

 ぜんっぜん、直す気はないな、この人。絶対面白がってやっているもんなぁ。

「ねぇ、お頭、設営中と設営済みで何が違うの?」

 思わず聞いてしまった。

「考えてみな、設営中だったら騎士爵館襲撃犯捜査の可能性が有るけど、設営済みだったら襲撃以前からの作戦行動って事だから俺達とは関係ないって事さ」

「ああ~なるほどぉ。そういう訳ね。で?どうなの?」

「はい、既に設営済みでした」

 と言う事は、あたし達が目的では無かったのか。でも、ぐずぐずしていたら騎士爵館襲撃事件が発覚しちゃうよね。

「何か目的が有るって事ね。ここも安全じゃないかも知れないわね。どうしよう、ねぇお頭、どこかいい避難場所知らない?」

「うーん、無い事も無いが・・・」

「えっ!?どこどこ?」

「いや、辞めておこう。お前さんの事だから反対するだろうし、なによりも聖女様はこれ以上血が流れるのを良しとしないだろう」

「えーっ、お頭にしてはやけに消極的じゃない。おかしいよぉ、そんなのお頭らしくないよお」

「おいおい、俺を何だと思ってるんだ?これでもれっきとした常識人だぜ?」

「ねぇアウラ、お頭の常識ってどんな常識なんだろうねぇ。普段なら『敵陣を乗っ取るぅ』なんて言い出しかねないのに。」

「・・・」

 流石に、そんな事思っても言えないアウラだった。

「ほう、お前さんやっと戦略ってものをわかって来たじゃないか。感心、感心」

「え?」

 い いま、なんておっしゃりました?

「ここから北東方向に行くとなぁ、マサダ丘陵って言うのが有って、そこにククルカンって言う堅固な要塞があってな、この地域の重要な要衝となってるんだよ」

 そ それと、これからの避難と いったいどんな関係が?

「あの要塞が、今ならタイムセールでお買い得になってるんだなぁ。うんうん」

 タイムセールって、あなたお買い物なんてした事ないでしょうに・・・

「どうした?口をぽかんとあけちゃって」

 だって、だって、そりゃあ口だって開きますよぉ、そんな無茶苦茶な事言われれば。誰も賛成しませんて。

「成功する確率はいかほどですの?」

 突然、後ろから鈴を転がした様な声が聞こえて来た。

 嘘であってくれと願いながら振り向くと、アナスタシア様が立っておられた。

「これはこれは聖女様。そうですなぁ、控えめに言って七割 ですな」

「ななわりいいいいぃ?それって失敗する確率よねぇ?」

 気が付いたら、お頭に詰め寄っていた。

「いやぁ、成功の確率だぜ。今、要塞の兵はほとんど出払っているみたいだから、もっと詳しく情報を仕入れないとあれだが、ほぼもぬけの殻じゃないの?だったら簡単に落とせると思うがな」

「シャルロッテ様、このままここに居ても見つかって捕まるだけだったら、思い切ってやりませんか?」

「やりませんかって、聖女様がその様な事を仰ってもよろしいのですか?まずいのでは?」

 アナスタシア様がうきうきしている様に見えるのは気のせいだろうか、あたしにはそう見えるのだが・・・

「わたくしは聖女ではありません、只の修道女にすぎません。聖女でしたら、姉様が立派にお勤めを果たしております。竜の卵も探さないとなりませんし、今は身の安全を図るのが最重要課題ではないでしょうか?」

 ぼおっとしているかと思えば、突然難しい事を言い出す。アナスタシア様の事が分らなくなって来た。

「そうと決まれば、見つからない様に要塞の近くに移動だ。同時に情報収集だな。いいよな、それで?」

「決まりなんですかぁ?はあぁ、もう好きにして頂戴。あやしゃ疲れたわ」

 この事態を誰かに丸投げしたくなったわ。やっぱり、どこまで行ってもあたしは不幸体質なんだなあぁ。

「ここの責任者はお前さんなんだから、しっかり方針を打ち出してくれなきゃ困るぜ」

 あたしの頭をぽんぽんしながら、言わないでくれます?もう。

「もうヤケクソだわ。わかりました。アナスタシア様にご異存が無い様でしたらその方向でいきましょ。同時に情報収集とメアリー達との接触も図らないとね。お頭、部下さんに動いて貰うわよ」

