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聖女様は疫病神?  作者: 黒みゆき
101/187

101.

 あたし達はエレノア様をお守りしつつ速度を上げて、イルクートに向けて進行を開始した。

 当然、貴金属類、家具、衣類等の不要な物が搭載された馬車は放置させた。この事により馬車の数は三分の一にまで減らす事が出来た。

 なぜ衣類もかと言うと、衣類だけでも二百から三百輌はあったからだ。聞く所によると一度着た着物はけがれるから二度は着ないそうだ。なんて無駄な事をしているんだよ。着たきりの民も大勢居るっていうのに、ほんと高貴な方々っていうのは常識を知らない頭のねじがぶっ飛んだと言うか、苦労を知らない世間知らずな連中ばかりだよ。

 当然反発はあった。それも猛反発が。その筆頭は言わずと知れたあのガミガミ婆ぁこと女官長だ。

 鬼の形相で食って掛かって来たが、時間もないし面倒なので侯爵家の強権を発動した。

 これ以上ぐだぐだ言うのなら置いて行くと脅したら、大人しくなった。

 給金がとか、老後の蓄えがとかぶつくさ言っていたが、完全放置した。

 出発する際、あの婆さん背中になにやら貴金属が入ったであろう箱をしょって、両手には何かが詰まった大きな布袋を持っていたから、売って生計を立てるつもりなのだろうか。いつまで持って居られるのか見物だわ。

 結局は、エレノア様の事は将来安泰な金づるとでも思っていたのだろう。あさましい事だ。


 だいぶ時間をロスしてしまったが、これで平和にイルクートに向かえるだろう。

 と思っていたのだが・・・そうはいかなかった。

 先頭の聖騎士団の列が街道から逸れ始めたのだ。

「お嬢っ!なんや先頭が街道から逸れ始めとるやん。どないなっとるん?」

「ええっ?何にも報告受けてないわよ?ジアルジア少尉、どうなっているの?」

 あたしと一緒にエレノア様の馬車に寄り添って警備をしていたジアルジア少尉に問いただした。

「えーっと、自分にも分かり兼ねますが、直ぐに確認をさせます。おいっ、お前達、早急に事態を確認して参れっ!」

 彼はそれなりの地位にいるのだろう、命じられた三名程の騎士がすぐに飛び出して行った。


「なんか、嫌な予感がする。お嬢、あたし達も行った方がいいかも・・・」

 ぼそっと、クレアがそう呟いた。そう言えば、遠方でなにやら爆発音の様な音が微かに聞こえて来た。

「お嬢、クレアは勘がいいんや、用心の為行かんか?」

 ポーリンの顔は真剣だった。クレアは蒼い顔をして下を向いている。

 あたしの勘も行った方がいいと叫んでいる。

「お頭、ここお願いっ!」

 言い終わらない内に、ポーリンは竜車をダッシュさせて、車列の脇を爆走させた。


 次第に先頭に近づいて来たが、隊列が乱れしきりにみんなが右前方に見える森を警戒しているみたいだった。

 指揮官とおぼしき聖騎士に並んで速度を合わせた。

「どうしたの?街道から外れているわよ。報告はどうしたの?」

 びくっとした様にこちらに振り向いたその男は、一瞬で緊張を解き安心した様な顔になった。

「シャルロッテ殿でしたか、申し訳ありません、想定外の事が起こりました」

「想定外?想定外に対応する為に普段訓練しているんじゃなくて?」

「ははっ、耳が痛いお言葉、恐縮であります」

「で?何があったの?」

「はい、実は今前方に見えております森は、『死の森』と言いまして結界にて封印されている森なのです」

「あれ?パレスに行く時には通らなかったわね」

「おそらくその時は本道を通ったのでしょう。今、本道は避難民でごった返しているので、少々遠回りですが、空いているこちらの旧道を通っているのです」

「なるほど・・・」

「それでですね、ここを通るにあたって偵察隊が結界の確認に赴いたのですが、、、何故か結界が弱まって居る事が判明したのが今さっきなのです」

「結界ってさ、何を閉じ込めていたの?」

「それは、霊なのです。この地にはびこっている」


「霊?そんなもの除霊してしまえばいいんじゃないの?エレノア様もいらっしゃるんだし簡単じゃあないのよ」

「それが、、、もう何百年も前から除霊はしているのですが、いまだに成功しませんで、現在は除霊は断念して結界により封印する事で事なきを得ております」

「ふーん、じゃあ時間も無い事だし、無視して行けばいいわね」

「はい、そう思って街道から逸れたのですが、、、、そのお、、、」

「ん?なに?はっきり言って?聞こえないよ?」


「出て来た・・・の・・です」

「はっ?何が?何が出て来たって?」

「霊が・・・です」


 はああぁぁぁぁ?、また不幸体質が威力を発揮しているってか?


「なんで出て来たのよ?」

「それは・・・・」

「それは?」

「霊に聞いて下さい。我々だって意味が分かりません」

 はああぁぁぁぁ。それが天下の聖騎士団の言う事かね?

