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リドル ― Trilogy ―  作者: 桜木樹
第二章 the second stage
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第22話 復讐を胸に 前編

 ゲームが始まってから、最初に出会ったのは誠吾(せいご)さんという名前の青年だった。


 そして、彼は言った――


「このゲーム、絶対に勝てるから。だから一緒に行こう」


 半信半疑……


 でも、ひとりで行動したってこのゲームをクリアすることができる自信なんてない。だから、わたしは彼の言葉に従うことにした。


 誠吾さんは出会う人には必ずわたしに言ったのと同じ言葉を言った。全員が誠吾さんの言葉に従ったわけじゃないけど、最終的にわたしと誠吾さんを含めて6人の大所帯になっていた。


 ――そして、わたしたちは青の扉がある部屋へとたどり着いた。


 ――――


「どけよ……」


 目の前の男が銃口を向けてくる。その銃口が狙うのはわたし……ではなく、わたしの後ろにいる誠吾さんだ。わたしは今、誠吾さんをかばうために、両手を広げて男と誠吾さんの間に立っていた。


 どうしてこうなったのかと言うと、それは誠吾さんが言った言葉に端を発する。


「リドルはこう言った『ゴールの扉を開けることができるのは首輪が『14』のプレイヤーだけだ』と。しかし、首輪の数字を『14』にしなければゴールできないとは言っていない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 今6人の中で『14』の数字を作り出せるのは、目の前の男と誠吾さんの組み合わせだけ。そして誠吾さんは殺される側を選択したのだ。


「その男の話聞いてなかったのか? 俺がそいつを殺せば残りの全員はゴールできるんだぞ? 違うか?」


 違わない……そんなのわかってる。


 だけど、わたしは誠吾さんに死んでほしくなかった。


 ここに至るまでに、わたしは誠吾さんにたくさん助けてもらったし、何度も気にかけてもらった。それは彼にとっては普通のことだったのかもしれないけど、わたしはそれがすごく嬉しかった。そんな彼を失いたくないと思った。


 だからここで引くわけにはいかない。


「あんたが誠吾さんを殺さなくてもゴールする方法はある」


「なにぃ?」


 目の前の男は眉をひそめる。


「誠吾さんがあんたを殺せばいいんだ!」


 誠吾さんを守りたい一心で、わたしは叫んでいた。


「はんっ。そんなのはこっちだってわかってんだよ! でもな……なんでその男が殺す側を選択しないのかわからないのか?」


 男の言っている意味が理解できなくて、わたしは首を後ろに向けて誠吾さんの顔を見上げる。


 誠吾さんは優しく微笑んだ。、


「どうやら彼は気が付いているみたいですね……」


「どういう……ことですか?」


「僕は……あなたと出会う前にすでに人を殺しているんです。そして、リセットは行われていない……この意味がわかりますよね?」


「う……そ……」


 理解できた。誠吾さんは殺さないんじゃなくて殺せないんだ。


 もし、誠吾さんが殺す側にまわったら目の前の男が死ぬと同時に誠吾さんも死んでしまう。そうなったら残された4人で『14』の数字を作らなければならなくなってしまう。


 誠吾さんの案でここに来るまでに生きている人がいないかどうかを徹底的に捜して回ったから生き残っているのはここにいる6人だけ。この状態で目の前の男と誠吾さんが死んだら。残った4人でリセットがかかって殺し合いが始まってしまう。それをさせないために誠吾さんは自ら犠牲になろうとしているということだ。


「先程僕が言ったこのゲームをクリアするための方法……最初はその事に気付けなかったんですよ。だから僕は最初に出会ったプレイヤーをこの手で殺めてしまった。相手が襲ってきたからやむを得なかったというのはありますが罪は罪です。だから僕はその罪を償うべきなんですよ」


「そんなの――! それはリドルのせいでしょ!?」


 誠吾さんにすがる。


「切っ掛けはどうあれ人を殺してしまったのは事実ですから」


 誠吾さんはそう言ってわたしの両肩に手を置いてそっと引き剥がそうとする。だけどわたしは彼の行動に反発してしがみつくように抱きついた。


「いやだ! 誠吾さんが死ぬ必要なんてないよ!」抱きついたまま誠吾さんを見上げ、「わたしが殺す! わたしが2人殺せば解決でしょ!」


 わたしがこの中の誰かを殺せばリセットが掛かる。そのあとでさらに『14』の組み合わせになる人を殺せばすべて解決。


「駄目です」誠吾さんピシャリと言う。「リセットが掛かったあと僕とあなたの数字の組み合わせが『14』になったらどうするんですか?」


「そうなったらまた誰かを殺せば――」


「無理です。例えばあなたが『13』で僕が『1』になったらあなた自身の手で2度目のリセットを起こすことはできない。――ですよね? それにリセットを繰り返した挙げ句、僕とあなただけが生き残った場合、僕とあなたで殺し合いが始まるんですよ?」


 何も言い返せなかった。誠吾さんはすでにいろいろなパターンを考慮していた。


「おい、もうそろそろいいんじゃないか?」


 背後から男の焦れたような言葉が聞こえてきた。男の態度に腹がたったわたしは振り返って睨みつけてやった。


「だまれ!! そんなに早く人を殺したいの!?」


「何言ってんだよ。俺だってできれば人なんか殺したくねぇよ。――けど、こうするしかないんだろ?」


「ホントは殺したくて仕方ないくせに!」


「彼はそんな人間じゃないですよ」


「え……?」


 誠吾さんが男を庇った。


「もしも彼がそんな人間なら、ここに来るまでにとっくに僕を殺していたと思いません? でもそうなっていない。彼は僕の言葉を信じてここまで一緒に来てくれたんです。だから、さっきの彼の言葉に嘘はないと思いますよ」


