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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
最終章 魔王伝説 - light of justice -
788/800

788 ▽勇者と竜王の共同戦線

「まったく、天使様の気まぐれにも困ったものだ……」


 ここは空中戦艦サスケ型三番艦『ミシシ』のCIC(戦闘指揮所)

 艦長であるテヅカ少佐はスクリーンに映る前方の景色を眺めながら呟いた。


 彼ら第二班は元々ビシャスワルトの侵略者を駆逐する任務に当たっていた。

 ところが、天使様からの直通メールで急にゲート地点へ呼び戻されることになったのだ。


「しかし何故、一番艦サスケからの通信ではなく天使様の直通メールだったのでしょう?」


 副艦長のオオカワが当然の疑問を口にする。


「もしかしたら、サスケが通信不能になるような異常があったのかもしれんな」

「反逆者がFG部隊に勝るほどの戦力を隠し持っていたと?」

「あるいは直前に報告があったファーゼブル製の人型兵器にやられた可能性もある」

「それは流石にないと思いますよ? この世界の技術力は良くて第一次産業革命直後のレベルですし、ましてや天使様が乗艦されている艦が沈められるなど、とても考えられません」

「行ってみればわかることだ」


 まもなく次元ゲートが見えてくる。

 かつて新代エインシャント神国という国の首都があった土地の上空。

 今はビシャスワルトからやってきた魔物たちに占領され、ほぼ完全な廃墟になっている。


「前方に巨大なSHINE反応あり!」


 オペレーターの報告が入った。


「何者だ」

「巨大生物……これは、ドラゴンです!」

「ドラゴンだと? 先ほど見たのと同一個体か?」


 オオカワがオペレーターに問いかける。

 彼は素早くパネルを操作してデータを照会した。


「お待ちください……結果出ました。取得済みデータと一〇〇%一致。どうやら間違いなさそうです」


 この世界に最初に来た時にも彼らはドラゴンを目にしている。

 たしか一班から三機のFGが出撃して迎撃を行ったはずだが……


「戦力的に問題はなかったはずだ。友軍は撃墜されたのか?」

「オペレーター。近くにFGの反応はあるか」

「あります。ヴォレ=ビュゾラスが三機、地上で倒れていますが、大きな破損は見られません」

「パイロットからの反応は?」

「通信中……ダメです、反応ありません」


 とすると、やはりドラゴンにやられたのか。

 報告を聞いたオオカワは激昂して声を張り上げる。


「情けない! 異界の怪物ごときにやられるとは、それでも選ばれしFGのパイロットか!」

「嘆いていても仕方ない。ドラゴンはこちらに向かってきているのだな?」

「はい」

「ならFGを出せ。空戦部隊と陸戦部隊、全機出撃だ」

「全機? 艦長、それはあまりにも……」

「相手は未知の巨大生物だ。用心して用心しすぎることはあるまい」


 現に戦力的には絶対に勝てると判断された一班のFG三機が撃墜されたのだ。

 敵はデータには載らない何らかの力を隠し持っている可能性が高い。


「FG部隊、全機出撃!」


 艦長が命令を下す。

 即座にすべてのFGが発進。

 空戦部隊はカタパルトから空へ。

 陸戦部隊はパラシュートで地上に降下する。


「あれ、これは……?」


 その直後、スクリーンを注視していた別の技士がぼそりと呟いた。


「どうした」

「いえ、これは、さすがに見間違いかと思うのですが」

「異常が見られるなら何でもすぐに報告しろ。どんな細かいことでもだ」


 テヅカが叱責すると、彼は何度か瞬きをした後、気の抜けた声で報告した。


「いえね、ドラゴンの背中に人間が乗っているように見えるんですよ。剣を持った黒髪の少年が」




   ※


「全部で十八体か……どうだ、勇者」


 竜将ドンリィェンは背中に乗った黒髪の少年に問いかけた。


「問題ねーよ。それよりお前こそ、落とされるんじゃねーぞ」

「防御に徹するのならそう簡単にやられはしない」

「ならいいや。こいつを片付けたら決着をつけるからな」


 ドンリィェンは深い溜息を吐いた。

 先ほどまでやり合っていた男と協力することになるとは。

 だが何より優先して排除すべきは、あの第三世界からやって来た脅威である。


 ドンリィェンではあの人型兵器には勝てない。

 あの兵器は一体一体が魔王軍の将にも匹敵する力を持っている。

 相性の差もあるのだが、たった三機相手にいいように翻弄されてしまった。


「ESがビンビン反応してるぜ。何が何でもあいつらをこの世界から追い払えってな!」


 やつらが現れる直前に遠方へと吹き飛ばしたこの男……

 霧崎大五郎が戻って来なければ、間違いなく倒されていたことだろう。


「無駄だとは思うが一応警告はしておけ」

「どうするんだ?」

「大声で叫べば聞こえるはずだ。話し合いに応じるつもりがあるなら何らかの反応があるだろう」

「わかった。んじゃ……おーい、オマエら! 死にたくなきゃさっさと自分の国に帰れ!」


 そんな警告の仕方があるか……とドンリィェンは思ったが口には出さなかった。

 案の定、先頭を飛ぶ青色の人型兵器からの返事は言葉ではなく銃口から放たれた熱閃だった。


 ドンリィェンは前方に輝力を集中してその攻撃を逸らす。


「攻撃してきたってことは、やる気ってことでいいんだよな?」

「構わない。このまま敵中に突っ込むぞ。好きなように暴れろ」

「おう!」


 そのまま青い人型兵器の群れに向かって突進。

 数体の敵はギリギリで回避しつつ背後を取ろうとする。

 敵の機体はすれ違いざま手にした武器をこちらへと向けたが――


「おらっ!」


 霧崎大五郎が剣を振る。

 直後、付近にいた機体がまとめて()()()()()()




