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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
117/187

117.

 『ムラ』の西には元丘陵地が水没した結果、その山頂部だけが、島の様な陸地として広がって居た。

 付近にいた蛮族も多数が避難して来ていたが、現在は掃討されており、安全な避難所として多くの避難民が退避して来ていた。

 この先は、未開の蛮族の土地が広がるので、どこで食料や水の補給が出来るのか想像が出来なかったし、どれだけの長い航海になるかも皆目見当がつかなかった。その為、ある程度の量の食料を積む事の出来る大型の船が必要になる事は誰の目にも明らかだった。

 また、海に出ると波が激しくなると言う情報もあったので、大型船の建造は急務だった。

 そこで、造船経験者を中心に大型船の建造準備に入る事になっていた。とは言っても、大型船は未経験の上その中心メンバーは高齢者ばかりだったので前途多難と思われていたが、これからはお頭を始めとした大勢の屈強な若い衆が加わるので、今後の作業は格段にはかどると思われた。

 聞いた話によると、イルクートで散ってしまった老人会の家々には古くからの伝承として大型船の建造ノウハウが連綿と伝わって居たらしいと言う。

 いまさらではあるが、惜しい人達を失ってしまった。こんな事になるのなら、もっと強く引き留めるべきだったと、自分の先の見えなさにがっかりしている。


 陸地を目指す船上で、手持無沙汰になったあたしはお頭に疑問をぶつけることにした。

「ねえ、お頭。あたしが来るってわかって居たって言ってたけど、なんでわかったのよ?あれでも、見付からない様にそっと近づいたんだよ?」

 お頭は暫く黙って鎧の綻びを縫っていたが、こっちを見もせずに面倒臭そうに答えてくれた。

「おめーのまぶダチだよ」

「へっ?誰よ、それ」

「いつもいらん時に現れては、引っ掻き回してくれるまぶダチだよ」

 吐き捨てる様に言うが、あたしにそんなダチなんて・・・・

「・・・・!?」

 その瞬間、嫌な奴の顔が脳裏に浮かんだ。

「え?え?まさか・・・・奴?奴なの?なんで奴が?」

 思わず、狼狽えてしまった。

「へつ、そんなの知るかよっ!そんなに知りたいんなら直接聞けや」

 いやいやいや、知りたくはあるけど、もう二度とあの顔は見たくはないから話題を変えた。

「そ それで、他に何か言ってなかったの?」

 焦ってたので、声が裏返ってしまった。

「ああ、海に出たら流れが強いから進路は西寄りのコースをとれってよ。それと、新大陸には上陸せずに手前にある巨大な島で態勢を整えろとよ」

「手前の?巨大な島?なんで?」

「しらんっ!」

 ぶっきら棒に答えた後は、黙りこくってしまった。なんなんだいったい。


 眉間にしわを寄せて考え込んでいると、アドラーが近寄って来た。

「姐さん、今最優先事項は大型船建造です。まずは、目の前の事に全力を注ぎましょう」

 この子は本当に見た目通りの年齢なの?

 まあ、彼女が言っている事は正論ではあるので、ここは素直に従う事にしよう。

「・・・はい」


 陸地への到着は夕方近くになってしまった。これも強い流れの影響なのだろうか?

 やっとの事で上陸すると、もうポーリン達の指示で大型船建造の為の木の切り出しが始まっていた。

 もともと丘陵地帯の山頂部なので、木材には不自由はしなさそうだった。

 その上聖騎士団と『うさぎ』の若手が加わった事で木の伐採作業と運搬作業の効率が格段に上がることになった。


 一方、船の建造については全く役立たずのあたし達は、交代で小舟を使い『ムラ』とこの陸地の間に展開して、後続の避難民を陸地に誘導する事に専念した。


 あまりやる事がないと思われていた誘導の仕事だったが、思いの外忙しかった。

 それと言うのも、こんな状況であるのに、周りが見えない、いや、考える事の出来ない可哀想な連中と言うものはどこにもいる訳で・・・。

 そう、食料を目的に難民船を狙って襲撃をして来る輩が居たのだ。それも、一人二人なんて可愛い物ではなく、小舟に分乗してあちこちから襲って来たのだ。総数ではかなりの人数に登ると思われた。

 これはもう海賊と言っても良いだろう。この様な輩は新大陸に連れて行きたくはないので、見つけ次第成敗していった。

 昼夜を問わず襲って来るので、対応するあたし達も二十四時間体制での追いかけっことなる。

 三日・四日と迎撃戦を繰り広げたが、賊の襲撃は少人数が小舟に分乗して四方八方からばらばらにやって来るので、あたし達は休む暇がなく疲弊していった。

 組織だった襲撃ではないので、食料に困った連中がそれぞれ思い思いに襲撃をして来ているって事なのだろうか?

