第15話 幸せな結末 後編
リドルが説明するゲームのルール。その中に出てきた殺すという言葉を聞いて、あたしは言葉を失った。参加するゲームが人殺しゲームだなんて聞かされてなかった。
――どうしよう……なんて思ってももう遅い。ゲームはすでに始まってしまったのだ。ここから出るにはゲームをクリアするしかなく、そのためには人を殺さなければならない。そして、あたしの軽率な行動で、ツッチーとタケを巻き込んでしまった。ふたりはこのゲームに参加している。だけど、正直会いたくはなかった……
部屋を出て少し歩いたところで突然破裂音が響いた。子どもの頃にやった運動会でリレーのときとかに聞いた空砲の音。
空砲……でもただの空砲じゃない。だってこれは殺し合いなんだから、今聞いた音は本物の銃に違いなかった。
もしかしたらすぐ近くで殺し合いが始まっているのかもしれない。
あたしは警戒しながらゆっくりと歩みを進めた。すると、見知らぬ男の人と出会った。メガネを掛けたサラリーマンみたいな人だった。首輪の数字は『9』。あたしの数字が『12』ということは殺されることはない。
あたしは男の人にさっきの銃声のことを訊ねてみた。だけど彼は何も知らないようだった。
それからは誰にも合わないようにと、とにかく隠れながら行動した。しかしその甲斐虚しくあたしは出会ってしまった。
一番会いたくないと思っていたふたりに……
「う、そ……でしょ……」
少しの間沈黙があって、あたしはその場を逃げ出した。後ろから、「待てよ!」と叫ぶ声が聞こえたけど待たない。振り返らずただひたすらに走った。通路の先の角を曲がって、すぐそこにあった扉に駆け込んだ。
「――ひえッ!?」
あたしは思わず声を上げていた。
なぜなら、その部屋には先客がいたからだ。その人は細身の男性で、部屋の中央で何をするでもなくただ立っていた。その人が誰なのかを考えるより先に体が動いた。部屋の隅に見つけた木箱の裏に急いで身を隠した。
でも隠れてから気が付いた。もしふたりが部屋に入ってきて、細身の男の人があたしが隠れていることを教えてしまうかもしれない。そしたら、あたしに逃げ場はない。
「ミカ!! 話を聞いて、く……れ……?」
勢いよく扉が開かれタケの叫び声が聞こえた。木箱の影から様子をうかがうと、タケも細身の男を見て驚いているようだった。
細身の男性はどう出るか――って思った瞬間、予想外のことが起きた。彼は何も言わずに刀を抜いてタケを刺した。
「――ッ!」
声が出そうになって、慌てて両手で口をふさぐ。
そして、男は刺した刀をタケの体から引き抜いて血を拭くと、鞘に戻して何事もなかったかのように部屋を出て行った。
――これって、あたしの……せい?
男と入れ違いになるようにしてツッチーが部屋に入ってきた。ツッチーは部屋の様子を見て混乱しているようだった。
出ていって、すべてを話してツッチーに謝るべきだろうか……でも、結果的にあたしのせいでタケが死んだも同然だ。許してくれるはずがない。それに加えてあたしはずっとふたりを騙していたんだ。そのことで誹りを受けるかもしれない。
あたしはどうするべきなのかと考えていると、ツッチーはゆっくりと立ち上がって扉の方を注視した。
扉の向こうからなにかのエンジン音が聞こえてくるのがわかった。
扉がゆっくりと開く……
「みぃつけた……フフっ――」
現れたのはチェーンソーを構えた女の人だった。そして次の瞬間、ツッチーの体がチェーンソで抉られていた。
「うぐっ――」
胃の奥から何かがせり上がってくるのを必死に抑え込んで、木箱の陰でうずくまって耳をふさいだ。耳をふさいでも、肉や骨を削る音が微かに聞こえてくる。
――いやだっ! もういやだっ!!
見なくてもわかる。あんなのやられたら誰だって死ぬに決まってる――!!
音が止む……続けて、硬いものが床に叩きつけられる音が響く。再度陰から様子を窺うと、どうやら女の人がチェーンソーを床に放った音のようだ。
チェ-ンソーを手放した女の人は、ツッチーやタケの持っていたカバンを物色して、それが終わると部屋を見渡しす。何かを探しているようだった。ということは当然あたしが隠れている木箱も対象になる。その予想は的中し、女の人はゆっくりとこっちに歩いてきた。
――ヤバい!? 目が合った。
そしたら今度は、女の人はなぜかその場で床に寝転んでしまった。一体何が起きているのか理解が追いついてない。もしここで近づいていったら飛びかかってくるんじゃないかと思って、あたしは動かずその場でじっと耐えた。しばらくすると女の人は痙攣したようにガタガタと震えだした。
「くっ……かっ――ぁぁ……」
小刻みに震えながらうめき声を上げる。そして、動かなくなった……
あたしは4つん這いで木箱の陰から女の人へと近づいていく。その顔を覗き込むと目を見開いて口から泡を吹いていた。
「あ……あの……」
呼び掛ける。
『現在生存スル――』
「うわっ!? なっ、なに!?」
いきなり声がしてあたしは思わず声を上げた。
返事をしたのは女の人ではない。どうやらデパートの館内放送のようなもが流れているみたいだった。その内容は、リセットが始まるから自分の数字を確認しろという内容だった。
あたしは、支給品の鏡を使って自分の数字を確認した。
――『6』。
それがあたしに与えられた新しい数字だった。
立ち上がって部屋を見渡す。そこには3人の遺体……
「うっ――」
途端に吐き気をもよおすような臭気が鼻をつく。先程抑えたはずのものが再びせり上がってきて、その場で吐いてしまった。水とカンパンしか口にしていなかったためか吐瀉物はほとんど液体だった。
ここにいるのは耐えられそうもない。自分のカバンを引っつかんで、あたしは足速に部屋を出た。
…………
俯いてトボトボと通路を歩く。
今のあたしにはなにもない。このままゲームをクリアしても、そこにはもうツッチーとタケはいない。そんな状態でゲームに勝っても嬉しくもなんともない。
こんなはずじゃなかった……
あのとき逃げ出さずにちゃんとふたりの話を聞けばよかった。それ以前に、リドルの話に乗るべきじゃなかったんだ。
――あたしのせいだ。あたしがふたりを殺したんだ……
さっきからずっとそんな事ばかり考えていた。
だから……あたしは目の前に現れた人の存在に気が付けなかった。
顔を上げると、目の前には最初に出会ったメガネを掛けた男の人がいた。彼がゆっくりと右手を上げる。その手にはピストルが握られていた。
「まさか……」
そのまさかだった。
彼の首輪には『5』の数字が表示されていた。
逃げなきゃ――!! そう思ったけど……ふと、別の考えが頭をよぎった。
次の瞬間。ゲームが始まって最初に聞いたあの発砲音が耳を劈く。そして、一瞬だけ額に痛みが走った。
あぁ……これでツッチーとタケのところに行けるんだ……




