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親友は良い奴に決まっている

 翌日、スマートフォンのアラームで目が覚めて、朝ごはんを作りにキッチンに降りていくと、既に羽奏(わかな)が朝ごはんと家族の弁当を作っていた。


「あ、お母さんおはよう! いいよ、私がやるから。お母さんは休んでて?」


 とおっしゃってますけど、さすがに毎日やらせるわけにはいかないし、昨日のアレがあるからいつ羽奏が病み始めるか怖くて仕方ない。とてもじゃないが呑気に寝れる状況じゃない。


「もう大丈夫だから。お母さんがやるから……」


「ダメダメ! また指切ったらどうするの?」


 おっしゃるとおり、俺が昨日切った指は、いまだに絆創膏を外せずにいる。絆創膏の上から傷を触るとジンジン痛む。これは治るまでしばらくかかりそうだ。


「……じゃあお願いしてもいい?」


「まっかせといてよ!」


 ドヤ顔でフライパンを操りながら胸を張る羽奏――ふむ、俺の測定(スカウター)によると、あの大きさはBだな、うん。

 その後、また昨日のようにトーストと目玉焼きとその他諸々のモーニングセットが人数分完成した。


 そして、ダイニングに降りてきた祐士(ゆうと)大輔(だいすけ)さんと共に朝食になる。が、相変わらず祐士は俺に対して塩対応だし、大輔さんは昨日のことを反省しているのか、何も喋らない。俺も他人の家族に混じっているようであまり話を振る事が出来ないので、ひたすら羽奏が喋って俺が答えるということを繰り返しているうちに朝食の時間は終わった。


 家を出ていく各々を見送ると、俺は早速洗濯と掃除を始めた。昨日やったばかりなので、メモ帳を見なくてもできることが多く、昨日よりも格段に効率が上がったと思う。お陰で、昼前には買い物がてらに昼食を食べに出かけるという優雅な奥様生活を送ることができた。


 が、食べたのは優雅な奥様とは程遠い――男子高校生の好物、ラーメンなのだが。




 家の近くにあって、たまたま通りかかったから入っただけのラーメン屋の店主は、一人でラーメンを食べに来た女の人に少しびっくりしていたようだ。

 うーん、こういうところも少し気を遣わないといけないのか。次から気をつけよう。


 初めて入ったラーメン屋にしては美味い醤油ラーメン大盛りをペロリと完食し、呆気に取られる店主に「ごちそうさまでした」と言いながら金を払うと、俺は当初の目的である買い物をするためにスーパーマーケットに向かった。




 スーパーマーケットの位置は手帳にも書いてあったので、迷うことは無かったが、だだっ広いスーパーマーケットの中で、食料品売り場を探して少し迷子になってしまった。仕方ないので店員さんに聞くと。「地下ですよぉ?」と、さも当たり前のように言われたので、俺はエスカレーターで地下に降りていった。


 さて、食材選びが重要だ。


 切らなくてもいいやつ、調理が簡単なやつを選ばないと俺は作れないからな。いっその事冷凍食品でいいんじゃないか? 究極、カップラーメンとかでもいい気がする。――と、どうしても思考が男子高校生に偏ってしまう。



 あっ、ああいうのいいんじゃないか?


 俺の目に入ったのは、コロッケとかメンチカツとかそういう惣菜? といわれるものが置かれたコーナーだ。あれを買って揚げなおせばそれっぽくなるんじゃないか? メインディッシュはあれにしようかな?


 と、人数分のコロッケとメンチカツ、エビフライを購入。あとは適当に野菜だな。――これも既にカットされて袋詰めにされたサラダがあった。これはいい――これも人数分購入。あっ、あとはこのインスタントスープ――粉にお湯を注ぐとスープになるやつだ。スープの味なんか誰も気にしないだろ。ということでこれも購入。


 よし、これで俺にも簡単に夕食が作れるのでは? いやぁ、文明は素晴らしいなぁ。


 と、買い物袋を提げた俺は上機嫌でスーパーマーケットを後にした。家族の喜ぶ顔が目に浮かぶ。これで紗衣さんも浮かばれるな。よかったよかった。



 ……などと考えながら歩いていると、道の向こうから金髪のイケメンが歩いてくるのがわかった。ちょっと怖いな。離れておこう。

 と、目を逸らしながら通り過ぎようとした俺だったが、イケメンは俺に気づくと、なんとこちらに近づいてきた。え、なんだろう? カツアゲかな?