 陸上での戦いとは違って、狭く安定の悪い船上での戦いなので、やり難い事この上なかった。

 接敵をすると、まず矢が飛んで来たが、これはまず当たる事はなかった。直ぐに矢は無くなり白兵戦に移行したのだが、賊の武器は大概がロングソードかダガーと呼ばれる短剣だった。

 なので、こちらは槍で出迎えれば良かったので、割と簡単に制圧が出来た。

 槍で離れた位置から突っついてやれば、安全に一方的に攻撃が出来るので、相手は難なく自ら勝手に水に落ちてくれた。


 そんな攻防戦も五日目にもなると、難民船もその数を減らし夕方にはほぼ見当たらなくなった。

 それに合わせて賊の姿もすっかりなりを潜めたので、あたし達の仕事も一段落したと判断し、あたし達はへとへとになって引き上げて来て浜で横になって惰眠を貪っていた時だった。


「ほう、夜に備えて体力を回復しているのか?感心だな」

 片目を開けて見上げると巨大な丸太を軽々と抱えたお頭だった。

「もう、あたし達の仕事は終わったから休憩しているのよ」

 当然の返答をしたと思ったのだが、お頭は意外な返事を聞いたかの様に驚いて居た。

「はっ?おめー、そりゃあ何の冗談だ?マジに言ってる訳じゃねーよな?」

 あたしはむくりと起き上がって、お頭に向き直った。

「どういう意味?もう成敗する賊なんかいないじゃない。あたし達はお役御免のはずでしょ?」

 するとお頭はアドラーの方を向いてこんな事を言いだした。

「おい、お前達のボスはあんな事を言っているが、それでいいのか?」

 言い終わった後、ニヤッと意味ありげな笑いを残すと、再び巨大な丸太を担ぎ上げてお頭は歩いて行ってしまった。


「なんなの?いったい・・・」

 あたしがぼそっと呟くと、暫く考えていたアドラーがあたしに振り返って話し始めた。

「姐さん、お頭って、面倒見がいいのですね」

「なっ、どういう意味よ」

「賊は何を求めて襲って来ていたのでしたっけ?」

「そりゃあ、、、、金品って言うよりは、、、食料、、、かな?」

「そうですよね。彼らの目的である食料を持って彷徨っている難民は、どうなっていますか?」

「な なにを?そりゃあ、みんなここに避難して来ているじゃないの。あんただって知っているでしょうに」

「はい、知っているのは私達だけでしょうか?当然、賊もその事は知っていると思われますよね」

「そ そりゃあ、、、ありえるわよね」

「奪った食料なんて、計画なしに食べ続けていれば、すぐに底を尽いてしまいます。連中にそんな計画的に食べるなんて甲斐性があると思いますか?」

「うー、、、、、ない、、、わよね」

「そう、直ぐに食料が底を尽いて、再び食料を求めて行動を起こすはずです。では、どこに調達に行きますか?」

「・・・・・・食料を持った難民が居る場所・・・って、ここ?」

「はい、正解です。ここです。でも、散々追い払われているので、こちらに強力な護衛が居るって事は明らかです、さすがに真正面から寄せて来るのは無謀だと考えるでしょうね」

「そうか、でも食料は欲しい。分けて下さいと願い出る頭は無いだろうから、奪いに来るか。昼間はさすがに不利だから、夜襲を仕掛けてくる・・・って事か」

 アドラーはなぜかニコニコしている。うーん、なんだろう、何故か教官に謎解きを仕掛けられて、良くできましたと褒められている気分になるのだが・・・。


 あ、お頭は、あたしにその事を言いたかったのか。

「ここからは、私の勝手な考えなのですが、恐らく向こうも数人規模で襲撃して来ても成果は上がらないと考えるはずだと思うのです。そこで、同じ目的を持った者達で共闘するのがベターではないかと考えます」