「それで、何体居るの?」

「不明です。どんどん数が増えてきているのは確かなのですが・・・」

「無視出来ないの?」

「それがですね、ここの霊は近くに人が来ると、近寄って来てしがみつくのです」

「うげええぇっ、気持ち悪いっ」

「気持ち悪いだけなら可愛いものです。奴らはしがみついたまま・・・・・爆発するのです」

「えっ!?爆発?爆発って、あの、ちゅどーんって?」

「はい、その通りであります。既に仲間が四人やられました」


 うわあぁっ、なにそれ。道ずれに自爆ってか?たち悪っ。

「それで、そいつらは全部で何体居るの?」

「先程も申し上げましたが、不明なのです。一説によると森の奥に本体が居て、分離して増えているのだろうと。ちなみに、この霊はしがみついて自爆するので『自爆霊』と呼称されております」

「じ・ば・く・れ・い?なんなの、そのネーミングセンスはっ!」


「ここで言い合って居ても仕方が無いわね。隊列はなるべく森から離れて進む様にして頂戴。霊の対応はこっちでやるから」

「お願い致します」

 そう言うと、その騎士は隊列の方に走って行った。


 ちっ、自分も一緒に戦いますとか言えんのかい。


「姐さん、どないすんのや?うちらも霊との戦い方知らんで?」

「うーん、霊だから実体は無いだろうから剣じゃあ斬れないだろうねぇ」

「じゃあ、うちらの必殺技で森ごとずばっとやっちゃいます?」

「それでやれたらいいんだけど、やりそこなったら、一斉にわらわら出て来ないか?」

「うーん・・・」

「でも、それしか方法は無いか。取り敢えず試しに一体攻撃してみて、その結果で後の事考えよう」

「ほな、すぐ逃げられる様に、走竜で行くとええんやないか?」

「そうだな、そうしようか」


 こうして、あたしとポーリンは走竜に乗って前代未聞の霊倒しに向かう事になった。


 人間相手なら、相手がどんなに強くても足がすくむ事はないんだけど、霊相手だと、なんか気後れしてしまうのは気のせいだろうか。

 もやもやと嫌な気持ちが胸の中に充満してくるのを感じる。

 こんな役目、お頭に押し付けてさっさと逃げたいなぁ。やだやだやだ。


 隊列に被害が出るといけないので、あたし達は隊列から離れて、仲間?と離れて一匹で居る自爆霊を探した。

 いたいた、あれだよね。肉眼では認識しづらいが、何となく青白く発光しているのか輪郭がぼやけて見える。

「居たよ、右前方。近寄ったら危ないからここからやるよ」

「はいな、よろしゅーに」

 ポーリンは、直ぐに逃げれれる様に手綱を強く握っていて、その横顔は緊張している様だ。


 あたしは、剣を抜いて、剣先に気をめる。

 どの程度籠めたらいいのか分からないので、適当な所でぶっ放した。

 軽い反動と共に、あたしの放った波動は一直線に霊に向かって行った。


 さん、に、いち。見事命中~う?

 あらま、すり抜けちゃった?

 あ、こっち見てる。怒っている?

「ポーリン・・・」

「あかん!逃げえるわあぁ~」

 踵を返したポーリンは脱兎のごとく逃げ出した。隊列とは逆の方向に。

 幸いにも、霊より走竜の方が早かったので振り切って逃げ切れる事が出来たが、さあこれからどうしよう。

 ぐるっと大回りしながら隊列の方向に向けて走って居ると、前方から一台の馬車と走竜がこっちに向かって走って来る。

 アドラー達だった。


 多分、かなり緊張していたのだろう、喉がからからなのに気が付いた。

 腰の水袋の水を飲んで居ると、ほどなく馬車と合流出来た。


「姐さん、駄目だったみたいですね?」

「あれぇ、見えてた?」

「いえ、突如走り出したから、駄目だったので逃げたんだなぁってww」

「えへへ、その通り、まったく効かなかったよお。もうお手上げねー」

「どないします?このまま逃げまっか?」

「うーん、それが出来ればねぇ。でも、これといった対応策も無いしねぇ、どうしよう」


 本当になす術も無く困っていると、ふいにアドラーが質問して来た。

「ねぇ姐さん。あの自爆霊って憑りついたら自爆するんですよね?」

「らしいわね」

「自爆したら死ぬのは対象の人間だけですか?」

「いや、一緒に霊も飛び散るそうよ?」

「でしたら、霊を全て自爆させれば解決・・・ですよね?」

「そりゃあそうだけど、いったい何人の人身御供を用意すればいいと思うのよ。あんた抱きつかれて見る?」

「いえ、ご辞退します。飛び散っても惜しくない人身御供、いるじゃあないですか」

 アドラーが賢いのは知っているけど、時々思考が付いて行けない事がある。

「そんなのどこに居るのよ?まさか、カーン伯爵の軍勢とか言わないわよね?」

「まさかあ、そんな非常識な事は言いませんよ。やってみたいですけどね」

「をいっ!」

 時々こんな恐ろしい事をさらっと言うんだから・・・。

 ん?なぜあたしの事指差しているの?まさかあたしに人身御供になれと?

