聖剣オルヒムの秘密
<天空都市コントル>
物静かな宮殿内のとある一室。天空都市12大臣の一人である【オートン】は図書室からとある禁断書が持ち出されている可能性を考え、使者を送ってその報告を待っていた。
「大臣!やはり都市内の図書館から例の書物が盗まれていました!」
使者がドアを荒く開け言い放った。オートンはその報告を聞き残念そうな顔をする。
「そうか……。わざわざ禁書庫に潜り込んでまで盗むとは。勇者フリックは何を考えているんだ。確かにワシがオルヒムの存在を伝えたが、それは二度とあのような悲劇を起こさないためだ。あんな邪法を用いようとは。」
「大臣。盗まれた書物にはいったい何が書かれているのですか?私共にもそろそろ教えてください。」
「うーむ。できれば話したくはないのだがもう手遅れだ。遅かれ早かれ悲劇は起きる。よかろう。」
「あれは数千年前。当時の勇者は魔王を打ち砕くために強力な剣を求めていた。しかし数々の伝説、伝承を確かめても納得のいくものは手に入らなかったのだ。そのため勇者は自らの手で剣を作ろうとした。数々の聖剣を生み出したとされるオーネルの森奥深くにあるモネス工房でだ。勇者は絶対的な力を求めて東洋から伝わってきた邪法を用いて聖剣を……いや魔剣を作ってしまった。あの書物にはその邪法、そして魔剣についての事柄が書かれている。著者は勇者のパーティーの一人と言われている。」
「で、その邪法とは?」
「金属を溶かし、それらを打ち付け剣の形に整える。次にまだ金属が熱いうちに剣の刃を磨くのだ。そして、聖なる魂を持つ者を用意してそやつの心臓にその剣を突き刺すのだ。そうすることで剣にそやつの神聖な魔力が移り、魔属性の魔物に対して絶対的な力をもつと言われていた。これが主な概要だ。本来は途中で魔法の詠唱などが入る。」
「え?人を犠牲にして作るんですか?」
「ああ、そうだ。その書物には犠牲となった人についても書かれていた。数百度の物体を体内に入れられるのだ。断末魔の叫びをあげ、あふれ出す血液を止めることもかなわず、血涙を流しながら最後の時まで呪いの言葉を発していたらしい。」
使者は顔色を悪くしながら訴える。
「……。そんなものが聖剣だとは思えません。」
「だから邪法と呼ばれているのだ。」
「実際にはその剣は……魔王を倒せたのですか?」
「まあな。剣に乗り移るのは神聖な魔力のみだ。その他の雑念などは移らない。勇者に強力な力を与えるだけだ。」
使者はとうとう吐き出してしまった。
オートンはフリックについて考える。
(フリックめ。ワシがあれほど危険な邪法だといったのに。性格に難があるとは思っておったが、あれほどまで自分勝手だったとは思ってもいなかった。やつはただ力が欲しいだけだ。かの書物の勇者のようにな。……不幸がないように祈ろう。)
オートンの願いもむなしく、事はすでに起こりかけていた。