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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
最終章 魔王伝説 - light of justice -
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764 ◆神都奪還

 神都から少し離れた草原地帯でベラお姉さまたちと合流した。

 お姉さま、赤毛のヴォルモーント、ダイゴロウの姉ナコ、みんな大きなケガもなく無事みたい。


「本当に勇者の剣などという武器が実在していたとは……」

「眉唾じゃなかったのね」

「で、そっちは何をしてたの?」


 あたしはお姉さまに尋ねた。


「旧神都周辺の調査をしていた。ウォスゲートはやはり街の上空にあるらしい」

「すぐ傍には敵の本拠地もあって不用意に近づける雰囲気じゃないわ」


 一年前に開いたウォスゲートは新代エインシャント神国の首都『神都』の真上に出現した。

 そこから出てきたのは無数のエヴィルと、ビシャスワルト人の拠点である魔王城。

 幸いにも神都が魔王城に押し潰されることはなかったけれど、溢れて来たエヴィルたちの最初の標的にされてしまい、多くの人々が激しい戦いに巻き込まれて命を落としたようだ。


「とはいえ黙って見てても仕方ないから、一応アタシたち三人で乗り込んでみたんだけど」

「さすがに数万のエヴィルを相手にするのは厳しすぎたな。無理をすればもう少し何とかなったかもしれんが、安全を取って緊急回避を使わざるを得ない状況になってしまった」

「街の至る所に捕虜にされた人々が囚われています。何も考えずに暴れるだけでは、余計な犠牲を増やすことになりかねませんから」

「なるほどね」


 どっちにせよ、エヴィルに支配されている神都をどうにかしないことには、ビシャスワルトに乗り込むのも不可能ってことみたい。


「んじゃちょうどいいな。その神都だか魔王城だかのエヴィルをまとめてぶっ潰してやろうぜ」

「アンタ人の話聞いてたの? 何万のエヴィルがいる上に、大勢の人質がいるのよ」


 ダイゴロウの提案に赤毛が呆れる。

 普通に考えれば誰だってそう思うでしょうよ。

 あたしだってアレを見てなきゃダイゴロウが無茶なことを言ってると思うだろうし。


「では、今度はこちらの事情をお話ししますね」


 さっきの町を開放したことの興奮がまだ冷めていないのか、シルク姫はやや興奮しながらこちらであったことを語った。

 勇者の剣を手に入れるまでの過程と、その力の神髄を見せつけた、さっきの戦いの様子を。


「見えないところに隠れている敵も含めてすべて一撃で殲滅する剣だと……?」


 話を聞き終えたベラお姉さまは眉根を寄せた。

 赤毛なんて露骨に肩をすくめている。


 ま、信じられないわよね。

 普通は。




   ※


「あれ? ねえミサイア」

「どうしました?」


 作戦開始の前、とりあえずあたしはヴォレ=シャルディネで神都の様子を探ってみたんだけど。


「敵の数が65535+って出て止まっちゃったわよ」

「あー、それは同時索敵数値の限界値を超えちゃってますね。あまりに対象の数が多いと正確なデータが取得できなくなるんですよ」


 とすると、最低でも65535体以上のエヴィルがいる。

 本当の数はどれだけかわからないってことか。

 なんでこんな中途半端な数字なの?


「仮にこの数倍板としても、あの勇者の剣さえあればなんとかなりそうだけど」

「使用できる条件がミドワルト限定、ミドワルト以外の世界から来た生物限定という時点で、問答無用の対侵略者用最終兵器ですもんね。一度にロックオンできる敵の数が二五五体までというのが弱点と言えば弱点ですが」

