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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
13/188

13.

 だだだだだだだだだだだだだだ

「おじょー---っ!」

 だだだだだだ どすん だだだだ ばたん 

「おじょー---っ!」「おじょー---っ!」

 だだだだだだだだだだだだだ


 なんだなんだなんだ!何がどうしたっ!

 物凄い足音と叫び声に、思わず飛び起きると、竜執事氏がドアの前でニコニコとしながらドアノブを握っている。右手は口の所で人差し指を一本立てて、静かにのポーズだ。

 だだだだだだだだだだ

「おじょー---っ!」

 だだだだだだだだだだ

 段々と足音と叫び声が使づいて来ているのが分かる。

 あ、階段を駆け上がって来た。

 廊下を走って、、、、部屋の前に  来た。

 竜執事氏は、あたしにウインクすると、絶妙のタイミングでドアを開けた。


「あっ!」


 ドアノブを握るその瞬間にドアを開けられたアウラは、一言発すると、右手はノブを握ろうとしたその形のまま室内に雪崩れ込んで来て、丁度ベッドの手前に着地した。あたまから・・・。


「お帰りなさいませ。出来ましたら、もう少しお静かになされると宜しいかと思いますが」

 むくっと起き上がったアウラの顔は床の汚れをたっぷりと回収して真っ黒になっていた。

 あたしは、思わず吹き出してしまった。


「お嬢っ!それどころじゃないですよっ!見つかったんですって!」

「へっ?何が?」

「だからあ、全部見つかったんですよお」

「全部?」

「アナスタシア様も卵もっ!」

「えええっ!?」

 あたしは、考えるよりも早く体が動いていた。

 跳ぶ様にベッドから飛び出し床の上に。

 アウラの前に座り込むとその両手を握りしめた。

「話して!全部!早く!アナスタシア様はどこ?!どこに居るの?下?下なの?」

「落ち着いて下さいって。まずは、手を離して下さいませんか?痛いです、とっても」

「あ、ごめん」

 あたしは、握りしめていた両手を離した。

 アウラは痛そうに両手首を振りながら『まだ、裏は取れていないんですが』と、前置きして話し始めた。

「これは酒場で聞き出した話しなんですが、昨日の昼過ぎですから我々が到着する五~六時間前に旅の一座が街に入ったそうなんです。で、確かに絶世の美女が居たそうです」

「おーっ!間違いは無いみたいね。で?今はどこに居らっしゃるの?お迎えに行かないと」

「それがですねぇ、ちょっと厄介な事になっていまして。運悪くここの領主の警備隊の一行と鉢合わせしてしまったそうで」

「え?警備隊?」

「ええ、街の人が言うには警備隊とは名ばかりで、領主に雇われた人さらいだそうでして、見た目の良い娘がいると言葉巧みに連れて行ってしまうんだそうです」

「そんな・・・。アナスタシア様はそんな愚かでは無いでしょ?それにあの『凶悪なスキル』が発動すればさらわれないんじゃない?」

「もし、卵を保護しているって言われたらどうします?ご自分から付いて行ったら発動しないのでは?」

「その手があったかぁ、それ言われたら付いて行くかもなぁ」

「現に、揉めたと言う話は出ませんでした。おそらく旅の一座に金でも渡したのでしょう」


 メアリーはアナスタシア様の居ない一座を追って先に行ったのね。追い付いたらアナスタシア様がいらっしゃらない事に気が付いて戻って来るだろうから、それまでに打てる手は打っておかないと何を言われるか分からないわ。


「お嬢、まずは出来る事からやっておきましょう」

「ん?なにかやる事ある?」

「はい、まずは    食事をしましょう。何にも食べていないでしょ?」

「なっ!今はそんな事している暇はないわよ、まずはアナスタシア様の行先を調べないと」

「大丈夫ですって。街で仲間に会ったので捜索はお願いしておきました。まだ見習いクラスなので心許ない所はありますが、行先の調査位なら大丈夫でしょう。三人おりましたので、手分けして探ってくれていますので、戻って来るまでに食事を済ませて出発の準備をしましょう」

「そうなんだ、それじゃあ、お言葉に甘えて食事をしよう。あまり食欲はないんだけどね」

「それでしたら、体力回復に効き目のある竜族に伝わる秘薬がありますのでお飲み下さい」

 竜執事氏は懐から一錠の丸薬を取り出して来た。

 水と一緒に一気に飲み下したが、、、、にっがあああぁい。

「も 物凄く苦いわねぇ、これ飲んで大丈夫なの?」

「さて、人族に飲ませた事は御座いませんので、なんとも申し上げられません」

 うげっ!何て物飲ませるんだよぉ、倒れたらどうするんだよおぉ。

「お嬢、取り敢えず食べるだけ食べておきましょう」

 確かにここで騒いでも仕方がない、食べる物食べて報告を待とう。


 暫く待つと一人帰って来た。彼はトポという十四歳のくるくるした栗毛の可愛らしい男の子だった。

 部屋に招き入れて報告を・・・目が真っ赤?どうしたんだ?

