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リドル ― Trilogy ―  作者: 桜木樹
第一章 the liar
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第16話 復讐 07

 一足先に自分の持ち場となる部屋に入って真部を待った。


「お待たせしました。まず、これを見てください」


 真部は部屋に入ってくるなり、手に持っていたものを机に置いた。それは、スイッチがついたガジェットのようなものと、6つの金属製の輪っかだった。


「この6つのボタンは、それぞれこの首輪に対応しています」


 そう言って、真部がガジェットのボタンを押す。するとそれに対応した輪っかの内側から小さな針のようなものが飛び出した。


「おお! 何だこれ!」


 そのギミックに、たまらず声を上げていた。


「いやぁ、いい反応ですね。さっき、生野さんにも見せたんですが。反応が今一でしたからね」


 その姿は容易に想像できた。


「本番では、この首輪の中に睡眠薬を入れた状態で、ゲームのプレイヤーの首に装着します。楡金さんは、答えを入力したプレイヤーに対応したボタンを押してください。そうすることで、針が飛び出し薬が注入され眠ってしまう、ということになります。ちなみに、この首輪にはマイクが内蔵されているので、ゲーム中の会話はバッチリ拾えるはずです」


「お、おう……ってか、どうしたんだよこれ?」


 素人目に見てもかなり怪し気な道具であることはわかる。


 ――どうやってこんなものを手に入れたのだろうか?


「こういう仕事をやっていますとね、いろんな人間関係が構築されていくんですよ」


 真部は不敵な笑みを浮かべていた。


 あまり突っ込まないほうがよさそうだと思ったので、それ以上の追求はやめることにした。


「ん? でも、ゲームの参加者って7人じゃなかったか?」


「そうですよ。でも生野さんを眠らせてしまったらすべてが水の泡でしょう? ですから、生野さんにつけてもらう首輪はギミックのないものになります」


 つまり、生野の分は必要ないから首輪は6つしかないと。


 それから真部が隣の部屋に移動して、タイミングを測る練習が始まった。真部がパソコンに適当な文字入力して、タイミングを見てオレがボタンを押す、という行動を何度か繰り返し行った。


 ある程度試行を繰り返して、真部がオレのいる部屋に戻ってきた。


「これはあくまで目安ですね、本番では誰がどのような行動を取るかわかりませんからね。一応、生野さんにもこのことを伝えておきます。まぁ、滅多なことはないでしょうが……」


「ああ、わかった」


「さて、それでは、生野さんの様子を見てきてもらってもいいですか? なんでしたら、楡金さんも外で休憩してきてもいいですよ」


 オレは真部の言葉に甘えて、建物の外へ出ることにした。


 …………


「んん……、はぁー……」


 外に出たオレは、やや大げさに体を伸ばした。時刻は昼過ぎで太陽は少し西に傾いていた。


 蛍光灯の明るさと太陽光の違いをまざまざと感じる。


 そんなオレとは対照的に、先に外に出ていた生野は建物の影でしゃがんでいた。


「なに?」


 生野に近づくと、何か用があると思ったのかオレに話し掛けてきた。


「いや、別に……ただ、様子を見てこいって言われただけさ……ついでに休憩してこいとも言われた」


「そう」


 生野が呟くように短く言った。


 見てこいと言われたからって、本当に見てるだけってのも変だし、このタイミングで距離を置いたら、避けてるみたいで嫌だった。


 だから、何かいい話のネタはないかと考えて――


「それにしても、真部って凄いよな」


 口をついて出たのはそんな言葉だった。


「そうね、たった1人であのゲームを考えて、おまけにこんな建物まで用意してるなんて、正直驚いたわ」


「たしかにそれも凄いけど。オレが言いたいのは、自分を犠牲にしてほかの人を助けようと行動できるところがさ。自分が罪を犯してでもって、なかなかできることじゃないよな」


 そう言うと、生野はこちらを向いて、「それはどうかしら?」と言い放った。


「なんだ? 凄いって思わないのか?」


「そうじゃないわ。ただ……人は《《嘘》》をつく生き物なのよ。表面上はいくらでも取り繕える」


「それって、真部が嘘ついてるってことか?」


「そうは言わないけど……たった数回会っただけの人間を、こういう人だと決めつけるのはやめたほうがいいってことよ」


 生野の言いたいことはわからないでもない。だがそれは同時に、オレは生野のことも疑わなければいけないということだ。そして、生野はオレや真部のことを信用していないということにもなる。


 これから3人で協力して事をなそうとしているのに、互いに疑い合うってのは間違っているような気がした。


「ねえ……そんなことより、どうして彼に協力しようと思ったの?」


 あんなことを言った手前、オレのことを信用に足るかどうかを見極めようとしているのかも知れない。


「そう、だな……」


 オレは、真部にそうしたように、複雑な経緯を省いて、妹が死んだから協力しようと思った、と伝えた。


 話し終わると、自分から聞いたくせに生野は大して興味のなさそうに「そう」と、そっけない返事を返すだけだった。


「なあ、オレも聞いていいか?」


「ええ、いいわよ」


 きっと断られるだろうと思ったが、以外にもあっさり了承した。


 ――もしかすると聞いて欲しかったとか……? 


 自分から聞いて欲しいなんて言えなくて、オレに最初に真部に協力した理由を聞けば、こっちにも理由を聞いてくるだろうという魂胆だったとか……ってのは考えすぎか?


