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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
137/187

137.

 あたしは地上を離れ、遥か上空に浮かんでいた。

 地上を見下ろすのは、竜さんに乗った時以来だった。

 あたし達が苦労して下って来た山々も手を伸ばせば届きそうな所に見えている。

 顔に吹き付けてくる風がとても気持ち良かった。あの時と違い、自由に動き回れるのとお尻が痛くないのが最高に嬉しかった。

 そんな浮かれているあたしの脇にアウラがやって来た。


「お嬢、本当に無事で良かったです。こちらも、あの後大変だったんですよ」

 ぼそっと呟いたアウラの横顔はいまにも泣きそうだった。

「ごめんね。あたし達も突然飛ばされてしまって、連絡手段も無くて困ってたんだ。アド達が居てくれて助かったわ」

「聞いたんですが、転移門をくぐった人達の転移先が五十年前の新大陸だったって本当の事なんですか?」

「あ、うん。あたしもどうしてそうなったのかは詳しくは分からないんだけど、緊急避難的?な事で、しかたがなかったんだって」

「そんな事ってあるんですね。まあ、海に沈んでしまうよりはいいのかも知れませんが、私には良かったのか、悪かったのかは判断つきませんねぇ」

「そうよねぇ、あたしだって判断出来ないわよ。でも、生きていてくれただけ良かったのかなぁって思う事にしたんよ。終わった事を悔やんでも仕方が無いもんね、今は前を向かなくちゃ」

「そうですね、考えなくてはならない事、やらなきゃならない事が山積みですからね」

「山どころか、山脈になってるわよぉ。もう、どこから手を付けたらいいのか分からないわよ。頭の使い過ぎで熱がでそうだわ」

 船縁に肘をつき、本気で悩んでいたのだが、すかさず茶化されてしまった。


「ほっほー。熱が出る位頭を使ってるんだぁ、そりゃあそうとう成長したってもんだ。なぁww」

 そう、こんな事を言うのは、世界広しと言えどお頭しかいないだろう。

「あの、同意を求めないでくれますか?お頭」

 アウラも困惑しているようだ。


「本当の事だろうがよ。まあどうせどんなに頭を使おうが、俺がこのメルフェーゼを持ってこなかったら、おめーはなんも出来なかったろうがな」

「はっ?メル・・・?なに?」

 突然出て来た見知らぬ単語にあたしは面食らってしまった。


「メルフェーゼ号、この船の名前だ。俺が付けたんだ、かっこいいだろうww」

 お頭は腰に手を当て、そっくり返って自慢げな態度だが、、、、そのセンスには付いて行けなかった。

「長い付き合いですが、お頭って自己陶酔型だったんですね、知りませんでした」

 アウラが小声で囁いた。

「あたしも知らなかったわ」

 そう返してお互いに目を合わせたとたん、思わず二人して吹き出してしまった。


「な なんでぃ!なんでそこで吹き出す!?」

 お頭は、いきなり噴き出したあたし達に不満そうだ。


「何でもないわよ。いい名前ねぇ・・・・ぷぷぷぷっ」

 あたしとアウラは堪え切れなくなって甲板上に突っ伏して、そのまま笑い転げてしまった。

 そんなあたし達を止めたのは、アセット氏だった。


「お楽しみの所申し訳ありませんが、よろしいでしょうか?」

 目から涙を流して笑い転げているあたし達とは対照にアセット氏の目は笑っていなかった。


「ああ、ごめんなさい。どうかしました?」

「船が安定してきましたので、そろそろ移動が可能だそうですが、直ぐに移動なさいますか?」

 そう、この空翔ける船は便利ではあるのだが、とても調整が難しいのだと言う。

 浮かんでいるのは、船倉内に大量に詰め込んである浮遊の実によるものだとはわかっているのだが、それ以外の事は全く不明だそうなのだ。

 船内になにやら動力を発生する機関があって船外に複数付いて居る回転する羽を回して移動するようなのだが、その制御方法がまったくわからないそうだ。なぜ、上下するのか、なぜ、前に進むのか、なぜ進路を変えられるのか、いまだに分って居ないのだそうだ。

 ただ一つだけ判った事は、アンジェラの思考に合わせて船は動くという、誠に意味不明な事だけだった。

 教授の見解では、彼女は船に認められたのではないかとの事だが、、、まったく理解が出来ない。が、動くのならいいじゃないかとここまで進出してきたのだそうだった。


 現在は、高度百メートル位の所まで上昇して、安定するのを待って居たのだった。

「わかったわ。じゃあ、高度を半分くらいまで下げて下に見えている川に沿ってゆっくりと進んでちょうだい。アド達の筏が見えるはずだから」

「了解しました」

 船の後部、手摺りに囲まれ少し高くなっている船全体を見渡せる場所が操舵席になっているらしく、そこで手摺りを握りしめて立って居るアンジェラが応えると船はゆっくりと高度を下げながら前進を始めた。