「トポ?どうしたの?話し出来る?落ち着いたら報告をして頂戴」

 アウラが優しく背中を撫でてあげている。

 トポは意を決した様に両手のこぶしをぎゅっと握りしめてぽつりぽつりと話し始めた。

「報告します!アナスタシア様と卵はこの地を掌握しているローシ騎士爵の手の者によって連れ去らわれた事を確認致しました」

 俯き加減で話すのはこの子の癖なのかな?

「ショーンとマシューはここから北東にあるローシの館に潜入し、対象の存在と今後の予定を確認しましたので自分は報告に戻りました」

「そっか、大変だったわね、ありがとう。他の二人にもお礼が言いたいのだけどどこに居るのかしら?」

「うっ、そ それは・・・・」

「ん?」

「屋敷の 者に 見つかってしまい・・・マシューは自分を庇い・・・命を落としました」

「・・・なんて事」

「ショーンは自分を逃がす為に、警備の目を一手に引き付けて・・・安否は・・・分かりません」

 アウラも悔しそうな顔をしてこぶしを握りしめている。

「お嬢、申し訳ありません。偵察くらいなら大丈夫と判断したあたしのミスです」

「誰のミスとかそう言う問題じゃないわ。みんな精一杯やっての結果なんだから誰の責任でもない。彼らの為にも、この情報を有効に使いましょう」

「お嬢、ありがとう」

「アナスタシア様と卵は、ローシの上役のシュレッケン辺境伯への貢ぎ物として、近々送られるので、それまでは無事であると思われます」

「ありがとう、状況はわかったわ。ゆっくり休んで頂戴。アウラ、アナスタシア様奪回の為の作戦を練りましょう」

「あ、あの、自分も参加させて下さい。自分だけ何もしないなんて あの 嫌です」

 あらあら、仲間の仇を討ちたいのか、死んでいった仲間に対する負い目なのか、必至なのね

「分かったわ。手を貸して頂戴」

 トポ少年、参加出来ると分かったとたん、ぱあぁっと表情が明るくなった。

「あのぉ、役に立つか分かりませんが、目撃者の証言ではアナスタシア様は最初は渋って居たそうです。ですが、卵は自分達が保管しているといわれ付いて行ったそうです」

「ありがとう、これでさらわれた時の状況が分かったわ。それなら納得出来る」

 トポ少年は、やり切った感満載でこちらを見ている。


「トポ?この辺りで参加出来そうな『うさぎ』のメンバーはいるの?」

 トポ少年は、胸を張って答えます。

「はいっ!現在は街の中に旅行者に扮して十名。仲間が走っているのでまもなくムスケル様の率いる部隊が二百到着します」

 げっ!顔面修羅場が来るのぉ?

「アウラぁ、あれが来たら目立ち過ぎだよぉ」

「そうですねぇ、お頭が来たら悪目立ちしてしまいますねぇ、どうしましょう?」

「あれには引っ込んでいて貰って、他のメンバーで頑張ってもらおうよ。ね?」

「そうですね。それがいいかも?」


「そんな事ねーだろう」

 でたよ。ドアにもたれて立って居るデカイ奴、自称『絶望のムスケル』、あたしは顔面修羅場って呼んでいるけどね。

 いつも、ふいに現れて驚かしてくれる。そのやり方にはいい加減なれたが、その顔は、まだ慣れない。

 だって、火傷でだだれた上に顔中刀傷だらけで、おまけに背筋が凍る様な眼つきで、この顔見て絡んで来る奴は居ないだろう。魔獣さえもひるむ位だからねー(笑)