「ベターなの?じゃあベストは?」

「すたこらさっさと逃げる事でしょう。姐さんにちょっかいを出しても不幸になる・・・おっと、言い過ぎました」

「むううううううう」


 怒って居ても話は進まないので、話を進める事にした。

「で?いつ襲撃して来るの?」

「そんなのは、あちらさん次第で私には判り兼ねますが、そう日は置かないでしょう。腹は減りますからね」

「そうだね。じゃあ、さっそく今夜からこの周囲の警戒をしないと駄目ね」


「なぁ、アド?あのアホ共、ほんまここに来る思うん?」

 それまで黙って聞いて居たポーリンが口を開いた。

「うふ、ポーリンも気が付いた?」

「あたりまえや。姐さんやて気が付いとるで。なぁ、姐さん」

 いきなり話を振られてドギマギしてしまった。

「え?あ?ああ・・・そ そうねぇ」

 二人とも、そんな疑わし気な目でみないでぇ~。


「ポーリンの言う通りです。ここに直接襲撃して来るには、相当数の兵力を必要としますが、こんな状態の時にそんな大勢力が集まるとは思えません。ですので集まった僅かばかりの兵力で襲撃を成功させようと思うのなら、まずはここから離れた所に上陸して、歩きで寄せて来るのではないでしょうか?」

「そうや、うちもそう思ったんや。この陸地って、元は丘陵地の山頂部分なんやろ?見た感じ、結構な面積が水上に頭をだして島みたいになってるんよ。上陸してしまえば、木の実もあるやろうし狩りも出来るやん。兵力を蓄えてから攻めてくるんとちゃうかな?」


 今度はアドが下を向いたまま押し黙ってしまったが、暫く考えたのち勢いよく顔を上げた。

「私、考え違いをしていたかもしれません。今、陸地になっているこの丘陵の山頂部の面積はイルクートの市街地よりもかなり広いと思われます。ゆえに相当量の食を賄えるのではないかと思います。でしたら、今は攻めて来ないで兵力を蓄え、私達の建造している船が出来た頃攻め寄せて来る方が良い気がしてきました」


「うーん、あたしだけでは判断が出来ないわ。教授に相談して来るから、みんなは休んでいて。アド、一緒に来て」

「はい」


 こうしてあたしと、アドラーは教授達のいる幕舎へと歩いて向かった。



 幕舎では、教授とお年寄り達がのんびりとお茶をしていた。地べたに車座になって。

「どうしました?お茶でも、ご一緒いかがですかな?」

 この緊張感の無さは、どうなんだろうと思い、ちょっと強めに声を発した。

「何を呑気な事を言っているんです?そんな事より、今後の態勢を・・・」

 だが、帰って来た言葉は想像とはかけ離れていた。と言うか、あたしの考えの斜め上を行っていた。

「ほっほっほっ、若いお方は落ち着きが無くていけませんなぁ、アセットさん説明をお願いしても?」

 何故か、情報部のアセット氏も一緒にお茶を飲んでいたのだ。

「はい、今後の方針ですが、避難民の船が居なくなった今後、賊の標的はここになるのは自明の理です。そこで、造船に参加が難しい者を集めてこの先の森の中に砦を構築している最中です、エンドラーズ准将を中心に」

「げっ、ガンコラーズのおやじ、無事だったんだぁ」

「はい、とても頼りになるお方です。又、いつ賊が上陸して来てもわかる様に、アンジェラ殿が見張り隊を組織して浜に等間隔に配置しております」

「それも、老人ばかりなの?」

「はい、若い者には造船に参加して貰っておりますれば、見張りの様な簡単な仕事は老人中心となります。賊が上陸して来たら、見付からない様に引き上げて来る様に厳命しておりますので、問題はないでしょう」

 ここまで言われたら、何も言い返せなかった。


「はぁ、もう全て手配済みって事なのね。どうもお邪魔しました」

 そう言うと幕舎を出ようとしたのだが、教授に止められてしまった。

「そういう事ですので、シャルロッテ殿にはお嬢様方を連れて砦の援護に回って頂ければと・・・」


 なんか、子供扱いされているみたいで癪なんだけれど、砦の防衛は最重要課題なのは理解が出来るので、あたし達少女部隊はとぼとぼと砦に向かう事にした。

 はぁ、ガンコラーズの爺様と一緒だと思うと、足取りが重かった。


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