 やだ、はしたない事言っちゃった。でも、誰も気にも留めて居ないみたいだからいいや。


 目立つので基本移動は夜に限定し、その間にお頭の部下によって情報の収集を行って、だいぶ状況がわかって来た。

 まず、国境付近に展開している部隊の目的は盗賊団の確保であたし達ではなかった。

 なんでも、帝都ルルティアにある警備の厳重さで定評の国立秘宝館に盗賊が入り、国宝でもある初代皇帝の剣ほか数点が盗み出されたそうだ。

 その為、国の威信をかけて軍を総動員して国境を封鎖しているらしい。その数二百万とも三百万とも言われている。ただ、その数を聞くと凄い感じがするが、帝国の膨大な国境線を隈なく封鎖するには、それでも足りないそうだが、それでも突破は無理だろう。

 お頭の想像通り要塞の中はもぬけの殻の様なので、やるなら今でしょう。やるならねぇ、でも正直やりたくないなぁ。

「ねぇ、お頭、要塞奪取以外に方法無いのかなぁ?たとえばベルクヴェルク山脈は越えられないかなぁ、あそこなら監視もゆるいんじゃない?」

 ま、ダメもとで聞いたんだけど、まさか要塞奪取以外に選択肢が無い事を思い知らされる事になるとは思わなかった。

「あのなぁ、ご期待を裏切る様で悪いんだがな、諦めてくれ。要塞奪取一択なんだよ、観念してくれや」

「えーっ!なんで?なんで?なんで?」

「このタイミングでなんなんだが、竜の卵が見つかったんだわ」

「えっ?良かったじゃない、探す手間が省けたじゃない。さっさと卵を確保して逃げよう!で、今どこにあるの?」

「それがなぁ、村人が山裾で見付けて役人に届け出て、役人がくだんの要塞に持ち込んだんだよ」

「!!!!!」

 お頭のあたしを見る目が異様に優しかったというか、憐れむ様な視線だった。

 あたしは、顎が外れそうになった。ど どこまで?どこまで?どこまであたしって運が無いの?呪われているのは、アナスタシア様でなくあたし?

「と言う事で夜になったら、要塞の近くにある森に移動だ、いいな?」

 あたしは、返事も出来ずに只立ち尽くすのみだった。

「ああ、メアリー達とは森で落ち合う事になったからな」

 本日あたしの耳は休業です、なんにもきこえません。


 その夜移動を始め、目的の森に着いたのは更に一日移動したのちだった。

 着いたのは明け方近くで、既にメアリー達は到着していた。

 あたし達を見付けて駆け寄って来るなり、質問と言うより嵐の様なメアリーの尋問が待ち受けていた。

 尋問が終わる迄小一時間はかかった。

 その間に他のメンバーは宿営の準備と警戒をする者に分かれ粛々と作業を進めていった。

 説明と話し合いの結果、現時点での国境突破は困難と判断され、かといって、ここにこのまま滞在する事の危険性も認識され、その結果総力を挙げてククルカン要塞奪取をする事に決まってしまった。