「で?状況はどうなんだ・・・・・い?」

 ふいに、竜執事氏が前に出て来てお頭の顔をしげしげと眺め始めた。

「おいおい、嬢ちゃん。何だいこの爺さんは?」

 ふむふむと呟きながら、あの怖い顔を舐める様に見ている。

 さすがのムスケルさんもたじたじだった。見ていてなんか面白い図かも・・・。


「その方は、竜族の執事さんよ」

「てええと、卵の奪還の依頼人かぁ」

 ニコニコしていた竜執事さんはお頭に向かってとある提案をして来た。

「失礼ですが、あなた様はそのお顔を治そうとは思っていらっしゃらないのでしょうか?それとも、気に入っていらっしゃるとか?」

「はっ?いきなりなんでい。治るもんなら治してるぜ。この顔のせいで全然モテなくなったんだからな。これでも、昔はハンサムで女にモテまくっていたんだぜ」

「アウラ?そうなの?」

 あたしは、思わず小さな声でアウラに確認した。

「いえ、そんな話は初耳です。寝耳にミミズですよ」

 あまりに神をも恐れない発言にアウラも困惑したらしい、寝耳にミズだろう と突っ込みを入れたかった。

「治るのか?この顔」

 少しは気になるのかな?ムスケルさん。

「我が竜族に伝わる秘薬を用いれば可能で御座います」

「おおおおっ!」

「ご使用になりますか?」

 おいおい、そんな秘薬を簡単に使ってもいいのぉ?使ったら使ったで高くつくんじゃあない?

「そんな薬があるのなら是非使いたいものだが、いくらだ?」

 竜執事氏は、まるでじらすかの様にゆっくりと窓際まで歩いて行くと、くるりと振り返ってお頭の方に向き直った。

「我々にはヒト族のお金など興味御座いません」

「じゃあ、見返りに何が欲しい?」

「そうですね、、、あなたの命 なんていかがでしょう?」

 それって、ニコニコしながら言う内容じゃないような気がするんだけど。

「なっ・・・」

「冗談で御座います。欲しいのは、我が竜族の未来で御座います。無理でしょうか?」

「未来?」

 少し考えた後お頭は、ああ と手を叩いた。

「そう言う事か。相分かった。必ず取り戻そう。但し、アナスタシア様の保護が一番だ、それでいいかな?」

「よう御座います。取り戻して頂いた暁には秘薬はお渡し致しましょう」

「うむ、楽しみにしておるぞ。で、状況はどうなって居る?アナスタシア様の居所は突き止められたのか?」


 やっと話が前に進みそう。

「そこに居るトポ君が調べてくれたわ。アナスタシア様と卵は、ここを治めているローシ騎士爵の館に居るって」

「おおーっ、でかしたっ!」

 お頭は、トポ君の背中をバシバシ叩いて喜びを表していたが、トポ君にしては、ドラゴンにでも叩かれている気分なのだろう。

「で、どうするよ、館に押し入るか?今なら仲間が二百人程街の郊外に待機しているから直ぐに押し入れるぜ」

「いやいや、流石にそれはマズイでしょう。あたし達はこっそり入国しているんだから、目立ったら国と国の争いになっちゃうからだめよー」

「ちえぇぇぇぇ」

 お前は子供かあぁぁぁぁぁっ!!

「やっぱり、出て来た所を盗賊にでも扮して奪うのが簡単で確実かなぁ?でも、アナスタシア様のスキルがあるから、攻め入ったらどんな目に遭うかわかったもんじゃないしなぁ」


「うんっ!決めたっ!」

「攻め込むっ?攻め込むっ?攻め込むの?」

 アウラは何故か楽しそうだったが、ご期待には応えられない。

「お頭っ、ローシ騎士爵の館の近くで暴れられる?盗賊っぽく」

「館の近くでか?訳ない事だが、館から兵が出て来ちゃうぞ」

「それでいいの、なるべく多くの兵をおびき出して欲しいの」

「ふーん、なるほどな。俺達が囮になって兵を引き連れて遊んでいればいいんだな」

「うん、損な役回りになっちゃうけど、お願い出来ません?お頭でないと出来ない事なの」

 お館は頭をボリボリ掻きながら、やれやれといった表情をしているが、特に嫌そうな感じではなかった。と、思いたい。

「しょーがねーな。いつやるんだ?」

 あたしは、にこっとしながらこう答えた。

「いまでしょう!」

 だって、急がないとメアリー達が帰って来てしまうもん。


「よっしゃ、一丁遊んでやってくるか。これから移動して一時間後にちょっかいを出す。それじゃあな」

 そう言うとお頭は部屋を出て行った。

 あたしも、アウラとトポを引き連れて・・・???

