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リドル ― Trilogy ―  作者: 桜木樹
第一章 the liar
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第27話 遭遇 02

 初めて手にする銃は見た目以上にずっしりとしていた。


 私が拾い上げた銃をためめつすがめつしていると、


「14分間、何もせずにいるのは辛いでしょうから、何か聞きたいことがあれば答えますよ」


 そう言われた。


 男は相変わらず柔和な笑みをたたえたままだった。


 いきなり聞きたいことと言われても瞬時には浮かばない。


 何を聞こうかと、ほんの少し考えて……


「そういえば、どこで私のゲームの情報を手に入れたんですか? ネット中継を見てから特定してここに来るにしては速すぎますよね」


 そう質問した。


「そうですね。あなたは、とある人物から大量の睡眠薬を購入しましたよね? その人物はリドルの息のかかった組織の人間だったんですよ。それで、あなたが何をしようとしているのか気になって調べさせてもらいました」


「そ……んな……」


 私が大量の薬を購入したのは事実だ。それはイミテイションゲーム内においてプレイヤーたちを眠らせるのに使った薬のことだ。


 昔仕事で少しだけ世話になった裏社会の人間から購入したものだ。


 そして、リドルもまた裏社会の組織。


 にわかには信じ難かったが、筋は通っている。


 ――蛇の道は蛇……これは私の落ち度だ。


「その後、現地であなたのことを調査していた生野さんが、あなたに声をかけられ、彼女は機転を利かせ被害者遺族のフリをしたといわけです」


「……は? 遺族の、フリ? 生野さんが……? それは、つまり――!?」


「ええ。彼女もリドルです」


 ――生野さんがリドル!?


 その事実は、私に衝撃を与えた。……と同時に、なるほどと冷静に分析する自分がいた。


 たしかに、今回のゲームはうまく行き過ぎていた。


 特に6人の人間を攫うのは何の苦もなく非常にスムーズだった。ただそれは、実行犯の中にリドルがいたからに過ぎなかったというわけだ。


 いや、もしかするとそうではないのかもしれない……


「まさかとは思いますが……ゲームに参加した人間が全員リドルだったりしますか?」


「ふむ、聡明ですね。そのとおりですよ」


 ――ああ……やはり……


 全員がリドルということは、イミテイションゲームに参加していた者たちは事情を知った上で演技をしていたということになる。そう考えるとひどく滑稽に思えた。


 そして、私が生野さんに声を掛けなければこうはなっていなかったのかも知れないということだ。その場合は、ゲーム自体が失敗していた可能性もあるが……


 だがわからないのは、なぜもっと早い段階で私を拘束するなりしなかったのかということだ。


 私がゲームを行うことは、彼らにとっては意味のあることだとでも言うのだろうか? 自分たちの存在をネット中継で拡散されるというリスクを負ったとしても……


「ほかには何かありませんか?」


 男はまるで質問してほしそうに言う。


 私は妻と娘に関する質問をすることにした。


「約半年前、私の妻と娘がリドルのゲームに参加させられました。そして、先日の爆発事件に巻き込まれた。なぜ、妻と娘はゲームに参加させられたんですか!? この世界には人間などごまんといるんです。ほかの人では駄目だったんですか!?」


 すごく身勝手な考え方なのは承知していた。だが愛する者のことを1番に考えることは当然だ。


 男はしばし考える素振りを見せる。


「残念ですがその質問に答えることはできません。ただ、1つだけ言えるのは、あなたの奥さんと娘さんには素質があった……ということです」


 素質――?


 一体何の――?


 理由を尋ねようとして、今しがた言えないと言われたことに気付いて、ぐっと言葉を飲んだ。


もどかしさに苛まれた。


「それでも、どうしても知りたいというのであれば、このゲームに勝つことことですね」


 男の言いたいことはわかった。


 ゲームに勝てば何でも願いを叶えてもらえる。その権利を使って聞け――ということなのだろう。


 だが、その権利の使い道は、リドルのトップの居場所を知るために使うと決めている。


 残念だが、素質については諦めるほかない。


 ――ん? 待てよ?


 ふとあることを思いついた。


 私は今リドルの人間に質問している。


 ダメ元で、組織のトップがどのような人物なのかを聞いてみるのもありなのではないだろうか……?


「あなた方は組織として動いている……というのは間違いないのですよね?」


「ええ。そうですよ」


 男が首を縦に振った。


「ならば、毎回ゲームの指揮を執る人間、いわばリーダーのようなものが存在しているのでしょう? その人物がどこにいるのか教えていただけませんか?」


 すると、男はまたも悩むような素振りを見せた。


 やはり、そう簡単には教えてはもらえないかと諦めかけたとき、男が口を開く。


「なるほど……。どうやらあなたは勘違いしているみたいですね」


「勘違い?」


「確かにリドルは組織です。組織ですから当然トップも存在します。ですが、彼は毎回行われるゲームにいちいち指示を出すようなことはしません」


「すべて現場の判断。ということですか?」


「そうです。ゲームの規模にもよりますが、組織の人間が数十人単位でチームを作りゲームを主催します。――例えば、今回のゲームは僕主導で動いていますし、あなたの奥さんと娘さんが参加していたゲームで指示を出していたのは彼女です」


 男がある一方を指さした。


 その先には、うつ伏せになって倒れる生野さんがいる。


「……え?」


 自然と声が漏れていた――


 生野さんが……私の妻と娘の……?


 もちろん、彼女が直接手を下したわけではない。


 しかし――

 

 指示を出していたということは、ゲームの内容や誰を参加させるかなどは彼女が決めていたということに他ならない。


 ということは、生野さんこそが私の復讐の相手……ということか?


