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リドル ― Trilogy ―  作者: 桜木樹
第三章 the answer
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第12話 Strangers

「――生野恵。それが君の新たな名前ということでいいかな?」


「ええ」


「ならこれからは君のことを生野君と呼ばせてもらうよ」


「構わないわ」


 古井さんと短いやり取りを交わしたあと、私はマスターと古井さんの前で何度か自分の能力を披露してみせた。自分から見せびらかそうと思ったわけではなく、ちゃんと把握しておきたいというマスターの意見に応じてのことだ。


 私が被験者となった人物に対して能力を行使すると、マスターは目の色を輝かせた。その後は2人からの質問攻めになった。


 どうしてそんな力使えるのか? 君は本当に人間か? その力の原理はどうなっている? 両親も能力者だったのか? などなど……


 答えられるものには自分の知っている範囲で答え、わからないものにはわからないと、答えたくないものには答えたくないと返した。


 そして、私は自分が未来から来たことを2人に告げた。


「未来から来た……ですか?」


 古井さんが半信半疑と言った感じで私を見る。


「私は信じるよ。彼女は実際に特殊な力を使ってくれたんだ。こんな力が使える人間ほかに見たことはない。未来から来たと言われても納得だよ」


 マスターは信じてくれたようだった。


 どういう方法で来たのかは聞かれなかったので答えなかった。私の体に起きた異変についても2人には話さなかった。


 それから、私の能力には“別の使い道”があることも黙っていることにした……


 …………


 あの日、リドルとの衝撃的な出会いを果たしたあと、白髪交じりの男性――リドル内ではマスターと呼ばれていた――から『リドルに入らないか?』と誘われた。誘われたその場では答えを出さず。2日考えてリドルに入ることに決めた。


 リドルに入ろうと思った理由はパラドックスを回避するためだった。


 ここで言うパラドックスは親殺しのパラドックス。この時代にいる自分の親――私の場合時代的に祖父母だが――を殺したら自分の存在もなかったことになるというあれだ。


 殺すというのはもちろん極端な例であって、本来出会うはずの私の両親が出会わなかったりとか、出会っても結婚しなかったり、結婚しても子どもを作らなかったりするパターン、とにかく私が生まれなくなってしまう未来になることを避けるためだ。


 そのパラドックスを回避することとリドルに入ることがどう繋がるのかと言うと、それは、私の両親の出会いに関係している。


 私の両親は、元いた時代で能力者の持っている能力を取り除く研究をしていた。その研究を通して2人は出会い私が生まれたと聞いている。だからもしこの世に能力者が誕生しなかった場合、当然両親がやっていた研究も存在しなくなる。研究が存在しなくなると私の両親が出会わなくなる可能性は極めて高い。そうなったら当然私は生まれてこなくなる。


 ――つまりパラドックスが起きる。だから、リドルにはどうしてもは能力者を誕生させてもらわなくては困る。


 もしその手伝いができるならと考えた結果、私はリドルに入ることにした。


 私がこの時代に跳ばされたことで歴史が枝分かれするからパラドックスなんて起きない――という解釈があることも知っている。しかし、どちらの考え方が正しいのかが証明されていない以上は、常に最悪のケースを考えて行動しなければならない。


 ちなみに生野恵という名前は、私のいた施設が殲滅派に襲われたときに私をシェルターへと導いてくれた女性から拝借した。彼女のネームプレートに書かれていた名前――


 生野恵のふりがなは“いくのけい”だったけど、同じ字面で読み方を“しょうのめぐみ”とすることにした。


 …………


 私がリドルの一員となってから数年が経ったある日、古井さんに呼び出されゲームを主催してほしいと頼まれた。これまでサポート役としていくつかのゲームの手伝いをやったことはあるので大体の要領は把握している。断る理由も特に見つからないので了承した。


「それじゃあ早速だけどここへ言ってくれ。そこで君と一緒にゲームを行う仲間が待ってる」


 古井さんが二つ折りになった紙を渡してきた。それを受け取って中身を確認して紙に書かれた場所へ向かうことにした。


 リドルに入ってからの数年間、私は1つの疑問を抱くようになっていた。


 それは、『本当にこんなことを続けていて高位生命体が生まれるのか?』ということだ。


 人間の怒りや憎しみの感情に加え窮地に陥った際に発揮する潜在能力。着眼点は悪くないと思うが、そういったものが能力者を生み出す要因となるなら、すでにこの世には、能力者と呼ばれる人が存在していてもおかしくないような気がしてしまう。