 なぜか、竜執事氏も付いて来ている。

「あのぉ、これから行くのは危険な場所なのでここで待ってて貰えますか?」

 竜執事氏は不思議な顔をして首をかしげている。

「どうかお気になさらず」

 って、気にするわよぉ。切った張ったの現場にお年寄りを連れてなんか行けないよぉ。

「戦いの場なんて経験ないでしょ?無理ですって」

「さようで御座いますな。最後に戦ったのは、そうですなぁ、二百年程前ですか、しばらくブランクはありますが大丈夫で御座います」

 に? にひゃく? いったい何年生きているのぉぉ???

 あたしは脱力感満載で一階へと降りた。

 降りた所にある食堂には、『うさぎ』のメンバーが・・・十五名?多くない?

「トポ、十名じゃなかった?」

 すると、右端に居た五名が前に出て来た。

「自分らは、お嬢のお手伝いをする様にとお頭から仰せ付かってここに残りました。全員近接戦闘のプロですので、お役に立てると思いますので、どうかお役立て下さい」

 お頭、あんな顔していて、ちょー優しい。

「うん、宜しくお願いします」

 宿屋の食堂が臨時の作戦司令部?に、なっちゃった。

「で、お嬢、どうします?」

「うん、まずは館の近くで隠れられる場所に移動しよう。それで、親方が敵兵をおびき出してくれたら、館に突入してアナスタシア様と卵を奪還する」

「なるほど、大雑把で良い作戦ですが、どこから突入するおつもりで?」

「あ!!」

 ううむ、的確な指摘だよ、確かにそうだよなぁ。

「塀を越えて侵入すると、見つかった時点で敵対関係になっちゃうから、出来れば避けたいなぁ。やっぱり正面から友好的に入場するのがベストかな」

「正面ですか?しかし、門の所で止められるのが関の山ですが?」

「あたし達は旅の商人で、盗賊に襲われて逃げ込んだって事にしたら?」

「ふむ、それならなんとかなるかもしれませんね。大至急大型の馬車と積み荷を用意しましょう」

 言うが早く一人が立ち上がると駆け出して行った。さすが『うさぎ』、フットワークが軽いねぇ。

「あ、言い忘れていたけど、アナスタシア様には敵対する者を不幸にするスキルがあるから、突入するまで、いや突入しても頭の中は真っ白にしてね、感情は無にしてね、頼むわよ。それと、この事は、国家の最重要機密だから絶対に漏らさない事、漏らしたら全員の命が危ないと思ってね」