「私はね……昔、ある施設にいたの――」


 生野は遠い目をして語りだす。


 唐突に出てきた昔という言葉を疑問に思いつつも、オレは生野の話に耳を傾けることにした。


「私のいた施設に賊が入り込んできたの。私は、ほかの人たちと一緒になって、施設内を逃げま回って……だけど、結局追い詰められてしまった。……私はここで殺されるんだって諦めかけたとき、一緒に避難してた中の1人が――」


「ちょっと待ってくれ!」


 生野の話がオレの質問の答になってなくて、思わず話をぶった切っていた。


「なに……?」


 生野が睨むような目つきでこっちを見た。


「あー、えっと、何の話してるんだって思ってだな」


「え?」


 生野が疑問符を浮かべ、しばらく考える素振りを見せて、「あぁ、そう言えばそうだったわね」と、ひとり納得していた。


 それから、生野はゆっくりと立ち上がった。


「今の話は忘れて……って、私がこのセリフを言うのは皮肉かしら」


 そう言いながら、オレの横を通り過ぎて、建物の中に入っていった。


 ――なんのこっちゃ?


 結局、生野が真部に協力するに至った理由は聞けなかった。


 生野が去った後、まだしばらくここに留まることにした。生野は何の話をしようとしていたのか気になった。施設がどうのと言っていたが……


「施設、ねぇ……」


 施設と聞いて思い出したのは梓のことだった。梓もどこかの施設にいたという話をしていたからだ。


 施設出身の奴って意外と多いのか?


 ――まさか、2人が同じ施設出身だったり……とかは流石にないよな?


「ああ、でも――」


 施設にいたからといって、保護される側とは限らないことに気がついた。職員として勤務してたって可能性もある。


 梓が子どもと一緒になって無邪気に遊ぶ姿は容易に想像できる。むしろ、それが理由であんな子どもっぽい性格をしていたのかも知れない。


 対して生野は……全然想像できなかった。


「ふぅ――」


 そんなことを考えながら、外の空気を堪能していた。


 …………


 気晴らしを終えて、2階の中央の部屋に戻ると、モニターが置かれている机の傍で、真部が手にした紙を真剣に見ていた。


 オレが部屋に入ってきたことに気付いた真部は、紙を畳んで胸ポケットにしまって、こちらを向いた。


 真部の目は心なしか赤くなっているように見えた。


「気分転換は済んだのですか?」


「ああ。ところで、生野の姿が見えないが……」


「生野さん、ですか? 気分転換をすると言って出ていってから1度も会ってませんが……」


「そうなのか? オレより先に戻ったはずなんだが」


 たぶんほかの部屋にいるんだろうが、この部屋の両サイドの部屋には特に用事はないはず。ということは必然的に1階の物置みたいな部屋にいるってことになるが。


「……ところで、準備って、もう終わりなのか?」


「そうですね、今日はもう終わりでいいでしょう」


 真部が言うと、ちょうどいいタイミングで生野が茶封筒を手に部屋に入ってきた。


「これ、この前言っていたものよ」


 封筒を真部に差し出す。大きさはだいたいA4くらい。


 受け取った真部は中身を取り出す。すると、出てきたのは紙。


 オレはそれを横から覗き込んだ。どうやら履歴書のようなもので、1枚にひとりづつ、計13枚のあった。


「おお、もしかしてこれが例の――」


 真部が感嘆の声を上げた。


「そうよ、その中から好きな人物を6人ピックアップしてちょうだい。ちなみに、誰を選んでも滞りなく事が進むはずよ」


 今の会話でオレにもこれがなにかわかった、簡単に言えば拉致リストだ。


「楡金さんなら、誰を選びます?」

 

 真部が覗き込んでいたオレに質問してきた。


 自分が確認し終わった紙から順にオレに渡してくる。それらには、顔写真はもちろん、各個人のデータが事細かに記載されていた。


「やっぱ、老若男女バランスよく選んだほうがいいんじゃないか? それと、なるべく正解が出ないほうがいいんだよな? だったらバカっぽそうな奴を選ぶとか?」


「ふむ……そう言われるとそうですね」


「あまり悩まずに、第一印象でパパッと選ぶのがいいかと思うけど」


 生野の意見も一理ある。一旦悩みだすとドツボにはまりそうだしな。


「わかりました。では……」


 真部は13枚の紙を裏向きにして、そこから無作為に6枚の紙を選んだ。


 流石にそれはどうかとも思ったが、選んだ6枚を表に返し、そこに生野を含めたとして考えると、見た目的には割とバランスの取れたメンツになっているような気がした。


 頭の善し悪しまではわからないが……


 選んだ6枚を生野に渡すと、それぞれ角をって印をつけて、ほかの7枚とまとめて茶封筒に戻した。


「そうしたら、ベストな日程はこちらで改めて調べてみるわ。それがわかり次第こちらから誘き出すわ」


 6人の人間を期間を空けて攫うことになった場合、最初の方に攫っ者を監禁しておかなければならなくなる。そうなったら、監禁場所を用意して、脱走しないようにしたり、警察が動きだす可能性もあったりで、相当なリスクを負うことになる。


 つまり、今選んだ6人を短い期間で攫わなければいけないので、タイミングがとても重要と言える。そういう意味で誘き出すってのは理にかなっていると言える。


 真部が生野に対して礼を言いながら頭を下げた。


「さて……今日はこの辺で切り上げましょう」


「わかったわ。さっきも言ったけど、日程が決まり次第こちらから連絡するわ」


 こうして、オレたちは準備を終えて、真部の運転する車で廃村を後にした。


 後は、6人の人間を攫って、本番当日を迎えるだけだ……

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