76 守られるだけじゃなくて
元ファーゼブル王国の王宮輝術師。
『魔老』の異名を持ち、ファーゼブル王国でも五指に入る実力者。
水系統の上位である氷系統の術を得意とし、氷の術を扱わせたら国内に右に出るものはいない……らしい。
その名はスカラフ。
狼雷団の副長で、この事件の本当の首謀者。
こいつを倒せばこの国は平和になる!
けど勝てるんだろうか?
ダイの不意打ちも効かない。
いつの間にか回復していたものの、あいつの怪しい術に掛かれば動きが取れなくなってしまう。
相当に手強い相手なのは間違いない。
「聞け、オレに作戦がある」
「どうするんだ?」
私に触れて再び輝攻戦士になったジュストくんがダイの言葉に耳を傾ける。
「アイツは輝攻戦士としてもかなりの実力だ。下手な攻撃は逆効果になる」
ジュストくんたちが輝粒子を武器に伝わせて硬度を上げているのに対して、あいつは自分の腕でダイの攻撃を防ぎ切った。
その防御力というか輝力の密度は半端じゃない。
たぶんだけど私の火球も通用しなさそう。
「どんなに強固な輝粒子だって連続でぶつかれば乱れが生じる」
「だが防御を破るのに全力を出し切れば後が続かない」
「どういうこと?」
二人の会話の意味がよくわからないので質問するとジュストくんは丁寧に答えてくれた。
「輝攻戦士は自分の纏った輝粒子を武器に伝え、それを相手に注入する事でダメージを与える。体の表面に纏える輝粒子の量は常に一定だから、一度輝粒子を使い果たしてしまうと回復までに二秒ほど時間が掛かるんだ。その間は機動力も攻撃力も激減し防御力も極端に低くなってしまう」
なるほどわかりやすい。
「使いきった輝粒子はすぐ湧いてくるけどその間が最大の弱点でもある」
「そこでオレとオマエで連携攻撃をする」
ダイはこともあろうにジュストくんを指差してお前呼ばわりしやがりました。
「オレがあいつの防御を崩す。無防備になったところをオマエがぶっ飛ばせ」
「でもダイ、怪我してるじゃない」
さっきから度々ゼファーソードを手放しているダイはそのたび浅くない傷を負っている。
無茶ができる状態とは思えない。
「お前、あの防御を打ち破れるか?」
ダイはジュストくんを真っ直ぐ見る。
ジュストくんは無言で首を横に振った。
彼の説明の通りならスカラフの輝粒子の防御を打ち破るには相手の防御以上のエネルギーを与えなければならない。
けれどジュストくんたちよりもスカラフの力の方が明らかに優っている。
「破るのはオレに任せろ。お前はトドメを喰らわしてやればいい」
「どうして? さっきは簡単に受け止められちゃったのに」
「……コイツと話してるんだから話の腰を折るな」
なによ、仲間なんだし聞いてもいいじゃない。
私がふくれるとジュストくんがまた丁寧に説明してくれる。
「輝攻戦士の攻撃力は単純に武器に纏わせた輝粒子だけじゃ決まらない。放出量の調節や攻撃を乗せる技なんかでも威力は大きく変わるんだ」
「そういうこと。オレの全力技なら必ずあいつの防御を崩せる」
「わかった。トドメは僕に任せてくれ」
ジュストくんとダイが顔を見合わせ軽く拳を合わせる。
あらら、会ったばっかりでまだお互いの名前も知らないはずなのに。
なんか妬けちゃう。
「私は何をすればいいの?」
「オマエはかく乱だ。できるだけヤツの攻撃を邪魔しろ」
「でも私の術は多分あいつには効かないよ」
クインタウロスにも効かなかったんだからダイの攻撃すら通じないスカラフに効くとは思えない。
「ダメージを与える必要はない。ヤツが術を撃とうとしたら妨害しろ。氷の術に火の術をぶつければ少なくとも術の威力は弱められる」
なるほど。
この子ってばなにげに頭いいじゃない。
「オレとこいつでオマエには近づけさせない。安心して迎撃に専念しろ」
「う、うん」
スカラフの言うとおり人に頼ってばかりではダメ。
だけど私はまだ一人で戦えるほど強くない。
あいつにやられちゃっても仕方ないしここは二人に頼るところだ。
ダイが背後を向く。
ファースさんは薬草を取り出して気絶したビッツさんの傷口に当てている。
「手伝う気はないんだよな」
「見ればわかるでしょ。あんたたちだけでどうにかしなさい」
輝士としての彼女の戦力は惜しいところだけどアンビッツさんの治療に専念して欲しいのも確かだし。
「聞いての通りだ。実戦経験の少ないオマエらには辛い相手かもしれねーが」
「これでも剣術の成績は一番だったんだ。遅れは取らないつもりだよ」
ジュストくんの強気な返しにダイが頷き、それから二人で私を見た。
「オマエもしっかりやれよ」
「う、うん」
「大丈夫。ルーに危害は加えさせない。僕が必ず守るから無理はしないで」
僕が守る。
フィリア市でその言葉を言われたときは確かに胸が高鳴った。
けれど、どうしてだろう。
いまはその言葉が少し辛い。
「違うでしょ」
ファースさんがジュストくんを厳しい目で睨んだ。
「アンタは彼女に背中を預けてるのよ。その娘はただの女の子じゃない。たった一人で街を飛び出して今はアンタと同じ戦場に立っているの。自分だけが戦ってるつもりになってると痛い目にあうわよ」
や、やだな、そんな風に褒められると恥ずかしいぞ。
私はただジュストくんに会うためにがんばっただけなのに。
けどファースさんの言葉で私が求めていたことが少しわかった気がした。
私はお荷物になるために来たわけじゃない。
「わかった、ごめん」
私は彼の言葉を待った。
「一緒に戦おう。僕の背中、君に預けた」
「うん!」
今度こそ足手まといにはならない。
守られるだけじゃなくて彼の力になってあげられる。
それができる力があるのが嬉しかった。
「まだかね? いい加減に立ちっぱなしも疲れるのだが」
スカラフの焦れたような声に私たちは一斉に振り向いた。
「行くぞ!」
ダイの掛け声を合図に二人の輝攻戦士はスカラフに向けて飛び込んでいった。