 行動は日が暮れてからに決まり、情報収集班と見張り班を残して、今夜に備えて休息を取る事になった。

 なったんだが、あたしは全然眠くない。いや、眠れないと言った方が正しいだろう。とにかく元気なのだ。

 変な物でも食べたのだろうか? 変な物?変な物。食べたかも。食べたよ。確かに食べた。

 あの、竜族の秘薬?ちょー苦いやつ。思えば、あれを食べてから眠くないかも。やはり、ヤバイ薬だったのか・・・。

 眠くないのにじっとしているのも辛いから、少し歩き回って時間を潰すかな。


 ふらふらと森の中を歩いていると、みんなそれぞれに思い思いの形で休んでいた。

 まだ、日は高く木陰では気持ちの良い風が吹き渡っていた、今日も一日天気が良さそうだ。

 昼寝には最高の季節だが、困ったもんで全然眠くない。


「どうした、眠れないのか?」

 いつも不意を突く様に後ろからするその声は・・・。

「竜族の秘薬とやらを飲まされてから、困った事に全然眠くないのよぉ」

 振り向くとお頭が立って居た。その脇にはメアリーが居た。自然とため息が・・・。

 どうせメアリーの事だから、なんか文句でも言いたいのだろう。うっとおしい事この上ない。

「なにか文句でもあります?」

 必然的に険のある言い方になる。

 それに答えたのはお頭だった。

「何そんなに尖がってるんだ?」

「べつにぃ、とんがってませんよぉ」

「まあ、いい。ちょっと問題が発生してなぁ、相談に乗ってくれや」

「問題?」

「うむ。今、変な連中が来ているんだよ」

「変な連中?そんなの、追い返しちゃえばいいじゃない?」

「それが出来れば苦労しないわよ」

 メアリーは、いつもにも増して渋い顔をしている。

「あいつら、俺の事知っててな、手を貸せって言って来たんだ」

「あいつら?手を?何をしろと?」

「ククルカンの要塞を落とすのを手伝えってよ」

「えっ?ククルカンの要塞って、今夜あたし達が落とす予定の難攻不落の要塞?」

「そうだ」

「なんでぇ?そもそも、そいつらって何者なの?なんで、要塞を落とす必要があるのよ?」

 だいたい、なんだって好き好んであんなおっかない所にちょっかい出すっていうのよ?頭狂ってるんじゃなくて?

「連中な、ミッドガルズと言って帝国に巣食う盗賊団で、例の国宝を盗み出して目下絶賛指名手配中な奴らなんだよ」

「えーっ!なんでそんな奴らを助けなきゃならないの?助ける義理とかあるの?無視しちゃえばいいじゃない、そもそもすっごく迷惑してるんだから」

「助ける義理? うーん、義理ねぇ、ギリ無いな」

「お頭っ!真面目に考えて下さいよお、マジヤバイんですからね」

 メアリーに怒られてやんの。

「義理はないんだが、手を貸さないんだったら俺らが不正入国している事や、ここに潜伏している事を軍に知らせるっていうんだな」

「それは、まずいわね」

「だろう?だから、お前さんの悪知恵でなんとかならんかなぁって思ってな」

「なるほど。あたしの悪知恵ならなんとか  って、なんでやねんっ!もう少し言い方ない?」

「ははは、わりいわりい、つい本音が出ちまったぜ」

 本音なのかいっ!なお悪いじゃん。

「でも、なんであたし達の行動がこうも筒抜けになっているの?もろバレじゃないのよ」

「うむ、やはり地元の有利性じゃないかな?ありとあらゆる所に奴らの目があるからな」

「メアリー  さんは、どうするのが一番だと?」

「戦力があるのなら、盗賊を叩き潰しつつ要塞を叩く!」

「確かにそうなんだけど、あたしはの一番の懸念は盗賊があたし達の事を知っているって事だと思う。これがばれると国家間の抗争となってしまうから、まずはばれる前に盗賊を始末したい」

「だからっ!具体的にどうやるのかって聞いているんじゃあないの」

 メアリー、いつにも増してぴりぴりしている。

「盗賊の本心が知りたい。なんか、裏がありそうな気がするんだよね。たかだか盗賊が軍の要塞を奪取しようなんて、どう考えても納得出来ないのよ。お頭、なんとか探れない?」

 あごに手をやってしばし考えるお頭だったが、お頭らしい答えが返って来た。

「盗賊の本心かぁ、それなら聞いてみるか?本人から直接」

「はっ?なにを?」

「今、盗賊の使者を待たせているから、聞くといい。ほれ、こっちだ」

 有無も言わせず的な感じで腕を掴まれ、盗賊の元へ連行されてしまった。

 なぜか、メアリーは黙ったまま何も言わない。それはそれで不気味だ。

 

