表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
132/187

132.

 最初の奴の攻撃を見事竜王剣で撃退したと思い込んでいたあたしは、完全に舞い上がっていた。

 あたしの剣で受け止められた奴は、そのまま水中に没してしまい、いまだに動きはないのだ。

 撃退したと思い有頂天にもなるだろう。

 だが、そう思っていたのはあたしだけで、アドは難しい顔をして水面を凝視したままだ。


「やった・・・よね?やったんだよね?あたし、勝ったんだよね? ひゃっほーっ!!」

 あたしは、筏の上で飛び上って喜んでいた。


「第二撃・・・・来るわね」

 アドは警戒を解いてはいなかった。

「間違いなく、来ますな」

ジェームスさんも同様だった。


「えっ?なんで?あれだけ痛い目に遭ったのよ、普通もう来ないわよぉ」

 だが、アドはいつにも増して冷静と言うか冷たかった。

「良いですか、くれぐれも私達の『普通』と、あの手合いの『普通』が一緒とは思わないで下さい。私達には私達の、あいつらにはあいつらの『普通』があるのですよ」

「な・・・」

「その証拠に、あいつ、やられた割に浮いて来ないじゃあないですか」

「そ それは、、、恐れをなして逃げた とか・・・」

「都合のいい思考ですわね。この獲物の少ない大陸で、折角見つけた獲物を簡単に諦めると思いますか?」

「獲物って、、、、あたし達の事 かな?」

「当然です。今も水底で次の攻撃に備えているはずですよ。野生の獣は執念深いですから」


「お嬢ーーっ」

 後方の藪の中からアウラ達が返って来たようだ。

 振り返ると、両手いっぱいに切った竹の束を抱えたアウラとメイが藪の中から走り出て来るのが見えた。


「どうやら間に合いましたね。アウラ姐さん有難うございました。さっそくで申し訳ないのですが、その竹を水中に刺して下さいませんか?」

「これを?水中に?」

「ええ、片側を鋭角に斜めに切って下さい。斜めに切った方を上にして、沖に向けてそう四十五度になる様に川底に刺して下さい。急いで下さい」

「そういう力仕事は俺達に任せろっ!」

 そう言うと、ジェームズさん達が切って来た竹を受け取り、水中に刺し始めた。

 やがて、三十本を超えるほどの切っ先の鋭い竹が沖合を睨んで配置された。


「これで完璧ね」

 あたしは完全に安心しきっていたが、またしてもアドは全く違っていた。

「あの体重をこの槍で支え切れるものなのか、心配ではありますね。でも、他に方法がないので仕方が有りませんが気休めにはなるでしょう」

 どこまで完璧主義なのだろうかと、今更ながら驚いてしまった。


「姐さんがノー天気だけやん」

 ボソッと呟く声がして振り向くがみんな知らん顔している。無視?うむむむむ。


 だが、無視して欲しいのに、無視してくれない奴も居た。

「姐さん、動き出した!」

 アウラの声に水面を凝視すると、水面が僅かに波立っているのがわかる。どうやら水中を動いて居るようだ。

 そのまま睨めっこのまま数分が経ったが、奴は襲って来ない。

 さっきの攻撃で反撃されたので用心しているのだろうか?


 と思っていると、先程の様に水面が大きくへこむと同時に、巨大な水柱と共に巨大な影が飛び出して来た。

 さっきと違う!

 咄嗟にそう感じた。

 さっきは、高く飛び上っただけだったのだが、今回は飛び上ると同時に物凄い勢いで横に回転していたのだ。

 回転したまま、落下速度を活かして突っ込んで来たのだった。

 時間としてはほんの一瞬だったのだろうが、あたし達が受けた衝撃は大きかった。

 まるで、小型の台風みたいな暴れん坊が周囲に水しぶきを撒き散らしながら回転と共に突っ込んで来たのだから、あたし達はなす術も無く、ただ身構える事しかできなかった。


 だが、幸いだったのは奴も慌てていたのかただのアホなのか、目測を誤っていたらしく、飛行距離がやや短かったのだ。

 そのため、奴は上空を斜めの角度で睨んでいた多数の竹やりの真ん中に回転しながら落下してしまった。


 その状況は凄まじいの一言だった。

 高速回転して大量の水しぶきを上げながら竹やりの中に突っ込んだ奴は、今度は自重で砕いた竹やりを周囲に巻き散らかしながら、再び巨大な水しぶきと共に水中に消えて行ったのだった。

