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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
最終章 魔王伝説 - light of justice -
770/800

770 ◆ブレインコントロールシステム

「ここだ。出撃は十分後を予定しているから、準備はさっさと済ませろ。ただでさえこいつの搬入で余計な人手と手間を取られているんだからな」


 扉の前で足を止めると、フジムラは早口に捲し立てた。


「案内、どうもありがとうございます」

「上からの命令を遂行したただけです。まあ、せいぜい頑張ってくださいよ。あの空飛ぶ棺桶を扱いこなせる人間がいるならの話ですが」


 フジムラはミサイアに形だけの敬礼をしてさっさと来た道を引き返していった。

 去り際にあたしを見て強く睨みつけてきたけど、全然怖くねーっての。


「むっかつくやつだったわね」

「いや、ほんともう、いくら怖いもの知らずだからって軍人にケンカを売らないでください。後で文句を言われるのは私なんですから」

「はいはい悪かったわよ」


 なんとなくだけど、ミサイアがミドワルトではしゃぎまくってたのは、普段の生活でストレスを貯めていたことの反動だったのかもしれないって思った。


 扉を抜けて中に入ると、そこはさっきと同じような広間だった。

 ただし忙しく駆け回る作業員はいなくて、中にあるFGはたったの一機だけ。

 白を基調にした線の細い機体にはどこかで見たことのあるような三対の翼がついている。


「『ヴォレ=シャープリー』。一応は正式採用の空戦用FGなんですが、ちょっと問題があってすごく少数しか納入されていない機体なんです」

「問題って?」

「機動力と攻撃力に特化したせいで装甲がメチャクチャ薄いんですよ。飛行中に障害物にぶつかっただけでも大破する可能性があります。あと、他の正式採用機と比べて操縦が極端に難しいのも特徴ですね」


 なるほど、だから空飛ぶ棺桶か。

 とんでもないモノに乗れって言ってくれるわ。


「ただ、操縦に関してはブレインコントロールシステムを搭載してるから、システムさえ扱いこなせればあまり心配する必要はないと思います。ナータが使ってたヴォレ=シャルディネの元となった機体なので武装も多く共通するところがありますし。とりあえず乗ってみましょうか」


 ミサイアは機体の足元に立つと、踵の裏にある小窓を開いてパネルを操作した。

 機体の胴体部分がぐいんと開いて中からとっかかりのついたロープが下りてくる。


「そこに足を引っかけて下さい」

「あいよ」


 言われるままに乗合馬車の手すりみたいなとっかかりに足を乗せると、ロープは自動的に引かれて上まで戻っていった。


 開いた胴体部分をのぞき込むとメカメカしい座席がある。

 中に入り込んで座席に腰掛け手動で入り口の蓋を閉めた。


「真っ暗なんだけど」

「赤く光ってるボタンがないですか?」

「えっと……あったわ」

「それが起動スイッチです。押してください」


 赤いボタンを押すと、ういーんと駆動音が響き、内側のパネルが点灯した。

 白一色の壁がすーっと切り替わり、外の景色が見えるようになる。

 この壁全体が映水機の画面みたいなものなのかしら。


「どうですか?」

「大丈夫よ、ミサイアの姿もよく見えるわ。ただ、ちょっと声が聞こえづらいわね。えっと……外部収音スピーカー? これでいいのかしら」


 目についたボタンを押すと、頭の後ろの装置からクリアな外の音声が聞こえるようになった。


『適応力高いですね……』

「いちいち驚いても仕方ないし。早いとこ操縦方法を教えてよ」

『通常の操作方法は口頭で説明できるほど単純じゃないので教えません。座席の近くにヘルメットがありますよね。シンプルな形の兜みたいな頭につける機械です』

「あるわね」

『それがBCS端末です。かぶってみてください』


 言われるままにそれをかぶる。

 そして首のところにスイッチがあったので捻ってみた。


 ━━ぷつっ。


『かぶりましたか? それじゃまずは』

「ごめんミサイア。もういいわ」

『え?』

「全部わかったから」


 ヘルメットをかぶり、BCSを起動させた瞬間、あたしは瞬時にすべてを理解した。

 この機体の動かし方も、特性も、細部に至るまで何もかも。


『えっ、もうBCSを作動させてるんですか!?』

「うん」

『何ともありませんか? 頭が痛いとか、吐き気がするとか、記憶が混乱してるとか』

「全然何ともないわよ」


 むしろ妙に気分がすっきりしてるわ。

 まるで()()()()()()()()()()()()()みたいに。


『信じられない。本当に特別な適正があるというの……?』

「ミサイアは一緒にこの船に乗るの?」

『え? あ、いえ。私は管理局に戻らなくてはいけないので』

「じゃあ、ここでお別れかしらね」

『本当に大丈夫なんですか?』

「ぜんぜんへーき」


 この(機体)と一緒なら何も怖いものはないって感じ。


『ナータが大丈夫なら私はもう行きますね。最後まで面倒見てあげられなくてごめんなさい』

「こっちこそ、いろいろと世話になったわね」


 あの時、ドラゴンに焼き殺されそうになったのを偶然助けられてから、なんだかよくわからないうちにいろいろあって、気づけば異界の軍隊で人型兵器に乗ることになっている。

 言葉にすると意味不明だけど、こいつと出会ったおかげであたしは着々とルーちゃんに近づいている。


『それじゃ、元気で……』

『おい、準備は終わったのか!?』


 バタン!