 そこには、三人の若者が『うさぎ』のメンバーに囲まれて、胡坐をかいて座って居た。

 お頭と一緒にやってきたあたしをみるや、その中の一番年上と思われる男が突如立ち上がって叫び出した。

「なんだぁ、てめえわっ!酒でも酌しにきたんかぁ?酌なら、ガキでなくもっと大人を連れて来いや!」

 あたし?あたしは、そりゃあ盛大にむかつきましたとも、はい。即刻切り捨ててやろうかと思いましたが、あたしは大人なので受け流す事にしましたよ。

 情報を聞くだけ聞いたら、切り捨ててやろうなんて、これっぽちも思ってなんかいませんよ、たぶん。

「なんだと言われてもねぇ、あんた何しにここに来たのよ。話をしに来たんじゃないの?その相手に対してなんだもないでしょうに」

「なんだとっ!?」

「あんた、性格だけでなく、頭も悪いの?」

 むかついていたあたしは、わざと意地悪っぽく言い放った。挑発するかの様に。いや、明らかに挑発しています、はい。あわよくば切り捨ててしまおうかと思って。

 思った通り、短気そうなそいつも、後ろの二人も腰の剣を抜いて斬りかかって来た。

 お頭もメアリーも、止めようともせず、かばおうともせず、ただ黙って見ている。自分でやれって?ちっ、しょうがないなぁ。はいはい、やりますよ。

 あたしは、腰の剣を抜くといともたやすく三人の剣を叩き落としてやった。瞬殺といっていいだろう、本当に一瞬で終わってしまった。彼我の戦力差があり過ぎた様だ。

「さて、この様な場で、見境も無く斬りかかったんだから覚悟は出来ているでしょうね」

 剣を打ち落された三人は地べたに四つん這いになってこぶしを握り締めている。

「く くそう・・・」

「安心しなさい、ちゃんとあんた達の首は送り届けてあげるから。覚悟が出来たらやるよ、一瞬で終わるから安心しな」

 ふふふ、これでぎりぎりの所で助けてやれば、少しは恩義を感じて喋ってくれるだろう。どう?あたしの悪知恵は。

 じゃあ、仕上げといきますか。

「覚悟はいいね、痛いって感じる前に首がなくなるから安心おし、さぁやるよ」

 目をつぶって覚悟を決めたみたいね、さあ仕上げに・・・

「お待ちくださいっ!」

 おっと!ん?だれっ!?

 振り返ると、アナスタシア様が眉間に皺を寄せ両手を握りしめて立って居た。

 ありゃ、出て来ちゃったよ。それに思いっきり勘違いしているし。

 こまったな、思いっきり腰をおられちゃったから話が続かなくなっちゃったし、この後どうしよう。


 しかし、心配いらなかった。アナスタシア様が締めくくってくれた。あたし達の誰もが想像だにしていなかった方法で。

「あなた方はどうしてご自分のお命を大事にされないのでしょうか?どんな方のお命も、ご両親から授かった大切なものなのですよ。いらない命なんてひとつも存在しません」

 アナスタシア様の言われている事はしごく真っ当で正しいです。でも時と場合を考えて頂くと大変助かるのだが、このお方にはそういう理屈は通用しないらしい。

「わたくしは、無駄に血が流れるのを黙って見過ごす事は出来ません」

 黙って見過ごしてくれないもんかなぁ。

「おいおい、黙ってきいてりゃあなんだよ、ここは教会かっ?引っ込んでろよ!」

「おい、待て!もしかして・・・」

 アナスタシア様に食って掛かった部下を押し留めたのは年長の男だった。

「あのぉ、失礼ながら姐さんのお名前をお聞かせ願いませんでしょうか?」

「わたくしの名前ですか?わたくしはアナスタシアと申します」

 あーあ、言っちゃった。これで始末しなくちゃならなくなっちゃったじゃないのさ。

「やっぱり、やっぱりあの聖女様だ」

 そう言うと、アナスタシア様の前で両手を組んで握りしめ地べたにひれ伏した。

 えっ?

「覚えていらっしゃらないと思いますが、四年程前にベルクヴェルクの街で原因不明の病にかかった妹の命を助けて貰った者に御座います。あの時の御恩は一生忘れません」

「あらあら、あの時のお嬢さんの。確かニーナさんでしたかしら?その後いかがされていますでしょうか?」

 を?返事に困っている?