「はじけ飛んでも惜しくない人身御供、姐さん持っているじゃないですかぁ」

「えっ?えっ?あっ、まさか・・・これ?」

 みんなしてうんうんと力一杯頷いている。もしかして、判って無かったのって、、、あたしだけ?

 あたしだけ・・・なんだね。


「その剣を抜いて、走竜で走り回れば、惜しくない自爆対象が無数に出て来るじゃあないですか?折り合いを見て剣を仕舞えば終了!ですよ」

 はぁ~。あたしは盛大にため息を吐いた。なるほどね、確かに惜しくない人身御供だわね。

 でも、簡単に言ってくれるよ。

「ゴーレムを撒き散らしながら、あたしは走り回ってろって言うのね」

「はい、その間、捕まらないで下さいね」


「なんで、あたしばっかりこんな目に・・・」

 と、ぼやくのと同時だった。

「わはははははははは。お前、歳とって頭の回転鈍くなったか?www」

 いつの間にか追い付いて来たお頭だった。


「ふんっ!ふんっ!やればいいんでしょ?やれば」

 あたしとポーリンは、そのまま走竜で走り出した。あたしは走竜に括り付けてあったゴーレムの剣をほどき、両手で握りしめた。

「わかっていると思うが、ある程度大きく育てないと反応してくれないかもだから、ある程度大きく育てながら走るんだぞ!」

 簡単に言ってくれるわ。けっ!

 悪態を吐きながら、あたしは後席で剣を構える。


 森の外周に沿って、おっかなびっくり走竜を走らせながら魔剣をほんの少し鞘から抜いてみた。

 散々見て来た光景だったが、何度見ても嫌な光景だった。

 辺りが暗くなり極小ゴーレムが湧いて来たが、大きく育てなければならないので、速度を落としつつゴーレム同士が合体して大きくなっていくのを見守りながらゆっくりと流して行ったのだが、当初懸念していた通りなのかまだ森は何の反応も示してくれない。

 小さいと駄目なのかな?それとも数が少ないのかな?仕方が無いのでゴーレムを少し増量する為更に更に剣を鞘から抜いて、思い切って森に近づいて見た。


 ゴーレムは子供位の身長まで成長したし、数も数百単位には増えてきた。そんな奴らを引き連れて暫く森の辺縁を走って見たのだが依然反応が無い。どうしたんだろう?人でないと興味がわかないんだろうか?


 いつまでもここでこんな事をしては居られないので、あたしは思い切って森ぎりぎりまで接近を試みた。

 もう、心臓バクバクだった。


 そんな健気な?あたしの気持ちが天に届いたのだろうか、森の中から青白く光る輪郭のはっきりとしないもやもやした幽霊みたいなものが一体、また一体と出て来た。

 やったっ!!やっと喰いついて来たっ!わーい、わーいっ!!

 思わずバンザイしながら、ハタと我に返った。あたし、なに喜んでいるんだろう。

 考える迄も無く、幽霊が出て来て喜んだのは産まれて始めての事だろう。うん、間違いない。

 なんかあたし、変なテンションになっていた事に気が付いて、思わず苦笑いしてしまったのだった。


 ようし、後はこいつらがゴーレムに興味を示してくれれば万々歳なのだが・・・。

 あたしは少し剣を鞘に戻しながら彼らの異様な接近遭遇を見守って居た。


 走竜が走った後ろにまるで帯の様にゴーレムが湧き、合体して大きくなりながら付いて来るので、地縛霊の前面をゴーレムが塞ぐ様に進路を調整した。

 さあ、あと少し、あと少し。

 

 だが、ゴーレムも自爆霊も仲良くあたしの方に集まって来ている。なぜ?なぜっ?おまえ達お互いに敵認定しないの?仲良しこよしなの?のおおおおおおおおっ!!

 あたしが、頭を抱えて悶絶していると大きな怒声が聞こえて来た。


「戦場の真ん中でなにやってるんだぁっ!!!」


 それは群れなすゴーレムの中、単騎で乗り込んで来てくれたお頭だった。

「ぼけーーっとしている暇はねえぞおぉっ!!」

「だってええぇ、こいつら全然敵対してくれないんだも~んっ」

 お頭は愛馬でゴーレムを蹴散らしながら接近して来た。

「臨機応変って言葉知ってるかあぁ?少しはない頭使えや!」

 むっ、失礼な。ない頭だって。。。ぶーぶーぶー


「面白い物持って来たから試してみるぜ。駄目だったら、、、、、とんずらするから用意しとけっ!」

 そう言うとお頭は腹巻から見覚えのある物を取り出し、ニッとウインクしてきた。

 おお、顔が真っ当になったので、ちゃんとウインクが分かるよおお、、、、、って、そうじゃあない!

 今はそんな事にツッコミをいれている場合じゃない。


「お頭、それって・・・・」

「へへへ、どうだ?いい物持って来たろう?」

 お頭がニヤニヤしながら見せて来たその物は、、、、



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