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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
124/187

124.

 そう、突然目の前に現れたのは金色のツインテールをなびかせた少女だった。


「メ メアリー  さん?」


 大木の陰から不敵な笑いと共に現れた自信に満ちたその姿は、メアリーさんそのもの・・・いや、若干線が細いだろうか。

 でも、その声とその容姿、まさにメアリーさん以外には考えられなかった。

 呆然と見とれていると、脇に居る三人組に対してメアリーさんの代名詞でもある上から目線の言葉が発せられた。

「お前達、ご苦労だった」

 そして、あたしに視線を向けると、片方の口角を上げ、フッと声を漏らした。

「よくもまあ生き延びていたものだ、感心する」

「なっ・・・」

「ばば様が仰った通りだ。まさに悪運だけで生きているのだな。まあいい、長居は無用だ、直ぐに出発する」

 そう言うと、身体をかがめ姿勢を低くして草原へと出て行った。


 唖然として見ていると、背後の森の中から声が掛けられた。

「お嬢~っ!」

「姐さ~んっ!」

 振り返ると、アウラとアド達四人だった。

 どうやら無事救出されたみたいだった。

「みんなぁ~、無事逃げてこられたんだねぇ、良かったww」


 だが、再会を喜んでいる暇は無かった。

「なにをもたもたしてるんだい!さっさと引き上げだよ!!ぐずぐずしてるんじゃないよ!!」

 鬼の形相のツインテールに怒鳴られたからだった。


 ここは思う事もあったが、仕方無く素直に後に付いて行く事にした。

「さ、お早く」

 さっとジェームズさん達三人が、傍に来て付き添ってくれた。

「周囲はマーガレット様のご配下の方々が固めておりますので、安心してお進み下さい」

「マーガ?」

「マーガレット様は伝説の勇者、エルンスト・ガトー様のご子孫であらせられます。アナ様の親衛隊を纏めていらっしゃいます」

「じゃあ、やはりメアリーさんの孫・・・。姿形だけでなく性格も受け継いでいるんだ・・・」

 思わずため息が出てしまった。

 肩をがっくりさせていると、横からポーリンが小さな声で話し掛けて来た。

「姐さんの天敵やんね。それもだいぶパワーアップしとるみたいやなーww」

「ちょっと、笑いごとじゃないわよ」

「お嬢、大丈夫ですよ。彼女は口が悪いだけでちゃんと私達の味方ですよ。どうやらテレが入るとツンデレ気質になるみたいですww」

「そうなのぉ?そうは見えないんだけどなぁ、どっちかって言うと嫌われているっていうか、目の敵にされている感じなんだけどなぁ」


「にしても、歩く速度が尋常でなく早いんですけど?みんな付いて来れなくなっているわよ?速度落とす気、ないわけ?」

 嫌味っぽく隣にいるジェームズさんに言ってみたが、ジェームズさんは「今しばらくの御辛抱を」と言うだけで速度を落としては貰えなかった。

 が、そののち、速度を落とさなかった理由が判明する事となった。


 どの方向かわからなかったが、しばらく草原を走ったのち、ちょっとした高台に登った所で不意に黄色いツインテールが立ち止まった。

「ここならいいだろう。ここで休憩をする」


 あたしもみんなも、もう足がパンパンだったので、この休憩は本当にありがたかった。

 はあはあ息を切らしてへたり込んでいると、マーガレットが黄色いツインテールを揺らしながらあたしの傍にやって来たので、何を言い出すのかと身構えていると、眼下の草原を指差している。

 何を見ろっていうんだ?と指差す方向を見ると、辺り一面に広がって居る草原の中になにやら巨大な草原に似つかわしくない塊が見えた。

 高さは、そう優に二十メートルはあるだろうか?表面つるつるのその円形の塊自体も異様なのだが、極めつけはその色だった。

 これは何と言ったらいいのだろうかと悩んでいると、ポーリンが正解を口に出した。

「なんやあれぇ?虹色の卵やんっ!」

 そう、その巨大な円形の物は有り得ない事に、まるで卵だった。もっと有り得ないのはその色。どう見ても虹色としか表現できなかった。

 見てはいけない物を見てしまったのだろうか?