 勢いよく扉が開く音がミサイアの言葉を遮った。

 先ほどのフジムラがやってきて、すごい剣幕で怒鳴り声を上げる。


『管理局のテストパイロット、配属が決まったぞ! 貴様は我が第一FG部隊に組み込まれることになった! 以後は必ず俺の指示に従うんだ、いいな!?』

『ちょ、ちょっと待ってください! ナータを正式部隊に組み込むんですか!?』

『作戦行動中の艦で軍の兵器を貸し出すのですから当たり前でしょう』

『BCSはうちの管轄ですよ!』

『すでに使用権の移譲は確認済みです。文句があるなら管理局に問い質して下さい』

『アオイさんはそんなこと一言も……』

「大丈夫よ、ミサイア」


 心配してくれてるのはわかるけど、いちいち揉めるようなことじゃないわ。


「ねえ、フジムラさんつったっけ?」

『藤村大尉だ。口の利き方に気をつけろよ管理局のテストパイロット。一時的にとはいえ貴様は軍属になるのだから……』

「なんでもいいわよ。あんたたちも一緒にビシャスワルトに乗り込むのよね? なら――」


 説教を遮ったせいでモニター越しにもわかるほど顔を紅潮されて怒っているフジムラに向かって、あたしは率直な気持ちを言ってやった。


「とろい操縦であたしの足を引っ張るんじゃないわよ」




   ※


「はぁ……」


 艦から下船し車に戻ったミサイアは……もとい、紅武凰国管理局員、麻布美紗子は大きなため息を吐いた。

 それからおもむろに携帯端末(PDA)を取り出し管理局本部の同僚に通話を繋げる。


『どうしたの?』


 通話先の相手はもちろんアオイだ。


「どうしたじゃありませんよ。ナータ、軍の指揮系統に組み込まれちゃいましたよ」

『ああ。一応こちらも掛け合ったのだけどね。やはり作戦中に独自行動は許可できないと一蹴されてしまったわ』


 美紗子の報告にアオイは悪びれもなさそうに答える。


『ただでさえうちの第四天使の専横で軍もイライラしてるみたいだし、これ以上局と軍の関係を悪化させたくないから、おとなしく譲歩するしかなかったのよ』

「BCSの使用権は譲渡されてたって聞きましたけど?」

『それは私も知らなかったの。研究所はすでに共同開発継続を断念していたみたいね。システムを搭載したままの試作機を安値で払い下げたらしいわ』

「ああ、そういう……」


 元から無茶なことを言っていたのはこっちだったのだ。

 けど、ナータの望みを叶えるにはこれしかなかったのも間違いない。

 そのことでアオイをこれ以上責めるつもりはない。


『ずいぶんと彼女に入れ込むのね。一緒に旅をして情が移ったのかしら』

「仲良くはなれたとは思いますけど、そういうのとはまた違うんですよね。なんていうか、彼女って実は……」

『待って。次元接続が始まるわ』


 軍港の端の空がぐにゃりと歪んだ。

 ミドワルトで言うところのウォスゲートが発生する。

 規模は非常に大きく、一年前に神都上空に現れたものと同規模以上だ。

 繋がれる先はビシャスワルトではなくミドワルトである。


『無事成功したようね。美紗子が現地まで行って基点を打ち込んでくれたおかげよ』

「アンカーがあるとはいえ、封印はやはり弱まっていたようですね」

『SHINE結晶体の消失が大きかったのでしょう』


 ミドワルトでは輝鋼石と呼ばれている大型のSHINE結晶体。

 あれはミドワルトがこちらの世界と断絶する際に使用された次元封印のエネルギー源でもあった。

 かつて一度だけ偶然の次元湾曲を利用して少人数での調査を行った時を除けば、こちらからの転移はずっと妨げられ続けている状態だったのだ。

 ましてや戦闘を目的とした大規模な人員を送るのはこれが初めてである。


 今のところはミドワルトを経由しないと次元的に遠く離れたビシャスワルトにはたどり着けない。

 ビシャスワルトの侵攻によって期せずして三つの世界が繋がれたことになる。

 もちろん魔王ソラトは最初からそれを狙っていたのだろう。


 三機の空中戦艦が次々と浮上しゲートを潜って異界へと向かう。

 美紗子はそれを眺めながらしばし上の空になっていた。


『で、何か言おうとした?』


 PDAの向こうからのアオイの声に意識が呼び戻される。


「え? ああ……いえ、別に何でもないですよ」

『そう』


 先ほど言いかけたこと。

 それはあまりに益体もない想像。


「ええ。何でもないの」


 以前に少し世間話をしたとき、彼女は幼いころの記憶を持っていないと言っていた。

 そんなことは誰にでも普通にあることで無理に関係づけることじゃない。

 ただPBSにしろBCSにしろ異常に適正が高いだけで……


 ナータはもしかしたら、こちらの世界の出身なんじゃないかなんて。

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