 あたしは、もう黙ってその脅威の現実を受け入れる事しかできなかった。


「そうだ、お頭?アナ様はこの前方の山岳地帯で集落を形成してお元気でいらっしゃるの。それで、エレノア様達はご無事なのかしら?」

「おお、元気だぞ。北大陸で待機している」

「北大陸?なに、それ?」

「おお、おめーらは一気にここに来たんなら知らなくて当然だな。おめーらが飛ばされた後、俺らも新大陸に向かったんだがよ、辿り着いた大陸には転移したはずの連中が誰もいなかったんだよ」

「誰も?誰もいなかったの?そんな馬鹿な・・・」

「居たのは、グリズリーやらボアやら四つ足動物ばかりだったぞ。それで、俺達有志でその大陸をくまなく捜索してこの船を見つけたんだ。大陸が沈む時に飛び立って、そのまま行方不明になっていたんだが不時着してたんだと。それで、俺達が再整備して飛べるようにした訳だ」

「そんな事になっていたんだ」

 あたしはびっくりしてしまった。

「それでよ、飛び上ってみて驚いたぜ。俺達の上陸した大陸は新大陸でなくて、俺達の沈んだ大陸と新大陸の間に存在する、巨大な島だったって訳だ」

「巨大な島・・・」

「聖女さんをはじめとする海を渡った連中はみんなその北大陸に居る。あの頭のいい爺様と小うるさい爺様が張り切っていたから、みんなを纏めているんじゃねえか?俺達だけは偵察に飛んで来たってわけだ。理解出来たか?」

 理解できたかって言われても、理解しがたいわよ。とりあえず、教授とガンコラーズの爺様が居るんなら、みんな大丈夫なんでしょう。まあ取り敢えずは、島の方は任せておいていいことにするしかないでしょうに。

「ん、なんとか理解・・・する」


「よし、良い子だ。それでな、こっちの大陸に来たらよ、あちこちに人がいるじゃあねーか。ああ、こっちが本当の新大陸かぁって判断して、みんなに合流しようと高度を下げて近寄って行ったんだがよ、いきなりあちこちから矢でお出向えされてよ、しかたがねーから、中央の山の方に行ったら、そこでも矢の集中攻撃だぜ」

「そこでですね、なんだかわからないけど、みんなから敵対視されたので困ってこの辺りに逃げて来た時に、アンジェラ殿がお嬢達を見つけたってわけです」

 アウラがお頭の後を継いで話を終わらせてくれた。だが、お頭は不満そうで「逃げたって言うなっ!逃げたって」

 と、変な所に拘って居る。突っ込む所はそこなんかい?


「そうなんだね、見つけてくれてありがとう。でも、茂みで寝ていたあたし達が良くわかったわね?」

「それが・・・わかった訳じゃあなかったと言うか・・・」

 なんか、アンジェラからの返事は歯切れが悪い。

「なんとなく気配を感じたんです。それで、そこに行かなくちゃって・・・」

 下を向きながら、そう呟いた。自分でも納得出来ていないようだった。

 その時だった。


「あ、見つけた、見つけたでえっ!!筏が見えよるよお」

 舳先に立って前方を監視していたポーリンが手をぶんぶんふりながら嬉しそうに叫んでいる。


「よし、アンジェラ、筏の近くに船を降ろせるかなぁ?出来ればゆっくりとね」

「はい、了解です。やってみます」

 アンジェラは前方をじっと凝視し精神を集中しているようだった。すると、すすすと船は高度を下げ始めた。

 本当にアンジェラの思考でうごいているんだぁ。実際にこの目で見る迄は信じられなかったが、見てしまった今、信じるしかなかった。


 いま、船はその巨体をゆっくりと眼下に流れる川に向かって降下させている。

 筏の様子もはっきりと確認出来る距離まで近づいてきたのだが、筏周辺には人の姿はみあたらなかった。

 怪しい空飛ぶ船に、用心をして近くの藪にでも隠れてこちらの動きを注視しているんだろう。

 ふと、後方を振り返ってみた。あたし達が居たと思われる場所に建物は無く、ただ、草原が広がって居るだけだった。

 あたし達は、夢でもみていたのだろうか?


「先、行きまーすっ!!」

 そう一声を残すと、ポーリンは舷側まで駆けて来て、そのまま舷側の手摺りを乗り越えて飛び降りて行ってしまった。

 相変わらずの元気娘だよ。あたしは知らず知らずの内に、にやけてしまっていた。

 そして、独りごちた。



 あたしには、もうあんな元気はないわねぇ。


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