139.
今週は、父親の特養への入所が決まり、ばたばたしており時間が無く、話が短くなってしまいました。
大変申し訳御座いません。
また、来週は頑張りますので、ご容赦下さい。
あたしの心情などお構いなしに、事態はどんどん進んで行く。
船縁には、周囲を監視する為の要員が配置され、お頭の操船の元、船は川をゆっくりと下り始めた。
時刻は夕暮れ時だが、まだまだじゅうぶんな明るさがあり、視界は確保されていて操船に不自由はなかった。
お頭も、操船が思いのほか楽しいのだろう、「左前方浅瀬!」「おうっ!」「この先、川幅狭し!」「任せろっ!」と、楽しそうに軽快に船を操っている。
『うさぎの手』って、山賊にも海賊にもなるんだなぁと、へんな所に感心してしまったあたしだった。
徐々に辺りが薄暗くなってきた頃、アドが動いた。
「お頭、そろそろ視界が限界みたいね、浅瀬に乗り上げてしまったら大変だわ。今日はそろそろ停泊しましょう」
「おいおい、俺ならまだいけるぜ。さっさと先行っちゃわねえか?」
お頭は停泊するのに不満そうだった。だが、アドに口で勝てないのはじゅうぶんわかっているのだろう。その口調はどことなく弱弱しげだ。
「お頭・・・」
でたっ!アドの必殺『冷たい視線』
「お おう、わかったよ・・・」
「よろしいですわ。では、ちょっと行った先に見えている左岸の流れが淀んでいる所に船を寄せて下さい。今夜はそこで休みます」
アドの圧勝。『うさぎの手』の頭ともあろう歴戦の猛者が小娘にまったく頭が上がらないこの状況って、見ていてとっても面白いわ。
「お頭、岸に接岸したら、そうね竹を三本くらいまとめて地面に打ち込んで頂戴。打ち込んだら、ロープで船と繋いで流されないようにして下さいね」
「おう」
「そうしたら・・・」
「まだあるんか?」
お頭はうんざりした感じでも、ちゃんとアドの指示を大人しく聞いているww
「接岸したら、襲撃をされる危険性があるので、船から少し離れた所に監視員を何人か配置して夜通し監視をして下さるようお願いします。勿論船上から対岸の監視もお願いします」
「お おう、そうだな、それは当然の配慮だな。もちろんわかっていたさ、直ぐに配置に就かせるぜ」
「ああ、お頭は監視から外れて下さいね。いざって時には寝ずに馬車馬のように働いて貰わなければなりませんので、それまでは体を休めて居て下さいね」
「お おう。わかった・・・」
そんなこんなで、あたし達は船上で川の流れに揺られながら夜を明かす事になった。
上空から見た感じでは、近くに人家はなさそうだったので、そんなに神経質にならなくてもいいと思うんだけど、アドは慎重なのよねぇ。頑固だし。
気持ちの良い揺れに身を任せて仮眠をとっていた夜半過ぎ、ふいに肩を揺すられて夢の世界から引き戻された。
「ん~、なんなの~お?」
目を擦りながら起き出すと、そこには目を限界まで見開いたメイがいた。
いったい何があったの?と思っていると、予想に違わぬ変な事を言ってきた。
「燃えてる・・・川の中が・・・燃えてるの・・・」
「はい~???」
「とにかく見てぇ、川を見てぇえ、燃えてるのぉぉぉぉ」
なにを言ってるんだ?さっぱりわからん。
「こっち来て来てぇ、川を見てぇ~!」
仕方が無いので重い腰を上げたのだが、ふと周りを見ると、確かにみんなが舷側から川を覗き込んでなにやら騒いでいる。
やっとあたしにも何かが起こって居る事を理解出来たので、急いで走って行き舷側から川を覗き込んだ。
だがそこに広がって居る光景に、あたしは絶句してしまった。
うん、確かに川が燃えている?燃えているみたいに見えるんだけど、どこか違和感がある。
光って居るのは水面なんだけど、なんか熱量が感じられない?燃えているのなら暖かいはずだろう?
それに、炎?の色が赤では無く、青白く輝いているのだ。見ようによっては綺麗とも言える。
そんな青白く発光した水面が上流から延々と続いているのだ。ふと川下の方を見ると、夜中なのにも関わらず川が肉眼ではっきりと青白く輝く川として視認できたのだった。
まるで地上の天の川?そんな感じだった。
「珍しい物を見ましたね。私もこれを見たのは初めてです」
いつの間に隣にやって来たアドが冷静にそう呟く。
「アド?知って居るの?これ。このまま放置しててもいいの?」
焦って居るあたしとは対照的にアドは落ち着いていた。
「大丈夫ですよ、これは夜光虫と言って、小さい生物です。まったくの無害です、昔、どこかの書物で読んだ記憶があります」
また、どこかの書物?どこでそんなの読んでるのよとツッコミを入れたかったが、それよりも眠たかったのでツッコミはやめた。
「無害ならいいわ。あたしは寝るね。ふあぁ~あ」
あたしは踵を返して寝床に戻ろうとしたが、アドに呼び止められた。
「姐さん、こいつらは確かに無害ではあり、直接危害は加えてはきませんが、如何せん目立ちます。付近に住民がいたら、覗きにやって来る危険性があります。警戒はより厳重にするべきかと」
「そ そうね。見物に来た住民に船が見つかる危険性があるわね。敵にも見つかる危険性があるわね。わかったわ、見張りにはより周囲の様子に注意するように伝達するわね」
手の空いている人を見付け、見張りに注意する様に伝達する旨頼み、あたしは再びごろんと転がった。
非番の物が、あの夜光虫とやらではしゃいでいる声を聞きながら、やれやれともう一度寝直すかと目をつぶり睡眠の態勢にはいった。
手で夜光虫をすくっているのであろう興奮した声を聞きながら意識は遠のいていった。
人騒がせな夜だったが何も起こらず、平和に朝を迎える事が出来た。
岸に繋いであったロープを外し、再び船はゆっくりと流れに乗って川下りを始めた。
今日もお頭は元気に舵を握って居る。どうやら、夕べの騒ぎにもまったく気が付かずぐっすり寝ていたらしい。さすが大物とその豪胆さに関心してしまった。
空も明るくなってきて、今日こそは平和な一日が始まると思っていたのだが、あたしが居るせいなのか、そうは問屋が卸さなかった。
舳先で前方を注視していたアドが、空を見ながら呻いた時から、この日の騒動が始まってしまった。
「天気、崩れるわね」