 四十分後、宿屋の前に出てみると、大型の馬車が三台停まっていた。良くこの短時間で揃えられたものねぇ。

 お頭の顔の広さ、馬鹿に出来ないって事なのかしら。

「さぁ、時間が無いわ、作戦開始よ!三台に分乗したらすぐ出発するわよー」

 不安だからなのか、みんな押し黙ったまま馬車に分乗している。

「ねぇ、これって作戦って言える物なの?なんか、行き当たりばったりな感じがするんだけど」

 みんなの不安をアウラが大便・・・でなく代弁してくれている。

「アウラ、行き当たりばったりなんて言わないで?これは、臨機応変って言うのよ」

 あ、信じてないな。ジト目でこちらを見ているし。


 あたしは今、一号車(仮)の御者席の横に乗っている。御者席では竜執事氏が手綱を握っている。

 二号車(仮)の助手席にはアウラが乗っている。

 助けを求めるには、やはりうら若い女性の悲鳴が一番だろう。もっとも、悲鳴など生まれてこのかた一回も発した事が無いのだが、うまく叫べるのだろうかという不安はある。

 馬車は通りを抜け街の外に出て、ローシ騎士爵の館の前を通る道へと進路を変えた。

 まだ、襲撃部隊は行動を起こしていないので、静かなものだった。

 刻一刻と作戦開始時間が迫って来る。緊張で喉が渇く。


 しばらく進むと、遥か前方に砂埃が見えて来た。あれは、お頭達の騎馬隊の巻き起こした砂塵だろう。

 うまくおびき寄せてよぉ。

「少し速度を落として下さい。様子を見ながら進みましょう」


 しかし、舞い上がる砂埃は、館と館前の丘の間をグルグルと行ったり来たりするばかりで、一向に館から兵が出て来る気配が見えない。

 更に言うと、攻撃を受けている訳でもないのに、お頭達陽動部隊の数が、館に近づく度に少なくなっている様にも見える。

 あ、もしかして・・・・

「トポー!お頭に作戦中止を伝えて来て。一旦引いて丘の上で待機。頼んだわよ」

 馬で随走していたトポに伝令を頼むと竜執事氏に向き直った。

「急いで館に突入して!」

 そう言うと、馬車から乗り出して後続に向かって叫んだ。

「馬に人参を食べさせたら、突入するわよー!たぶん戦いにはならないから、頭を無にしてねー!」

 三台の馬車は館に向かって疾走を始めた。

「お嬢っ、いったいどうなっているの?」

 二号車が横に並んで来て心配そうにアウラが話し掛けて来ている。

「詳しくはわからないけど、これってアナスタシア様のスキルが発動しているのよ。第一に館に接近する度にお頭の部下が減っている事。第二に館から一切迎撃の兵が出て来ない事。きっと、館の兵はなにかあって動けないんだわ。チャンスじゃない」

「馬にニンジンは?」

「馬に頭の中無にしろって言ってもむりでしょ?でも人参与えれば、暫くは頭の中は人参で一杯になるはず。それならスキルの影響は受けないかなあって」

「な なるほど。間が抜けて居る様だけど、理にかなっているわ。それなら、あたし達が先に突入して突破口を開くわ!みんな、行くよーっ!」

 二号車に続いて三号車ももうもうと砂煙を上げて突撃して行った。

「あたし達も行くわよ。遅れないでっ!」

 三台の馬車は次々と館の門をくぐって行った。

 確かに、シャルロッテの言う通り、通常ならとっくに警備の兵に止められているはずだった、それが、正面玄関に到着しても誰にも止められなかった。

 途中、元警備の兵がお腹を抱えてうずくまっているのを見かけただけだった。

 当然、お出迎えのメイドの姿も無く、一見無人の屋敷の様だったが、馬車から降りてよおくエントランスホールをみると、そこかしこからうめき声が聞こえ、何人もの兵士や使用人がうずくまっていた。

 近くにいた執事と思われる紳士を捕まえて問いただした所、昨夜から急に、それも不思議な事に全員同時に猛烈な吐き気と腹痛に襲われ、トイレが大混乱だそうだった。この執事もトイレがあかないので、庭で用を足そうとしてここで動けなくなったらしい。

 確かになんか臭い。あちこちで吐いたか漏らしたかしたらしい。こんな悲惨な状態なら迎撃の兵は出て来ないだろうなぁ。少し気の毒な気もするが、自業自得だからね。あたしは知らんよ。


 さて、アナスタシア様をお探ししない   と?

 建物の奥から人影が一人歩いて来る。お、不幸耐性のメイドでもいたのか、アナスタシア様の居場所を聞きださない・・・・・と?

