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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
最終章 魔王伝説 - light of justice -
796/800

796 諸悪の根源

 唐突に現れた三人のお姉さんたち。

 みんな足を覆う機械マキナのブーツから青白い炎を吹き出して飛んでいる。

 ただしナコさんのブーツだけは他のちょっと違うみたいで、炎の代わりに靴底に水色の六角形の板が張り付いてた。


「落ちたら大変だから、しっかり掴まっててくださいね。大五郎」

「だ、大丈夫だよ。この剣の力で飛べるから」


 ナコさんに抱えられたままのダイはちょっと気恥ずかしそう。

 落下していったドンリィェンさんは人間形態に戻って無事に着陸していた。


「みんなどうしてここに? それに、そのブーツは……」

「まあ待てルーチェ。説明の前に」


 ぼぼぼ……と音を立てて私に近づいてくるベラお姉ちゃん。

 私が首をかしげていると、いきなり両頬を思いっきり平手で挟まれた!


「な、なに?」

「よくも私たちを足手まとい扱いしてくれたな」

「うっ」

「私はお前をそんな冷たい子に育てた覚えはないぞ」

「そうよそうよ。すごいショックだったんだからね」


 ヴォルさんも遠くからベラお姉ちゃんの援護をする。

 うわあ、二人ともすっごい怒ってる!


「ご、ごめんなさい」

「よろしい」


 お姉ちゃんがパッと手を放す。

 痛くはないけど、びっくりしたよう。


「ほら。手を放しても落ちたりしないって」

「まあ……さすが大五郎ですね」


 向こうではダイがよくわからない力で空を歩いてる。

 それを見てうれしそうに拍手するナコさん。

 あの姉弟は相変わらず仲がいいね。


「さて、それより……あいつが第四天使だな」

「すべての争いの元凶ってやつね」


 えっ。


「お姉ちゃん、ヴォルさん、それってどういうこと?」


 あの天使って全部終わった後でいきなり出てきただけのよくわからない暴れん坊じゃないの?


「私たちも紅武凰国で聞いた話なのだが」

「魔王がミドワルトを侵略してきたそもそもの原因があいつなんだって」

「えっと、それは……」

「詳しくは私たちが説明しましょう」


 聞き慣れない声と共に空からさらに二人の女の人が下りてきた。

 長い黒髪の美人さんと帽子をかぶった冷たい印象の女性。

 どちらも足には空を飛ぶブーツを装着している。


「初めましてルーチェさん。ナータからよく話は聞いていましたよ」


 髪の長い方の人が言った。


「ナータの知り合い?」

「少しの間ですが一緒に旅をしていました。ミサイアと呼んでください。偽名ですが」

「ルーチェです。どうも」

「それでこっちが……」

「アオイよ」


 帽子の女の人も短く名乗る。

 ミサイア(偽名)さんにアオイさんね。


 で、どなた?


「私たちは紅武凰国の管理局員です」

「死にかけていたそこの三人を保護して治療してあげたのよ」


 はあ……紅武凰国の。

 カンリキョクインってなんだろう。


「紅武凰国のひとってことは、あなた達も敵なのかな?」

「待って! 早とちりしないでください」

「どちらかと言えば今は味方ね。私たちはあの第四天使エリィを始末しに来たの」

「はぁ!?」


 アオイさんの言葉に強い怒りの態度を現す天使。


「なんだそりゃアオイ、テメエどういう――」

「悪いけどしばらく黙っていてちょうだい」


 急に周囲の気温ががくんと下がった。

 アオイさんの周囲に氷の粒が舞っている。

 彼女は右手を掲げ、天使の方に向け呟いた。


「≪氷雪の女神(ヘルズシヴァー)≫、『龍華氷縛』」


 彼女の手からまるで巨大な蛇のように氷の塊が伸びる。


「おい、どういうつもり――!」


 氷は天使を飲み込み、そのまま氷漬けにしてしまう。


「すごい輝術……やっつけたの?」

「輝術ではなく『固有能力』よ。完全な行動阻害特化の技だからダメージは与えていないわ。動きを止めておけるのも数分程度だから、今のうちに説明をしてあげなさい」

「私が説明するんですか。まあいいですけど」


 ミサイアさんは肩をすくめ、あの天使やそれぞれの世界に関するいろんな話を始めた。




   ※


「話はこの世界における時間軸で七〇〇年くらい前に遡ります」

「この世界における時間軸……ってどういうこと?」

「ゲート等で繋がっていない断絶された世界同士では時間の流れが違うことがあるんですよ。こちらからすれば、ほんの二年前の話なんですけどね」


 なんかこの時点でこんがらがりそう。

 私が以前にスーちゃんに見せられた過去の記録も一〇〇〇以上前の出来事だったけど、あれも彼女たちから見れば数年前の話……ってことなのかな。


「当時、あなた達の世界(ミドワルト)ソラト君たちの世界(ビシャスワルト)に対して、私たちの世界(ヘブンリワルト)は次元結界によって完全に断絶されていました。元は我々の世界から分離したとはいえ紅武凰国の方針でも不干渉が決まっていましたし、そのまま全く関係のない世界として永遠に別々の時を歩んでいくはずでした。ところが……」