 では……と誠吾さんはわたしを無理やり引き剥がした。


 優しくひ弱な印象を受ける誠吾さんだけど、やはり大人の男の人だ。しがみつくわたしはいとも容易く剥がされた。


「陽の光の当たらない場所に長時間いて、皆さんも疲弊しているでしょうから。そろそろ……」


 誠吾さんが周囲を見渡す。


 壁際で娘を抱きしめながらこちらを見ている年配の女性。青の扉の傍で真剣な眼差しでこちらを見ている若い女の人。そしてわたしに優しく微笑んで、最後に銃を構える男に向かって真剣な眼差しを向ける。


「あなたに、嫌な役を押し付けて申し訳なく思います。気に病むな……と言っても無理かもしれませんが、一日も早く忘れられるよう願ってますよ」


 誠吾さんが目の前の男に向けて言う。


「……努力するよ」


「彼女を……」


 誠吾さんが目配せすると、青の扉の側にいた女の人が近づいてきて「こっち」とわたしの手を引いて安全な位置まで引っ張っていく。


 そして……


 …………

 

 わたしは胸から血を流して倒れている誠吾さんにすがるようにして泣いた。


「お前ら……速くゴールしろ」


 何の感慨もなく謝罪ひとつなく淡々と言ってのける男。そんな男の態度を見て、悲しみはやがて怒りへと昇華していく。


 顔を上げてゴールの扉を開けようとしている男の背中を睨む。


 殺してやる――。絶対に……殺してやる……


 わたし以外の3人が次々とゴールの扉をくぐる。その際アクシデントが起こるようなことはなかった。ホントに誠吾さんの言ったとおりだった。


 わたしはゆっくりと立ち上がり。扉を開けて待つ男の脇を通り抜ける。その際、これみよがしに思いっきり睨みつけてやった。


「殺してやる……」


 憎しみを込めた呪詛をつぶやいて、わたしは扉の先へと進んだ。


 自分の怒りが理不尽な怒りであることは十分に理解していた。だけど、やり場のない憤りを鎮める方法をわたしは知らない。


 …………


 わたしが部屋で待機していると、仮面をつけた人物が部屋に入って来た。


「まずはゲームをクリアできたことを素直に称賛しよう。――それでは早速だが、最初に説明した通り、公序良俗に反しない限りにおいてひとつだけ願いを叶えてあげよう。もちろん私にできる範囲内でだが」


 ゲームをクリアできるなんて思ってなかったから何も考えてなかった。というか願いのことをすっかり忘れていた。


「願い……」


 考えならつぶやく……そして思い付いたのは。復讐することだった。


 わたしはそれを口にするも、公序良俗がなんとかと言って、復讐したいという願いは叶えてもらえなかった。その代わりドルはわたしにこんな事を言った。


『そんなに復讐がしたいのなら自分で復讐すればよいのでは?』


 たしかにそれもありだと思った。わたしは自分で復讐するための手助けになるような願いを考えた。


 あいつの居場所を教えてもらう……でも、居場所がわかっても相手はわたしの顔を知ってるし、ゲームの最後で復讐してやると言ってしまったから警戒されるに決まってる。


「くっ――」


 唇を噛む。


 あんなこと言わなきゃよかった。そうすれば簡単に復讐できたかもしれないのに。


 あの言葉をなかったことにできれば……


「なかったことに――」


 なかったことに……?


 わたしはリドルに訊ねてみることにした。


「記憶を消すことってできますか?」


「誰の記憶を消したのかな?」


「あいつ――」


 あいつの名前を言おうとして、わたしはあいつの名前を知らないことに気が付いた。


 リドルがあいつとは誰かと問い返してくる。


 だったらこうすればいい――


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 そう願った……


 ………


 リドルのゲームが終わって普通の生活に戻ると、わたしはあの男に復讐するために自分の体を鍛えることにした。するとわたしは自分の身体に異変が起きていることに気づいた。なんだか体軽くなったようで、それ以外にも鍛えれば鍛えただけ成長していく感じがありありとわかる。


 以前まではこんなことは一切なかったのにわたしは驚くべき成長を遂げていった。


 わたしの体に起きた異変――これはきっと、あいつに復讐するために神様がくれたプレゼントなのだと、そう思うことにした……


 ――――


 いたずらに時だけが過ぎていった。結局のところわたしはあいつに復讐できないままだった。それもそのはずで、わたしはあいつがどこの誰なのか知らないのだから見つけようがないのだ。


 あいつを見つけ出すために探偵を頼ったりもした。だけど、情報が少なすぎて無理だと断られた。


 今にして思えば、相手に警戒されないように記憶を消してもらったけど、ほとんど意味をなしていない。正直な話ホントに記憶を消してくれたのかも怪しい。だって、わたしはそれを確認できてないんだから。


 それに、鍛え上げられた今の自分ならたとえ相手に警戒されていたとしても容易に殺すことができたのではないかとも思う。


 こんなことなら、素直にあいつの個人情報を教えてもらうべきだったと激しく後悔した。


 だけど――


 ゲームが終わってから半年が過ぎ、復讐を諦めかけていた頃、わたしにチャンスが訪れた……

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