「おばさん、こんにちはっす!」


 いや初対面の人に向かっておばさんて……お姉さんでしょっ! ……じゃなくて。――こいつ誰? 紗衣さんの知り合い? だとしたら挨拶しとかないとダメじゃん。


「あ、こんにちは」


 俺が返事すると、イケメンはニヤッといたずらっぽい笑みを浮かべた。


「今日も祐士のやつ、相変わらずのハーレムでしたっすよ。――聞きたいっすか?」


 あー、なるほど、祐士の友達か……ってことはこいつが噂の『増川(ますかわ) 真那斗(まなと)』である可能性が高いな。祐士の唯一の親友で、昨日会った愛美(まなみ)さんの息子と……。にしてもめちゃくちゃチャラい。こんなのがほんとに祐士の親友なのだろうか? でも確かにこいつからは昨日の愛美さんの面影が感じられるし、ノリもなんとなく愛美さんに似ている気がする。


「――ええ、それは――聞きたいわ」


 祐士のことならなんでも、めちゃくちゃ興味あるし。本物のハーレムってのがどんなものなのか、せっかくだからこの真那斗くんから聞いておこうじゃないか。


「うぃっす! ――実はっすね。今日の昼休みに、祐士のやつ委員長の高畑(たかばたけ)と、書記の七海(ななうみ)に絡まれましてね。なんでも協調性がないとかそういうどうでもいい理由で」


 はあ、マジか。そういう因縁のつけられ方しますか……確かに祐士(あいつ)は協調性なさそうだけど、わざわざ委員長と書記が二人で絡みに来るほどのことか?


「――はぁ。可哀想に」


 すると、真那斗くんはチッチッチッと舌を鳴らしながら人差し指を振った。なんだ、どういう事だ?


「オレが思うに、高畑と七海は祐士に気があるっす。だから、高畑が祐士に絡みに行ったのを見た七海が、慌てて自分も便乗したと考えた方が自然っす」


 なるほど?


「で、それを見た弥生(やよい)のやつがキレはじめてほんとに面白かったっすよ。嫉妬むき出しでしたもん。いやー、この分だと学園祭が楽しみっすね」


 弥生……確か康子(やすこ)さんの娘で祐士の幼なじみの弥生ちゃんか。つまり三人による祐士の取り合いが発生したと……なんてこった。羨ま――けしからんヤツめ。



「……学園祭?」


 俺がなんとなくそのワードに反応してみると、真那斗くんは得意げな顔で「よくぞ聞いてくれた」みたいな雰囲気を醸し出し始めた。


「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれたっすね!」


 ほら。


「実はウチのクラス、学園祭では劇をやることになってるんすよ」


 おぉ、これも王道ラブコメにありがちな展開! 演目はもちろん『ロミオとジュリエット』で、主人公がロミオをやってジュリエット役をめぐってヒロインたちが血で血を洗うバトルロワイヤルを繰り広げるんですね?


「演目はなんと『ロミオとジュリエット』で、七海の策略でまさかの祐士が主演をやることになってるっす!」


「ほらね!」


「……?」


 やばっ。思わず出てしまった俺の声に、真那斗くんが怪訝な表情をしたので、


「なんでもないのよ、続けて?」


 と、誤魔化した。


「うぃっす! ――これはジュリエット役をめぐって泥沼の戦いが始まりそうな気配がするっすよ」


「するっすねぇ……」


「ねー?」


「ねー?」


 俺と真那斗くんは顔を見合わせてほくそ笑んだ。なんだこいつめちゃくちゃ良い奴じゃん。脳内データのお気に入りキャラクターに登録しておこう。真那斗くん、真那斗くんね。よし覚えた!


「……で、その詳しい配役決めをやるのが――授業参観の日なんすよ!」


「――ぃやったぁ!」


「やったっすね!」


 テンションの上がった俺と真那斗くんは、パシーン! っとハイタッチをキメた。


「絶対行くわ!」


「絶対来てくださいっす!――あっ、オレそろそろいかないと!」


 慌ただしいやつだな。


「またね、真那斗くん」


「うぃっす! 今頃祐士は部活で初音(はつね)ちゃんとイチャイチャしてるはずっすよ!」


 とかいう爆弾発言を残して、真那斗くんは走っていってしまった。……てか、やっぱり真那斗くんで合ってたな、よかった。


 えーっと、とりあえず俺が授業参観で注目すべき女子は、高畑とかいう委員長、七海とかいう書記、幼なじみの弥生ちゃん、……そして初音ちゃんか? 同じクラスならだけど。


 なんとなく時計を見ると、知らないうちにもう午後の4時半を回っていた。買い物に予想外に時間をとられていたらしい。早く帰って飯を作らないとな――といっても、惣菜を揚げなおすだけだから大して手間はかからないんだけど。


 よーし、家事もバッチリ。授業参観が楽しみだ。


 俺は祐士のハーレムに対する期待に胸を膨らませながら、家路を急ぐのだった。


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