「お陰様であの後、元気に 元気になり なりまし なり・・ぐぐぐぐう」

 途中から言葉にならなくなり、そのままむせり泣き始めてしまった。

 すると、後ろに居た部下の男が説明をしてくれた。

「デビットさんの妹さんは、元気になられたのですが、翌年街を警備していた兵隊達に暴行されて、首を吊ってしまったんです」

「まあぁ、なんという事を」

「それで、デビットさんは犯人の兵隊達を探し出して全員皆殺しにしたのですが、そいつは貴族の子弟だったらしく、暴行の件はお咎めなし、デビットさんのみ罪に問われたので、そのまま軍を抜けてミッドガルズに入って軍に対して抵抗をしているんです。自分達も他の仲間と共に軍を抜けてデビットさんに協力しているんです」

「そうでしたか、辛い思いをいたしましたね。でも、こんな所で命を無駄に失っても、妹さんはお喜びにはなりませんよ」

「わかっております。でも、自分達には他に方法がなかったのです。聖女様に歯向かった責任は自分が全て負います。ですから・・・」

「あら、そんなの駄目ですわよ。認めません」

「で では、いかようにすれば?」

「責任と言うのは、全員でとるのではありませんか?ひとりに背負わせるのは不公平ではないでしょうか?」

「しかし・・・」

「方法が無かったと言うのは、今までの事、、、ですよね。今は違うのではありませんか?」

「と申しますと?」

「どうせ軍に反旗を翻すのなら、もっと有効にやったら如何でしょうか?と言う事ですが」

「有効に?」

 あ、アナスタシア様がこっちを見ている。後を引き継げと?やれやれ

「あたし達に手を貸せって事よ。しょせん、盗賊に手助けしたって、あいつらの手足としていいように使われるだけよ。どうせ信用なんかされていないわよ。いいように使われて、用無しになったら、ポイっよ。わかってるんでしょ?」

「それを言うなら、あんたらだって・・・?そう言えば、なんで、聖女様の様なお方が盗賊団に?」


 やはりそう思っていたのか。

「あたし達は盗賊なんかではないわよ。誰が盗賊だなんて言ったのかしら?」

「え?まさか、そんな。確かにミッドガルズの幹部からそう言われて・・・」

「ふーん、まあいいわ。それで、どうします?このまま盗賊で終わる?我々に協力して聖女様にお仕えする?選ばせてあげるわよ」

 三人が動揺した面持ちでお互いの顔を見合わせている。だいぶ心が揺れ動いて居るみたいだ。

「聖女様に向かって剣を向けた我々が受け入れて貰えるとは到底思えないのだが・・・」

 リーダー格のデビットがおずおずと話し始めた。

「もし、受け入れて貰えるのなら、盗賊として死ななくて済む。ご先祖さまにも申し開きが出来るだろう。なあ?」

 振り向いて部下に同意を求めるデビットだったが、意外としっかりとした返事が帰って来た。

「はい、聖女様の為にお役に立てるのなら、みごと散ってみせましょう。残して来た家族も誇れる様な死に花を咲かせてみせましょうぞ」

「ええ、一人でも多くの敵を道ずれにして散ってみせましょう」


「いけませんっ!!」


 凛とした声があたりに響いた。

「間違えないで下さいっ!あなた方を死なせる為に受け入れる訳ではありませんよ。他人を殺傷する事も、自ら死に急ぐのも本来は許される事ではありません。無駄死にをしても死に花など咲きません。生きて帰って来て、初めて未来と言う花が開くのです。殺生を推奨する訳ではありませんが、現在やむを得ない状況である事は理解出来ます。それでも死んでしまったらなんにもなりません。結果として命を落とされるのならいざ知らず、死を目的にする事だけは許しません。その事だけは肝に銘じて下さい」

「聖女さま・・・」

 その思いもよらなかった力強いアナスタシアのことばに、周りに居合わせた者は誰が始めるでもなく、自然としゃがみ込み片膝をつき両手を握りしめ深く頭を垂れた。

 中には涙する者も多かった。

「戦いが避けられないのであれば、精一杯戦いましょう。そして、必ず帰って来るのです。今あなたはわたくしの役に立つと仰いました。死んでしまって役に立てるのですか?生きていてこそわたくしを助けて頂けるのではありませんか?死んでしまったら責任の放棄にはなりませんか?それでは、あまりにも無責任ではありませんか?必ず生きて帰って来てわたくしを護って下さいませ。それがわたくしに剣を向けた事に対する贖罪となります」

「おおおおおお・・・・」

 聖女様に直接言われて反論出来るはずもなく、只々感激のあまり涙を流しながら平伏するデビット達三人であった。



投稿が遅くなりまして申し訳ありません。

一週間程四国・中国地方へ出掛けておりました。

また、土曜投稿出来る様に頑張りますので、宜しくお願い致します。

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