 ――あるいはそれ以外の要因が必要で近いうちにそれが発見されるとか……それとも、私がこの時代に跳ばされたことで歴史が変わってしまったのか……


 考え事をしながら歩いていると目的の場所にたどり着いた。


 扉をノックする。返事はない。取り敢えずノブを捻ってみる。鍵は掛かっていないようなので、私は部屋の中に入ることにした。


 そこは小さな会議室で中央に長机がくっつけた状態で並べられていて、その上にはお菓子や飲み物が散乱していた。


 部屋の中にいたのは2人の人間。向こう側に座っている赤髪の青年は視線を落とし携帯ゲームに熱中しているようだ。こちら側に背を向けで座っているブレザーの少女は卓上鏡を見ながらメイクに集中しているようだった。2人の様子から、まったく仕事が進んでいないということはすぐに理解できた。室内に置かれたホワイトボードには議題だけしか書かれていないことからも明白だ。


「はぁ……」


 ため息しか出なかった。


 どちらも私が部屋に入ってきたことに気が付いていないようなので「ちょっといいかしら?」と少し怒気を含ませ声を掛けた。


 赤髪の青年が顔を上げた。


「んあ? 新人か?」


「え!? 新人さん!?」少女が振り返る。「ってことはあたし先輩!? やったー!!」


「よぉうし。なら新人がリドル役で決まりな」


「ちょっと――」


「おっけー。んじゃ解散だねー」


「――はぁ?」


 私の言葉は無視され、2人はそれぞれ言いたいことだけを言って会議室を出ていってしまった。


「はぁ……」


 額に手を当て2度目のため息。


 彼が私をここに行かせた理由がなんとなく理解できた。


「あの2人をコントロールしろってことよね」


 前途は多難のようだ……


 …………


 結局私がリーダーシップを取ることでうまく2人をまとめていくしかなかった。


 ゲームの内容は他のチームに相談に行きアドバイスを貰ってなんとか形にした……私ひとりで。


 それからリドル役を誰が担うかの話になると――


「えー、あの白いお面ダサイもん。付けたくないもん」と、ブレザーの少女――乾祥子(いぬいさちこ)が言う。


「はぁ? 俺があの恥ずい仮面付けるとかないっしょ?」と、赤髪の青年――尾乃道健史(おのみちたけし)が言う。


 チームを編成した人間はどうしてこの2人を一緒にしたのか……


 私が配属されなかったらどうするつもりだったんだろうか……


 結局私がリドル役をやるしかなかった。


 ――――


 結論を言えば、私が初めて直接関わることになったゲームは滞りなく終えることができた。


 それから私はゲームをクリアした5人の願いをそれぞれ訊くことになり、その中のひとりが記憶の消去に関することを願い出た。おそらく私がリドル役を担っていなかったらこの願いは却下されていただろう。しかし、私にはそれが可能だった。だからその願いを叶えることにした。厳密には消去ではなく封印なのだけど、操作される側にしてみればほとんど同じことだ。


 同じチームの2人は私が特殊な能力を使えることを知らない。だから、催眠療法で記憶消すと適当なことを言ってごまかした。2人は何の疑いも持たずに私の言葉を信じた。


 記憶の封印は順調に進んでいった。封印するのはリドルのゲームに関する記憶という限定的なものなので大して時間も掛からなかった。


「さて――」


 記憶の封印を施す対象は残りひとり。考えてみれば、短時間で複数の人間の記憶を操作するのは初めてのことだった。そのためか、若干の疲れを感じていた。


 最後のひとりが眠る部屋の扉を開けて中に入る。ゲームを始める前みたいに薬で眠らされている女性がベッドの上で眠っていた。歳は20前後くらいのショートボブの女性。私は彼女の右手を取って両手で包み込むようにして握る。


 そして、彼女の記憶の中にダイブした……瞬間――


「――ッ!! ――まさか!?」 


 反射的に彼女の手を離していた。


「そんな……ことって……」


 彼女の記憶の中に見た光景……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その記憶は、殲滅派に襲撃されシェルターの中に避難していたときの記憶――


 なぜこの()がその記憶を有しているのか……その答えは明白だ。彼女もまたあの場所にいたからだ。そしてそれは、あり得ない話じゃない。むしろ、どうして今までその発想に至れなかったのか。


 私がこの時代にいるということは、あのときあの場所にいた人たちがこの時代にいても不思議じゃないのだから。


 私は彼女記憶を覗くため再びその手を握った。

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