準備と雑談
「それでシュウ君とはどうかな?
上手くやれたのかな」
宿で荷をまとめながら、私はイワヲに尋ねる。
今日の組み分けは私の欲望も少し、
そこそこ、
大分、
ほとんどが理由だったけれど、
イワヲがシュウ君と話したそうだったからというのもある。
「・・お陰で彼の事が少しわかった。
そっちはどうだった? 念願の彼女は」
向こうは何かしら成果があったらしい。
しかし、返された言葉にこちらは言葉を濁さざるを得ない。
「いや~、何と言えばいいのかな。
難しいとは思ってたけど、予想以上」
言えるのはその程度。
実際に私が感じた印象は、難しい、というより、危うい。
そう彼女、スイちゃんは危うい。
言葉遣いは丁寧(誰でも呼び捨てではあるが)で、
こちらの言葉にはちゃんと反応はしてくれる。
初対面の時に言い放っていた言葉は、今はあまり気にしていないようだ。
だけどどうも主体性が希薄で意思が感じられない。
何を思って私たちと同行しているのか。
報酬のため、と昨日は言っていたけれど、本当だろうか。
「・・そうか、残念だったな。
だがまあ、この事件が片付けばまた改めて話をする機会もあるだろう」
「そうだね。私としてはスイちゃんもだけど、シュウ君も気になるからね」
イワヲにそう告げると、彼は意外そうな顔でこちらを見て、
「・・意外だな。
何が気になるんだ?」
そう聞いてきた。
意外といえばイワヲのそういう反応も意外だった。
随分彼の事を気にしている様子。
「うーん、昔の知り合いに似てるような気がするんだよね。
黒髪なんて珍しくないし向こうも特に気にしてないから、
気のせいかもだけれど」
もう10年以上も前。
まだ子供だった私と、大人に成りかけの少年。
お互い名前も知らないままだったけれど、大切な思い出だ。
すこし思い出にふけっていた私だけど、
気付けばイワヲが妙な顔でこちらを見ていた。
「どうしたのかな?
何か変な話だったかな」
「・・いや、変な話と言えばそうだが、
ナギの話がという訳ではなく、なんというか、全体的に」
良く分からないことを言う。
まあそれはいいか。
荷造りを終えて立ち上がる。
宿は引き払おうかとも思ったけれど、
イワヲに聞いた話から私が推測するにそう長くは掛からない。
勘だけれど。
だから宿については、張り込んでいる間も
借りたままにしておくことにした。
余り長くなるようならまた考えなければならないけれど、
取り合えず今はこれでいい気がする。
「よし、出来た。
そっちはどうかな?」
「・・こっちも問題ない」
丁度イワヲの方も準備を終えたようだ。
さて、ここからが正念場。
一筋縄ではいかない気がするけれど、きっと上手くいくと思う。
勘だけれど。
初めまして。まずは読んでいただき、ありがとうございます!
感想・評価などお待ちしていますので、少しでも思うところがあった方は
是非ともよろしくお願いいたします。
また、世界観や用語など、分かりにくいとのお声が一定数あるようでしたら
その辺の解説なんかも掲載しようかと思っております。
もしご要望があればお寄せください。
至らぬ点が多々あるかと思いますが、完結まで続けていけたらと考えていますので、
何卒長い目で見守っていただければ幸いです。