 なるほど、スキルの影響を受けていないはずだ、本人だもの、この大惨事の・・・。


 さっと、アナスタシア様の前に進み出て片膝を付き頭を下げる。

 頭に中では、無心、無心、無心、無心、無心、無心、お経の様にそれだけを唱えていた。

 無心、無心、無心、無心、無心、無心、無心、無心、無心、無心、無心、無心

「あら、あなたは王都からいらした、、、、ええと 確かオシャルポッテ様」

 あたしは某国のヘイアン貴族ではない。

「シャルロッテに御座います」

「あらやだ、オホホホ。間違えちゃった。でも、なんでシャルロッテちゃんはここに居るの?」

「猊下をお迎えに参上致しました」

 どちらかと言うと、参上ではなく、惨状な気がするが。

「あらまあ、それはそれは大変でしたねぇ」

 まるで他人事の様なのは、高職者もしくは高貴な方にありがちなものなのだろうか。

「ねえ、聞いて聞いて、ひどいのよぉ。竜の卵を預かっているって言うから付いて来たのに、あれは嘘だって言うのよぉ」

「猊下、卵の件、全く疑わなかったのですか?嘘だとは思わなかったのですか?」

「だってぇ、預かってるっていうのよ?」

 はぁぁ、物凄い脱力感。天然なのか、世間知らずなのか・・・

「わかりました。取り敢えずここから出ましょう。直ぐに支度をさせますので、暫くお待ちください」

「竜の卵は?」

「それは、我々が責任もって捜索致します。猊下におかれましては早急にこの館から離れて頂きます」

 ああ、下を向いていて良かった。きっと、露骨に嫌な顔していたに違いない。

 立ち上がり、玄関口に向かって歩いて行くと、アウラが走り寄って来る。

「お嬢、騎士爵の豪華な馬車、ゲットしたよ。玄関に回してあるよ。アナ様は豪華な馬車の方がいいでしょ?」

 ファインプレーだよ、アウラ。

「有難う、それじゃあ直ぐに逃げ出すよ。みんなに知らせて」


 アナスタシア様を騎士爵からかっぱら いや、拝借した馬車に乗せ館を離れた。

 館を出るとミラの街に向かって走り出した。それを見て、お頭達が合流して来た。

「おい、いったいどうなっているんだ?あの館に近づくとみんなが腹痛を起こして離れると回復する。騎士爵側の迎撃もなかったぞ?」

 お頭は、訳が分からないとばかりにまくし立てて来た。

「これが、噂の『地獄のスキル』よ。館の中は壊滅状態だったわ。こっちとしては助かったけどね」

「えげつないな。で?これからどうするんだ?」

「メアリー達が合流して来るからアナスタシア様を渡して、竜の卵を探しに行かなくちゃ。一番の問題は目立つアナスタシア様をどうやって国境を越えさせるかだよね」

「検問は無理だから、俺達みたいに森をこっそり抜けるしかないだろうな」

「大人しく帰ってくれるかなぁ?一緒に探すって言いださないといいのだけど」

「じゃあよ、聖女様が帰る迄に卵を探すってえのはどうだい?」

「出来るの?」

「そうだなぁ、この目立つ馬車で街に入るのは危険だからまずは国境近くの森に潜って国境突破の時を待つ。で、同時に卵捜索隊を組織して山裾をくまなく探す。連中が合流して来る迄に一日はあるだろうからかなり探せるはずだ。それでも見つからなかったら、聖女様にはご退場願って、後は我々で探す」

「言う事聞いてくれるかなぁ、一人で飛び出しちゃう位のお方だから」

 ま、ここで四の五の言っててもしょうがないから、取り敢えず森に向かうしかないか。

 なんか、最近『取り敢えず』って言うのが増えて来た気がするなぁ。


「じゃあ、森にいそぎま・・・」

 その時、アナスタシア様が馬車の中から御者席に顔を出して来た。げっ!嫌な予感。

「あのお、お館から煙が出ているのですが」

「え?」

 振り返ると、屋敷のあちこちから煙が立ち上っていた。え?あたし達は何もしていないよ?どういう事?

「逃げ遅れた方がいらっしゃると大変なので、助けてあげて頂けませんでしょうか?無理そうでしたらわたくしが・・・」

 無理、それは無理。あなたが行かれたら、被害が拡大するだけですよ。

「わかりました、救助は我々が行いますので、アナスタシア様はお先に安全な所に移動して下さいませ」

「わかりました、救助は我々が行いますので、アナスタシア様とお嬢は先に安全な所に移動して下さい」

 あたしとアウラが同時に同じ事を言ったのには笑った。

「じゃあ、任せるね。後、宜しく」

「おう、任せとけ。道案内と護衛に十人付けるから一緒に行ってくれっ」

 ほんと、面倒見がいいんだから、顔に似合わず。なんて、思っても言えないけれどね。


 あたし達は、案内人の指示に従って潜伏予定の森へと急いだ。


 昨夜宿泊したミラの街を越え街道を国境方面に向け進んで行くと、前方から息せき切って馬を飛ばして来る者が視界に入った。

 護衛の面々は皆腰の剣に手を添え警戒態勢をとっている。

 走って来るのは、先行させた偵察役のエクレールの様だった が、

「あ、おちた・・・・」

「あ、こけた・・・・」

「あ、ころがった・・」


 そう、遥か前方、二百メートルあたりでいきなり馬から落ちて地面に転がっているではないか。

 馬車は進んでいるので、やがて落馬したエクレールの元に到着した。

「お前、何やってるんだ?」

「馬の乗り方忘れたか?」

 散々みんなにいじられている。たぶん、『悪魔のスキル』のせいなんだろうな。物凄い勢いでやって来ればスキルに迎撃されるであろう事は容易に想像がつく。


 あたしは、立ち上がってエクレールに声を掛けた。

「どうしたの?なにかあった?」


「まずいっつす!ちょーまずいっす!!前方は敵兵で溢れているっす」

 えっ?もう追手がかかった?こっちに迫って来ているの?


 どうしよう、アナスタシア様連れて戦闘はしたくないし、お頭はまだ館で救出作業にあたっているし、ここは逃げるしかない?

 でも、どこに?



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