 彼女に対する怒りがふつふつと湧き上がり、銃を握る手に力が入る。


 ――そうだ。私の手には銃が握られている。


 妻と娘の仇が無防備にその身をさらしている。


 この状況なら、素人の私にでもこの女を簡単に殺すことができるはずだ。


 しかし、それはこのゲームに負けることを意味している。


 負ければ身柄を拘束される。そうなれば何をされるかわかったものではない。


 妻と娘の敵を討った後で拘束されるならばそれでもいい……と言いたいところだが、私にも人並みの恐怖はある。


 ――ここはなんとしても14分耐えるべき局面だ……


 そう……たった14分耐えるだけ。こんなに簡単なことでリドルの監視から逃れることができるのだ。こんなにも楽なことはない。更には願いまでも聞いてもらえるのだから、勝たない手はない。


「――ふぅ……」


 自分を落ち着かせるために深呼吸する。


 先程までの怒りがスッと引いていく。


 改めてこのゲームについて考えてみると、ゲームとしては破綻しているように思えた。なぜなら、ゲームのルール上、私が格段に有利であるからだ。


 彼はそんな状態にある私に引き金を引かせなければならない。さらに、私が仮に引き金を引いたとして、その銃口を彼に向けていた場合、果たしてそれは彼の勝利と言えるのだろうか……


 ――あるいは、組織の勝ちのためなら命は惜しくないと考えているか……


 大体、ゲームが終わった後で、私がこの銃を持ち逃げすることだって、やろうと思えばできるかも知れないのだ。にもかかわらず、私に銃を渡すなど正気の沙汰とは思えない。


「…………」


 そこまで考えて私はあることに気が付いた。


 手にした銃を顔の前まで上げて凝視する。


 ゲームが終了したら、この銃をどうするつもりなのだろうか? ――もちろん回収するに決っている。


 私が彼に銃を返しに行かなかったら? ――当然、彼、あるいは後ろの仮面の人物が私のもとまでやってくる必要がある。


 では、ゲームが終わってから回収に来るまでの間に私がこの引き金を引いた場合どうなる? ――ゲームが終了した後の行動なのだから、私の負けにはならないだろう。


 つまり、ゲームに勝利し、且つこの場にいる誰かに向けて銃を撃てるということだ。


 ――いや、相手はこれまで数々のゲームを主催してきた猛者だ。そんなことは百も承知のはず。だとするならば、彼の取る行動は……


 銃に向けていた視線を男の方に向けると、彼は私の方に向かって一歩踏み出すところだった。そして、そのままゆっくりと歩き出した。


 それを見て、これから彼が何をしようとしているのかを察した。


 私と彼との距離が徐々に縮まっていく。


「止まってください!」


 慌てて、男に向けて銃を構えると、彼はピタリと動きを止めた。


 銃を向けられているというのに、焦った様子はなく、柔和な表情でこちらを見ていた。


 何を考えているかまったく読めない――


 考えが読めないと言えば、生野さんもそうだった。感情が顔に出にくく、どこか冷たい雰囲気を纏っていた彼女。今にして思えば、それはすべてリドル故のことだったのだろう。


 彼女といい、この男といい、感情を気取らせないように訓練でも積んでいるに違いない。


「――っ!? 止まってくださいと言ったはずです!!」


 男が再び歩き出そうとしたのを見て、慌てて静止の声を張り上げた。


「あなたの考えは読めていますよ! ゲームが終了する瞬間に私から銃を取り上げる算段だったんでしょう? そうしないと、ゲームが終わった後で私が銃を撃つ機会を得てしまいますからね。――もちろんそのときにはすでにゲームが終わっているのですから、私は負けたことにはならない……でしょう? いやぁ……それにしても、リドルがこんなにも愚かだとは思っていませんでしたよ!」


 そして、私のセリフが終わるのを待っていたかのようなタイミングで、男の手元からピピピッという音が鳴った。


 ゲーム終了を告げる合図だ――


 自然と口角が歪む。


「勝負ありましたねぇ!! 私の勝ちですよ!!」


「そんなに声を張らなくても十分聞こえていますよ。それに、ここで僕を殺してもリドルにとっては痛くも痒くもありません。別の人間が僕に取って代わるだけ。リドルとはそういう組織です」


 男は相変わらず冷静だった。


 その冷静さが私を苛立たせた。


 先程落ち着けたはずの怒りの感情が再び体の奥から湧き上がる。


「もちろんわかっていますよ! ですがね――!」


 男に向けていた銃口を、廊下に臥せっている生野さんに向けた。


「その女は私の妻と娘が死ぬ原因を作った、いわば仇です!! だから私はその女を殺します!!」


「……復讐のつもりですか?」


 このとき初めて、男の顔に焦りの色が見えた。


「いけませんか?」


「亡くなったあなたの奥さんと娘さんがそれを望んでいるとは思いませんが?」


「あなたに何がわかるんですか!?」


 男の言い分はわからないでもない。


 妻と娘は復讐など望むような人間ではない。


 だが――


 私がリドルを許せないのだ! 私が復讐したいと望んでいるのだ!


 死んだ人間の思いを考慮して、今を生きる人間の思いを蔑ろにするのは間違っている。


 そもそも――


「2人を殺した人間にそれを言う資格はありませんよ!!」


「先程も言いましたが、僕はそのゲームに関わっていません」


「同じ組織に属しているなら同罪ですよ!!」


 男が私に向かって距離を詰めようとする。


 しかしもう手遅れ――


 私は、床に倒れている生野さんの方を向き、両手で銃をしっかりと構え、


 引き金に掛けた人差し指に力を込めた――

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