第12話 その手は届かない
タケがミカを追いかけて走り出す。それに遅れてオレも2人の後を追った。反応が遅れてしまった理由は、懐かしい顔に何を言おうか迷っていたというのもあるが、別の理由もあった。
それはミカの数字。ミカの数字は『12』だった。今のオレの数字と同じ。
重要なのはこのオレの数字は最初の数字ではないということ。オレが最初に与えられていた数字は『2』。つまりオレが誰も殺していなかったらオレとミカの数字を足して『14』になっていたということだ。
リドルはルール説明の際数字はランダムで決まると言っていた。その言葉を素直に受け取るなら、これは運命のイタズラってやつだ。
――だが本当にそうか?
タケからミカとリドルが繋がっていたと聞かされた今。なんとなく勘ぐってしまう。
まあどちらにせよ今のオレの数字は『12』だ。あのとき殺してしまった女には悪いが感謝だ……
タケに遅れるようにして角を曲がる。するとタイミングよく扉が開く。
「おいっ!? どうなった!?」
てっきりタケが出て来るのだとばかり思って声を掛けたが、知らない男が出てきた。
「はぁ? あんた……誰だよ」
男はオレの質問には答えず、一瞬だけこちらを睨んで向こうへと走り去って行った。
「なんなんだよ……ったく……」
悪態ついて扉を開けた。
「……え? おいっ! 何だよこれ!」
扉のすぐ近くでタケが仰向けになって倒れていた。その下には赤い血溜まりができていて、赤い液体は今もなお広がっている。
タケの傍に膝をついて体に触れる。まだ温かかった。
「おい! しっかりしろ! タケっ!!」
呼び掛けるが返事はない。そして思い出す。オレが殺してしまった女は死んだときに首輪の表示が消えていたことを。恐る恐るタケの首輪を確認した。
――生きててくれ! 頼む!
オレの願いもむなしくタケの首輪には何も表示されていなかった。
「タ……ケ……お前」
タケは死んでいた。仮にこの状態で生きていたとしても助かる見込みはなかっただろう。
そんなもんは言われなくてもわかっている。それでも生きていてほしいと願うのはオレの素直な気持ちだった。
いったいタケの身に何があった?
ミカの数字は『12』だった。『6』の数字を持つタケを殺せるわけがない。もしそうなっていたとしたらミカだって無事じゃいられないはずだ。だがここにはミカの死体はおろかその存在すらない。だったら答えは1つしかない。この部屋から出てきたさっきの男、きっとあいつがタケを殺ったに違いない。
あの男は何者だ? そしてミカはどこに消えた?
「ちくしょう……。ちくしょう……。ちっくしょぉぉぉ!!」
体の中から熱いものがこみ上げてくる。
オレたちはもっとうまくやれたはずだ、なのに――
「――っ!」
そのとき、この部屋に何かが近づいてくる音が聞こえた。
例えるならそれは獣の唸り声のようだった。
まさかリドルから支給された武器の中にライオンが混ざってたとかじゃねぇよな……
人間が相手なら逃げきれる自信はある。だが猛獣が相手では不可能だ。
できればこの部屋をスルーしてもらいたい。
音が徐々に近づいてくる。近づくに連れ音が鮮明になってくる。獣の唸り声のように聞こえたそれは何かのエンジン音のようだ。
……バイク? ――いや、それはない。
バイクなら近づいてくるスピードはもっと速いはずだ。エンジンを掛けながら手で押しているとは考えにくい。
そしてその音は部屋の前まで来るとそこに留まった。ここで止まるってことは音をさせている何かはここに入ってくるつもりってことだ。
オレはゆっくりと立ち上がり相手の出方を窺う。鉄扉がギィと音を立てながらゆっくりと開いていき、黒のドレスを身に纏った女が姿を見せた。
「みぃつけた……フフっ――」
チェーンソーを持ったその女は唇を歪ませニタリと笑った。




