表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -  作者: すこみ
12.5章B 革命戦争 - shining brave god -
732/800

732 ▽邪霊戦士

 頭は非常にスッキリしている。

 自分が誰で、ここがどこかも認識できる。

 リモーネという名を持つ自分の意識を保っているのがわかる。


 体が思うように動く。

 腕を振れば地面を削り取れるほどの力が出る。

 敵の剣筋を見切り、人間の限界を遥かに超えた速度で反撃を叩き込める。


「なにをしやがったんだ、お前……!」


 目の前の輝攻戦士が何か言っている。


 そう、輝攻戦士だ。

 ファーゼブル王国の輝攻戦士。

 大国がもつ武力の象徴であり、決して敵わないはずの相手。


 シミア姉さんに恥をかかせた憎むべき存在。

 その輝攻戦士と、自分はいま互角に戦っている!


「ウガァァァァッっ!」


 リモーネは雄叫びを上げながら腕を振る。

 輝攻戦士が構えた剣ごと相手の体を吹き飛ばす。

 吹き飛んだ敵は空中で体勢を立て直して遠くに着地した。


「ちっ、なんて馬鹿力だ!」


 今のリモーネは武器を持っていない。

 全身が浅黒く染まり、血管のあちこちが強く脈打っている。

 指先までは上手く動かすことができず、道具を使うことができなくなっている。


 だが、この圧倒的な身体能力だけで、輝攻戦士を追い詰めることができる。

 リモーネが自らに注射したのは、かつての『エヴィル化の薬』を進化させた新薬だった。


 体内に極小型のウォスゲートを開いて異界の力を取り込むのは以前と同様。

 自我を失って本物の化け物になることはなく、圧倒的な力だけを得ることができる。


 エヴィルの力をその身に宿した戦士。

 輝攻戦士ストライクナイトに対して『邪霊戦士エヴィルナイト』とでも呼ぶべきか。


 腕力も機動力も輝攻戦士より上だ。

 このまま押し切れる……とリモーネは思った。


 だが。


「せいっ!」

「ギャァッ!?」


 敵の剣がリモーネの膨れあがった胴体に叩き込まれた。

 そのまま続けて三連撃を食らい、リモーネはがくりと膝をついた。


「最初は驚いたが、要はケイオスの劣化版だろうが。欲望のままに邪悪な力に手を染めた悪魔め。報いは存分に受けさせてやるぜ、正義の輝攻戦士がな」

「グ……ガ……」


 リモーネは歯を食いしばって地面を睨み付けた。


 欲望?

 正義?


 何も知らないくせに。

 考えた事もないくせに。

 貴様らがどれだけ、我々を馬鹿にし、虐げてきたと思ってるんだ!


