野営地にて
「剣士【フリック】!お前を魔王討伐パーティーのリーダーに任命する。」
「は!!必ずや魔王討伐を成し遂げます!」
これは……夢か。懐かしい。
俺たちが魔王討伐パーティーに任命された時の話だ。今から半年ほど前のことだった。
「槍使い【ノン】、魔導士【ヴァン】、弓使い【ティナ】、お前たちは勇者フリックを支え魔王討伐を成し遂げることに全力を注げ!」
俺は魔道学校を首席で卒業したことを買われてこのパーティーにつくことになってしまった。
実際俺は学校の教師にでもなろうとしていたのだ。魔王討伐なんて考えてもいなかった。確かに、魔王【ザメル】はハンデル王国各地の村や都市を襲っては女性、子供を問わず残虐な殺しを行ってきた。これに対し国王【ガングル・バンデル】が何かしらの対策をしなければ国内で内乱が起きる寸前だった。そのため本来は勇者の末裔であるフリックがパーティーメンバーを集めるはずだったのを国王自らが強制的に集め即戦力にしたのだ。しかも質が悪いことに途中でパーティーを脱走した場合は重罪になり国中の兵士たちに追われ、殺されてしまう。
「「「は!!」」」
パーティーが結成された後は流れるような半年間だった。
まずは単純なレベル上げついでに近隣の村々から出されたクエストをこなし。オードマレナ山で出現したドラゴンを退治して名声を上げ。隣国【スベロニア】では連れ去らわれた姫君を助け。海中都市【シーネル】では海底の宝物を賊からとり戻し。
……フリックは天空都市【コントル】で魔王討伐において大きく役立つ伝説の剣【オルヒム】の製造方法を教わったらしく、俺たちはその剣を製造するために【オーネルの森】へ向かっているところだ。
「……ーい、おーい、起きてください寝坊助さん。」
ティナがどうやら起こしてくれているようだ。
「んー」
起き上がり体を伸ばすとそのままティナと口づけを交わした。
ティナが弓使いということもあり、同じく後方から攻撃を加える魔導士の俺とはよく連携をする練習をしている。戦場においてもお互いの危機を助けあうことがとても多く、そうしているうちに惹かれあったのだ。
「もう……」
そう言い頬を赤らめながらティナは俺に体を預けてきた。
隣のテントからも声がしてきた。
「愛してるわフリック。」
「僕もだよノン。君だけは何があっても守るから。」
フリックとノンも付き合っている。彼らも近接系同士で相性が良かったのだろう。
俺たちと、フリック、ノンとはどうしても溝があった。即席のパーティーということもあり性格的に合わないのだ。しかも実力が皆に最初からあったためパーティー全体でわざわざ協力することの必要性があまりなかった。そのため今でも曖昧な関係が続いている。
「……そろそろ朝食の準備をしましょう。ヴァンはお水を持ってきてください。」
「はいよー。あと、いつまで敬語なんだ?もうそろそろ崩した言い方でもいいんじゃないか?」
「癖みたいなものなので……。別にヴァンのことが嫌いとかそういうんじゃなくて、もちろん私は大好きですよ?直したほうがいいですか?」
「いや、別に直すほどのことでもないしね。ただ、俺だけがため口だとなんか悪い気がして。」
「優しいですね。」
俺は水の入った樽を馬車の中から引っ張り出す。
大抵食事や洗濯などの雑用は俺たちがやっている。フリックたちがやらないのだ。何回か頼んでみたこともあったが仕事が粗雑すぎて結局やり直すことになる。仕事の手間が増えるだけだったので俺たちは折れてしまった。このような人が勇者の魂を引き継いでいると思うとやるせなくなってくる。
「ここに置いておくぞ。それじゃあ先に火を起こしておくぞ。」
「ありがとうございます。私もスープの材料を切っておきました。鍋を準備しますね。」
相変わらず仕事が早い。
戦闘時もそうなのだが、ティナは移動速度が尋常ではない。その持ち前の早さを活かし戦場を駆け巡りながら敵に確実に矢を放ちダメージを与えていく。大抵の敵はティナの速さに追いつけないためただ一方的に蹂躙されるだけだ。俺はというと後方で氷属性、雷属性の魔法を放ち、必要そうであれば支援系魔法を放っている。移動するのは必要があるときのみだ。
俺は木の皮に小さな雷を打ち付け火をつける。ティナが鍋を上につるし調理を始める。
火加減を調節しているとフリックたちが出てきた。
「ヴァン。もう少し早く作っておけ。僕たちは腹が減っているんだ。」
「……はい。」
俺が少し腹を立てているとティナが小さく声をかけてくれた。
「いつものことです。我慢しましょう。」
「今日中には天空都市で僕が聞いた【モネス】という場所に向かう。オーネルの森の最深部だ。そこには先代の勇者が剣を作る際に余った生成済みのオリハルコンがあるらしい。それを使い明日は僕の剣を作る。詳しい製造方法については到着してから説明する。それじゃあ出発するぞ。」
俺は馬車に荷物を積み込むと馬車を出発させる。商人ほどではないがうまく扱えるつもりだ。
ティナが静かに寄り添ってくる。俺は左手でそっと支える。
「これからもずっと一緒に居たかったです。」
「何を言っている?俺はずっと一緒に居るつもりだぞ。ティナが嫌がっても離れないからな。」
「……そうですね。」
ティナは遠くを見ながらささやくように言った。
初心者の拙い文章を読んでいただきありがとうございます。
のんびり更新していきたいと思いますので、ご注意お願いいたします。