 唖然としたあたし達は、奴が消え去った後の惨状を見ながら、ただ笑う事しかできなかった。


 そこには、上空を睨む被害を免れた数本の竹やりが残り、水面と筏の上は砕け散ったさっきまで竹やりだったものが散乱していた。

「なんだったの?今のは・・・」

「あいつ、いがいとアホちゃうんか?いったい何しに来たんや」

 みんな、呆れていた。

「みんな~、大丈夫だったぁ?」

 みんなを心配して声を掛けたが、みんなケロッとしていたので安心した。


「あいつ、完全に私達を餌認定しましたね。再度来ますよ」

 こんな時でも、アドは冷静だ。

「アドぉ、壊された竹やりの分、もっかい増やした方がええんとちゃうかぁ?」

「そうですねぇ、出来たらそうして貰いたい所ですが、恐らく奴は待ってくれないと思いますよ」

 みんな、「えっ!?」と叫んで、まだゆらゆらと揺れている水面に顔を向けてごくんと唾を呑み込んだ。


 水面は、怪しくゆらゆらと揺れたまま沈黙をしている。

「また、、、、来るんか?もう来なくてええねん」

「諦めてくれないかなぁ・・・・」


「無理でしょうね。奴はほとんどダメージを受けていませんから。周りを見て下さい、奴の血がほとんど見られないでしょう」

 確かに、竹の破片は辺り一面に撒き散らされているが、奴の血らしきものはほとんど見当たらなかった。

「じゃあ、まったく無駄だったって事?」

 あたしがそう聞くと、アドは頭を左右に振りながらボソッと自分に言い聞かせる様に呟いた。

「まあ、奴を驚かす事くらいは出来たと思いたいですけどねぇ」

「魔物でもあらへんのに、なんて化け物なんや」

 ポーリンも呆れたように呟きながら、水面を睨みつけている。


 そのまま、しばらくの間、先の見えない睨み合いが続いた。


 散々焦らされたのだが、やがて水面が大きく窪んだと思ったその瞬間、奴が再び空中に踊り出して来た。

 今度は、先程とは比べ物にならない高さにまで飛び上って来た・・・のだが。


「あれれれれ?」

 きっと気合を入れて飛び上がったのだろう、それは理解出来る。でも、ものには限度ってものが・・・。

 再び飛び上がった奴は、高く宙に舞い上がると、そのまま空を飛ぶかの勢いで、唖然と見上げるあたし達の上を飛び越えあたし達の後方にある藪の中に頭から突っ込んで行った。

 その状況を、何故かあたしは一瞬だけど上空から見た記憶があった気がするのだが、次に気がついた時には水中でジェームズさんに抱きかかえられていたのだった。

「・・・・・」

 あたしは状況がわからず、されるがままに筏の上に引き上げられ横たわっていた。

「・・・・あたし?」

 何故か、全身が痛かった。いったいどうしたんだろう?

 ふと枕元を見ると、腕組みをしたアドが怖い顔で立って居た。

「姐さん、ああいう時はしゃがむものですよ。ボーっと突っ立っているから奴の尻尾で弾き飛ばされるんですよ」

 え?そうだったの?尻尾で弾き飛ばされたんだ、あたし。まったく記憶がないんだけど。

「そうですな、大したことがなかったからいいようなもんですが、当たり所が悪ければ大変な事になっていますぞ」

 水を滴らせながら、ジェームスさんも怖い顔だった。

「ご ごめんなさい」


 言い訳も出来ない雰囲気だったので、とっさに謝ったのだが、追撃はまだやまなかった。

「姐さんって、単純な造りをしているんですかねぇ、普通尻尾であんなに叩かれたら無事じゃすみませんよ?」

「ふっ、おそらくシャルロッテ殿の普通と我々の普通は違うんでしょうよww」

 あまり口をきかないウェイドさんも、ここぞって時には容赦ない。やはり兄弟は似ているって事か・・・。


 などと益体も無い事を、ぼんやりと考えていた。

 ポーリン達は剣を振りかざして素早く茂みの中に突入して行った。

 あたしは、それをボーっと見ている事しかできなかった。


 茂みの中からは、どったんばったんと地響きとポーリン達の叫び声が聞こえて来た。

 時々奴の巨大な尻尾が、茂みの上に飛び出して来るが、次第にその回数も減って行き、物音もポーリン達の叫び声も少なくなっていった。


 やがて、がさがさと藪の中からポーリン達が帰って来た。

 みんな、全身に泥と草の切れ端がこびりついて凄い状況だった。

 おまけに、全身が擦り傷だらけであちこち血が滲んでいた。

「完全に仕留めたわよぉ。ほんま、しぶとかったわあ~」

「ほんと、バタバタ暴れて大変だったわよぉ」

「全身、まるでやすり。ザラザラしていて触れると擦りむく。痛くて嫌だった」


「みんな、お疲れ様。おかげでゆっくり寝られるわ、ありがとう」

 さっきまでとは違って、アドは笑顔だった。

「みなさん、川に入ってその汚れを落とされるといいでしょう。さっぱりしますよ」

 口の悪かったウェイドさんも優しかった。


 あたしは、、、、、はしゃいで水浴びをするみんなを、ただ茫然と見ているだけだった。

 そして、あたしはダメージが蓄積していたせいなのだろうか、静かに意識を手放していた。

 あたしが意識を取り戻したのは、丸一日以上経ったのちだった。


 目が醒めると、あたりは薄暗かった。今は夕方なの?明け方なの?さっぱりわからなかった。

 分るのは、全身が激しく痛み起き上がる事も出来ない事だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