「グガァアアッッ!」


 怒りのままにリモーネは再び立ち上がる。

 瞬間的に膨れあがった両足で跳躍し、輝攻戦士に襲いかかる。


「無駄だ、エヴィル野郎が!」


 敵はその攻撃をなんなくかわし、カウンターを差し込んでくる。


「ギャァ……」


 吹き飛ばされるリモーネ。 

 続けて叩き込まれる怒濤の三連撃。


「死ね!」


 三発目がリモーネの顔面を叩き、意識がふと遠くなりかけた、その瞬間。


「……がっ?」


 敵の輝攻戦士は驚愕に目を見開いていた。

 その喉元に小さな穴が空いている。

 周囲に纏う輝粒子が消失する。


 リモーネは考える前に体を動かした。

 残った力を振り絞って、体ごと腕を前に出す。

 石槍のように高質化した指先を輝攻戦士の腹に突き立てる。


「ぎゃっ!?」


 確かな手答えを感じたが、その結果を確かめる前に、リモーネの意識は闇に沈んだ。




   ※


「ん、くっ……はっ!?」

「目を覚ましたか」


 次に気づいた時、リモーネはベッドの上で横になっていた。


 彼女の体はすでに元の姿に戻っている。

 すぐ側にアンビッツ王子がいた。


「ここは……」

「フィリオ市の病院だ。そなたは戦闘後に気を失って倒れたのだぞ」

「てっ、敵は、あの輝攻戦士はどうなったんですか!?」

「ファーゼブル王国の輝攻戦士はそなたがその手で倒した。都市の外周部をうろちょろしていた輝術師共も、兵たちがすべて討ち取っている」


 リモーネは元の色に戻った自分の手を見つめた。

 たった五〇人の歩兵が三人もの輝攻戦士を倒したのだ。

 これはフィリオ市を制圧した以上の大金星だと言えるだろう。

 しかし、リモーネの表情は晴れない。


「私を助けてくださったのは、殿下なのですね」

「気を失ったそなたを運んだのは前線の兵たちだよ」

「私はあの時、確かに敵の輝攻戦士に敗北し、死を覚悟しました。邪霊戦士の力を持ってしても輝攻戦士には敵わなかったのです」


 最後の三連撃を食らったリモーネは、あの時点で敗北が確定していた。

 事実、直後に意識を失ってしまったのだから、助けがなければ間違いなく殺されていただろう。


 ところが敵が攻撃を行った直後。

 一瞬の輝粒子の消失の隙を狙って、遠距離から狙撃があった。


 満足な防御効果を得らなかった敵は喉元を銃弾で撃ち貫かれた。

 自分はほとんど死にかけの相手にトドメを刺したに過ぎない。


 あの戦場から街壁までは五キロ以上離れていたはずだ。

 そんな距離で正確な狙撃ができる人物などひとりしかいない。


 妖精使い(フェリーテイマー)のアンビッツ王子。

 新型火槍ライフルの発案者でもある、我らが南部連合の盟主だけだ。


「相手は単なる輝攻戦士ではない。ファーゼブル王国でも天輝士に次ぐと目される古強者だ。そなたが敵わなかったとしても恥じる必要はない」

「しかし!」

「邪霊戦士にはまだ改良の余地があるということだよ。例えば武器を扱えるようになれば、また結果も違ってくるだろう」

「くっ……」


 エヴィルの力の制御には成功した邪霊戦士だが、現時点ではまだ輝攻戦士に及ばない。

 これでは姉の無念を晴らせたとは言えないだろう。


「さて。それはそれとして、頼みたいことがある」


 連合の盟主は多忙だ。

 負けた兵をわざわざ労いに来たわけではない。

 リモーネに対して何らかの用があって目覚めるのを待っていたのだ。


「なんでしょう」

「水晶による通信を頼みたい。できるか?」

「シュタール帝国の星輝士との連絡でしょうか。私が目覚めるのを待たずとも、他の輝術師に命じれば良かったのでは。それに力を消耗の激しい今の私では長時間の通信は不可能です」

「話したい相手はフレスではない。と私しか知らない『彼』だ」

「ああ」


 リモーネは頷いた。


 相手があの男なら、自分が通信輝術を制御する必要はない。

 呼びかけさえすれば後は向こうが維持してくれるだろう。


「わかりました。水晶は……」

「ここに」

「失礼します」


 リモーネはアンビッツから水晶を受け取って小声で輝言を唱えた。


 途端に強い眠気が襲ってくる。

 輝力が尽きるかけている証拠である。


「一応、呼び出すことはできました」

「応答は?」

「向こうが気づくまでお待ちください。申し訳ありませんが、これ以上の消耗は輝力欠乏症に罹る恐れがあります」

「ご苦労だったな。しばらくゆっくり休んでくれ」

「はい」


 水晶を受け取ったビッツが退出するのを見届けた後、リモーネは目を閉じて再びベッドに横になった。




   ※


 ビッツが廊下に出ると、すぐに水晶から反応があった。


『はいはい。何の用だい?』


 フレスではない。

 若い男の声である。


「久しいな、息災だったか?」

『世間話がしたいなら悪いけど切るよ。こっちは敵地のど真ん中にいるってことを忘れないで欲しいな』

「そいつは悪かった。では手短に用件だけを伝えよう」


 相変わらず事務的なやつだ。

 ビッツは薄く笑った後、彼に尋ねた。


「まずは質問だ。ファーゼブル王国に残る輝攻戦士は今回フィリオ市を襲撃して来た者で全員か?」

『現役は全員だよ。天輝士ベラや先代のヴェルデをはじめとして、主立ったやつはみんなセアンス共和国に出向いたままだからね』

「現役とは?」

『引退した先々代天輝士ブランドがフィリア市で暮らしてる。もうずいぶんと老いぼれてるけど、輝攻戦士には違いないね。それと未確認の情報だけど、英雄王アルジェンティオとその息子が王都に戻ってきているって噂があるよ』

「……ジュストか」

『そうそう。そんな名前のやつ』


 ビッツはかつて共に旅をしていた青年の姿を思い浮かべた。

 あの男が……二重輝攻戦士デュアルストライクナイトがいるかもしれないのか。


 さすがにジュストが相手では邪霊戦士でもどうにもならないだろう。

 二重輝攻戦士は戦闘中に輝力が途切れることもなく、ブルのように遠距離からの暗殺も難しい。


「これは予定を大きく変える必要があるかも知れないな」

「何事も上手くはいかないものだねえ。くけけけけっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