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閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
12.5章B 革命戦争 - shining brave god -
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738 ▽隠していた本音とただひとつの懺悔

「フン……」


 ビッツは目の前に倒れる四つの死体を見下ろしていた。

 たった今、自分が撃ち殺したばかりのファーゼブル王国の暗殺部隊である。

 人通りの少ない隔絶街付近を単身歩けば何らかのアクションを起こすだろうと思ったが、まんまと罠にかかってくれた。


 ファーゼブル王国とて、反乱に対してなんの警戒もしていなかったわけではない。

 敵国の要人を暗殺するための専門部隊のひとつくらいは持っている。

 ただし、彼らはビッツの力を甘く見すぎていたようだ。


「くけけけっ。この程度なら護衛も必要なかったなあ」


 建物の陰からアンドロが姿を現した。

 襲撃者が予想以上の強敵だった場合に備えてこっそり控えさせておいたのである。

 しかし彼の言う通り、この程度の刺客ならその必要もなかった。


「後始末をする。死体を運ぶための人員を集めてくれ」

「はいはいさ」


 ビッツが命じると、アンドロは通信の輝術を使って近くにいる輝士たちを呼び寄せた。

 すぐにやってきた輝士たちは何の詮索もせず襲撃者の遺体をずだ袋に詰めていく。


「焼却しますか。それとも広場に晒しますか」

「いや、そのまま神殿へ運んでくれ」


 輝士たちに命じ、ビッツ自身も神殿へと向かった。

 フィリオ市の中心部にある中輝鋼石を安置してある場所へ。




   ※


 元々、ミドワルトには六つの大輝鋼石が存在していた。

 しかしそのうち一つは帝国の時代末期の争いで砕け散ってしまう。

 砕けた大輝鋼石は無数の欠片となり、小輝鋼石と名を変えて世界中に散らばった。

 

 現代の輝工都市(アジール)にある中輝鋼石とは、発展の時代に大国が集めた小輝鋼石を人工的にひとまとめにすることで造られたものである。


 エネルギー総量はオリジナルの大輝鋼石には及ばないものの、輝攻戦士や輝術師の力の源となったり、機械マキナの動力として利用する輝流を放出したりと、都市を維持する為の重要な要素と言っていい。


 つまりこの宝玉さえ失えば都市は都市ではなくなる。

 輝工都市アジールという外部と隔絶した機械技術を持つ街はその優位を失う。


火槍()の製造技術は遠からず大国にも漏洩する。そうなれば地力で劣る小国が大国に敵う道理はない」


 ビッツは新型火槍ライフルに弾丸を込め、筒先を中輝鋼石に向けた。


「技術的ブレイクスルーと、魔王軍攻勢による戦力分断。二つの奇跡が重なったこのタイミングをおいて他に我らが現在の支配を覆す時はないのだ」


 肩にとまった妖精フェリキタスがビッツの腕を滑って新型火槍ライフルに降りる。

 小さなエヴィルの力を借りたフェリーテイマーは躊躇うことなく引き金をひいた。


 破裂音と共に撃ち出された銃弾が中輝鋼石へと突き刺さる。

 表面に小さな穴が空き、やがてそれは大きな亀裂となって全体に伝わっていく。


 そして中輝鋼石は乾いた音を立てて割れた。

 無数の小輝鋼石に戻り、大部分は風に乗って飛び散っていく。


「あーあ、なんともったいない。自分たちで独占しておけばよいものを」

「私は大国にとって変わって土地の支配者になりたいわけではない。力の源として使うのは室内に落ちた分だけで十分だ」

「同盟諸国にも内緒でよくやるものよなあ。下手をしたら連合の分裂、最悪の場合は内ゲバの戦争になるぞ?」


 ビッツは落ちている欠片を拾い上げながらアンドロに対して持論を語る。


「戦争、反乱、下克上、大いに結構。ただし力による永劫支配は許されない。平和は尊いが、抑圧が長く続けば人は腐っていくだけだ。仲間と旅をしてつくづく思ったことがある。世界は様々な色があるから美しいのだ。故にすべての大・中輝鋼石は破壊せねばならん」