   ※


「なんだ、どうしたんだ!?」


 スクリーンを注視していたテヅカは信じられない光景に思わず声を張り上げた。

 あのドラゴンがヴォレ=ビュゾラスとすれ違った瞬間のことだ。

 機体が突然、二つに裂けて落下した。


「わ、わかりません! 何らかの攻撃を受けた模様!」


 慌てた声で報告するオペレーター。

 その間にもドラゴンはFGの間を飛び回る。

 そしてその度に付近を飛んでいたFGが裂けていく。


 ドラゴンは翼を大きく翻して地上に向かっていく。

 それを陸戦型FGのラーフナディアンとラーフイリスが迎撃する。


 攻撃を回避しつつドラゴンは機体に接近。

 空戦機たちと同じく真っ二つに斬り裂かれてれてしまう。


「馬鹿な!」


 陸戦機……特にラーフナディアンの装甲は非常に分厚い。

 特殊な鋼材を何層も重ね、ミサイルの直撃にも耐える防御力がある。

 それがいったい何をどうやったら、あんな紙人形のように裂けるというのだ!?


「あのドラゴンは一体何をしている!?」

「わかりません、ただ飛んでいるだけとしか……」


 スクリーンを見てもFGが何らかの攻撃を受けた様子はまるでない。

 異界生物だからって不思議な力で攻撃しているのか?

 あるいは機体に何らかの干渉を――

 

「ドラゴン、本艦に向かって来ます!」


 オペレーターの報告にCICが緊張に包まれる。


「バリアを張れ! とにかく敵を艦に近づけるな!」


 敵の攻撃手段がわからない以上、守りを固めるのが第一だ。

 そう判断したテヅカは大声でクルーに命令を下した。


「了解。SS障壁、展開します」


 艦の周囲にあらゆる物理的干渉を妨げる球状の防御障壁が張られる。

 莫大なエネルギーを消費するが、代わりにミサイルやFGの光弾も通さない。

 SS障壁はあらゆる攻撃から艦を守る、まさに絶対防御と言うべき最強の盾である。


 ドラゴンがSS障壁の手前で停止した。

 以前、一番艦サスケがやつのブレスを弾いている。

 生半可な攻撃は通用しないということは知ってるはずだ。


「あれ? 何やってるんだ、あいつ……」


 停止したドラゴンの上。

 少年が剣を下向きに構えた。


「ん?」


 ふと、テヅカは奇妙なものに気づいた。

 自分の胸のあたりに変な球体が浮かんでいる。


「なんだこれは」


 内側が濃い青、外側が薄い水色の謎の球体だ。

 手で触れようとしても通り抜けてしまう。

 ホログラム映像のようなものなのか?


「おい、お前なんだよそれ」

「大尉殿こそ」


 しかも、その球体が胸元に現れたのはテヅカだけではない。

 どうやらCICにいる全員の前に浮かんでいるようだ。


「ドラゴンの上に奇妙な球体が出現!」


 オペレーター報告に顔を上げてスクリーンを見る。

 黒髪の少年の前にも彼らと似たような球体が浮かんでいた。


 ただし、その色は赤。

 ドラゴンの上の少年が剣を振り上げる。

 そして、素振りでもするように斜めに振った瞬間。


「がっ!?」


 テヅカの全身に強烈な痛みが走った。

 胸元を見下ろした彼は、自分の体が斜めに切断されていることに気づく。


「馬鹿……な……」


 それがテヅカの最後の言葉になった。


 彼だけではない。

 CICの、いや、艦内の乗員すべてが……

 まったく同じように、体を斜めに断ち斬られていた。




   ※


 彼らの目の前で巨大な空飛ぶ船が少しずつ高度を落としていく。

 乗員を失った船はコントロールを失って沈むしかない。


「終わったぜ」


 ダイはESを鞘付きモードにして腰に戻す。


 ESのセイバーモードは複数の敵をロックオンして直接斬る。

 空間を飛び越えた斬撃が間の障害物すべてを無視して攻撃するのだ。


 つまりどんな強固なバリアーも機体の装甲も関係なく、()()()()()()()()()()()()()()


 ただしその威力は決して高くなく、ドンリィェンくらいならば己の皮膚だけでほぼ無効化できる。

 機械の中に生身の人間がいる紅武凰国軍にとってはこの上なく恐ろしい攻撃だろう。


 まったく苦戦することなく倒した第三世界の軍勢。

 ダイの興味はすでに彼らにはない。


「じゃあ、さっきの続きをやろーぜ」

「まだやる気なのか……」

「あたりめーだろ。次はもうあの遠くにぶっ飛ばすだけの攻撃はくらわねーからな」


 望むのはドンリィェンとの決着のみ。

 協力するのはあいつらを倒すまでだけだ。


「お前の目的は異界から来た侵略者を追い払うことだろう。俺はもうビシャスワルトに帰る気なのだが」

「オレとの決着がついたら帰っていいぜ」

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