 ここから先は長いから要約します。


 断絶されていたはずの世界。

 ところが、ふとした弾みで次元間にあり得ない歪みが出現。

 ミドワルトとヘブンリワルトの二つの世界が、断片的ながらも繋がってしまう。


 そのゲートは大勢の人が出入りできるようなものじゃなかった。

 けれど紅武凰国の人たちは、その機会にこちら側の世界の調査を開始する。

 その調査を推進し、調査団の中心にいた人物こそが、あの第四天使エリィだったらしい。


 当時のミドワルトは各地に都市国家が点在する古代レベル。

 そんな所に天使は(おそらく意図的に)こちら側の技術の一部と帝国主義思想を漏洩する。


 力と野望を手に入れた現地の少年スタルメノ。

 彼はやがて古代の大国家スティ―ヴァ帝国を建国した。


 それは歴史の教科書にも出てくる出来事だ。

 ミドワルトの学生なら誰でも知ってる伝承と、古代の国名。

 その後、代が変わっても古代ステーヴァ帝国は順調に領土拡張を続ける。


 そして新代歴五三八年、帝国の時代の終わりの年。


 最後の皇帝は初代からの言い伝えに従って、当時存在していた六つ目の輝鋼石を破壊。

 結果として世界間を隔絶させていた結界が弱まってゲートが開きやすい環境になってしまう。


 まだ人の行き来は難しかったけれど、第四天使エリィは様々な手段を使ってこちら側の世界……ミドワルトを越えて、ビシャスワルトにちょっかいをかけ始めた。


 それに過剰反応したのが前の魔王ソラトさん。

 紅武凰国の敵意を感じ取った彼は、来たるべき決戦に備えて行動を開始する。


 まずはビシャスワルト統一。

 そして先手を打ったミドワルトへの侵攻。


 魔界統一戦争。

 そして、魔動乱。


「じゃあ本当に悪いのは、前の魔王さんじゃなくて、あの天使……?」

「そこは勘違いしないでくださいね。エリィさんが挑発したとはいえ、それに乗ってミドワルトを攻撃すると決めたのはソラト君ですから。ぶっちゃけどっちが悪いかと言ったら彼が九割方悪いです」

「あ、はい」


 ですよね。

 挑発されたからって戦争しちゃいけません。


 それも全然関係なく平和に暮らしてたミドワルトに攻め込むなんて!

 あの人にはやっぱりたくさん反省してもらいましょう。


「何が問題かと言うとですね、エリィさんはソラト君の暴走を理由にして、ミドワルト支配とビシャスワルトの破壊を画策していたんですよ」

「こんどはヘブンリワルトがミドワルトを侵略しようとしてるの!?」

「ヘブンリワルトの総意ではなくエリィさんと軍の独断です。ちなみに誤解の無いよう言っておきますが、紅武凰国はヘブンリワルトにいくつか存在する国家の一つに過ぎません」


 ?


 うーん……

 それって、つまりさ。


「単なるあなたたちの内輪もめじゃないの?」

「……そうとも言えなくもないかもしれなくもありません」


 ミサイアさんは気まずそうに視線を逸らした。

 代わりにアオイさんが話の結論を言う。


「内輪もめだろうと何だろうと、あの女が武力を行使してミドワルトを我が物にしようとしているのは事実なの。すでに軍はいくつかの国家に対して実質的属国化を迫る条約を押し付け始めてているし、放っておけば遠からずあの女の思い通りに、この世界は支配されてしまうわ」


 ……はあ。

 なんていうかもう、いい加減にして欲しい。

 どいつもこいつも私たちのミドワルトを何だと思ってるんだろう。


「とにかくあの天使をやっつけなきゃいけないことはわかりました」

「わかってくれて嬉しいわ。ですが、ああ見えてエリィさんはひとつの惑星を破壊できるほどの圧倒的な力を持っています。正直に言って私たちだけで彼女を止めるのは難しいので、できればあなた達の手を借りたいと思ってるんですけど……」

「いいですよ」


 平和のためなら喜んで力を貸しましょう。

 けどね。


「一応言っておきますけど」

「なんでしょう?」

「あの天使をやっつけた後で、あなた達がミドワルトやビシャスワルトに対して何かしようと企んでるなら」


 みょーん。


「全員まとめてやっつけてやるからな」

「怖い! この子すごく目が怖いです!」

「その気はないから安心してちょうだい。むしろうちのバカ天使がやらかしたことを正式に謝罪した上、ミドワルトの復興にも最大限協力させてもらうつもりだから」


 まあ、そういうことなら。

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