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リドル ― Trilogy ―  作者: 桜木樹
第二章 the second stage

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第5話 これがゲームの在り方 後編

「ふざっっっっっけるなぁっぁぁぁあああ!!! 僕は認めないぞっ! こんな――ッ!」


 銃を構えていた男は地団駄を踏んで「クソッ」と吐き捨てると、慌てるようにして部屋を出て行ってしまった。


 たぶん創造と敏弥は距離と死角のせいで何が起こったのかわかってない。


 俺は立ち上がって美春に駆け寄ると。その胸ぐらを思いっきりつかんだ。美春の手からまゆみの腕がするりと抜け落ちる。


「てめぇ! 何やってんだよ!」


 つかんだ腕が振り払われた。


「やめてよ! 女の子の胸ぐらつかむ普通。――大体、悪いのは銃を撃った男でしょ!」


 美春の言い分にも一理あった。だがそれでも俺の怒りは収まらなかった。


 ただならぬ雰囲気を感じてか創造と敏弥が集まってくる。


「マジ、かよ……」その光景を見て敏弥が目を丸くしていた。


 敏弥の視線の先にあったのは胸から血を流しているまゆみ。瞳が大きく見開かれ、今もなお白いワンピースに赤いシミが広がっている。いちいち確認しなくても死んでいることはわかる。


 さっきまで生きていた……少女……


「何が、あったんですか?」


 創造が訊ねた。その声は暗く低い声だった。


「こいつが……まゆみを盾にした」


 美春がまゆみの腕をつかんだあと盾にするようにして自分の前に無理やり引き寄せた。俺はその瞬間をこの目ではっきりと見た。


「わざとじゃない。助けようと思った」


「嘘だろ? まゆみに追いつく直前に奴の首輪を見たんだろ? だったら自分だけが逃げればよかったんじゃないのか?」


「はぁ? 銃相手にあの距離で逃げろとかバッカじゃないの!?」


「ってことはやっぱり盾にしたってことだよなぁ!?」


「なにそれ、わたしが死ねばよかったってこと? やっぱりあんたはそういう奴なんだ……」


「2人とも落ち着いてください!」


 創造が俺と美春の間に割って入った。


「とりあえず喧嘩するのはや……め……」


 美春に視線を向けた瞬間創造が言いよどんだ。


「なに? なにか言いたいことでもあるの?」


 美春が腕を組み眉を吊り上げる。


「そ、れ……?」


 創造が右手の人差指をゆっくりと美春の首に向ける。その指に誘われるように俺と敏弥の視線が美春の首に吸い込まれる。


「なんだ、これ……?」「おいおいおいおい!」


「なによ、いったい――」


「なんで……。なんで『13』なんだよ! お前の首輪!」


 美春の首輪の数字が『5』から『13』に変わっていた。予想外の事態にさっきまでの怒りがぶっ飛んでいた。


「はぁ? 冗談――げげっ!」


 美春が腰の後ろからサバイバルナイフを取り出し、ブレードを鏡代わりにして首元を確認して素っ頓狂な声を上げた。


 一体何が起きたのか……


 美春の数字が『13』になるために必要な数字は『8』だ。そして、『8』の数字だったのはまゆみ。ということは、美春がまゆみを殺したってことだ。


 さっきこの部屋にいた男。奴は美春を見たとき「ナンバーファイブ」と叫んでいた。つまり男の数字は『9』だったと予想できる。もし『9』が『8』を殺したら数字は『17』になって、ペナルティを受けていたはずだ。だけど男は普通に部屋を出ていった。


 銃を撃ったのは男なのに、まゆみを盾にした美春が殺したと判断されたってことだ。


 誰がどうやって数字の判定をしているのか知らないが、少なくともゲームは美春がまゆみを殺したと判断したってことだ。


 …………


「そんじゃ、オレはあっちに付いてくんで。こいつはもらってくぜ」


 敏弥はまゆみの持っていたカバンを拾い上げ、俺たちが部屋に入ってきた扉側から見て右の扉から部屋を出ていった。美春はすでに同じ扉から外に出て行ったあとだ。さらに言えば、銃を発砲したメガネの男が出ていったのもその扉だ。


 部屋には俺と創造だけが残った。遺体も含めれば3人……


 話し合いの結果、俺は美春と一緒に行動することを拒否した。それは相手も同じだった。たぶんこのまま一緒に行動しても、俺は美春を信用する自信がない。そう思っての結論だ。


 敏弥は美春と行動することを選んだ。


 その後途中になっていた木箱の中身の確認を終えて、ペットボトルの水が6本とカンパンの缶詰が3つ出てきた。これにみはるのカバンの中身――中身は一切手が付けられていなかった――を足して、きれいに四等分することができた。さっき敏弥が持っていったカバンには敏弥と先に行ってしまった美春の分が入っている。俺と創造の分はもう自分たちのカバンにしまってある。


「よかったのか? あっちについて行かなくて」


 ここに来る前に見つけた毛布――創造がちゃっかりを回収していた――をまゆみに掛けている創造に話し掛けた。


「ええ、まあ……」


「そうか……」


 胡座をかいていた俺は項垂れた。創造がこっちに来て俺の肩に手を置いた。


「落ち込んでいる暇はありませんよ」


「冷たいな……まゆみはお前に一番なついてたんだぞ」


「正直言います。まゆみさんは遅かれ早かれこうなっていたと思います。それとも先輩は……この先彼女を守りながら自分の数字を『14』にしてゴールできる自信があったんですか?」