「お、始まったわよ」


 東の方でエヴィルの数がもりっと減ったのを感じる。

 ダイゴロウが勇者の剣のマルチロックオン斬りを使ったようだ。

 同時に、どこからか歌声が聞こえてきた。


「わっ、体が軽くなりましたよ!」

「あのお姫様もたいがいとんでもないわね」


 これは聖大天使祝福歌エンジェルソングとかいうお姫様の輝術で、歌声が聞こえる範囲にいる人間全員の能力を大幅にアップしつつ、エヴィルの力を下げる歌らしい。


 お姫様は現在、ナコを護衛につけて街を移動しながら歌っている。

 エヴィルの注意を引きつつ他のチームの援護をするためだ。


『ナータ、聞こえるか。こっちは準備できたぞ』


 ベラお姉さまから風話ウェン・フォンを通した声が届く。


「おっけー、あたしも行くわ」

「気を付けてくださいね」

「あんたもね」


 あたしは親指を立て、空高く舞い上がった。


「なんだ、お前――」

「うっさい」


 とりあえず近くに浮かんでいた空飛ぶエヴィルをマルチスタイルガン(MSG)Zのライフルモードで撃ち貫いてやる。


 そして再びのサーチ開始。

 目視でベラお姉さまたちの居場所を確認。


「お城の方に二百メートルくらい進んだ赤い屋根の建物が見える? そこの地下に二十人閉じ込められてるわ」

『わかった。すぐに向かう』

「援護いる?」

『不要だ。こっちにも暴れたくてうずうずしている女がいるんでな』


 人質の囚われている場所を伝えると、炎のような輝粒子が吹き上がるのが見えた。

 お姉さまと一緒に行動してるヴォルモーントが道中の敵を蹴散らしているようだ。


 あのコンビの役目は街の各地に捕らわれている人たちの救出。

 あたしは二人に次の人質の位置を正確に知らせるため上空を飛びつつ――


「シャアッ!」

「おっと」

「ギャッ!?」


 ダイゴロウの手が回らない上空の敵の数を減らしていく。

 あ、また大量にエヴィルの反応が減ったわ。


 さてと、この調子でガンガン潰していきましょ。




   ※


 エヴィルの城が崩れ落ちる。

 文字通り斜めに斬り割かれて、ずずずーんと。


「あいつ、派手にやりすぎでしょ……」


 いくらあそこに人質はいないからって、ふつー敵の本拠地ごと斬るか?


「おお……!」

「魔王城が崩れていく……」

「あれが、伝説の勇者様のお力なのか」


 助けた民衆たちはその光景を感動の表情で見つめていた。

 ベラお姉さまたちが救出した大勢の市民たちが街角に溢れている。


 すでに神都を支配していたエヴィルはあらかたやっつけた。

 あとはみんなで手分けして残った捕らわれの人たちを救出するだけ。

 荒れ果てた街が元通りになるには時間がかかるだろうけど、とりあえずひと段落だ。


「さてと」


 あたしは上空を見上げた。

 稲妻を纏った黒い球体にも見える次元の裂け目。

 あれこそがミドワルトとビシャスワルトを繋ぐウォスゲートだ。


 斬り倒された魔王城にはまだ数万のエヴィルが残っている。

 それはダイゴロウがもう少し頑張れば時を置かずに殲滅できるはず。


 あのゲートを塞がない限り、今後も際限なくエヴィルがやってくる。

 そしてあの向こうにはたぶんルーちゃんがいる。


 人々の救出が終わったら、一度みんなで落ち合うことになっている。

 あたしはそれを待たずに一人であの中に飛び込んでしまおうかと考えていた。


「……行っちゃおうかしら」


 ヴォレ=シャルディネとリングがあれば、たぶん生半可な敵にやられることはない。

 エヴィルの世界なんてどんなものか想像もつかないし、すごく怖いと思うけど。

 それでも、あたしはルーちゃんに……あっ!?


 ゲートの中からエヴィルの反応が出てきた。

 数は数十程度だけど、一つ一つがすごく大きい。


 以前にも感じたことがある。

 この感覚は、たぶん。


「ドラゴンの群れだ!」


 民衆の誰かが空を指さして叫んだ。

 ウォスゲートから現れたのは無数のドラゴンだった。


 しかもその中に一つ、明らかに他と比べて巨大な反応がある。

 先頭から二番目を飛んでいるドラゴンの上にそいつはいる。


 ここからではその姿は見えないけど、以前に帝都アイゼンの近郊で戦った女よりも、ルティアに攻め込んで来た大群のボスよりも、もっとずっと強い何か。

 海峡に鎮座していた大怪獣にも匹敵する強敵があそこにいる。


 頼みの綱のダイゴロウは遥か向こうにある魔王城の近くで戦闘中。

 ベラお姉さまやヴォルモーントは近くにいるだろうけど……


「ん?」


 ドラゴンの翼の縁からそいつが顔を出した。

 そして雲にも届く高空から、一ミリの迷いもなく飛び降りる。

 一見すると人間の姿をしたそいつは迷うことなくある一点に向かって飛んでいた。


 あたしのところに。


「やはり干渉するか、紅武凰国!」


 たとん、と軽い足取りで地面に降り立つ。

 悪魔のような角がある以外は普通の青年男性にしか見えない。

 だけど、ビンビンと伝わってくるのは、あまりにも強烈すぎる輝力と敵意。


「竜族の長ドンリィェン。世界に害を成す者は駆逐する」

「は、はあ?」


 なんかひどい勘違いしてるみたいだし……

 さあて、ヤバいことになったわよ?

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