「力を失った人類がエヴィルに滅ぼされたとしてもか?」

「そうはならないよう努力するさ。我々の現在の軍事力をもって防衛に年千すれば、エヴィルからクイントの国土を守り通すことくらいできる」

「争いで人が大勢死ぬのは構わんか。くけけけっ。小娘にやられて会心したかと思えば、根っこは変わらぬ悪人のままよなあ」

「齢二十を数えた責任持つ立場の男が、ただ一度の敗北で心変わりなどするものか。私は()()()」を変えただけに過ぎんよ」


 ビッツの心は変わっていない。

 狼雷団を率いていた時も、ルーチェたちと共に旅をしていた時も、そして今も。

 彼が強く思い続けているのは祖国とそこに住む民の未来だけ。


 善人になっていたわけでも悪人に戻ったわけでもない。

 国を背負う者として、やれることはなんでもやるだけだ。


「ただ、共に旅をした仲間たちには、申し訳なく思っているがな……」


 誤算があったとすれば、仲間と共に過ごした時間が、存外にも楽しいものであったこと。

 それでもビッツの心を根底から変える程のものではなかったが。


「何か申しましたかな?」

「なんでもない。さあ、我々も王都エテルノへ向かうぞ」




   ※


「♪んふふ~」


 フレスは鼻歌を口ずさみながら帝城の廊下を歩いていた。


「待ってくださいフレスさん」


 そんな彼女を呼び止める者がいた。

 眼鏡をかけた緑髪の中性的な青年である。


「あら、お久しぶりですラインさん☆」


 星帝十三輝士シュテルンリッター十三番星のラインである。

 かつて共に旅をした仲間の一人であり、今はフレスの同僚だ。


「どちらに行かれるんですか」

「皇帝陛下に謝罪しに行くんです☆ 勝手に戦端を開いちゃいましたからね☆」


 独断による開戦決定。

 星輝士からの除名すらあり得るほどの失態である。

 しかし彼女の態度には緊張や後悔といった負の感情は見られない。

 まるで、罰など受けるわけがないと知っているようだ。


「貴女か星輝士になってから、この国はおかしくなってしまった」

「そうですか☆ すごいタイミングの偶然ですね☆」


 ラインはぎりりと奥歯を噛み締めた。

 そして言葉を叩きつけるようにフレスを糾弾する。


「一体どうしてしまったんですか!? なぜあなたはそんな風になってしまったのです! 以前の穏やかで優しいフレスさんはどこに行ってしまったんですか!」

「あなたが私の何を知っているというんですか」


 それに対して、フレスは冷たい声で答えた。


 三番星フリィのふざけた態度ではない。

 村娘フレスとしての穏やかな口調でもない。

 底の知れない冷たさを持った何者かが、ラインを真っ向から見返す。


「私は何も変わっていませんよ。もちろん何かに操られているとか、頭の病気に罹ったとかじゃありません。あなたと私が出会ったのはたしか初めて帝都アイゼンを訪れた時でしたよね?」

「そ、それがどうしたんですか……」

「あの時にはもう私は決意をしていました」


 フレスは穏やかに微笑んだ。

 その表情だけ見れば旅をしていた頃と変わりない。

 緊迫した空気の中にあって、ラインが思わず安堵を覚えてしまうほどだ。


「決意、とは……?」

「そんなの決まってるじゃないですか」


 フレスはラインに顔を近づける。

 甘い香りが鼻先をくすぐり、メガネの星輝士は思わずどきりとした。

 そんな彼の唇にフレスは人差し指でそっと触れ、それから耳元で囁くようにこう答えた。


「秘密です。だって私、あなたとそれほど仲良くないですよね?」


 ラインは動けなかった。

 そんな彼の横をフレスは悠々と通り過ぎていく。


「というわけで、ごめんなさい☆」


 恐怖だとか、圧倒されていたとかじゃない。

 ラインは完全に体の自由を奪われていた。


「ぼ、ボクの体に、何を……」

「五分ほどで動けるようになりますから安心してくださいね☆」

「城内でこんなこと、不当な暴力も同然です! 貴女を告発しますよ!」

「どうぞご勝手に☆ 私の口利きで出戻りを許された十三番星と国民のアイドルの三番星、どっちの言葉をみんなが信用するか、試してみるのは自由ですよ☆」

「ぐ、がああっ……」

「それじゃ、さようなら☆」


 振り向くことすらできないラインを残してフレスは歩き去っていく。


「……でも、せっかくともだちになってくれたルーチェさんには、悪いと思っているんですけどね」


 彼女が残したつぶやきは、窓から入る風にかき消され、ラインの耳には届かなかった。

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