「それは――」逡巡。「……無理だ」


 自分のことで手一杯なのに、その上他人のことを気にかけてる余裕なんてない。


「そういうことですよ」


 そう、そういうことなんだよ……


 リドルは脱出ゲームだと言っていたが実際には殺人ゲームだ。これがこのゲームの在り方、本来の姿なんだ。今までが平和だったせいで感覚が麻痺していただけなんだ。


 俺は壁が迫ってくる光景を目の当たりにした。フィールドが狭くなるということは、ほかのプレイヤーとの接触率が増加するということだ。自分の命が狙われ、目の前で殺人が起きる確率が格段に上がる。誰のせいでもない。悪いのはリドルなんだよ……


「くそっ!」


 拳を床に叩きつけ、両手で頬を叩いて立ち上がる。


「どうしたんです急に」


「生きて帰る。絶対だ!」


「は、はぁ……」


 俺の突然の行動に、創造は目が点になってた。


 わけも分からずこんなゲームに参加させられて死ぬなんてゴメンだ。そのためには武器のようなものが必要だ。あいにく木箱の中にそれらしきものはなかった。


 部屋の四隅の木箱に目をやる。


「よし!」


 俺は立ち上がって木箱に駆け寄った。


「何するんです?」


 そんな俺の背に創造が疑問の声を掛ける。


「こうするんだよ」


 振り返らずそう言って、俺は木箱の解体を開始した。


 木箱は角材を幾つか繋げることで面を構成している。その一本を外して武器にしようと思った。怪我をしないように気をつけながら解体し、やがて一本の角材を取り出すことに成功した。長さは約1メートル。このままではちょっと取り回しが悪いので角材を真ん中らへんで折った――つもりだったが多少ずれて短い方をチョイスした。長さは30から40センチと言ったところだ。


 片手で持って適当に振り回す。ほんの少し重さを感じる程度だ。相手にダメージを与えないといけないことを考えると軽すぎてはダメ。だからこれくらいでちょうどいい。


 俺はそれをカバンにしまう。結構はみ出てしまっているけどまあ仕方ない。


 創造を見るとどうやら俺を真似たようで、30センチほどの角材を手にしていた。


「いい判断だと思いますよ」


 俺の視線に気づいた創造が言った。それから、俺たちは敏弥たちが出ていった方とは反対の扉から外に出た。


 …………


 俺と創造はしばらく無言で歩いた。気まずい空気に耐えかねて、俺は口を開いた。


「そういや、理由……聞いてもいいか?」


「理由?」


 隣を歩く創造が首を傾げる。


「ああ、すまん。えっと、俺についてきてくれた理由だ」


 創造は「ああ」と納得して、


「リセットが起きたときに御しやすいかなと」


「おまえ……」


 ガックリとわざとらしく肩を落とす。だが腑に落ちた。


「あはは。半分冗談ですよ。もう半分はですね、あの2人は協力してくれない可能性があるからです」


「ん? どういうことだ?」


「さっきの光景覚えてますよね? 部屋に入ってきた男性が銃を撃ったはずなのに、数字が増えたのは美春さんだった」


「ああ、そうだな」


「例えば、いま目の前に数字が『3』のプレイヤーが現れたとします。それは僕のターゲットですから僕はなんとしても相手を倒します。このとき、先輩が協力してくれて相手を羽交い締めにしたとします。そして僕が『3』のプレイヤーを殺す……けど、僕の数字が増えるとは限らないんですよね」


 創造の言いたいことがわかった。さっきのまゆみが殺された状況を考えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 もし、創造が言ったことを敏弥と美春が気づいていれば、あの2人は創造のターゲットが現れても協力してくれない。なぜなら、下手をしたら自分の数字が増えてしまうからだ。それで『14』を超えなければまだいいが、生憎あの2人は『12』と『13』でペナルティの対象となってしまう。美春に至っては2回目の殺人だ。


「そうか、そうだよな……」ひとり納得の声を漏らし「――って、俺もじゃねぇか!」


 自分の数字も『13』であることを思い出した。つまり、俺も創造に協力することはできないということだ。


「ですから半分と言ったんですよ」


 創造がイタズラっぽい笑みを向けた。


 なるほど……だからリセットのときのことを考えて俺に付いてきたか。食えないやつだよ……ほんとに。


 改めてそう思った。


 すると、創造はいきなり真顔で立ち止また。


「何か……変な音が聞こえませんか?」


 その発言に既視感を覚えた。だが今はあのときと違って道の真中だ。前も後ろも分かれ道はない。そしてあの時と違って俺にもその音が聞こえていた。例えるなら……そう、バイクのエンジン音だ。


「後ろか……?」


 振り返る。創造も俺と同様に振り返っていた。音が徐々に近づいてくるのがわかる。そして、数メートル先に人影が現れた。


「……ありですか……あれ?」「冗談……だろ?」


 俺と創造が同時に声をもらす。


 現れた人影は黒を基調としたエプロンドレス姿の髪の長い女だった。そして、一際目を引いたのは女が手に持っていたもの……


 間違いなくチェーンソーだった。大型のものではなく小型のものだ。女はそれを片手で軽々と持って歩いている。いくら小型といっても、あんなので襲われたらひとたまりもない。


 俺は向き直って一目散に逃走を図った。創造も少し遅れて走り出していた。一瞬だけ振り返と、女もまた俺たちを追いかけるように走り出していた。

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