 唖然としていると、マーガレットが口を開いた。

「あれが何かは誰にもわからない。卵どころか、生き物なのかも不明だ。いつも突然現れるのだ。あれは昨夜現れた」

「突然?」

「そう、なんの兆候も無く突然だ。そして、暫くすると・・・・」

「暫くすると?」

「転がり出す。と言うか、走り出すと言った方が正しいだろう」

「走るって、それじゃあ生き物じゃないのよ」

「そうではないとは思うのだが、走り出すのは本当だ。そして走りながら、すり減ったかの様に徐々に小さくなっていき、、、やがて消滅してしまうのだ」


「消滅?意味がわからない。なんなの、それ?何の為に現れるの?」

「さあ?なんだろう。神様の嫌がらせかもしれん。わかっているのは、あいつが発生している時に下の草原をもたもた歩いていると、潰されるって事さ」

「ああ、それで急いでたって事なのかぁ」

「ほれ、見てみろ。あいつ、動き出すぞ」

 言われるままに巨大な卵を見ていると、身震いをした次の瞬間、ゆっくりと動き出したと思うと、徐々に速度を上げまさに転がり・・・いや、走り出したのだ

 それも、直線移動ではなく、右に左にまるで彷徨う様に動いている。

 真円ではなくやや楕円だからなのだろう、あれでは動きを予想して逃げるのは無理そうだった。

「た たしかに あれは危険ね 迷惑でしかないわね」

「だろう。あれを我々はビッグ エッグスと呼んでいる。過去には破壊も試みられたが、全て失敗したそうだ。関わらんに越したことはない。わかったら、後十分で出発する」

 そう言うと、どこかへ行ってしまった。


「なんなん?得体の知れん奴やなぁ」

 すると呆然としているポーリンの脇から、のんびりした声が聞こえて来た。

「あれ、食べられたらいいのになぁ・・・」


 もちろん、そんな事を考えるのは一人しかいない。ミリーだ。

 その瞬間、忘れていた大事な事を思い出してしまった。休憩は後十分しかないのに・・・


「ミリー!!あんたねぇ、いったい何やってるのよ!みんなにどれだけ迷惑かけているのか分って居るの?」

 思わずどなってしまったが、思った通りと言うか、ミリーは意外な事を言われたかの様にキョトンとしている。

 そう、彼女に罪の意識はまったく無かったのだ。 

 ミリーにとって一番大事な感心事は、空腹かどうかだったのを今思い出した。


「あのね、見張りしていたらね、微かに食べ物の臭いがしたの。探したら小屋の中に食べ物がたーくさんあったのよww」

「だからねぇ・・・」

 そこまで言った時に、アドに言葉を遮られた。

「姐さん、それ以上は・・・」

 そう言うと、アドが首を横に力なく振っている。無駄だと言っているのだろう。

 それは判る。判るのだが、この振り上げた手を・・・振り上げた手の行き所をいったい・・・・。

 だが、そこは頭の回るアドだった。


「姐さん、ここが五十年後の世界だって事は聞きましたか?」

 その一言で、あたしの関心ごとは一瞬でミリーから現在置かれているこの状況に移った。


「確かに聞いた事は聞いたけど、理解が追い付かないわよ。いったいどういう事なの?」

「ははは、さすがに私も理解出来ませんでしたよ」

「でした?でしたっって事は、今は理解出来たって事?さすが!さすがアドねぇ!!で?で?どういう事なの?」

「いえいえ、今でもさっぱりですが、状況を整理すれば、無理やりに納得する事くらいは出来ますよww」

「どういうこと?」

「まずですね、例の転移門で避難した人達は五十年前のこの新大陸に飛ばされた。そして、現在私達が出会うまでに五十年が経ってしまったと考えて下さい」

「良く分らないけど、わかった・・・」

「転移した人達から見れば五十年が経ってしまっているけど、私達からみればついさっきっていう認識なのです。この認識の差が問題なのです」

「言っている意味がさっぱりわからないんだけど・・・」

「まぁ、そこは無理に理解しなくても結構です。本来接する事のない時間軸の私達がこうして出会ってしまったのは、おそらく想像なのですが、時間のひずみすら凌駕してしまう強大な力が関わってしまっているのではないかと考えます」

「そんな力なんて、存在するものなの?」

「さぁ、私には判り兼ねます。ですが、現に姐さんの身近にはそういう神の力とも思える非常識な力を使う輩が存在するではないですか?」

「そんな存在なんて、どこに・・・・・・・・!!!えっ!?まさか?」

「ええ、あの得体の知れない奴です」

「そんなまさか・・・」

「でも、あの者は人族とは、到底思えないですよね?」

「た 確かに、非常識さでは群を抜いて居るのは事実ではあるんだけど・・・」


「転移門を使った人々は誰の力で転移しましたか?」

「それは・・・竜王様・・・だよね」

「はい、では私達はどうですか?転移門使っていませんよね?」

「確かに、確かにそうね。あたし達は・・・・あいつに強制的に跳ばされた」

「そう、二つの強大な力が働いたせいで、時間軸に歪が生じて違う時間軸の私達が出会ってしまった・・・そう考えるのが楽なのかなぁってww」

「・・・・・・」

「凡人の私の頭では、それ以上の事は・・・ちょっと・・・ねぇww」

「あ あんたが凡人だったら、あたしなんかミジンコ以下よ!わかったわ、深く考えない事にするわ」

「それがよろしいかと・・・ww」


「じゃあほな、あの黄色いツインテールはメアリー姐さんの子孫で、あのかっこええ三人の兄さんはジュディさんの子孫って考えてええんか?」

「そうね、見た感じにも面影あるし間違いはないんじゃあないかしら」


 そうなんだ、みんな五十歳歳を取ってしまったんだ。

 じゃあ、父様は?母様は?兄様や姉様は?

 シュトラウス大公国は?今の国王って?

 あたしは、どうしたら?


 頭の中がごっちゃごちゃになってしまい眩暈をおこしそうになっていると、アウラに声を掛けられた。

「お嬢、どうしました?」


 ハッとして顔を上げると、心配そうに見ているアウラと目が合った。

「あ、ううん、なんでもないわ。さあ時間よ、早く行かないと又怒られるわよ」

 そう言うと、あたしは重い腰を上げた。

 まだ、疲れは取れていなく脚は重かったが、元気を出して歩く事にした。

 アナ様に会わない事には、この先どうしたらいいのか、道が見つからない気がしたからだ。

 

 ふたたびあたし達は、メアリーJrであると思われるマーガレットに率いられ、今度は南に方向を変て、徐々に険しくなる山道を歩き始めた。

 前方遥か彼方には高い山々がそびえ立っているのが見えるのだが、まさかあそこまでは行かない・・・といいなぁ。

 こんなに歩き回ってばかりいたら、大根脚になっちゃうよぉ。


「いまさら・・・」

 えっ!?誰か何か言った?だれ?だれ?


 みんなを見回したが、みんな黙々と歩いて居るばかりだった。

 気のせいか・・・。


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